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清く正しく美しく! 三森あげはを夜露死苦!
頭がおかしくなきゃ恋はできない。
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──ドォーン!
その耳を塞ぎたくなるような大きな音に私は夜空を見上げた。花開いた後にパラパラと残骸が地上に落ち、また新たに大輪の花火が夜空を舞う。
去年も彼とこの花火を見たんだ。その時は茉莉花とのデートに割り込んできた形だったけど、今年は違う。ふたりっきりのデートだったんだ。…なのに初っ端から邪魔が入って全然祭りを満喫できていない。
2人で花火が見たかったな…
私は土留めに座って花火を一人で鑑賞していた。
先程まで沢山の人でにぎやかだった夏祭り会場だが。花火が打ち上がるということで穴場へ移動してだいぶ人が減った。
一人ぼっち取り残された感半端なくて寂しくなってきた……
「見つけた」
パッと顔を声のする方へ向けると、嗣臣さんが息を大きく吐き出していた。肩で息をするほどじゃないけど、走って探してくれていたみたいだ。
「…すいません、迷子を詰め所に連れて行った後に連絡しようとしたら通信障害で連絡できなくて…元の場所に戻って探そうにも見つからないしで…」
極めつけに鼻緒で足の股が擦れて痛くなったので休憩してましたと私が弁解すると、嗣臣さんは眉を八の字にして苦笑いしていた。
「屋台のおじさんに迷子を連れてった女の子がいたって聞いたから俺も追いかけたんだけどね。すれ違いになってたみたいだね…無事で良かった」
そう言って彼は私の隣に腰掛けた。
「さっきの人たち中学の同級生だったんだ。今日はあげはちゃんとのデートだって言うのに、1人にしてごめんね」
「いえ、離れた私がそもそも悪いので」
人混みがとにかくすごくて流れに逆らえなかったんだ。あのまま手をつないでいたらこうしてはぐれることもなかったはずなのに。
夜とはいえ、真夏の暑い中、嗣臣さんに余計な運動をさせてしまった。申し訳ない。
ドーン、ドーンと花火が順調に打ち上がる。私はその音に引き寄せられて空を見上げた。夜空を彩る赤、紫、黄、橙、黄緑の花がとても綺麗だ。
「綺麗だね」
「そうですね、あ、ア○パンマンだ」
子供向けの花火だろうか。夜空にパンヒーローの顔が打ち上がった。それを見た嗣臣さんが笑う声が聞こえる。
「俺はあげはちゃんのこと言ってるんだけどなぁ」
膝の上に置いていた左手をギュッと握られた。
私が顔を横に向けると、嗣臣さんの黒曜石の瞳が私を映していた。
──ドン、ドン、ドォーン!!
花火が連続で打ち上がる音。その火花で私達の顔が照らされる。
また、嗣臣さんは気障なこと言って……
そう思ったけど、突っ込めなかった。
嗣臣さんの顔が近づいてきて私の唇を塞いだからだ。柔らかくて温かい彼の唇がフニャッと私の唇に重なった。私の唇の感触を楽しむかのように何度か角度を変えられる。
「ん…駄目、」
私は彼の肩を押し返して拒否した。
すると嗣臣さんは私の顔の横に顔を埋めて、「…嫌?」と囁いてきた。その声は懇願するように、甘えるような声音だった。
ブワッと体中の血液が温度上昇したみたいだ。なんて声を出すんだ…! 耳がピリピリと甘く痺れる。それを知ってか知らずか嗣臣さんが耳にキスを落として、耳殻を唇で食んでくる。
くすぐったくて、変な感じがする。変な声が漏れ出そうなのを堪えると、声を絞り出した。
「ひ、人がいます、人に見られてしまいます」
