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清く正しく美しく! 三森あげはを夜露死苦!
義妹と濃桃色のミサイル。
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「三森あげは! 今日こそはどっちがこの街の姫か決着をつけるわよ!」
「志津子……懲りずにまた来たの?」
「その名前で呼ばないでったら!」
少々頭が弱い電波ヒロインが不良男を引き連れて電車の高架下で待ち伏せしていた。学校帰りの私は彼女の姿を見てげんなりしてしまう。
志津子は相変わらず夢を見ているようである。
男の腕にぶら下がっていた志津子は本名を呼ばれた瞬間くわっと鬼の形相に変わっていたが、すぐさま女優の仮面を被って、男に甘い声でお願いをしていた。
「ねぇ、この女やっつけてよぉ」
「…お前が言っていたのとは随分違うな」
志津子のニュー彼氏は私をジロジロ観察して、にやりといやらしく笑った。
坊主頭に模様を作ってカットされたその頭、シャツからはみ出るタトゥー、ジャラジャラこさえたアクセサリー。どっからどう見ても素行不良な人である。…この人裏街道の人じゃないよね?
「ふぅん…俺の好みだ」
「はぁぁ!? ちょっ煌梨の前でよくもそんな事! ありえないんだけど!!」
なにやら二人の間で意見が割れたみたいだ。
志津子は男を使って私をしばこうとしたんだろうけど、男はその気がないらしく、私に近づいてこう言った。
「お前、俺の女になれよ」
「…ならない」
「ちょっと! 煌梨を無視しないでったらぁ!」
真顔で拒否した私は悪くない。志津子の大好きなWeb小説みたいなセリフを言われたが、私はあまり嬉しくない。
後ろで志津子が発狂しているけど、私は何も悪くないぞ。
男の耳は難聴が入っているのか、私を壁際に追い詰めようとしてきた。身の危険を感じた私はすかさず懐に入り、相手の腹めがけて拳を打ち込んだ。
「ぐぉっ…!」
「それは志津子にやってあげてください。それでは」
長居は無用である。男がお腹を抱えて崩れ落ちたのを確認すると、私は足早に現場から立ち去ろうと動く。
高架下のトンネルをくぐって駅に向かおうと歩を進めると、私の目の前に濃桃色の服を着た少女が突っ立っていた。
…この暑い時期なのにそれを着ている少女を私は一人しか知らない。
「…桜桃さん」
「やっぱり新生サンダース総長はあげはしかいねぇ!!」
彼女はキラキラと尊敬の眼差しで私を見てきた。
「ならないよ?」
中3で受験生である桜桃さん。私と同じ高校への入学を目指して受験勉強を頑張っている彼女。
少しは不良への憧れが薄れてきたかな? と思っていたが、そんなことはなかった。頬を真っ赤に染めてカッケーカッケーと私を褒め称える彼女は未だに不良への幻想を捨てきれていないようである。
■□■
「嗣の兄貴から出された宿題の提出に来た! 添削してもらうんだ!」
そうか、今日は嗣臣さんの家庭教師の日か。また家で勉強会開くのか。うちの親も何も言わないから別にいいけど、ふたりともここまで通うのが大変じゃないのか?
桜桃さんは当初の勢いそのままに頑張っていた。
これまでの成績は決して褒められる点数じゃなかったが、先日行われた期末テストでは順位が上がったそうだ。
「テストの点数上がったんだ!」
そう言って成績表を見せびらかす桜桃さん。
平均点に及ばない点数だが、それでも前回に比べたら上昇していた。
「先公に褒められたぞ!」
「この調子で頑張ろうね」
私の応援に桜桃さんはニカッと嬉しそうに笑った。
この子も変な方向に突っ走っているけど、どこか憎めないんだよなぁ。変わり者度合いではさっきの志津子と変わんないけど……可愛げでいえば桜桃さんのほうが素直で可愛いと思う。
行く方向はおなじだ。桜桃さんと肩を並べて家に向かって歩いていると、自分の自宅前に人影があるのが見えた。
誰だ? 舎弟希望の誰かが掃除でもしているのか…、それにしては小柄だ…兄の彼女志望の誰かかな。
近づいてやっと違うと気づいた。
彼女は私の隣にいる桜桃さんと同じ制服を着ていた。中学校の制服。だけど校章が微妙に違うので違う中学校のようだ。
「……嗣臣さんの義妹さんだよね? …うちに何か用?」
嗣臣さんの義妹である紬ちゃんだ。
彼女は私の姿を確認すると、こちらをキッと睨みつけてきた。どうやら友好的にとは行かないようである。
「この間パパと嗣くん、喧嘩したんでしょ? …ママに聞いたわ」
「うーん…喧嘩っていうかなんだろう…」
あの駄目親父が変な言いがかりを付けていたと言うか…女の前だから格好つけていたのかな?
