攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
上 下
95 / 312
続編

お子様からおこちゃまにグレードアップした。そんな無茶を言った覚えはないんですけど。

しおりを挟む

「前々から思ってたけど、田端さんてお人好しよね」
「…え?」

 ちょっとトイレに行って用を済ませた私が化粧直しをしていると、同じく用を済ませて手を洗っていた彼女にそんな事を言われた。

「…うーん、そうかな?」
「あの一年、女子に評判悪いよ? 付き合ってやることないのに」

 多分植草さんの話をしているのだろう。私は思わず苦笑いした。
 彼女はキレイに切り揃えられたボブカットの髪を手ぐしで直すと、器用に眉を動かして私を鏡越しに見つめてくる。

「悪い子じゃないんだよ」
「そんなこと言って、また悪いことに巻き込まれるんじゃないの?」
「まさかぁ」
「……ホント大志も女見る目なくなったわね」

 私は彼女と会話をしながら色付きリップを唇に塗っていたが、今の言葉に「ん?」となってその手を止めた。
 それに気づいた彼女は器用に眉を持ち上げた。

「ほら去年、田端さん文化祭の時怪我してたでしょ。あれ大志の元カノがやったって聞いたけど? 嫉妬にしては酷いことするわね。……振られて当然よ」
「あぁ……でももう示談したことだし。その話やめよ?」
「ほらお人好し」
「箕島さんだってお人好しじゃん。わざわざ忠告してくるなんてさ」

 化粧ポーチに道具をしまいながら私は笑い飛ばす。
 終わったことを蒸し返してもどうしようもないしあちらから謝罪は頂いた。私にとっては過去のことだ。
 箕島さんと一緒に女子トイレを出ると彼女はポツリと呟いた。

「大志も…もう少し私を見てくれたら振ることなかったんだけどね」
「バスケバカだから仕方ないよ」
「伊達に幼馴染やってないわね。言葉が重いわ」
「兄弟みたいなもんだからね」




 箕島みのしまあんは山ぴょんの前の前の彼女である。バスケバカを見限って振った側である。
 はっきりきっぱりきつい物言いをするけども、実は優しいところがある。だけどそれを知らない初対面の人は怯えて怖がるか、嫌うかの二択なので、この人も少々損している気がする。
 
 そう言えば真優ちゃんと破局して以来、山ぴょんは彼女を作っていない。
 女の子からアプローチは受けているようだけど、残りの高校生活はバスケと受験勉強に打ち込みたいと言って振っているのを見かけたことがある。
 山ぴょんとは進路について話したことないけど、プロを目指しているのだろうか?



「ねぇねぇ山ぴょんはプロバスケ選手になるの?」
「はぁ? いきなりなんだよ」
「山ぴょんからバスケが無くなったら何が残るのかなと思って」
「失礼だなお前。……プロを夢見たことはあるけど、実績がないし、スポーツ選手は厳しい世界だから…趣味で続けるつもりだよ」

 教室に戻った私は、男子と馬鹿騒ぎしている山ぴょんを見かけたので進路について質問してみた。
 そうなのか。でもこんなに身長高くてバスケ好きなのに勿体無い気がするけど、現実的には好きだけじゃプロになれないもんね。
 
「大志は経済学部狙ってるのよね? 私と同じね」

 ニョッと横から口出してきた箕島さんに山ぴょんは目を丸くしていた。彼女から声を掛けてきたのに驚いたのかもしれない。
 二人が破局したのは高一の終わり頃。そこから会話してる所を見かけていなかったから、もしかすると久々に会話するのかもしれない。

「志望大学は決まってるの?」
「あ、あぁ一応な」
「…ねぇ、今度一緒に勉強しない? そうだ田端さんも一緒に」
「あ、ごめん私理工学部狙ってるから…」

 志望学部が畑違いすぎるし、その組み合わせが意味わからない。なんで私が入らないといけないの。
 箕島さんのお誘いをお断りしてると、山ぴょんがあんぐりしていた。
 何だその顔。そんなに口開けてたら虫が入ってくるよ。

