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続編

もうすぐ春休み。色々と前途多難なんだけどまぁなんとかなるでしょ。

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 春休みまであと僅かのある日、HR中に担任が数人の生徒の名前を呼んだ。ちなみに私は呼ばれていない。

「以上の者は来週の22日に追試だからな。もしもそれでも赤点なら春休み補習で、追追試でも赤点だったら留年になるかもしれないから心しておけー」

 学期末テストの追試の件らしい。
 担任の宣告に隣の席の沢渡君ががっくり項垂れていた。
 そう言えば沢渡君テスト後も項垂れていたな。……一体何教科赤点をとったんだろうか。

「…さ、さわた「あやめちゃーん! どうしよう私追試だってぇ!」」

 あまりにも落ち込んでいる様子の沢渡君が哀れに見えてしまって声を掛けようとしたら、斜め前に座っている花恋ちゃんが私に泣きついてきた。
 そういえばさっき花恋ちゃんも担任に名字を呼ばれていた気がする。

「私二つ赤点取っちゃったの! 三年生になれないかも~」
「二つならまだ挽回できるよ。何の教科?」  
「数Aと物理…」

 見事理数系がダメだったらしい。
 私もその科目が得意というわけではないが、こう見えて地道に勉強しているのでいい点数が取れた。
 教えるのは得意じゃないけども今にも泣きそうな女の子を放っておけない。

 それに今週末はどうせ亮介先輩は新居に引っ越しするからお宅にお呼ばれしてない私は会いに行けないし、正直暇だ。

「なら私が教えようか? 私も得意科目ってわけじゃないから力になれるかわからないけど…」
「本当!?」
「今週の土日どっちが家においでよ」
「うん! ありがとうあやめちゃん!」

 私の提案に花恋ちゃんはパァァァ…と表情を明るくさせた。
 じゃあ土曜に行ってもいい? と花恋ちゃんが聞いてきたので私は快諾する。
 そしたら10時に駅まで迎えに行くねと彼女とやり取りしていると、何だか横から強い視線を感じた。
 ん? と思って振り返ると涙目の沢渡君がそこにいた。


★☆★


「「おじゃましまーす!」」
「親も弟も出掛けてるからリビングで勉強しよう。私の部屋、大きなテーブルないんだ」
「えぇー」
「沢渡君、文句があったら帰ってくれてもいいんだよ?」

 土曜の朝、花恋ちゃんとおまけの沢渡君が家にやってきた。沢渡君に泣き落とされて仕方なくである。
 一応この事は亮介先輩には報告している。花恋ちゃんがいるから二人きりではないので安心したのか、彼も「…まぁ、がんばれ」と何処か同情の色を見せる労いをしてくれた。
 沢渡君に勉強を教えたことのある先輩だからこそわかることだったのだろう。

 二人をリビングに案内して、私は飲み物を準備する。
 二人は部屋を物珍しそうに見渡していたが、うちは何の変哲もない一般家庭なので高価なものはないよ。なにを期待しているのか知らないけど。
 私は二人にお茶を出すと早速特製のテストを出して、制限時間以内で二人に解かせた。

 結果はお察しのとおりだ。
 花恋ちゃんはあと一歩という所で引っかかっているので勉強次第では追試をクリアできそうな気がするが、沢渡君は…察して欲しい。
 花恋ちゃんは私の下手くそな説明を一生懸命聞いてするする吸収していくに反して沢渡君はわからないところがわからないという質の悪さ。
 
 正直に言ってもいい?
 沢渡君、二年やり直したほうがいいレベルだわ。
 補習受けたほうがいいのかもしれない。先生に解決できるかさえわかんないけど。

 …なんだか頭痛がしてきた。



 帰り際に二人には問題用紙とその解答を配り、各自頑張ってやってみてと言ってその日は終わった。


 …疲れた。
 沢渡君、うちの高校入れたんだから中学の基礎は出来てるはずなのに…なんでや…

 

 私は自分の部屋のベッドに寝っ転がりながら花恋ちゃんに渡されたパンフレットをぼんやりと眺めていた。

 陽子様と間先輩が通うことになる大学のパンフレットだ。ちなみに私立。
 進路について悩んでいると花恋ちゃんに漏らした所、一緒に大学見学に行ってみないかと誘われたのだ。

 …うん行くだけならタダだしね…
 未だに担任は事あるごとに私に大学のパンフレットをチラつかせてくるし…
 私こんなんで進路決まるのかなぁ…
 


 実は亮介先輩の通う予定の大学は見てみたいとずっと考えていた。
 こっちは完全なる下心アリだけど。

 剣道してる先輩を見てみたい!
 大学生な先輩が見たい!

 だけど国立大学は夏休みにオープンキャンパスがあるだけらしくて、見学だけなら入れるけど授業を受けたりとかは出来ないようなんだよね。

 …剣道のサークルの見学とかも難しいのだろうか。 
 …うーん見てみたい。


☆★☆


 その晩、引っ越しを無事終えた亮介先輩から電話があり、今日のことを聞かれたので私は今日の勉強会の話をした。
 思い出すと頭が痛くなるわ…

「…四月に沢渡君は後輩になっている気がします」
『……そうか。本橋は大丈夫そうなのか?』
「花恋ちゃんはあと一歩の所でつまづいているだけだったんで、苦手分野を潰せばクリアできると思います。…人に教えるって難しいですね」

 先輩は深く突っ込まなかった。ていうか沢渡君のことはもう予想していたような反応だった。もう受験終わってるけど、あの時は大事な時期に沢渡君を押し付けるような真似をして本当にすみませんでした。
 引越し作業を終えて疲れているであろう亮介先輩と勉強を教えて疲れ切っている私。
 私のほうが疲れてる声をしてるのは気のせいだろうか。

「もう引っ越しの片付けは終わったんですか?」
『まぁ…おいおいだな…明日は必要なもの買い出しに行かないといけないし』
「そう言えば家事とかも自分でしないといけなくなるんですよね。…大丈夫そうですか」
『………おいおいな』

 めっちゃ不安な返事が返ってきた。
 大丈夫だろうか。心配すぎる。
 この様子では家庭科の授業などでしかやったことが無さそうである。掃除なら学校でもしてただろうけど、料理とか洗濯は出来るんだろうか。

「…先輩、私が簡単な料理のレシピ教えてあげますから頑張りましょ? きついのは最初だけですから」
『…自分で一人暮らしを決めておいてなんだが、祖母のありがたみがよくわかった…』

 忙しい橘兄弟のご両親に代わって、同居しているお祖母さんが家事を担っていらっしゃったようで、先輩は引っ越ししたその日からそのありがたみを実感したようである。

「この際だから同じく一人暮らしする大久保先輩も招いて春休み中に特訓しましょ! それなら二人きりじゃないからいいでしょ?」

 
 私は大久保先輩同席の上での、念願の亮介先輩の新居にお邪魔する約束を取り付けることが出来たのであった。
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