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清く正しく美しく! 三森あげはを夜露死苦!
私、シスターになります(劇中で)
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嗣臣さんの通う大学に引き続き、我が校も文化祭シーズンとなった。
うちのクラスは隣のクラスと合同で劇を行うことに。役決めは挙手制だったのだが、クラスメイトからの推薦もあって私は主役に抜擢された。
とはいっても、お姫様とか王子様とか華やかな役ではないけどね…。そんなわけで文化祭までの間、準備や練習に追われるようになった。
カタ、カタ、カタ、カタ…
速度は最遅。だけど私にはものすごく早い運針に見えた。油断したら指の皮膚を縫い付けてしまう……こんな恐ろしい凶器を発明した人間は頭がどうかしていると思う。
「あげはちゃん、なに作ってるの?」
私が自分の部屋でおっかなびっくりミシンを扱っているのを眺めていた嗣臣さんが問いかけてきた。…やめて、ミシンを扱っている時に横から声を掛けてこないでくれ。指を縫ってしまうだろう。
「文化祭で劇やるんです。役を任されたので自分の衣装を縫っていて…」
衣装は自前なのだ。こんなことなら裏方がよかった。
だけどクラスメイトの推薦もあったから無下にもできなくて安請け合いしてしまって……
「何の役演じるの? お姫様役?」
「いえ、シスター役です」
この黒衣をみてどうしてお姫様役だと思うのか。そもそも私はお姫様って柄じゃないだろう。
「学校の劇にシスター? 珍しいね」
「“天使にラブ○ングを…”という映画の作品だからシスターがメインなんですよ」
うちは女子校だし、あまりにも過激なものはシスターたちが顔をしかめるのだ。劇の題目の話し合いをする中ではロミオとジュリエットがいいという意見もあったが、あの作品は神の教えに背く部分もあるので、カトリック系なうちの学校ではパスである。
「そうなんだ。俺になにか手伝えることある?」
嗣臣さんがお手伝いを申し出てきたので、私は黙って布地を差し出した。
今は縫う段階なので、ただひたすらミシンと戦えばいいだけだ。なのだが、それまでの段階で私の指はもうすでにボロボロ。裁断ハサミで指を切るわ、まち針で指を刺すわ…身も心もぼろぼろである。
無言でミシンの前をどくと、そこに嗣臣さんを追いやった。嗣臣さんは目を丸くして私を見上げる。私はミシンを指差して促した。
「えぇー…ここはあげはちゃんがやらなきゃ意味ないんじゃ…」
「手伝ってくれるんでしょ?」
頼む。私の代わりに縫ってくれ。
これが終わらない限り、私はセリフ暗記が出来ないんだ。本番が迫っているのに私だけ衣装が出来ていないんだよ…!
私の無言の圧力に負けた嗣臣さんは「仕方ないなぁ」と呟いてミシンを操作し始めた。
──ダダダダダダ…
「ちょ…ミシン速度速すぎないですか?」
「速いほうがまっすぐ縫えるよ」
…ちょっと何言ってるかわかんない。
めっちゃスラスラ縫ってるけど、怖くないのか?
ていうかむっちゃ縫うの上手いな…このオトメン、裁縫まで出来るのか…。ことごとく女子力で負けている私である。
「…なんでそんなに上手なんですか…」
「そんなことないよ? 小中の家庭科で習った程度しか出来ないよ」
上手いとかそういうわけじゃないと思うけど、と返されて私は閉口した。
……。
嗣臣さんは高校まではずっと私学に通っていた。だけど家庭科ならどの学校も範囲変わらないと思うんだ。恐らく、同じカリキュラムを習ったはずなのに…なぜだ。
シスターの衣装自体はシンプルだ。嗣臣さんがあっという間にほぼ全部縫ってくれた。後の細かい調整は自分でやるんだよと衣装を返されたが、それだけでも十分。ここまで縫ってくれて本当にありがとう。助かった…!
