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続編

出たお題の好きな人。私には公開処刑に見えるんだけどどうなのかな。

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 お昼休憩に行っていた生徒たちもちらほらグラウンドに集まり始めた。
 午後イチのプログラムのために応援団員が早くも入場門付近で応援合戦の打ち合わせを始めている。

「そう言えば去年、大久保先輩は応援団長してましたよね」
「あー、頼まれてやったな確か」
「亮介先輩はなんで応援団しなかったんですか? 絶対似合うのに」
「俺まで抜けたら風紀関係で何かあった時、初動が遅れるからな。断った」

 応援団は長ランを身にまとって合戦するんだけど、去年思ったんだよ。大久保先輩はブレザーよりも学ランが似合うなぁって。
 スーツは似合うんだけどブレザーは何故か似合わないんだよこの人。
 老け顔だからかな?

「おい田端姉、お前今失礼なこと考えてるだろ」
「いえいえとんでもない。長ラン似合ってたなと思い出したんですよ」

 やっぱり鋭いなこの人。人の心でも読めるのか。
 まだ疑いの眼差しで見てくるので、斜め45度を見上げておいた。



「イリス!」

 ガバッ!

「!?」

 後ろから何者かに抱きつかれ、一瞬久松の野郎かと思ったが、それにしては相手の身体は柔らかい。
 久松なら問答無用で踵落としするところだったが、それはやめておいた。

「もう、ママ!」
「母さん、あやめちゃんがびっくりしてるけど?」
「えぇー?」

 その声に残念そうな反応をすると、私に抱きついていたその腕はゆっくりと離れていく。もしやと思って振り返ればそこには植草兄妹と植草ママンがいた。

「久しぶりねイリス! 最近全然遊びに来てくれないから寂しかったのよ?」
「ど、どうも」

 植草ママンからほっぺにイタリア式挨拶をされ、正面からハグをされた。根っからの日本人である私はきっとこの挨拶に慣れることはないだろう。きっと必死に挨拶を返している私の動作はギクシャクしているはずである。

「すいません先輩。ママがどうしても先輩に挨拶したいって言うから」
「クレア、あなたがイリスに我儘言っているからイリスがうちに来てくれないんじゃないの?」
「違うよ! そんな事ないですよね先輩!」
「この間皆さんがご不在の時にお邪魔して紅愛ちゃんにパスタごちそうになりましたよ? とても美味しかったです」

 私がそう言うと、植草ママンは意外そうな顔をして、シスコン植草兄がわかりやすく嫉妬してきた。

「ふーん…紅愛の手料理食べたんだ…?」
「…いけませんでしたか?」
「イリス、何食べたの?」

 そんなにびっくりすることなのだろうか。植草さん今まで料理したことないの?

「えーと、カルボナーラと魚のフリッター、バケットにサラダですかね」
「まぁクレア! あなたやれば出来るんだから普段もママのお手伝いしてちょうだいよ!」
「俺は紅愛のカルボナーラ食べたことないのに…!」
「だってみんな絶対に批評するから嫌なんだもん」

 植草さんは作れないんじゃなくて、味にうるさい家族に指摘されるのが嫌だから作りたくないらしい。
 植草兄が恨みがましい視線を私に向けてくる。
 ここまでわかりやすく嫉妬をぶつけられるといっそ清々しい気分になるぞ。

「…あやめ…?」
「あぁすいません。この方達は植草さんのお母さんとお兄さんです」
「イリスってなんだ?」

 亮介先輩がいろいろ疑問そうな顔をして声を掛けてきた。
 私もびっくりしてるんだけどね。一度会っただけで植草ママンにここまで気に入られてるとは思ってなかったから。

「菖蒲の花のイタリア風の呼び方みたいです。植草さんのお母さんイタリアの人なんですよ」
「…それで、彼は?」
「あぁあの人はただのシスコンです。妹に近づくすべての人間に嫉妬してるんです」

 亮介先輩を心配させたくないので、ちょっと盛って説明しておいたがあながち間違いではないと思う。
 先輩はそんなバカなと言いたげな顔をしていたが、本当にそうなんだって。
 妹に近づくなって言われたことがあるんだから。

「ほら植草さんが男の子にモテるから、そのおこぼれにあずかろうとしてんじゃないかって言われたことがあるんですよ」
「は…?」

 余計に先輩の顔に疑問が浮かんでいる。
 私もこのシスコンの対処法がよくわからないから流すようにはしてるんだけどね。橘兄とはタイプが違いすぎて面倒くさいの。


「…お兄ちゃん、田端先輩にそんなこと言ったの!?」

 植草さんは思ったよりも私の近くにいたみたいで私の話が聞こえてしまっていたらしい。
 私がまずいと口を抑えても今更訂正できなかった。彼女はもう既に植草兄に噛み付いていたから。

