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本編
チョコレート亡者の発生する時期。チョコが欲しいのか気持ちが欲しいのかどっちなんだ。
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バレンタインは本来男性から女性に花やカードをプレゼントする日らしいけど、日本みたいに女性から好意を告げる日でも良いんじゃないかなと今の私は思う。
オーブンのアラームが鳴ったので、こんがり焼きあがったビスケットの載った天板を取り出す。
先程作り終えたトリュフチョコレートは冷蔵庫に入れて冷やしているし、後はビスケットが冷めるのを待って包装するだけだ。
「姉ちゃん唐揚げ作ってよ」
「こないだ作ってやっただろうが」
台所でお菓子を作成していると弟がひょっこり現れて開口一番そう言ってきた。コイツは唐揚げジャンキーか。
思わず荒い口調で反応してしまったが仕方のないことだと思う。それよりも私は14日のための準備に忙しいのだ。
先輩の登校日は2月15日まで。それから二次試験までは自宅学習となる。それでも卒業までに何回か学校に来るとは言ってたけどもう会えなくなるのだ。
だから私は先輩にバレンタインチョコレートを渡そうと決めていた。
それが私の精一杯の告白だ。
「…苦い」
「ちょっと和真つまみ食いしないで」
「甘いのないの?」
「それは風紀の人にあげるから食べないで」
「あ、これうんま」
「だから食べるなってば!」
気持ちが重いかもとは思ったけども折角なので手作りにした。お弁当食べてくれたことがあるし多分大丈夫だと思う。
気合を入れすぎないように大久保先輩に渡す義理チョコの包装と同じものを選択したが、やっぱり中身の本命チョコレートは気合が入った。橘先輩の分は他とは違う。
甘さ控えめのトリュフに口直しのビスケット。一番仕上がりがきれいなものを選んでおく。
バレンタイン前日の夜にそれらを無事作り上げた私は達成感に満ちていた。綺麗にラッピングして、橘先輩の分だけは区別できるように他の人とは違う小袋に入れておく。
(喜んでくれると良いな)
ニヤニヤしていたら和真に「顔すごい事なってるけど」とツッコまれたので奴の分のチョコレートは没収したのである。
翌日。昨晩作ったバレンタインギフトを大きな紙袋に入れて、私は学校へ向かった。
中には本命以外にも友チョコや義理チョコも入ってるので少々大荷物になったけども、重いのは行きだけだから大丈夫であろう。
「アヤちゃんおっはよー!」
「おはよ沢渡君」
「何それ何それすごい荷物!」
「はい友チョコあげる」
「友チョコ! でも嬉しいありがとう!」
学校の昇降口に到着した時真っ先に声をかけてきた沢渡君に友チョコを渡すと喜んでいた。彼はその後も義理チョコ友チョコを貰っては「本命じゃないの~?」とぼやいていた。
そこに丁度友人らが登校してきたので友チョコを渡すと「えぇ!?」と驚かれつつも喜んでもらえた。
「アヤが作ったの!? 女子力たっか!」
「いやぁ…そんな事ないよ」
「手作りかー。私は彼氏にいつも市販のやつあげてるから見習わないと」
去年も自分の友達にあげたけど、その時はユカやリンと友達でもないしクラスメイトでもなかったからな。
「あやめせんぱーい。おはようございまーす!」
「おはよう室戸さん。…そうだ室戸さんにもあげる。友チョコなんだけど」
「えぇ!? いいんですか!?」
下駄箱付近で友チョコを配っていると、何処からかドサドサドサドサ…と何かが雪崩落ちる音が聞こえてきた。
なんだ? とその音の発生源を見に行けば、我が弟が不機嫌そうな顔してそれらを睨みつけていた。
彼の靴箱からは大量のプレゼントの山。
思うんだけど靴箱に食べ物入れられるってなんか嫌じゃない??