いつもならもっとキレのある言い方ができるのに、弱々しくなってしまった。どうやら彼の色気に酔わされてしまったみたいである。
私の拒否の理由を聞いた嗣臣さんは私からそっと離れると、私の腕を支えるようにして立ち上がった。
そしてそのまま、お祭り会場内の人のいない事務所っぽい建物の裏に連れ込まれる。
何事だ? なんでこんな人気のない薄暗い場所に……そもそも入っていいのかここ。
不思議に思って彼を見上げると、嗣臣さんはそっと私の頬に手を添えた。それが合図だと思った私はそっと目を閉じる。
「…キスしてもいいかな?」
…なぜ今聞くの。さっき勝手にキスしてきたのに。ムッとした私は閉じていた目を開いて彼をジト目で睨んだ。
キスされると思って目を閉じたのに何なんだ。
「ねぇあげはちゃん」
なんか私から言わせようとしているみたいで…癪である。私は目をそらして沈黙した。
焦らしなんて嗣臣さんらしくない。いつもグイグイ行くくせに。
「何も言わないならキスしちゃうよ?」
その言葉の後、宣言どおりに唇を奪われた。先程の軽いキスとは違う、奪うようなキスだ。肉厚な彼の舌が私の口の中に侵入すると、私の舌を捕獲した。
嗣臣さんは私の後頭部を支えるようにして、食いついてきた。お腹が空いたと言わんばかりに、私を欲している。
「んん…!」
時折音を立てて吸われるとすごく恥ずかしくなるのだが、それがすごく気持ちよくて、心地いい。彼から与えられるそれに抗えなかった。
私は彼のシャツの袖を握り込んだ。ただひたすら彼からのキスを受け入れるしか出来ない。
こんな外で私は一体何をしているんだ。人が来るかもしれないのに。なのに私は彼の背中に腕を回していた。
もっとキスをしてほしかったのだ。
私は頭がオカシイのかもしれない。彼のせいだ。彼に恋してしまった私は頭がおかしくなってしまったのだきっと。
ゆっくりと離された唇。唇がビリビリ痺れている。唾液で濡れた唇を舌でなぞるように舐められ、私はビクリと体を揺らした。
酸欠なのか、キスの余韻なのかどちらかは不明だが、私は口を半開きにしてポヤンと彼を見上げてきた。視線の先は彼の唇だ。
もっとキスがしたい。もうおしまいなのだろうかと物足りない気分になっていたのだ。
「このまま連れて帰りたいな」
ボソリと囁かれた言葉。
私の目を覗き込んだ嗣臣さんはニッコリ微笑んでいった。
「俺、間違いなく狼さんになっちゃうけど、ウチくる?」
いつもと同じ笑顔のはずなのに、その目はまさしく獣のそれだ。その目に狙われた私はぎくりとした。
狼さんに、なっちゃう?
ウチ、くる…?
嗣臣さんの手が私の首もとを撫でる。その撫で方がなんだかいやらしくて、私は我に返って恥ずかしくなってしまった。
「私は家に帰ります!」
私は右腕を大きく振りかぶると、ペチーンと音を立てて彼の頬を張った。
そんな! そんなはしたない! 付き合ってもいない男の人とそんな……
私は淑女だぞ! 惚れた弱みで身体をホイホイ捧げるような女じゃない、物事には順序があるでしょうが! キスとは訳が違うでしょうが!
不純な男女交遊は駄目なんだぞ! 夏ははっちゃける男女が多いからくれぐれも自分を律するようにってシスターも言っていた!
浴衣の裾が乱れるのもなんのその、私はズカズカと出ていく。
嗣臣さんなんかもう知らん!
「待ってよあげはちゃん」
慌てて追いかけてくる嗣臣さん。私は口を利いてやらなかった。
「ごめんね、つい。からかったんじゃないよ?」
そういう問題じゃないわ。
嗣臣さんは男だからわかんないだろうけど、女側には色々あるんだ。そんな急になし崩し的な関係を結ぶのは嫌だ!
