上 下
86 / 312
続編

黒歴史の再来。でも嫉妬深い先輩を見れたから悪くはない。

しおりを挟む
「そういやさ」
「なに?」
「これ何?」

 そう言って和真が見せてきたのは江戸風キャバ嬢な私の写真。
 それを見た私は持っていたスマホを危うく床に落としそうになった。

「なっ、なっなっなっ…」
「あの人が見せてきたんだよね。修学旅行で撮ってきたとか言って。仕方なく写真見てたら姉ちゃんもいるし」
「…仕方なく、仕方なく撮ったんだよぉぉ」

 私はリビングで四つ這いになってガックリ項垂れる。こんなものを弟に見られるなんて…! こんな、こんな黒歴史を…!
 お、弟になんてものを見せるんだ…! ていうかなんで私の写真持ってんの林道さん!? 

「こ、これ一枚よね? 見たのって」
「まあね。だけど道場で見せられたから他の人も見てる」
「 」
「みんな褒めてたから心配しなくていんじゃね?」

 …道場? 他の人?
 私の黒歴史がみんなに見られてしまっただと…?


 ねぇ唐揚げ作ってと言ってくるジャンキーに促されるまま私は無表情で唐揚げを揚げていたけども、頭の中は黒歴史でいっぱいだった。






「あやめちゃーん!」
「…林道さん」
「どうしたの? 珍しいね。私を呼び出すなんて」

 私は今、林道さんのクラスB組前にいた。
 彼女にどうしても言いたいことがあったのだ。

「…林道さん、何も言わずにスマホの中の私の写真消して?」
「えー? やだよ」
「…肖像権侵害って知ってる?」
「やだもーん」

 このアマ、いっぺん泣かせたろか。
 勝手に人の写真を所有して勝手に見せるなんて今の御時世、問題になるんだぞ!
 少々ガラの悪いことを考えていると林道さんはムスッとした顔をしていた。

「…和真君ぜーんぜん褒めてくれなかった…」
「そりゃそうでしょうよ」
「あやめちゃんの写真は欲しがったのに私の写真はいらないって…」
「そうそうその写真で私は唐揚げを作らされたんだよ」

 あの弟、私が唐揚げを作るのを渋るようになってから汚い手を使うようになった。あの写真を見せられた私はそれをネタに強請られて唐揚げを作らされる羽目になったのだ。
 作ったらなんとか和真のスマホから私の黒歴史を消去してもらうことに成功したが、元を断たねば再び同じ悲劇が繰り返されてしまう。
 なんとかして元のデータを消さないといけないんだけど…

 …はっ!!

 …亮介先輩に誤送信した写真はちゃんと消してくれてるのだろうか?


☆★☆


「亮介先輩、スマホの写真データを見せてもらえませんか?」
「…なぜ」

 デートの待ち合わせ場所で挨拶もそこそこに私は先輩にそう言った。出会い頭のそれに先輩は「はぁ?」と言いたげな顔をしていたが背に腹は代えられない。
 私にとっては切実なのだ。あんなものが先輩のスマホにまだ残っていると想像するだけで顔から火が吹き出しそうになる。
 先輩いわくあんな如何わしい写真が残ってたら消去してもらわねば!

「如何わしい物がないかを確認するためです」
「……そんなものはない」
「じゃあ見せて下さい!」
「お前の写真データも見せるというなら構わん」
「なんですって!?」

 待てよ。
 私のスマホの中にはあのエセ花魁の他の写真が残っている。だが決してエセ花魁の写真を気に入っているとかではないよ。
 だってあれ五千円(税別)もしたんだもん。消せないよ!!

「くっ……ならいいです」
「ということはお前のスマホには如何わしい写真があるということだな」

 私は苦渋の決断を迫られたが、下唇を噛み締めて先輩から目を逸らした。更に恥の上塗りをしてたまるか…! あんなもの見られたら先輩に軽蔑されてしまうかもしれないではないか!
 先輩から探るような目を向けられウッとなったが、もうすでに知られていることだから私は白状する。

「黒歴史という名のね! 先輩に不評だったエセ花魁の写真が残ってるんですよ。……先輩があの誤送信した写真を消してくれたか確認したかったんです」
「…ああ、あれな」
「消してくれてますよね?」
「………」
「ちょっと、なんで黙るんですか!」
 
