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本編

男が入ってくることで悪化するのが常。女の争いはいつだって陰湿だから。

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「単刀直入に言うけどさ、最近田端さん調子乗り過ぎじゃない?」
「ハァ?」

 現在私は裏庭で女子三人に包囲されていた。
 やべーいじめだよいじめ。
 単刀直入すぎて意味わからんわ。

 なんでそんなに落ち着いているかというと、こういうの初めてじゃないから。

 美形な弟、イケメンな幼馴染を持つ私はいつも妬み嫉みの標的で昔から…そうだな幼稚園の頃から女は女だった。



【幼児時代】

『あやめちゃん僕とあそぼ』
『たいしくん』
『たいしくんはみくとあそぶの!』
『あやめちゃんはだめ!』
『わかった! あやめ、なわとびしてるね』

【小学時代】

『あやめちゃんさ、大志君に近づくの止めてくれる?』
『え? ああうんわかった』

【中学時代】

『ねぇねぇ和真君紹介してくれない?』
『………ごめん、できない』



 一応ね、幼馴染の山ぴょんとは小学生高学年のときから距離置くようになって女子の攻撃はマシになったんだけど、次は弟狙いの女子が近づいてきて…攻撃は年々ひどくなった。

 そもそもそういう輩に弟を紹介したくないのでやんわりきっぱり断っていたのだが、その中に少々癖のある女子達がいてその子たちからいじめっぽい嫌がらせを受けたことがある。

 例えば私がなにかするたび何が面白いのか笑ったりこっち見てヒソヒソ話すとか、わざと肩にぶつかってくるとか、一番きつかったのは無視かな。
 一時期クラスでハブられたことがあったし。クラス替えして間もない時期だった為友達らしい友達がいなかったから殊更孤独だった。

 流石に私も学校行きたくなくて元気をなくしたのだが、親を心配させたくなくて我慢していた。
 その時は隣のクラスに信頼できる友達が居たので、休み時間は友達のもとで過ごして乗り切っていた。
 この事は弟も親も知らないけど、あれは本当にきつかった。


「ちょっと聞いてんの!?」

 いかん昔の出来事に思いを馳せていたから彼女たちの話を全く聞いていなかった。

「ごめん、なんだっけ」
「だからっ! 幼馴染だか何だか知らないけど山浦くんに馴れ馴れしくしないっでって言ってんの!」
「私が先に誘ったのになんであんたが同じ班になってるの!?」
「ほんっと目障りなんだけど!」

 あー…やっぱりその事か。 
 それだけでなくとも二学期に入って私は山ぴょんと関わることが多かった。私が謀ったわけではないのだが、色んな場面で関わりすぎた。

 こういうのがあるから山ぴょんと関わりたくないんだよ。
 …山ぴょんが悪いわけじゃないけどさ。
 私は目の前で顔を歪めて口撃してくる彼女たちを眺めながら、ため息を吐いた。

「…私が誘ったんじゃないし。定員オーバーだからこっち来ただけじゃん…」
「そういう態度が腹立つのよ!」

 どういう態度だよ。
 私は山ぴょんをかなり雑に扱ってきた。誤解が生まれないように接したつもりだった。
 一体どんな態度が正解なんだ。
 彼女たちのあまりにも自分勝手な言い分に私も少々イラッとした。

「大体あんたらだってただのクラスメイトでしょ。なんでそんな事指図されなきゃならない訳?」
「あんた生意気なんだよっ! 遅い高校デビューして恥ずかしくないの!?」
「地味顔のくせに化粧しても所詮ブスはブスなんだよ!」
「弟はあんなにかっこいいのに…ホント可哀想な顔してるよね。あんたって」

 あー来た。容姿の罵倒。
 弟と比べて言ってくるのも今までと同じ。


 私結構こういうの慣れてるけどさ、あまり気分は良くない。
 知ってるさ。どんなにおしゃれしても私は地味で平凡な女だってことくらい。
 だけどさ、だからこそ着飾って少しでも綺麗になろうとしてるの。なんでそれを馬鹿にされないといけないわけ?

 母似の弟を羨んだことがないと言えば嘘になる。だけどそれで弟や両親を責めた所でどうにかなるわけでもない。私は家族を悲しませたくなかったからそれを口に出したことはなかった。

 なんで他人にそこまで言われなきゃならないわけ? 幼馴染なのは仕方ないじゃん。家が近くて年が同じなんだから関わりがあって当然でしょう。

 弟に似てないことは重々承知している。だけどさ、それでこの人達になにか迷惑かけた?
 そういった言葉がどれだけ胸に突き刺さって、自身を失っていくかこの人達知っているのかな。

 いや…そもそも私が傷つこうがどうでもいいのか。
 
 なんで私はいつもこんな役回りなんだよ。
 こういうの慣れたなんて嘘だ。
 やっぱり傷付く。

「なんとか言えよこのブス!」

 ドン! と肩を押されて私はよろけた。
 私は俯き、唇を噛んで堪えていた。
 この人達の前で涙を見せたくなかったから。

「…ただの幼馴染だからさ…ほんと」
「…なら私達と山浦君が仲良くなるように協力してよ」
「………は?」

 この人何言ってるんだろう。“私達”って言った?
 全員? それなんてハーレム。山ぴょんを共有するつもりか。

 私は彼女たちの言葉に傷ついてはいたが、同時に自分勝手な言い分を不快に思っていた。

 自分の力でやれよそんな事。
 林道さんは始めこそアレだったけど、今じゃ正々堂々と和真にぶつかっている。あしらわれているけど。
 彼女を弁護するわけじゃないけど、彼女のことを見習うべきである。

「…それさぁ、協力したとして私になにかメリットあるかな?」
「なっ!」
「口答えしてんじゃねーよ!」

 バシッ!

