攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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続編

働く姿は尊い。シャッターチャンスを逃してしまったのでリベンジしないと。

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 夏休みが終わり、早くも二学期が始まった。

「センター入試の申込みが始まるから、受験組は書類提出しろよ~」

 いよいよ受験色が濃くなってきた。夏休みガッツリ勉強してきた私も気を引き締める。
 別に遊んでばかりじゃないんだよ? しっかり遊んだけども!
 就職組も面接試験や企業訪問など就職活動が始まっている。リンも夏休みを使って車の免許を取得したそうだし、みんな進路に向けて活動的になっていた。

 そう言えば二学期は文化祭と球技大会があるんだよね…。高校生活最後だ。悔いのないようにしたい。
 今年は出し物何にするのかな。

 亮介先輩は去年の文化祭が悲惨だったから大学の文化祭はまともな出し物にしたいと言っていた。
 先輩の大学では10月頭に文化祭があるそうなんだけど、丁度高校の中間テスト前と被ってしまっているので、私は今年行けそうにない。
 …悔しい。
 10月末のウチの文化祭には一般入場の日に顔を出してくれるというが、そうじゃないんだよ!
 なんで高校のテスト前に丁度大学の文化祭あるの? 高校生が来やすい時期にやりなさいよ大学!

 
 夏休み気分が抜けないのはクラスの数人くらいで、みんな早くも受験・就活ムードだ。ちなみに夏休み気分が抜けていないのは沢渡君も含まれている。
 先程職員室に呼び出されていたが、十中八九進学の件だろう。沢渡君は受験組だし。


「おーい、今日のHRで10月末の文化祭の出し物の話し合いしろって言われたから、みんなちゅうもーく」

 去年と同じくメガネ委員長が今年もA組のクラス委員長だ。沢渡君がいないけど、話し合い始めて良いのかな。
 みんな沢渡君がいないことを全く気に留めていないのか、適当に案を出していく。

「去年の三年がメイド喫茶してたからそれやる?」
「やだよ! 俺女装なんてしたくねーし!」
「えー? じゃあ適当に食べ物屋でもする?」

 女装メイド…他人事だったけどやっぱり嫌だよね。そう考えると先輩はよくあの格好で二日間乗り切ったよね。すごいどうでもいいけどあの格好を橘兄に見られたのだろうか。

 女装好きな人は好きなんだけど……でもあれは…なんで逆転にしたのかな。メイド喫茶じゃ捻りがないから?
 ワチャワチャ話し合いが盛り上がっている中、元気よく挙手する人物が現れた。

「はいはーい! メイド! メイド喫茶さんせーい!」
「沢渡お前ね…」

 沢渡君いつ戻ってきたんだ。気づかなかった。
 イベント事には本気を出す沢渡君はいつも以上に燃えていた。

「ほらほらだってぇ、去年のA組のお化け屋敷楽しかったじゃん! みんなでゾンビになって給仕したら、お客さんが2倍楽しめるよ? 冥土喫茶!」
「……ん? …ゾンビ?」
「…お化け屋敷……メイド…?」

 沢渡君の言っているのが萌えのメイドの方ではなく、あの世の冥土めいどのことだと理解すると、皆が顔を見合わせていた。

「最後の文化祭じゃん! しかもその後は受験とか就活の面接で皆忙しくなるしさ。その前に思いっきりはっちゃけようよ!」

 沢渡君の熱弁に反対意見はそう上がらなかった。
 我がクラスの出し物は冥土喫茶で決定。
 世間の冥土喫茶では入店すると「ご臨終でーす」注文すると「ご愁傷様でーす」と言われるそうな。
 不謹慎と叩かれるかもしれないな、それ…

 どういう世界観にするかとか、メニューとか、衣装とか色々課題はあるものの、みんな高校最後の文化祭ということでやる気を出していた。
 私もそのうちの一人なんだが、その前にテストがあるのを皆忘れてないかな?