「思ったんだけど、あれってミュージカルじゃなかったっけ?」
「そうです、歌がメインです」
この間テレビで放映されていたからそれ見たのかなもしかして。
だから歌のレッスンもあってけっこう大変なんだよ。学校のお遊戯だけど、それなりの見栄えにしなきゃ決まらないでしょ? 格好悪い姿を晒すわけには行かないし。
「劇中で流れるのはほぼ賛美歌だよね? なにか歌ってみてよ」
「恥ずかしいから嫌です」
歌が苦手と言うわけじゃないけど、せがまれて素直に歌えるほど得意というわけじゃない。
そもそも合唱メインだもんなぁ。中には聖歌部に入っている子たちもいるし…彼女たちとの歌唱力を比べられたら少しつらいものがある。
「あげはちゃんの勇姿、観に行くね」
そう言ってきた嗣臣さんをパッと見上げる。
……去年はちょっとした諍いがあったので彼は文化祭にこなかった。だから少し不安になる。去年の文化祭中はソワソワして落ち着かなかったから。
「約束。朝イチで行くから」
そう言って嗣臣さんは子どもみたいに指切りげんまんしてきた。
本当かな、本当に来てくれるのかな。劇を見てほしいってほど私には演技力がないけど、来てくれるなら嬉しい。
本番は気合い入れて頑張らなきゃ。私は心のなかで気合を入れ直した。
■□■
「あげはさんの晴れ姿、絶対に観に行きます!」
「別にこなくていいよ」
家の周りを自主清掃している毒蠍赤モヒカンが期待の眼差しで、うちの学校の文化祭へ遊びに行く旨を告げてきた。なので私はドライに返しておく。
まったく、文化祭で劇をすることをどこから聞きつけてきたのやら…
「茉莉花さんも劇に出られるんですか!?」
「うん出てくるけど……くれぐれも劇中に騒がないでよ? アイドルのコンサート会場じゃないんだから」
茉莉花に恋心を抱いている金髪黒マスクがワクワクした様子だったので釘を差しておく。
そもそも不良が文化祭にやってくると空気が異様になるから大人数でこられると困るんだけど……。とはいえ、黒マスクは純粋に茉莉花へ好意を抱いているようなので、強くは言えなかった。
こいつも茉莉花の男性恐怖症とかを理解しているし、茉莉花を守るべき存在だと認識しているみたいだし、ちょっとばかし様子見だ。茉莉花は相変わらず黒マスク並びに男性全般を恐れているので、進展は望めなさそうではあるが。
もしも茉莉花の意に沿わぬことをしようものなら、私の鉄槌が待っている。それを念押しすると、黒マスクは青ざめた顔でブンブンと首を縦に振っていた。これでよし。
清貧をモットーにしている雪花女子学園の文化祭はそこまで派手じゃない。女子生徒の身内や友人、近隣の人が遊びに来る程度の文化祭で、はっちゃけるほどの雰囲気はない。
去年も何もなかったし、今年も静かに終わるはずだ。
なんだけど……妙に胸騒ぎがするのは、毒蠍のせいか、それとも嗣臣さんのせいなのだろうか…?
うちのクラスは隣のクラスと合同で劇を行うことに。役決めは挙手制だったのだが、クラスメイトからの推薦もあって私は主役に抜擢された。
とはいっても、お姫様とか王子様とか華やかな役ではないけどね…。そんなわけで文化祭までの間、準備や練習に追われるようになった。
カタ、カタ、カタ、カタ…
速度は最遅。だけど私にはものすごく早い運針に見えた。油断したら指の皮膚を縫い付けてしまう……こんな恐ろしい凶器を発明した人間は頭がどうかしていると思う。
「あげはちゃん、なに作ってるの?」
私が自分の部屋でおっかなびっくりミシンを扱っているのを眺めていた嗣臣さんが問いかけてきた。…やめて、ミシンを扱っている時に横から声を掛けてこないでくれ。指を縫ってしまうだろう。
「文化祭で劇やるんです。役を任されたので自分の衣装を縫っていて…」
衣装は自前なのだ。こんなことなら裏方がよかった。
だけどクラスメイトの推薦もあったから無下にもできなくて安請け合いしてしまって……
「何の役演じるの? お姫様役?」
「いえ、シスター役です」
この黒衣をみてどうしてお姫様役だと思うのか。そもそも私はお姫様って柄じゃないだろう。
「学校の劇にシスター? 珍しいね」
「“天使にラブ○ングを…”という映画の作品だからシスターがメインなんですよ」
うちは女子校だし、あまりにも過激なものはシスターたちが顔をしかめるのだ。劇の題目の話し合いをする中ではロミオとジュリエットがいいという意見もあったが、あの作品は神の教えに背く部分もあるので、カトリック系なうちの学校ではパスである。
「そうなんだ。俺になにか手伝えることある?」
嗣臣さんがお手伝いを申し出てきたので、私は黙って布地を差し出した。
今は縫う段階なので、ただひたすらミシンと戦えばいいだけだ。なのだが、それまでの段階で私の指はもうすでにボロボロ。裁断ハサミで指を切るわ、まち針で指を刺すわ…身も心もぼろぼろである。
無言でミシンの前をどくと、そこに嗣臣さんを追いやった。嗣臣さんは目を丸くして私を見上げる。私はミシンを指差して促した。
「えぇー…ここはあげはちゃんがやらなきゃ意味ないんじゃ…」
「手伝ってくれるんでしょ?」
頼む。私の代わりに縫ってくれ。
これが終わらない限り、私はセリフ暗記が出来ないんだ。本番が迫っているのに私だけ衣装が出来ていないんだよ…!
