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私はサイキック・ガール!
第18話 高い所は苦手です。恐怖で足がすくむんです。
しおりを挟む「あなた、A組に入ってきた編入生だよね? すごい組み合わせ…」
私がピッピを戌井の頭頂部目がけて発進させようとしていると、Sクラスの女子生徒に声を掛けられた。一重の瞳に泣きぼくろのあるボブカットヘアの彼女は物珍しそうに私達を見比べてきた。
「今しがた戌井とボッチ同盟を締結した大武藤ですヨロシク」
私の勝手な偏見だけど、Sクラスの人のほうが物怖じしない人多くないか。普通クラスの生徒は大体私のこと怖がって避けてるのに…
日色君と一緒にいるから大丈夫だと判断されているのかもしれないけどさ。
戌井が「だから結んでねーって」と言っているが無視しておく。
泣きぼくろの彼女は私の隣に座るとニッコリ笑って自己紹介した。とってもフレンドリーな女の子である。笑うと八重歯が覗いてとってもラブリー。
「私は澤口充希。遠目でどんな子かなぁって窺っていたけど、肝が据わってるよねぇ」
「えっそう…?」
それって褒められてるんだよね?
ここに来て皮肉とかやめてね?
澤口さんもそこに同席して、4人と1羽で食事を摂った。頑なにお弁当を開かなかった戌井だったが、みんながお昼ごはんを食べている姿を見て空腹に耐えきれなくなったようである。
一足先に満腹になったピッピは森の中を空中散歩するべく飛び立った。賢いインコなので、下山する時間には戻ってくるであろう。
「懐いてるね、あのインコ藤っちの?」
「ううん。あの子も私と同じく外からやって来た脱走インコだよ。元々どこかのご家庭で飼われていたけど、自由を求めてここにやって来たんだってさ。ルームメイトの子が教えてくれた」
「へぇ。…なんか皮肉だね、ここでは私達が籠の鳥みたいなのに」
「鳥たちにとってはパラダイスみたいだよ」
私の言葉に澤口さんは笑っていた。親しげに話しかけてくれる彼女の気遣いに私は嬉しくて饒舌になる。これだよこれ。私はこんなフレンドリーさに飢えているんだ。
外部からの転入生に臆することのないS組の人は案外好奇心旺盛なのかもしれないな。
ちょっとした小山であるここには、遊具がある。折角来たのだ。少しばかり遊びたい。私の中で眠っていた少年心が疼いてきた。
昼食をとり終えた私はアスレチックコーナーで一緒に遊ぼうと彼らを誘った。
澤口さんには体力に自信がないからと辞退されて、戌井からは素気なく断られた。
「さっさと行けよブス」
ゴミ虫を払うかのようにあしらわれた私はぐぬぬと呻きながら戌井を睨みつけた。
せっかくボッチを誘ってやったのに!
「後で遊びたいって言っても混ぜてやらんからな!」
「ガキかよ」
なにがガキだ! 語彙力小学生に言われたくないわ!!
私は日色君を引っ張り込んで遊び倒すことにした。彼は苦笑いしながらも私に付き合ってくれた。高校生が思いっきり公園で遊んでもいいじゃないか。
「先に天辺まで登ったほうが勝ちね!」
ロープで出来たジャングルジム競争しようと誘うと、日色君はあっという間に登ってしまった。
楽勝に思えて結構傾斜があってきついぞコレ。ロープだから足場が悪いし……
「日色君早いね!」
「流石に女の子には負けたくないからね」
むっ、対抗意識燃やし始めたのか。
仕方なく付き合っていた風だったのに、日色君はどんどん笑顔に変わっていった。無邪気に遊具で遊ぶ私達はまるでお互い小学生に戻ったみたいである。私が初等部からここにいてもきっと日色君とはいい友達になれたと思うんだよなぁ。
大型滑り台で一緒に滑ったり、うんてい競争したり、ボールにしがみついて乗るようなブランコで遊んだり……どの遊びにも彼は付き合ってくれた。
「次はあれに挑戦しよう!」
立派な大木の間を渡る吊橋コーナーがあったので、勇んで渡り始めたのはいいが、途中で私は思い出してしまった。
「あのぅ日色君……」
「? どうしたの?」
前を歩いていた日色君に弱々しく声を掛けた私は、吊橋のロープにしがみついて震えていた。
「私高所恐怖症だった…」