☆★☆


 学校が休日だった9月16日。
 その日私は手に大きなトートバックを引っ提げて、とある場所に来ていた。

「ありがとーございましたー!」

 残暑の厳しい中、汗水垂らして働いている先輩の姿を影からこっそり眺めていた。
 本当はこの後先輩のバイトの上がり時間に合わせて、駅前で待ち合わせしている。今現在待ち合わせ1時間前なんだけど。
 先輩の働く姿をどうしても見てみたかったんだ…

 働く先輩格好いい……写真撮っておこう。
 建物の影から写真を撮影しようとスマホのカメラを起動して先輩にピントを合わせていたのだが、画面いっぱいに暖色系の色が広がった。
 何だ、誤作動か? とカメラを操作していると「…お前はここで何をしてるんだ?」と声を掛けられた。
 私が顔を上げると、そこには呆れた顔をした先輩の姿。

「何故バレたんですか!?」
「挙動不審な人間は目に着くからな」

 先程私のカメラに写っていたのは、先輩のバイト先の制服カラーだったらしい。先輩が近づいて来ているのに気が付かなかったよ!
 こっそり見て、写真を撮ったらずらかるつもりだったのに、私の行動は丸見えだったらしい。

「ちょっとだけ先輩の働く姿を見たら、待ち合わせ場所に行くつもりだったんですよ。決して邪魔するつもりはなかったんです!」
「全くお前は…ほら、勝手に入ってていいから」
「へ?」

 チャリ、と音を立てて私の手に乗っけられたのは家の鍵。
 鍵? なにこれ。
 キョトンとした顔で先輩を見上げると「俺の部屋の鍵」と補足された。

「まだ時間がかかるから、上がって待ってろ」
「え、でも」
「いいから。外でうろつかれている方が迷惑」
「迷惑!?」

 人様のお部屋に許可があったにしても、勝手に入っていくなんて大胆な真似をするなんて。
 待ち合わせ場所で待ってますからと鍵を返そうとしたけど「仕事に戻るから後でな」と走り去られた。
  私はしばし先輩の部屋の鍵を持ったままそこに突っ立っていたが、先輩がそう言うんだしと割り切ると、一人で先輩のお宅に向かった。

 先輩の部屋は日当たりの良いワンルーム。
 冬はいいけど夏は超暑い。勝手に触っていいか迷ったが、先輩が帰ってきた時に涼しいほうがいいだろうと判断して、冷房を付けた。
 このままぼうっと待っていても仕方がない。私はトートバックからタッパーとか色々取り出すと、先輩のお宅にあるお皿をお借りして盛り付けをはじめた。

 家で作ってきた料理にラップをし終わって時計を見ると、待ち合わせしていた時間を少し過ぎていた。もうすぐ帰ってくるかな?
 料理が悪くならないようにお皿を冷蔵庫に一旦しまう。そして玄関をちらっと見ていつ帰ってくるかな! とワクワクしながら待機していた。


パーン!
「おかえりなさーい! 誕生日おめでとうございます!」
「………」 
「先輩お疲れ様です。疲れたでしょう~お腹空いてません? 今日私色々作ってきたから食べましょー」

 玄関のドアが空いた瞬間、持ってきたクラッカーを鳴らしてお祝いの言葉をかけたんだけど先輩は驚いた様子で固まっていた。クラッカーの音が大きかったかな?

 本日亮介先輩は19歳の誕生日を迎えたのだ。
 先輩の腕を引いて中に入るよう促すと、テーブルに並べてある誕生日祝いの料理を見せびらかす。
 今回はいつも作らないような料理に挑戦してみた。生春巻きにてまり寿司、あとは甘さ控えめの塩チーズケーキ。それと軽くつまめるもの。
 それと私の十八番の唐揚げである。
 
「……なんだか、気を遣わせてしまったな」
「何言ってるんですか。私の自己満足だから先輩が喜んでくれたらそれだけで嬉しいですよ」

 ほらほら手を洗って来て! と先輩を急かして席に着かせると烏龍茶をグラスに注いで手渡す。
 私がノリノリでバースディソングを歌っていると先輩は恥ずかしそうな顔をしていたがそれは決して嫌がっている顔ではない。照れているだけだ。
 もーかわいい~。
 19の数字のロウソクのが刺さった塩チーズケーキの皿を先輩に持たせて撮影した。その写真は私のスマホの先輩コレクションに加えられた。
 ちなみにプレゼントは先輩のリクエストでペンケースだ。ずっと使っていたペンケースのファスナー部分の調子が悪いから買い換えようと思っていたそうだ。先輩の好みをリサーチして買いました。ペンケースだけじゃなんだからルーズリーフも付けておいた。
 
