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続編
彼の惚気【橘亮介視点】
しおりを挟む「亮介お前、変わったな」
「…え?」
突然、兄さんにそんな言葉を掛けられた俺は呆けた顔をしてしまった。
変わった…というのは…どういう意味なのだろうか
「大方あやめさんの影響だろうが……前よりも柔らかい表情をするようになった」
「……柔らかい…?」
「良いことだと思うぞ」
そう言われて俺はふと思い出した。あやめと俺の出会いを。
あやめと俺は彼女の高校入試の時に一度会っているのだ。
…高校受験会場目前で堂々とエスケープしようとする受験生を簡単に忘れられると思うか?
彼女は俺の事を憶えていないようだった。だから彼女が入学した時、俺は敢えて声をかけることはしなかった。
あの時「ここは居場所じゃない」なんてあやめは言っていたから少し心配ではあったが、彼女は何事もなく学校生活を送っていたので、それからは全く意識することなく過ごしていた。
学校ですれ違うことがあっても、俺たちは会話をするような間柄じゃなかったんだ。
だけど俺が三年に進級した時、俺はあいつから目が離せなくなった。風紀的な意味で。
『おいおい…なんだあれどうした…金髪とはいい度胸してるな…』
『2-Aの…田端…あやめ……』
俺は彼女の変貌ぶりに二度見ならず三度見をした記憶がある。一体何があったとクラスまで出向いて、本人に追求したくなった位だ。
以前の清楚で愛嬌のある姿から一変、彼女はいわゆる派手なギャル系にイメージチェンジしていたから。
接触してみて改めて思ったが、やはり彼女は変わっていた。
体育祭で後輩のために必死に走ってやる優しい一面があるかと思えば、自分の力量を考えずに弟のために突っ走る猪突猛進型の性格だったり。
いつもヘラヘラして、風紀指導の揚げ足取りをしてくるかと思えば、進路を真剣に悩む真面目な面があったり。
芯の強いところがあるかと思えば、触ると壊れそうな脆い一面があったり。
料理上手でお人好しで、何事にも一生懸命な後輩。
俺は無意識の内に風紀指導という理由でなくて、田端あやめという一人の女性を特別気にかけるようになっていた。
髪を派手に染め、濃い化粧で顔を華やかにするそれは、今まで傷ついてきた彼女なりの防衛。心を守るための鎧。
…そんな事しなくてもあやめは十分可愛い。彼女が笑っている顔は一番可愛いと思う。
だからそんな化粧で顔を覆い隠した状態じゃなくて、ありのままの彼女の笑顔を見たいと思うようになったのはいつ頃からだろうか。
彼女を傷つける有象無象から、俺が守ってやりたい。そうすればいつかはあやめの本当の素顔の笑顔が見れるんじゃないかって思うようになった。
放って置けない後輩から、いつの間にか守りたい女性へと変わっていったのはいつだっただろうか。
「…出来ればもう少し落ち着いて行動してほしいんだが……そういう危なっかしいところも含めてのあいつなんだけど…だから目を離せない」
「……俺に惚気けるんじゃない」
考えていただけのつもりが口に出ていたようで、目の前で兄さんが遠い目をしていた。
俺は恥ずかしくなって兄から目をそらすと咳払いをしてごまかす。
「…そう言えばお前はあやめさんと何処まで進んだんだ?」
「!? な、何でそんな事を…」
「……相当惚れ込んでるんだなお前」
兄さんが生温かい目で俺を見てくる。
おい待て、今ので察したのか。やめてくれ。そんな目で俺を見るのは。
……兄さんは俺のことを変わったとは言うが、兄さんも大分変わったと思うぞ。
多分それもあやめの影響なんだろうなと俺は思っている。初対面は最悪の出会いだった兄さんとあやめは今では軽口を叩く位仲良くなっており、俺はさり気なく嫉妬していたりする。それほどふたりは仲良くなった。
俺が高校受験に失敗して家族を失望をさせてしまってからずっと、兄さんともギクシャクした関係が続いていたのに、こんな風に話しているようになっているなんて……あやめと親しくなる前の俺なら想像すらしなかったから。
あやめの一生懸命で真っ直ぐな性格は周りの人に変化を起こす。変わったのは何も俺たち兄弟だけじゃない。
あやめは自分の影響力を全然わかっていないが、俺は彼女のそういう所に何度も惹かれた。
だから俺はそんな彼女から目が離せないんだ。
【ピコン♪】
スマートフォンがメールの受信を知らせた。
メールを確認すると、自分の顔が緩むのがわかった。
「…顔がニヤけているぞ」
「うるさいな」
兄さんが冷やかしてくるので軽く睨んでおく。
いつもの何気ないメールの文章。メッセージアプリを好まない俺に合わせてメールでのやり取りをしてくれるあやめはいつも賑やかなメールを送ってくれる。彼女からのメールを待ち望むようになったのはいつからだっただろうか。
彼女からのメールを見て、無機質な文章よりもあやめの声が聞きたくなった俺は彼女に電話を掛けた。
「…もしもし、あやめ?」
あやめの何処が一番好きかと言われたら…俺には決められない。
俺の前では少し甘えたになる可愛い所、一生懸命でひたむきな所、俺を見つけたらしっぽを振ってるかのように嬉しそうに駆け寄ってくる所、それに可愛い笑顔……
彼女のことを思い出すと勝手に口角が上がってしまうのはそういうことなのだろう。
……なんだかあやめの声を聞いていたら会いたくなってきた。
「…今から会いに行ってもいいか?」
俺は自分が思っているよりも、彼女に惚れ込んでいるようだ。
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