「えぇ!? それなのになんで吊橋を渡りたいっていうの!?」
楽しすぎてど忘れしてたんだ…なぜ忘れていたんだろう…吊橋って高いじゃん……
日色君がこちらに戻ってきて私に手を差し伸べてくれた。
私はへっぴり腰で彼の手を掴むと、そのまま手を引かれてゴールまで連れて行ってもらった。握られている手に変な汗かいてしまってる。ごめんよ、ごめんよ日色君…
ヒィヒィ言いながら吊橋を渡り終えた私の膝が笑っている。まるで足腰の弱いご老人のようにプルプルしながら地上に降り立った。
大木の吊橋ナメてた。下から見るよりも高いし、風の音がビュンビュン吹きすさんで橋が揺れるの。見下ろしたら遠くに地面。
動悸息切れが半端ないよね。どうして忘れていたのだろう不思議だ。
「ほら、歩ける?」
「す、すまないねぇ…」
私は日色君に介護されるかのように木陰のベンチまで誘導してもらった。そこにいた澤口さんからペットボトルの水を差し出された。彼女は心配そうに私の様子をうかがってきた。
「吊橋そんなに怖かったの?」
「高所恐怖症だったの忘れてた…」
素直に自供すると、澤口さんに笑われてしまった。
「バカじゃねーのお前」
「うるさい…」
戌井がバカにしてきた。ムカつく。
私はしばらくそこで休憩しながらSクラス生である彼らとおしゃべりしていたのだが、その間ずっと視線を感じていた。
私が振り返ると、Aクラスの人が変な顔して見ていた。
なんだよ。なにか文句でも…
「ねぇねぇ藤っち、いつまで隆とお手々つないでるの?」
「え…あっごめん!」
ニヤニヤ顔の澤口さんに指摘されて、私が日色君の手を握り続けていたことを思い出した。なんか安心感があったのでつい。
私の汗でネトネトしてるかもしれないので、着ていた体操服で日色君の手の平を拭っておいた。
「お、大武さん」
「ごめんね私の手ベタベタしてたでしょ。本当にごめんね」
こういう時に限ってハンカチがない……
タオルくらい持ってくればよかった。
拭ってあげている最中、日色君の手がビクッとして力が入っている感じがしたけど、私は構わずゴシゴシしておいた。
あとで日色君本人から「ああいう事しなくていいから」と言われたけど、どの事だろう。
直後に先生から集合掛けられたので問うことも出来ず、結局わかんなかった。
そんなこんなで遠足の時間はあっという間に過ぎ、高等部1年生一行は帰途についたのである。
■□■
帰寮した私はすぐにお風呂で汗を流して、愛用のジャージ(前の高校のもの)に着替えた。
ドライヤーで髪の毛を乾かしている私を同室の小鳥遊さんがジィ…ッと見ていたので、そちらへ視線を送ると彼女はハッとした顔をしていた。一瞬気まずげな表情を浮かべて視線をさまよわせていたが、意を決した様子で言った。
「大武さんってすごいね」
「……なにが?」
私が首を傾げると、小鳥遊さんは苦笑いしていた。
「彼らがあんなに楽しそうにしている姿、久々に見たかも」
「彼ら……S組の人たち? そうかな?」
この学校に来てまだひと月程度なんでよくわからんが、戌井はともかく日色君はよく笑ってくれるよ? 別にそんな珍しいことなんて……
「私達普通クラスの生徒達が彼らと距離を作って特別視しすぎてたのかなって。…巫女姫の件とかもあったし、ちょっと反省しなきゃ。ね、ピッピ」
「ピッ!」
「……?」
よくわからないが問題は私ではなく、小鳥遊さんの中の問題みたいである。
小鳥遊さんの手にはピッピがとまっており、彼らは何やら意思疎通を図っている。ピッピの言葉がわからない私は蚊帳の外である。
まぁいいかと鏡に視線を戻した私は乾いた髪をブラッシングしていたのだが、そこで腕に違和感を覚えた。
──もう来たのか、筋肉痛。
普段使わない筋肉が悲鳴を上げている。上腕二頭筋とか広背筋、大腿直筋が…痛い……
私は寮内にある売店で湿布を購入すると、それを全身に貼り巡らせた。
体が……筋肉が悲鳴を上げている…!
その晩は湿布臭いからとピッピが離れていってしまったので、寂しく独り寝したのである。
…薄情なインコめ。…別に泣いてなんかないから……
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