「お兄ちゃんのせいで田端先輩に嫌われたらどうしてくれんのよ! お兄ちゃんのバカ!」
「く、紅愛?」
「田端先輩にはラブラブな彼氏がいるんだからね! その辺の脳みそまで生殖器な男に好かれたいだなんて思ってるわけ無いじゃん!!」

 まぁ確かにどうでもいい男性に好かれたいとは思ってないんだけど。
 でもね植草さん、この場でその発言はまずいと思うんだ。

「えーと…植草さん、嫌うとかそんな事無いよ。私、植草さんと植草さんのお兄さんは別物で考えてるから」
「ホントですか?」
「うんうん」

 女友達の少ない植草さんは涙目になっていた。…そう言えば体育祭の友情イベントはあったのだろうか。

「植草さん、女の子の友達は出来た?」
「…あたしには先輩がいるからいいです」

 植草さんはムス、と膨れてしまった。
 よく話せばいい子だとわかるんだから切っ掛けさえあれば友達は出来ると思うのに。先輩である私より同学年の友達のほうがきっと頼りになるし…

 私がうーんと唸っていると、今さっきまでムスッとしていた植草さんがパァッと夏の太陽のように明るい表情を浮かべた。

「そんなことより先輩! あたし彼氏ができそうなんですよ!」
「え、そうなの?」
「あたしをちゃんと愛してくれそうないい人なんです! 今度紹介しますね♪」
「そっか」

 友情よりも愛情らしい。植草さんは恋する乙女の笑顔で笑っていたが…私は首をひねる。

「…あれ? ウチの和真のことはもういいの?」
「やだぁ先輩ったら! そんなの過去の話ですよー! 田端先輩の弟さん、空手が恋人状態だし諦めました!」
「あぁ…そう…」

 あれから二ヶ月だけど女は切り替えが早いな。そんなもんなのか。
 まぁいいかと納得しておく。

「…紅愛、お兄ちゃんは何も聞いていないんだけど?」
「お兄ちゃんすぐ反対するから嫌!」
「待ちなさい紅愛! 今度そいつをうちに連れてくるんだ!!」
「やだ!」

 植草兄妹が喧嘩を始めていたが、いつの間にか休憩時間は終わっており、午後の部が始まるとアナウンスが流れたので植草さんにブロック席に戻るように促す。
 こりゃ家に帰ったらシスコンの追求が待ってるかもね植草さん。


 応援合戦は生徒全員参加なので先輩方と別れて私は競技に興じた。
 応援合戦の後は借り物競争だ。
 植草さんが出場していたので心の中で応援しながらぼんやりと眺めていると、彼女は借り物のメモを見て辺りをキョロキョロしていた。
 彼女は一体何を引いたのだろうか。

 お題にはホルマリン漬けとかカツラとか微妙に難易度の高いお題のあるこの借り物競争。毎年趣向を凝らしており、何が出てくるか予想出来ない。
 植草さんは観客席に向かって誰かを呼んでいた。そして出てきた人物の手を引いてゴールに向かって走る。
 私服姿の…遠目なのであれだけど多分植草さんと同じ年頃の少年だ。

 二人一緒にゴールして、実行委員が植草さんが引いたお題を読み上げる。
「1年C組、植草紅愛さんのお題は…好きな人です!」

 おぉっと運動場中から声が上がる。みんなこういうの好きだよね。
 でもそうか。そのいい感じの人が観に来てたんだね今日。

 みんなから冷やかしの声を掛けられながら植草さんは嬉しそうで、男の方も満更じゃないんじゃないかなと言うのが私の印象である。
 一体どういう人なんだろうか。植草さんが選ぶんだから紳士的でかっこいい人なのかな。

 興味本位だがどんな人なのか気になる。


☆★☆


「みんな! 準備はいい!?」
『はいっ!』
「いくよー!」

 ムカデ競争は基本的に背の高い人から並ぶんだけど、グループ内で一番背の高い160cmの花恋ちゃんは自分がドジっ子であることを自覚していて、先頭に立つのを不安がっていたので二番目に高い私が先頭に買って出た。
 ちなみに林道さんは一番小さいので最後尾だ。あと彼女は声が大きいから掛け声がよく聞こえる。頼りにしてるぞ林道さん。