「あげはちゃんが綺麗で可愛すぎるのがいけないんだよ?」
また気障なこと言ってるし。
そんなこと言って私が機嫌を直すと思えば大違いだ。私がキッと彼を睨むと、嗣臣さんはデレデレした顔で笑っていた。薄暗くて見えないけど、その頬はおそらく赤く腫れているはずなのに彼は笑っていた。
このままだとドM疑惑が本当になってしまうぞ。
嗣臣さんは私の手を掴むとまた恋人繋ぎしてきた。私は終始無言で帰宅していたが、その手をほどかなかった。
怒っていることには変わりはないけど、手を振りほどくという選択肢が私の中にはなかったからだ。
やっぱり私は恋をして頭がおかしくなったんだ、そうに違いない。
その耳を塞ぎたくなるような大きな音に私は夜空を見上げた。花開いた後にパラパラと残骸が地上に落ち、また新たに大輪の花火が夜空を舞う。
去年も彼とこの花火を見たんだ。その時は茉莉花とのデートに割り込んできた形だったけど、今年は違う。ふたりっきりのデートだったんだ。…なのに初っ端から邪魔が入って全然祭りを満喫できていない。
2人で花火が見たかったな…
私は土留めに座って花火を一人で鑑賞していた。
先程まで沢山の人でにぎやかだった夏祭り会場だが。花火が打ち上がるということで穴場へ移動してだいぶ人が減った。
一人ぼっち取り残された感半端なくて寂しくなってきた……
「見つけた」
パッと顔を声のする方へ向けると、嗣臣さんが息を大きく吐き出していた。肩で息をするほどじゃないけど、走って探してくれていたみたいだ。
「…すいません、迷子を詰め所に連れて行った後に連絡しようとしたら通信障害で連絡できなくて…元の場所に戻って探そうにも見つからないしで…」
極めつけに鼻緒で足の股が擦れて痛くなったので休憩してましたと私が弁解すると、嗣臣さんは眉を八の字にして苦笑いしていた。
「屋台のおじさんに迷子を連れてった女の子がいたって聞いたから俺も追いかけたんだけどね。すれ違いになってたみたいだね…無事で良かった」
そう言って彼は私の隣に腰掛けた。
「さっきの人たち中学の同級生だったんだ。今日はあげはちゃんとのデートだって言うのに、1人にしてごめんね」
「いえ、離れた私がそもそも悪いので」
人混みがとにかくすごくて流れに逆らえなかったんだ。あのまま手をつないでいたらこうしてはぐれることもなかったはずなのに。
夜とはいえ、真夏の暑い中、嗣臣さんに余計な運動をさせてしまった。申し訳ない。
ドーン、ドーンと花火が順調に打ち上がる。私はその音に引き寄せられて空を見上げた。夜空を彩る赤、紫、黄、橙、黄緑の花がとても綺麗だ。
「綺麗だね」
「そうですね、あ、ア○パンマンだ」
子供向けの花火だろうか。夜空にパンヒーローの顔が打ち上がった。それを見た嗣臣さんが笑う声が聞こえる。
「俺はあげはちゃんのこと言ってるんだけどなぁ」
膝の上に置いていた左手をギュッと握られた。
私が顔を横に向けると、嗣臣さんの黒曜石の瞳が私を映していた。
──ドン、ドン、ドォーン!!
花火が連続で打ち上がる音。その火花で私達の顔が照らされる。
また、嗣臣さんは気障なこと言って……
そう思ったけど、突っ込めなかった。
嗣臣さんの顔が近づいてきて私の唇を塞いだからだ。柔らかくて温かい彼の唇がフニャッと私の唇に重なった。私の唇の感触を楽しむかのように何度か角度を変えられる。
「ん…駄目、」
私は彼の肩を押し返して拒否した。
すると嗣臣さんは私の顔の横に顔を埋めて、「…嫌?」と囁いてきた。その声は懇願するように、甘えるような声音だった。
ブワッと体中の血液が温度上昇したみたいだ。なんて声を出すんだ…! 耳がピリピリと甘く痺れる。それを知ってか知らずか嗣臣さんが耳にキスを落として、耳殻を唇で食んでくる。
くすぐったくて、変な感じがする。変な声が漏れ出そうなのを堪えると、声を絞り出した。
「ひ、人がいます、人に見られてしまいます」
いつもならもっとキレのある言い方ができるのに、弱々しくなってしまった。どうやら彼の色気に酔わされてしまったみたいである。
私の拒否の理由を聞いた嗣臣さんは私からそっと離れると、私の腕を支えるようにして立ち上がった。