私の無言の圧力に負けた嗣臣さんは「仕方ないなぁ」と呟いてミシンを操作し始めた。
──ダダダダダダ…
「ちょ…ミシン速度速すぎないですか?」
「速いほうがまっすぐ縫えるよ」
…ちょっと何言ってるかわかんない。
めっちゃスラスラ縫ってるけど、怖くないのか?
ていうかむっちゃ縫うの上手いな…このオトメン、裁縫まで出来るのか…。ことごとく女子力で負けている私である。
「…なんでそんなに上手なんですか…」
「そんなことないよ? 小中の家庭科で習った程度しか出来ないよ」
上手いとかそういうわけじゃないと思うけど、と返されて私は閉口した。
……。
嗣臣さんは高校まではずっと私学に通っていた。だけど家庭科ならどの学校も範囲変わらないと思うんだ。恐らく、同じカリキュラムを習ったはずなのに…なぜだ。
シスターの衣装自体はシンプルだ。嗣臣さんがあっという間にほぼ全部縫ってくれた。後の細かい調整は自分でやるんだよと衣装を返されたが、それだけでも十分。ここまで縫ってくれて本当にありがとう。助かった…!
「思ったんだけど、あれってミュージカルじゃなかったっけ?」
「そうです、歌がメインです」
この間テレビで放映されていたからそれ見たのかなもしかして。
だから歌のレッスンもあってけっこう大変なんだよ。学校のお遊戯だけど、それなりの見栄えにしなきゃ決まらないでしょ? 格好悪い姿を晒すわけには行かないし。
「劇中で流れるのはほぼ賛美歌だよね? なにか歌ってみてよ」
「恥ずかしいから嫌です」
歌が苦手と言うわけじゃないけど、せがまれて素直に歌えるほど得意というわけじゃない。
そもそも合唱メインだもんなぁ。中には聖歌部に入っている子たちもいるし…彼女たちとの歌唱力を比べられたら少しつらいものがある。
「あげはちゃんの勇姿、観に行くね」
そう言ってきた嗣臣さんをパッと見上げる。
……去年はちょっとした諍いがあったので彼は文化祭にこなかった。だから少し不安になる。去年の文化祭中はソワソワして落ち着かなかったから。
「約束。朝イチで行くから」
そう言って嗣臣さんは子どもみたいに指切りげんまんしてきた。
本当かな、本当に来てくれるのかな。劇を見てほしいってほど私には演技力がないけど、来てくれるなら嬉しい。
本番は気合い入れて頑張らなきゃ。私は心のなかで気合を入れ直した。
■□■
「あげはさんの晴れ姿、絶対に観に行きます!」
「別にこなくていいよ」
家の周りを自主清掃している毒蠍赤モヒカンが期待の眼差しで、うちの学校の文化祭へ遊びに行く旨を告げてきた。なので私はドライに返しておく。
まったく、文化祭で劇をすることをどこから聞きつけてきたのやら…
「茉莉花さんも劇に出られるんですか!?」
「うん出てくるけど……くれぐれも劇中に騒がないでよ? アイドルのコンサート会場じゃないんだから」
茉莉花に恋心を抱いている金髪黒マスクがワクワクした様子だったので釘を差しておく。
そもそも不良が文化祭にやってくると空気が異様になるから大人数でこられると困るんだけど……。とはいえ、黒マスクは純粋に茉莉花へ好意を抱いているようなので、強くは言えなかった。
こいつも茉莉花の男性恐怖症とかを理解しているし、茉莉花を守るべき存在だと認識しているみたいだし、ちょっとばかし様子見だ。茉莉花は相変わらず黒マスク並びに男性全般を恐れているので、進展は望めなさそうではあるが。
もしも茉莉花の意に沿わぬことをしようものなら、私の鉄槌が待っている。それを念押しすると、黒マスクは青ざめた顔でブンブンと首を縦に振っていた。これでよし。
清貧をモットーにしている雪花女子学園の文化祭はそこまで派手じゃない。女子生徒の身内や友人、近隣の人が遊びに来る程度の文化祭で、はっちゃけるほどの雰囲気はない。
去年も何もなかったし、今年も静かに終わるはずだ。
なんだけど……妙に胸騒ぎがするのは、毒蠍のせいか、それとも嗣臣さんのせいなのだろうか…?
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