私はカバンの中から常備していた大きめの袋を取り出し、弟に差し出す。
「相変わらず漫画みたいだね。カズ、エコバック貸してあげるからちゃんと持って帰りなさいよ」
「…めんどくせぇ」
和真はそう毒吐きながらもしゃがんでプレゼントを袋にしまい始めた。
流石我が弟、安定のモテっぷりである。
よくよく自分のクラスの靴箱を見直して見れば、山ぴょんの靴箱も今にも雪崩落ちそうになっていた。
部活であろう奴は朝練中だろうからこれに気づくのは帰りかな。
いやぁ流石乙女ゲーム。古典的な少女マンガみたいなアクションがあって面白い。
…そう言えばヒロインちゃんはどうするんだろうか。バレンタインは最終イベントの卒業式前の重要な局面である。
…誰とエンドを迎えるのかが謎すぎて逆に気になるんだけど。
そんな事考えながら教室に入るとヒロインちゃんは女の子の友達といつものように歓談していた。
クラスの男子がチラチラヒロインちゃんを見てるが、あからさますぎないか。
私は苦笑いして席に着く。
「あっ田端! 田端それ!」
「あんたらのじゃないよ。お世話になってる人に配る分だから」
「俺らもお世話してるだろ!?」
チョコレート亡者が私が持ってる大きな紙袋に群がってきたが私は一蹴した。コイツら誰に貰ってもいいって思考してるから絶対にあげたくない。
チョコレートを守っていると、朝練終わりの山ぴょんが教室に入ってきた。その手には既に紙袋いっぱいのチョコレート。
男子達の視線が山ぴょんに集中する。
「山浦! 寄越せください!」
「いつもお前ばっかりー!」
「なんだよいきなり!?」
亡者共は一斉に山ぴょんに群がっていく。
山ぴょんのお陰で私のチョコレートは死守できた。さて、これを橘先輩にどうやって渡そうかと思ったのだが、シンプルにメールで一緒に帰ろうと誘ってみた。
橘先輩から快諾いただいたので、帰りに渡す!
これで完璧!
ちなみに風紀の面々には昼休みに届けようと思ってる。申し訳程度のばらまきチョコなので代表者に預けておいて早いもの勝ちで食べて欲しい。
心なしか学校中チョコレートの甘い香りが漂っている気がする。甘い物好きな人はいいけど苦手な人はきっついだろうなぁ。
…橘先輩もたくさんチョコレート貰ってるんだろうな…当然だけど。
…ちょっとジェラシー…
「おいお前らなにしてるんだ。席につきなさい」
担任が教室に入ってきて、乱闘する男子を注意する。亡者共が山ぴょんへの恨み言を訴えると担任は「仕方ねぇなぁ」と言ってスラックスのポケットから黒飴を取り出した。
「家庭科の吉田先生がくれたアメやるからこれで落ち着け」
「黒飴って! ばあちゃんかよ!」
「間接的だが女性からの贈り物だ。ほら嬉しかろう」
「女だけど還暦近いじゃんよ!」
バレンタインは男女ともにソワソワする日。
義理チョコの文化をなくそうという動きが生まれ始めたけど、でもそれはそれで寂しい気がするのは私だけだろうか。
午前の授業を終え、昼食を済ませると私は紙袋を持って席を立つ。
「ちょっと風紀室に顔だしてくるね」
「えー? 橘先輩じゃないのー?」
「…先輩は後でだもん」
頬杖をしてニヤニヤ見送るユカから目を逸らし、私は教室を出た。
風紀室のある階に降りるとその周辺は静かであった。バレンタインってなんやかんや忙しそうなのに意外である。
「失礼しまぁーす」
外から呼びかけて応答があったので扉を開けるとそこには柿山君がいた。
他の委員は出払っているらしい。
「どうした田端」
「これこれ。お世話になってるから義理チョコ作ってきたの。早いもの勝ちで食べてね」
「…なんか悪いな」
「柿山君はこっち。閉じ込められた件とか和真の件で本当にお世話になったからちょっと豪華だよ。あ、友チョコだからお返しとか要らないから」
「お、おう、そうか…」