 先輩はスッ…と私から目を逸らした。
 ちょっと? 何その反応。…まさか、まさか消してないの!? あんなに写真のことで怒っていたじゃないのよ! 
 いきなり沈黙した先輩を尋問するべく、彼の腕を掴んで横に振っていると「あれ? あやめちゃーん?」と声をかけられた。

「……波良さん?」
「なになに? 二人はくっついちゃったの? ざんね~ん」
「……」

 以前私に交際を申し込んできた空手黒帯フツメン、波良さんの登場で先輩の顔は一瞬で不機嫌になった。
 波良さんはそれに気づいているのか気づいていないのかあの爽やかな笑顔を浮かべながらとんでもない爆弾投下してくれた。

「そういやあやめちゃん、いいもの見せてくれてありがとうね? ……もっとはやく唾つけとけばよかったなぁ」
「……は?」
「花魁の格好。…あやめちゃんって着痩せするよね?」

 意味深な言葉を言ったかと思えば、波良さんはちらりと亮介先輩に視線を移し、ニッコリと笑った。

「!? 見たんですか!? あれを!?」
「じゃーねー!」
「ちょっと波良さん!?」
 
 ちょっと待った!
 着痩せ!? なにそれどういうこと!? どの写真を見たの!? 和真のスマホにそんな写真はなかったはずだぞ! 
 彼を問い詰めようと呼び止めたが、ガシッと私の肩を掴む彼氏様の振り向かずともわかる重々しい雰囲気に私は固まった。

「……俺は自分がここまで嫉妬深い男だとは思わなかったんだが…」
「先輩先輩、私が見せたんじゃなくて同じく花魁体験した女の子が和真に自分の写真を見せびらかすついでに私の写真を見せちゃったんです。事故ですよ事故!」
「あやめ、スマホを出せ」
「…はい」

 先輩によって私のスマホ写真データを確認され、エセ花魁写真は全て先輩のスマホに転送された。
 先輩のその行動に迷いはなく、私はただ呆然とした。

 何故だ。
 先輩これがお気に召さなかったんじゃないの!?
 やめてそんな如何わしい写真をスマホに保存しないで。

 顔を真っ赤にして羞恥に耐えている私に、先輩は仕方ないなと自分の写真データを見せてくれたが、本当に日常のものばかりだった。人物より建物とか風景が多い。
 先輩の目を盗んで指が滑ったふりをして私のエセ花魁写真を消そうとしたら見つかってしまい、スマホを没収されてしまった。

 あの一枚でも恥ずかしかったのに!!
 なんでこんな仕打ちを受けなきゃならないのよ!

「亮介先輩勘弁して下さいよ~」
「もうそろそろ移動するか」
「先輩~消して下さい~お願いしますよ~」

 先輩の腕に抱きついて慈悲を乞うてみたが、そのまま今日行く予定だった映画館へと連れて行かれた。
 映画館のチケット売り場でも売店でもずっと写真を消してコールをしていたがサラリと流されてしまった。

 暗転した映画館の客席にてしょんぼりしながら映画前のCMを眺めていたら隣に座る先輩が身を乗り出して私にキスしてきた。ほんの軽いキスだったけども、さっきまで凹んでいた気分が浮上した。
 我ながら単純である。

 もっとキスしてと先輩にねだったら先輩は「我慢できなくなるから」と言ってしてくれなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したら、なんか詰んでた 精霊に愛されて幸せをつかみます!

もきち
ファンタジー
旧題:50代で異世界転生~現状はあまりかわりませんが… 第14回ファンタジー小説大賞順位7位&奨励賞 ありがとうございました(^^♪ 書籍化に伴い、題名が一新しました。どうぞよろしくお願い致します。 50代で異世界転生してしまったが、現状は前世とあまり変わらない? でも今世は容姿端麗で精霊という味方もいるからこれから幸せになる予定。 52歳までの前世記憶持ちだが、飯テロも政治テロもなにもありません。 【完結】閑話有り ※書籍化させていただくことになりました( *´艸`)  アルファポリスにて24年5月末頃に発売予定だそうです。 『異世界転生したら、なんか詰んでた ~精霊に愛されて幸せをつかみます!~』    題名が変更して発売です。  よろしくお願いいたします(^^♪  その辺の事を私の近況ボードで詳しくお知らせをしたいと思います(^_-)-☆

記憶をなくしたジュリエット

詩海猫
恋愛
もしも前世で死に別れたロミオとジュリエットが生まれ変わって再会したら……? というお話を現世の高校を舞台に書いてみました。 *体調不良につき不定期更新

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

処理中です...