「あんたがいたからでしょ。…あんたがいるから嗣くんは帰ってこないのよ」
「そういうわけじゃないと思うなぁ」
嗣臣さんの事情知らないのかな、この子。
あの駄目親父に都合のいいことしか聞かされてないのだろうか。
「あんたみたいな暴力女の側にいるから嗣くんまでおかしくなったんじゃない! お願いだから別れてよ!」
喧嘩の原因が私と思い込んでいるなこの子。いや、あの両親から変なとこだけ抜粋して私が元凶みたいに聞かされているのかな。
私と嗣臣さんはお付き合いしていないよ、と言おうと口を開くと、その前に隣にいた桜桃さんが口を挟んできた。
「おいお前、あげはのことバカにすんな! すげぇ強いんだぞ、かっこいいんだぞ! 嗣の兄貴はそんなあげはのことが大好きなんだ!」
フンッと鼻を鳴らす桜桃さんは堂々としていた。
庇ってくれるのは嬉しいが、私の良いところって強いところなの…? 他には? 他にはないの?
「何がかっこいいよ…ただの不良じゃない! ダサいだけじゃん! 知っているのよ、この女のお兄さんも不良なんでしょ、不良なんかが嗣くんのそばにいるからおかしくなるの!」
紬ちゃんからしてみたら不良は恐ろしいもの、爪弾きものに感じるのだろう。だけど私は不良じゃない。そこは否定させて欲しい。
しかし桜桃さんは別の部分が気になったらしく、眉間にシワを寄せて怪訝な顔をしていた。
「……? 嗣の兄貴もその一員だったんだぞ? 知らねーの? 策略の嗣臣って呼ばれて、今も一部のヤンキーたちに恐れられてるんだ」
「…は?」
「あげはが巷で有名になるよりも先に、嗣の兄貴は非行してたぜ? 親が揃って不倫してたからそれに反抗したくてって言ってたな」
あ、嗣臣さんてば桜桃さんに不良になったときの理由話したんだ。桜桃さんのことだ、不良に夢見すぎていろんな質問をしたんだろう。そんなこと聞いて彼女はどうするんだろうな。
紬ちゃんは桜桃さんの口から出てくる嗣臣さんの過去を聞いて口をあんぐりさせていた。
知らなかったんだろうね。
あの駄目親父は息子の非行の事実を知っているのかな、まぁ知っていたとしても見て見ぬ振りで放置してそうだけど……
「紬ちゃん」
後ろでキィ、と門扉がきしむ音がして振り返ると、そこには苦笑いしている嗣臣さんの姿があった。紬ちゃんはギギギとぎこちない動きで嗣臣さんを見上げている。
「……紬ちゃん、俺のことをなんと言ってもいいけど、あげはちゃんや琥虎のことを悪く言うのは許さないよ?」
窘めるような言葉に紬ちゃんはじわじわと瞳に涙を浮かべていた。
「なんでよ嗣くん、」
「…紬ちゃん、俺は親と仲良くないし、仲良くしたいと思っていないんだよ。それは俺の中の問題で、あげはちゃん達は全く関係ないことなんだよ」
仲良くしてほしいという紬ちゃんの願いはわかるけど、無理なもんは無理なんだ。と諭すように嗣臣さんはつぶやく。
それが決定打となり、紬ちゃんは顔をクシャッと歪ませて泣きじゃくり始めた。
「どうして、紬のこと、嫌いなの?」
「そういうわけじゃないけど……ごめんね」
彼は中学生の女の子を泣かせて申し訳無さそうにしていた。嗣臣さんもいきなり新しい妹や母親が出来て、それを飲み込めと言われて複雑な心境なのだろう。
嗣臣さんは駅まで紬ちゃんを送ってくると言って一旦外に出ていったが、15分くらいして戻ってきた。その後は至って普通の嗣臣さんで、紬ちゃんと他にどんな話をしたのかなにも語らなかった。
ただ、大学の前期試験が終わったらバイトを始めると言っていたので、彼は彼なりに色々と考えているのかもしれない。
「志津子……懲りずにまた来たの?」
「その名前で呼ばないでったら!」
少々頭が弱い電波ヒロインが不良男を引き連れて電車の高架下で待ち伏せしていた。学校帰りの私は彼女の姿を見てげんなりしてしまう。
志津子は相変わらず夢を見ているようである。
男の腕にぶら下がっていた志津子は本名を呼ばれた瞬間くわっと鬼の形相に変わっていたが、すぐさま女優の仮面を被って、男に甘い声でお願いをしていた。
「ねぇ、この女やっつけてよぉ」
「…お前が言っていたのとは随分違うな」
志津子のニュー彼氏は私をジロジロ観察して、にやりといやらしく笑った。
坊主頭に模様を作ってカットされたその頭、シャツからはみ出るタトゥー、ジャラジャラこさえたアクセサリー。どっからどう見ても素行不良な人である。…この人裏街道の人じゃないよね?