 私達は和やかに食事をしていたのだが、時刻が19時半に近づいているのに気づいた先輩が「あやめ。そろそろ帰らないと…」と声を掛けてきた。

 だがしかし、今日は大丈夫なのだ。
 実は今日、母さんにアリバイを頼んである。但し2時間の延長のみなのだが。
 今日と明日、父さんは休日出勤ならぬ休日出張で不在なのだ。だから母さんに頼み込んで先輩の誕生日である今日、門限を伸ばしてもらったのである。

「先輩、抜かりはありません」
「…え?」
「今日私、門限22時なんです! だからまだ一緒にいられるんですよ!」

 私はドヤ顔で言ってやった。
 まだまだ帰らないぞ。まだ一緒にいたいんだ!

 今日一緒に観ようと思って借りてきたDVD(SFアクション)を自分の鞄から取り出すと、いそいそとDVDデッキにディスクをセットした。

「先輩これ観たかったって言ってましたよね! 一緒に観ましょ!」

 振り返って先輩にそう声を掛けると、私は腕を引かれて先輩に唇を奪われていた。
 テレビではDVD内蔵のCMが流れているが、先輩は見向きもしない。先輩は角度を変えて私に口づけをしながら、私の洋服を脱がしていく。
 …先輩、どこでスイッチが入ったんですか。門限が伸びた事ですか?
 
「先輩、DVD…」
「今度でいい」

 レンタル期限が切れるんですけど。

 私がなにか言いたげな顔をしているのに気がついたのか、先輩はなだめるように私の顔にキスを振らせてきた。それがむず痒くて、照れ臭くてそれ以上何も言えなくなってしまった。
 そのままベッドに連れて行かれると、私は先輩にされるがまま受け入れ……いつの間にか寝ていた。


★☆★


「……大丈夫…あやめが………春巻きと寿司と…あぁチーズケーキを…」

 先輩が話している声で私の意識は浮上した。
 先輩のベッドには私しか寝ておらず、先輩は台所の方で誰かと電話をしていた。
 気怠い身体を起こして時計を確認すると、もういい時間になっていた。そろそろ帰らないといけないな。少々なら母さんも大目に見てくれるとは思うけど約束だし。

 洋服を身に着けていた私は先輩の電話を盗み聞き…するつもりはなくても耳に入ってくるそれを聞いていた。
 なんだろう。先輩の声が硬いな。私の話をしているんだから私も知っている人なんだろうけど。

「…学業に支障のないようにしている。心配しないで欲しい。…もうあの時のような失敗はしないから……今月末に前期試験の成績が出るから結果がわかれば送るよ」

 その言葉にちょっと引っ掛かった。
 失敗? もしかして私立受験失敗のことだろうか。……公立校に入って良かったと言っていたから、もう受験失敗のことを気にしていないと思っていたが……実は気にしていたのだろうか。

「え? あやめだって受験生だし……俺もバイトが忙しくて。10月になれば新学期に入って文化祭あるから時間が作れるかどうか………ごめん母さん」

 …英恵さんか。
 先輩の誕生日だから電話してきたのかな。親なら当たり前か。忙しくてもお祝いの連絡するよね。
 …しかし相変わらず硬い母子である。会話にフレンドリーさがない。
 私はテーブルに置かれたままのお皿やグラスをなるべく音を立てないようにして静かに片付けていたのだけど、電話をしていた先輩の声が変わったのに気づいた。
 英恵さんが電話の向こうで何を言ったのかは知らないけど、先輩は明らかに様子がおかしくなっていた。


「……父さんが?」


 そう呟いた先輩の表情はぎくりとこわばっていた。
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