ばらまきチョコとは違う包装された箱を手渡すと何故か柿山君はギクシャクしていた。
私は少し疑問に感じていたけども「じゃあ皆によろしくね」と声をかけて退室した。
後は大久保先輩と保健室の眞田先生に義理チョコを配ろうと思っているのだが、三年の教室行くのってやっぱり勇気がいるんだよねぇ。
ひとまず眞田先生のところに行くかと踵を返した私だったが、先へと進むことは出来なかった。
「ちょっと」
「え?」
「…それ、誰にやるわけ?」
保健室に足を向けていた私の前に彼女たちが立ちはだかったからだ。
オーブンのアラームが鳴ったので、こんがり焼きあがったビスケットの載った天板を取り出す。
先程作り終えたトリュフチョコレートは冷蔵庫に入れて冷やしているし、後はビスケットが冷めるのを待って包装するだけだ。
「姉ちゃん唐揚げ作ってよ」
「こないだ作ってやっただろうが」
台所でお菓子を作成していると弟がひょっこり現れて開口一番そう言ってきた。コイツは唐揚げジャンキーか。
思わず荒い口調で反応してしまったが仕方のないことだと思う。それよりも私は14日のための準備に忙しいのだ。
先輩の登校日は2月15日まで。それから二次試験までは自宅学習となる。それでも卒業までに何回か学校に来るとは言ってたけどもう会えなくなるのだ。
だから私は先輩にバレンタインチョコレートを渡そうと決めていた。
それが私の精一杯の告白だ。
「…苦い」
「ちょっと和真つまみ食いしないで」
「甘いのないの?」
「それは風紀の人にあげるから食べないで」
「あ、これうんま」
「だから食べるなってば!」
気持ちが重いかもとは思ったけども折角なので手作りにした。お弁当食べてくれたことがあるし多分大丈夫だと思う。
気合を入れすぎないように大久保先輩に渡す義理チョコの包装と同じものを選択したが、やっぱり中身の本命チョコレートは気合が入った。橘先輩の分は他とは違う。
甘さ控えめのトリュフに口直しのビスケット。一番仕上がりがきれいなものを選んでおく。
バレンタイン前日の夜にそれらを無事作り上げた私は達成感に満ちていた。綺麗にラッピングして、橘先輩の分だけは区別できるように他の人とは違う小袋に入れておく。
(喜んでくれると良いな)
ニヤニヤしていたら和真に「顔すごい事なってるけど」とツッコまれたので奴の分のチョコレートは没収したのである。
翌日。昨晩作ったバレンタインギフトを大きな紙袋に入れて、私は学校へ向かった。
中には本命以外にも友チョコや義理チョコも入ってるので少々大荷物になったけども、重いのは行きだけだから大丈夫であろう。
「アヤちゃんおっはよー!」
「おはよ沢渡君」
「何それ何それすごい荷物!」
「はい友チョコあげる」
「友チョコ! でも嬉しいありがとう!」
学校の昇降口に到着した時真っ先に声をかけてきた沢渡君に友チョコを渡すと喜んでいた。彼はその後も義理チョコ友チョコを貰っては「本命じゃないの~?」とぼやいていた。
そこに丁度友人らが登校してきたので友チョコを渡すと「えぇ!?」と驚かれつつも喜んでもらえた。
「アヤが作ったの!? 女子力たっか!」
「いやぁ…そんな事ないよ」
「手作りかー。私は彼氏にいつも市販のやつあげてるから見習わないと」
去年も自分の友達にあげたけど、その時はユカやリンと友達でもないしクラスメイトでもなかったからな。
「あやめせんぱーい。おはようございまーす!」
「おはよう室戸さん。…そうだ室戸さんにもあげる。友チョコなんだけど」
「えぇ!? いいんですか!?」
下駄箱付近で友チョコを配っていると、何処からかドサドサドサドサ…と何かが雪崩落ちる音が聞こえてきた。
なんだ? とその音の発生源を見に行けば、我が弟が不機嫌そうな顔してそれらを睨みつけていた。
彼の靴箱からは大量のプレゼントの山。
思うんだけど靴箱に食べ物入れられるってなんか嫌じゃない??