「ふぅん…俺の好みだ」
「はぁぁ!? ちょっ煌梨の前でよくもそんな事! ありえないんだけど!!」
なにやら二人の間で意見が割れたみたいだ。
志津子は男を使って私をしばこうとしたんだろうけど、男はその気がないらしく、私に近づいてこう言った。
「お前、俺の女になれよ」
「…ならない」
「ちょっと! 煌梨を無視しないでったらぁ!」
真顔で拒否した私は悪くない。志津子の大好きなWeb小説みたいなセリフを言われたが、私はあまり嬉しくない。
後ろで志津子が発狂しているけど、私は何も悪くないぞ。
男の耳は難聴が入っているのか、私を壁際に追い詰めようとしてきた。身の危険を感じた私はすかさず懐に入り、相手の腹めがけて拳を打ち込んだ。
「ぐぉっ…!」
「それは志津子にやってあげてください。それでは」
長居は無用である。男がお腹を抱えて崩れ落ちたのを確認すると、私は足早に現場から立ち去ろうと動く。
高架下のトンネルをくぐって駅に向かおうと歩を進めると、私の目の前に濃桃色の服を着た少女が突っ立っていた。
…この暑い時期なのにそれを着ている少女を私は一人しか知らない。
「…桜桃さん」
「やっぱり新生サンダース総長はあげはしかいねぇ!!」
彼女はキラキラと尊敬の眼差しで私を見てきた。
「ならないよ?」
中3で受験生である桜桃さん。私と同じ高校への入学を目指して受験勉強を頑張っている彼女。
少しは不良への憧れが薄れてきたかな? と思っていたが、そんなことはなかった。頬を真っ赤に染めてカッケーカッケーと私を褒め称える彼女は未だに不良への幻想を捨てきれていないようである。
■□■
「嗣の兄貴から出された宿題の提出に来た! 添削してもらうんだ!」
そうか、今日は嗣臣さんの家庭教師の日か。また家で勉強会開くのか。うちの親も何も言わないから別にいいけど、ふたりともここまで通うのが大変じゃないのか?
桜桃さんは当初の勢いそのままに頑張っていた。
これまでの成績は決して褒められる点数じゃなかったが、先日行われた期末テストでは順位が上がったそうだ。
「テストの点数上がったんだ!」
そう言って成績表を見せびらかす桜桃さん。
平均点に及ばない点数だが、それでも前回に比べたら上昇していた。
「先公に褒められたぞ!」
「この調子で頑張ろうね」
私の応援に桜桃さんはニカッと嬉しそうに笑った。
この子も変な方向に突っ走っているけど、どこか憎めないんだよなぁ。変わり者度合いではさっきの志津子と変わんないけど……可愛げでいえば桜桃さんのほうが素直で可愛いと思う。
行く方向はおなじだ。桜桃さんと肩を並べて家に向かって歩いていると、自分の自宅前に人影があるのが見えた。
誰だ? 舎弟希望の誰かが掃除でもしているのか…、それにしては小柄だ…兄の彼女志望の誰かかな。
近づいてやっと違うと気づいた。
彼女は私の隣にいる桜桃さんと同じ制服を着ていた。中学校の制服。だけど校章が微妙に違うので違う中学校のようだ。
「……嗣臣さんの義妹さんだよね? …うちに何か用?」
嗣臣さんの義妹である紬ちゃんだ。
彼女は私の姿を確認すると、こちらをキッと睨みつけてきた。どうやら友好的にとは行かないようである。
「この間パパと嗣くん、喧嘩したんでしょ? …ママに聞いたわ」
「うーん…喧嘩っていうかなんだろう…」
あの駄目親父が変な言いがかりを付けていたと言うか…女の前だから格好つけていたのかな?