 友人のユカとリンは別のリレーグループにいて私達の次に競争に出る。二人が後ろから私に声援を送ってくれているのが聞こえた。

 スタートの合図とともに私達は出発した。
 滑り出しは良かった。みんな掛け声に合わせてペースを乱さないように足並みを揃えて進んでいたから。
 順調に走り抜けてトップで通過。
 このままリレーバトンを渡して次に繋ぐぞ! という所まで来たのだが、次の走者の先頭のリンにバトンを渡したその時、後ろから押された。
 いや、後ろの人達が倒れ込んできた。

 幸い、バトンパスした後だったので次の走者は走り出していたし、リレーには何の影響もなかったのだが……私は下敷きになってしまい地面にキスしていた。……色々痛い。

「ウッ…」

 起き上がるにも背中の上に人が乗ってて起き上がれない。これ花恋ちゃんかなと思っていると後ろの人が呻き声を上げた。

「…花恋ちゃん?」
「あ、足が…」
「! ちょっと誰か! 足の紐、解いて!!」

 私はどうともなかったが、花恋ちゃんは足首を捻ってしまったらしい。
 下敷きになった状態の私は身動きがとれないので周りの人に声を掛けて足の紐を解いてもらい、花恋ちゃんを起こしてもらった。

「花恋ちゃん、歩ける? 救護所に行こう」
「…うっ、…つぅ…」

 私の呼びかけに花恋ちゃんは足に力を入れて立ち上がろうとしたが、ヘナヘナと地面に逆戻りしまった。顔を歪めて痛みに苦悶している。
 競技は終わってないけど仕方がない。私はしゃがんで花恋ちゃんに背中を向ける。

「乗って。おんぶしてあげるから」
「え、で、でも…」
「いいから早く」

 花恋ちゃんは遠慮がちではあったが、チームメイトの手を借りながら私の背中に乗った。
 花恋ちゃんがちゃんと乗ったのを確認してから私はゆっくり立ち上がる。
 あれっ花恋ちゃん軽い。

 これならイケると思った私は競技の邪魔にならないようにしてトラックを横切ると救護所に向かった。

 ぎゅっと花恋ちゃんの腕が首に回ってきた。
 ちょっと苦しいかな。なんで後ろでプルプル震えてるの? そんなに足痛いの?
 振り向きたいけど急いでいるので早歩きで、救護所に待機している眞田先生にヘルプを求めた。
 競技を見ていた眞田先生はすでに準備してくれていたのか、冷却スプレーとか湿布を手に持っていた。

「先生! 花恋ちゃんが足捻ったって!」
「わかった。ここに座れるか本橋?」
「……」
「花恋ちゃん、首、首絞まってるから!!」 
 
 パイプ椅子に座らせようとしたんだけど花恋ちゃんの腕が解けないで私の首が絞まるというアクシデントに見舞われたが、彼女は無事手当を受けることが出来た。
 花恋ちゃんの頬が赤くなっていて目が潤んでいたけども大丈夫だろうか。

「じゃー私戻りますんでー」
「ちょっと待った」
「!? な、どうしたんですか先輩」

 花恋ちゃんをここに残して私は競技中のムカデ競争の応援に戻ろうと思ったのだけど、トラックに足を踏み入れた私を亮介先輩が引き止めた。

 あれ、赤ブロックの観覧席にいたと思ったんだけどいつの間に救護所に来てたの先輩。
 私が不思議そうに彼を見上げていると、先輩は私の足を指さした。

「お前も手当だ」
「え…? …うわ! トマトケチャップ!?」
「下敷きになった時に擦りむいたんだろう。ほら座れ」

 気づかなかったけど私も怪我をしていたようだ。意識し始めたら急に痛みを感じるようになった。じわじわジクジクと膝から痛みが伝わってくる。 
 手当は本来眞田先生の仕事なんだけど、今は花恋ちゃんの手当で忙しくしているのから亮介先輩が直々に手当をしてくれるらしい。
 …嬉しいんだけど……

バッシャアァ
「いっったあぁぁい!! ちょ掛け過ぎですよ!! ほらシュワシュワしてますよ!?」
「うるさい。砂が入り込んでるから流してるんだ」
「ちょ、ッもう消毒はいい、あっちゃあああ!!!」
ジャバーッ

 先輩、手当がワイルドすぎて怪我より手当が痛いです。
 

 ちなみに今年の体育祭も僅差の得点差で優勝できた。私は去年ほど活躍してないけど、和真が活躍を見せていたよ。
 和真は今年1000メートルリレーのアンカーを担当してぶっちぎりでゴールしていた。
 やっぱり隣で林道さんが私の肩をバシバシ叩いてて痛かったけど、姉も感動したので大目に見てやる。

 今年は和真がMVPとして食券10枚をゲットしていた。
 
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