「理工学部!? お前何すんだよ」
「食品を開発する仕事したいなと思って」
「お前別に理系でもないのにか」
「文系でもないけどね」

 なんかすごい反応された。
 先生にも似た反応されたけど、やっと決心ついたんだからな。今頑張ってるところなんだ。
 進路が決まってから亮介先輩と一緒に勉強することが増えたんだけど、合間にわからない所を教えてくれるから中間テストもいい結果が出せそうなんだよ。
 勿論、自分で努力していかないといけないのも理解してるぞ。

 …そうか、二人共同じ学部希望か。なんだかんだで経済学部に進む人は多そうである。
 もしかしたら箕島さん、山ぴょんとの復縁を狙ってるのかな。

「アヤちゃんアヤちゃん、じゃあ俺と勉強…」
「沢渡君、本当にごめんけど私本気なんだ。他人の事どころじゃないんだ。国公立一本で絞っていくんだ」
「そんなぁ」

 なんと沢渡君は奇跡を起こした。
 四月に同じ三年生としてまた同じクラスになっていた。
 それはめでたいのだが、彼は三歩歩いたら忘れるニワトリなのか、全く危機感を覚えておらず二年の時と同様遊び呆けている。
 もう知らん。私はもう一切手助けなんてしないからな。

 ぶっちゃけ沢渡君より亮介先輩と勉強したい!
 先輩の家に入れたら勉強しやすいけど、清い交際を続けると決めた身である。ファーストフード店や図書館で勉強するしかない。
 人前だとあんまりイチャイチャできないし…二人きりの空間でもっとイチャイチャしたいのが本音だけど…


☆★☆


「亮介先輩、今度先輩が剣道してる所を観に行ってもいいですか」
「別に構わないが、前にも言った通り退屈だと思うぞ」
「大丈夫です! 中間テストの最終日、先輩の大学に見学しに行く予定なのでその後に行ってもいいですか?」
「分かった。見学が終わったら連絡しろ。迎えに行く」

 中間テスト前である土曜の今日は先輩と図書館デートである。今は丁度お昼休憩中でカフェテリアにいた。

 先輩の練習姿の見学を糧にテスト勉強頑張ろうとやる気になったのだが、やっぱりちょっと物足りない気分になった。
 チラリ、と先輩を伺うように見上げると、それに気づいた彼は首を傾げる。
 今なら話せるかもと思った私は、両手を胸元でギュウと握りしめながら自分の願望を打ち明けてみた。

「亮介先輩……テストでいい点数がとれたら私、ご褒美が欲しいです」
「高い物は買ってやれないぞ」

 金目のものと思われた。違うよ!

「買えるものじゃないです! その…清い交際をしようと先輩が気遣ってくれてるのは分かってるんですけど、私もっとイチャイチャしたいんです……私、先輩のお家行きたいな…?」

 ワガママかもしれないと思うけど、正直言って私は欲求不満である。人の目のない所でキスしたりはしてるけど、それだけじゃ物足りないのだ。
 私のお願いを聞いた亮介先輩が目を丸くして固まっているが、ちゃんと私の声は聞こえているのだろうか。
 念の為もう一度言った。

「ご褒美にイチャイチャして欲しいです」
「……それはどういう」
「ギュッとハグとか沢山キスしてくれるだけでいいんです! ……だ、ダメですかね…?」
 
 私は思わず上目遣いで彼の反応を伺っていた。
 多分きっと今の私はペットの犬がご主人を恐る恐る伺うかのような顔になっているだろう。私は人間だけどね。
 すると先輩は眉をギュッと顰めて、固く口を閉ざしてしまった。

 え、駄目なの? 難しいことを言ったつもり無いんだけど… 
 なんか口元を片手で隠してガックリ項垂れてるし。
 どうしてため息なんて吐くの?

「…お前は…本当に…」
「だって今は学校違うし、会う回数も減ったから私、先輩不足なんですよ! 物足りないんですよ! イチャイチャしたいんですよ!!」
「わかった、わかったから。…考えておくからそれ以上はやめろ」
「えぇ? 考えるってなんですか!」
「うるさいこのおこちゃま」
「おこちゃま!?」


 なんかお子様呼びより子供扱いになった気がするのは私だけなのだろうか。
 先輩は深々とため息を吐いて、手のひらで顔を覆ってしまった。

 その後勉強の教え方がスパルタになったのは一体何故なの?
 解せぬ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜

長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。 朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。 禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。 ――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。 不思議な言葉を残して立ち去った男。 その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。 ※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...