「あんたがいたからでしょ。…あんたがいるから嗣くんは帰ってこないのよ」
「そういうわけじゃないと思うなぁ」
嗣臣さんの事情知らないのかな、この子。
あの駄目親父に都合のいいことしか聞かされてないのだろうか。
「あんたみたいな暴力女の側にいるから嗣くんまでおかしくなったんじゃない! お願いだから別れてよ!」
喧嘩の原因が私と思い込んでいるなこの子。いや、あの両親から変なとこだけ抜粋して私が元凶みたいに聞かされているのかな。
私と嗣臣さんはお付き合いしていないよ、と言おうと口を開くと、その前に隣にいた桜桃さんが口を挟んできた。
「おいお前、あげはのことバカにすんな! すげぇ強いんだぞ、かっこいいんだぞ! 嗣の兄貴はそんなあげはのことが大好きなんだ!」
フンッと鼻を鳴らす桜桃さんは堂々としていた。
庇ってくれるのは嬉しいが、私の良いところって強いところなの…? 他には? 他にはないの?
「何がかっこいいよ…ただの不良じゃない! ダサいだけじゃん! 知っているのよ、この女のお兄さんも不良なんでしょ、不良なんかが嗣くんのそばにいるからおかしくなるの!」
紬ちゃんからしてみたら不良は恐ろしいもの、爪弾きものに感じるのだろう。だけど私は不良じゃない。そこは否定させて欲しい。
しかし桜桃さんは別の部分が気になったらしく、眉間にシワを寄せて怪訝な顔をしていた。
「……? 嗣の兄貴もその一員だったんだぞ? 知らねーの? 策略の嗣臣って呼ばれて、今も一部のヤンキーたちに恐れられてるんだ」
「…は?」
「あげはが巷で有名になるよりも先に、嗣の兄貴は非行してたぜ? 親が揃って不倫してたからそれに反抗したくてって言ってたな」
あ、嗣臣さんてば桜桃さんに不良になったときの理由話したんだ。桜桃さんのことだ、不良に夢見すぎていろんな質問をしたんだろう。そんなこと聞いて彼女はどうするんだろうな。
紬ちゃんは桜桃さんの口から出てくる嗣臣さんの過去を聞いて口をあんぐりさせていた。
知らなかったんだろうね。
あの駄目親父は息子の非行の事実を知っているのかな、まぁ知っていたとしても見て見ぬ振りで放置してそうだけど……
「紬ちゃん」
後ろでキィ、と門扉がきしむ音がして振り返ると、そこには苦笑いしている嗣臣さんの姿があった。紬ちゃんはギギギとぎこちない動きで嗣臣さんを見上げている。
「……紬ちゃん、俺のことをなんと言ってもいいけど、あげはちゃんや琥虎のことを悪く言うのは許さないよ?」
窘めるような言葉に紬ちゃんはじわじわと瞳に涙を浮かべていた。
「なんでよ嗣くん、」
「…紬ちゃん、俺は親と仲良くないし、仲良くしたいと思っていないんだよ。それは俺の中の問題で、あげはちゃん達は全く関係ないことなんだよ」
仲良くしてほしいという紬ちゃんの願いはわかるけど、無理なもんは無理なんだ。と諭すように嗣臣さんはつぶやく。
それが決定打となり、紬ちゃんは顔をクシャッと歪ませて泣きじゃくり始めた。
「どうして、紬のこと、嫌いなの?」
「そういうわけじゃないけど……ごめんね」
彼は中学生の女の子を泣かせて申し訳無さそうにしていた。嗣臣さんもいきなり新しい妹や母親が出来て、それを飲み込めと言われて複雑な心境なのだろう。
嗣臣さんは駅まで紬ちゃんを送ってくると言って一旦外に出ていったが、15分くらいして戻ってきた。その後は至って普通の嗣臣さんで、紬ちゃんと他にどんな話をしたのかなにも語らなかった。
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