私はカバンの中から常備していた大きめの袋を取り出し、弟に差し出す。
「相変わらず漫画みたいだね。カズ、エコバック貸してあげるからちゃんと持って帰りなさいよ」
「…めんどくせぇ」
和真はそう毒吐きながらもしゃがんでプレゼントを袋にしまい始めた。
流石我が弟、安定のモテっぷりである。
よくよく自分のクラスの靴箱を見直して見れば、山ぴょんの靴箱も今にも雪崩落ちそうになっていた。
部活であろう奴は朝練中だろうからこれに気づくのは帰りかな。
いやぁ流石乙女ゲーム。古典的な少女マンガみたいなアクションがあって面白い。
…そう言えばヒロインちゃんはどうするんだろうか。バレンタインは最終イベントの卒業式前の重要な局面である。
…誰とエンドを迎えるのかが謎すぎて逆に気になるんだけど。
そんな事考えながら教室に入るとヒロインちゃんは女の子の友達といつものように歓談していた。
クラスの男子がチラチラヒロインちゃんを見てるが、あからさますぎないか。
私は苦笑いして席に着く。
「あっ田端! 田端それ!」
「あんたらのじゃないよ。お世話になってる人に配る分だから」
「俺らもお世話してるだろ!?」
チョコレート亡者が私が持ってる大きな紙袋に群がってきたが私は一蹴した。コイツら誰に貰ってもいいって思考してるから絶対にあげたくない。
チョコレートを守っていると、朝練終わりの山ぴょんが教室に入ってきた。その手には既に紙袋いっぱいのチョコレート。
男子達の視線が山ぴょんに集中する。
「山浦! 寄越せください!」
「いつもお前ばっかりー!」
「なんだよいきなり!?」
亡者共は一斉に山ぴょんに群がっていく。
山ぴょんのお陰で私のチョコレートは死守できた。さて、これを橘先輩にどうやって渡そうかと思ったのだが、シンプルにメールで一緒に帰ろうと誘ってみた。
橘先輩から快諾いただいたので、帰りに渡す!
これで完璧!
ちなみに風紀の面々には昼休みに届けようと思ってる。申し訳程度のばらまきチョコなので代表者に預けておいて早いもの勝ちで食べて欲しい。
心なしか学校中チョコレートの甘い香りが漂っている気がする。甘い物好きな人はいいけど苦手な人はきっついだろうなぁ。
…橘先輩もたくさんチョコレート貰ってるんだろうな…当然だけど。
…ちょっとジェラシー…
「おいお前らなにしてるんだ。席につきなさい」
担任が教室に入ってきて、乱闘する男子を注意する。亡者共が山ぴょんへの恨み言を訴えると担任は「仕方ねぇなぁ」と言ってスラックスのポケットから黒飴を取り出した。
「家庭科の吉田先生がくれたアメやるからこれで落ち着け」
「黒飴って! ばあちゃんかよ!」
「間接的だが女性からの贈り物だ。ほら嬉しかろう」
「女だけど還暦近いじゃんよ!」
バレンタインは男女ともにソワソワする日。
義理チョコの文化をなくそうという動きが生まれ始めたけど、でもそれはそれで寂しい気がするのは私だけだろうか。
午前の授業を終え、昼食を済ませると私は紙袋を持って席を立つ。
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「えー? 橘先輩じゃないのー?」
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風紀室のある階に降りるとその周辺は静かであった。バレンタインってなんやかんや忙しそうなのに意外である。
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外から呼びかけて応答があったので扉を開けるとそこには柿山君がいた。
他の委員は出払っているらしい。
「どうした田端」
「これこれ。お世話になってるから義理チョコ作ってきたの。早いもの勝ちで食べてね」
「…なんか悪いな」
「柿山君はこっち。閉じ込められた件とか和真の件で本当にお世話になったからちょっと豪華だよ。あ、友チョコだからお返しとか要らないから」
「お、おう、そうか…」
ばらまきチョコとは違う包装された箱を手渡すと何故か柿山君はギクシャクしていた。
私は少し疑問に感じていたけども「じゃあ皆によろしくね」と声をかけて退室した。
後は大久保先輩と保健室の眞田先生に義理チョコを配ろうと思っているのだが、三年の教室行くのってやっぱり勇気がいるんだよねぇ。
ひとまず眞田先生のところに行くかと踵を返した私だったが、先へと進むことは出来なかった。
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