 私は平手打ちされた。
 最近良く平手打ちされるな。タカギの平手打ちに比べたら全然堪えないけど痛いものは痛い。

 ていうか私には断る権利もないっていうのか。 
 だけど協力なんてお断りである。 
 
 …はやく諦めてくれないかな…

 私はただひたすら彼女たちの気が済むまで堪えていた。こういう輩は言い返しても逆上するだけなので我慢したほうがいいと判断したのだ。



「おいっ! お前ら何してんだよ!」

 だけど、意外な人物の乱入に彼女たちの勢いはなくなった。

「や、山浦くん!?」
「ち、違うのこれは!」
「本橋に言われて探してみれば! お前らあやめを囲んで何してんだよ!」
「は、話を」
「今叩いてたろ! 言い訳すんな!」

 山ぴょんである。
 ヒロインちゃんが言った?
 もしかして三人に連れて行かれるのを不審に思って山ぴょんに教えたのだろうか。

 …いつもならその気遣いは嬉しいけど、今回のは放って置いてほしかったな…


「だって山浦君」
「あやめが何したっていうんだよ! そういうのやめろよ!」
「なんでこの女なの?! 修学旅行一緒に見て回りたかったのに!」
「そうだよ! こんなブス、山浦くんには」
「お前らそんなこと言ったのか!」

 目の前では山ぴょんがキラキラ女子に対してキレていた。
 山ぴょんこういうの一番キライだからね。
 でもホントやめてほしい。男が出てくるとこういうのって余計にこじれるから。

「…山ぴょん。もういいから」
「あやめ、だけど」
「山ぴょんが入ってくると余計状況悪化するから。もうそれ以上は」
「何言って…」
「私慣れてるから。こういうの…大丈夫だから」


 私は早く終わってほしかった。
 ただの幼馴染であるだけでこんなに罵倒され暴力振るわれ、私はこれ以上ここに居たら泣いてしまいそうだったから。

「なんで…それって今までにもあったってことか? なんで言わないだよ!」
「言ってどうするの。悪化するだけじゃん。女子に勘違いされたくなかったからね」
「…なんだよそれ…」

 今までもわざわざ言うようなことじゃないだろうって言わなかった。言った所で余計女子の顰蹙買うだけだし。それなら山ぴょんと関わらなければいいだけの話で。
 言ったでしょ? 私と幼馴染の間にはラブロマンスなんてない。そもそも男女の幼馴染なんて幼い時以降は疎遠になるものだ。


「山ぴょんが口出すと余計ひどくなるから放っておいてよ」
「…んだよ…かわいくねーな」
「……」

 山ぴょんは売り文句に買い言葉だったのかもしれない。だけど今の私にそれはきつい言葉だった。

「…そんな事今更知ったの?」

 私は笑ってるつもりだったけど、もう限界だったらしい。笑顔が笑顔になっていなかったみたいだ。

 だって目の前の山ぴょんがはっとしていたから。

「あっ…今のはそういう意味じゃないんだ。悪い失言だった!」
「私保健室行くから五時間目休みって先生に言っておいてね」
「おいあやめ!」

 私は足早にその場から立ち去った。
 早くしないと涙を見せてしまいそうだったから。だって今さっきも声が震えてしまった。

 泣くのを見せたら負けな気がしてあの場で泣きたくなかったんだ。


「田端さん!」
「!…本橋さん」
「…大丈夫?」

 じわっと視界が歪んで涙がこぼれそうになったその時、私に声をかけてきたヒロインちゃん。

 今は彼女に会いたくなかった。
 私のコンプレックスを刺激する彼女の側には居たくなかった。

「大丈夫」
「でも」
「放っておいて…お願いだから」
「あっ…田端さん!」

 彼女はなんにも悪くないのは分かっていた。だけど、私は彼女の気遣いを受け入れられなかった。


 私は早歩きで階段を登る。
 もう涙は蛇口が壊れたように流れまくっていて化粧が落ちている自覚はある、きっとパンダ目になっていることだろう。

 ひたすら階段を上がって最上階に到着すると、目の前に扉があった。
 ここなら人が少ないはずだ。
 この北校舎の屋上は日当たりが悪いので生徒たちに人気のないスポット。反面南校舎の屋上は昼休みはいつも満員だけど。

 ここなら、泣いたって誰にも見つかることはない。


 抑えていた嗚咽がもう抑えきれずに口から漏れ始めていた。
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