そしてそのまま、お祭り会場内の人のいない事務所っぽい建物の裏に連れ込まれる。
何事だ? なんでこんな人気のない薄暗い場所に……そもそも入っていいのかここ。
不思議に思って彼を見上げると、嗣臣さんはそっと私の頬に手を添えた。それが合図だと思った私はそっと目を閉じる。
「…キスしてもいいかな?」
…なぜ今聞くの。さっき勝手にキスしてきたのに。ムッとした私は閉じていた目を開いて彼をジト目で睨んだ。
キスされると思って目を閉じたのに何なんだ。
「ねぇあげはちゃん」
なんか私から言わせようとしているみたいで…癪である。私は目をそらして沈黙した。
焦らしなんて嗣臣さんらしくない。いつもグイグイ行くくせに。
「何も言わないならキスしちゃうよ?」
その言葉の後、宣言どおりに唇を奪われた。先程の軽いキスとは違う、奪うようなキスだ。肉厚な彼の舌が私の口の中に侵入すると、私の舌を捕獲した。
嗣臣さんは私の後頭部を支えるようにして、食いついてきた。お腹が空いたと言わんばかりに、私を欲している。
「んん…!」
時折音を立てて吸われるとすごく恥ずかしくなるのだが、それがすごく気持ちよくて、心地いい。彼から与えられるそれに抗えなかった。
私は彼のシャツの袖を握り込んだ。ただひたすら彼からのキスを受け入れるしか出来ない。
こんな外で私は一体何をしているんだ。人が来るかもしれないのに。なのに私は彼の背中に腕を回していた。
もっとキスをしてほしかったのだ。
私は頭がオカシイのかもしれない。彼のせいだ。彼に恋してしまった私は頭がおかしくなってしまったのだきっと。
ゆっくりと離された唇。唇がビリビリ痺れている。唾液で濡れた唇を舌でなぞるように舐められ、私はビクリと体を揺らした。
酸欠なのか、キスの余韻なのかどちらかは不明だが、私は口を半開きにしてポヤンと彼を見上げてきた。視線の先は彼の唇だ。
もっとキスがしたい。もうおしまいなのだろうかと物足りない気分になっていたのだ。
「このまま連れて帰りたいな」
ボソリと囁かれた言葉。
私の目を覗き込んだ嗣臣さんはニッコリ微笑んでいった。
「俺、間違いなく狼さんになっちゃうけど、ウチくる?」
いつもと同じ笑顔のはずなのに、その目はまさしく獣のそれだ。その目に狙われた私はぎくりとした。
狼さんに、なっちゃう?
ウチ、くる…?
嗣臣さんの手が私の首もとを撫でる。その撫で方がなんだかいやらしくて、私は我に返って恥ずかしくなってしまった。
「私は家に帰ります!」
私は右腕を大きく振りかぶると、ペチーンと音を立てて彼の頬を張った。
そんな! そんなはしたない! 付き合ってもいない男の人とそんな……
私は淑女だぞ! 惚れた弱みで身体をホイホイ捧げるような女じゃない、物事には順序があるでしょうが! キスとは訳が違うでしょうが!
不純な男女交遊は駄目なんだぞ! 夏ははっちゃける男女が多いからくれぐれも自分を律するようにってシスターも言っていた!
浴衣の裾が乱れるのもなんのその、私はズカズカと出ていく。
嗣臣さんなんかもう知らん!
「待ってよあげはちゃん」
慌てて追いかけてくる嗣臣さん。私は口を利いてやらなかった。
「ごめんね、つい。からかったんじゃないよ?」
そういう問題じゃないわ。
嗣臣さんは男だからわかんないだろうけど、女側には色々あるんだ。そんな急になし崩し的な関係を結ぶのは嫌だ!
「あげはちゃんが綺麗で可愛すぎるのがいけないんだよ?」
また気障なこと言ってるし。
そんなこと言って私が機嫌を直すと思えば大違いだ。私がキッと彼を睨むと、嗣臣さんはデレデレした顔で笑っていた。薄暗くて見えないけど、その頬はおそらく赤く腫れているはずなのに彼は笑っていた。
このままだとドM疑惑が本当になってしまうぞ。
嗣臣さんは私の手を掴むとまた恋人繋ぎしてきた。私は終始無言で帰宅していたが、その手をほどかなかった。
怒っていることには変わりはないけど、手を振りほどくという選択肢が私の中にはなかったからだ。
やっぱり私は恋をして頭がおかしくなったんだ、そうに違いない。
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