48 / 75
紅蓮のアゲハの娘は恋を知らない
手作りプリンと火傷
しおりを挟む
彼の目の前には、すが立ったいびつなプリンが鎮座していた。
本来であれば、舌触りなめらかであるはずのプリンはボコボコしていて、お世辞にも美味しそうには見えない。
だけど3回位作り直してようやく形になった渾身のプリンなのだ。
そのプリンを彼は物珍しそうにまじまじ見つめていた。スマホを取り出して撮影しようとしていたので、それは阻止する。
「…ご卒業と本命大学合格おめでとうございます、嗣臣さん」
「ありがとう、あげはちゃん」
あっさり本命の国立大学に合格した嗣臣さんから合格報告を受けたので、私は前もって準備したプリンを出したのだが、そんなふうにまじまじ見られるとすごい恐縮する。
「はい、あーん」
「む」
嗣臣さんがスプーンを手にとったので、プリンを食べるのかなと思ったのだが、何を思ったか私の口に突っ込んできた。
私は仕方なくムグムグと口を動かす。
…舌触り最悪だ。硬いな何だこれ…
「うん、素朴な味がする」
「…褒めてないですよね?」
ひとくち食べた嗣臣さんの感想はごもっともである。自分でも美味しくないなと思っているので、否定はできないが。
そんなに美味しくない、素材の味のプリン(仮)だが、嗣臣さんは残さず全て平らげた。美味なものを食べたかのように表情を和らげていた。
彼がお腹を壊さなければいいのだが……
「…それ、火傷したの? 不器用だねあげはちゃん」
「うるさいですよ」
テーブルの上に載せていた私の手を見た嗣臣さんから少し赤くなっている部分を指摘された。
プリン液の入った容器の入った鍋にお湯を注ぐ時にちょっとじゅっとやっただけだよ。目敏いな全く。
患部を隠すように手を重ねて隠すと、それを止めるかのように嗣臣さんに持ち上げられた。
「俺のためにプリン作ってくれてありがとうね」
「…っ」
サスサスと指の腹で患部を撫で擦る嗣臣さんの指。軽い火傷の痕がピリッとしびれる。
なんか落ち着かない。
以前から嗣臣さんはスキンシップ過多だったけど、なんか落ち着かない……
「火傷用の軟膏とか塗った? 綺麗な手なんだから傷跡残しちゃダメだよ」
「この程度なら塗らなくても大丈夫ですよ」
皮膚がただれているわけじゃないのに大げさな……
私がそういうと、何を思ったのか彼は私の手をくいっと軽く引っ張ってきた。
チュッと音を立てて口づけされた手。
「じゃあこれ消毒ね」
「…やることが気障ですよ、嗣臣さん」
「えぇ? そうかなぁ」
たまにやることが気障ったらしくなるよね嗣臣さん。外見が整っているから絵になるけど……
「ねぇあげはちゃん、俺もっと別のお祝いが欲しいんだけどな」
あぁ、またあの目だ。
この目をした嗣臣さんはいつもと違う雰囲気を醸し出す。
私はそれが怖い。
全部奪われてしまいそうで、自分が変わってしまいそうで怖くなるんだ。
「ダメですよ。セクハラ反対!」
私は彼の手を振りほどくと、空になった器を持って立ち上がった。
「あげはちゃん」
名を呼ばれて振り返ると、頬杖をついた嗣臣さんが目を細めて笑っていた。その目はまるでいたずら小僧のようである。
「好きだよ、あげはちゃん」
「!? なっ何言ってるんですか!? そんな事言ってもダメです! はしたない!!」
急激に全身発熱した私は慌てて部屋の外に飛び出した。
部屋の中で忍び笑いをしている気配がしたが、それをツッコむ余裕もなく。
なんか、最近からかわれている気がするんだけど。
……こんなんじゃ、私が手のひらで転がされているみたいではないか……
本来であれば、舌触りなめらかであるはずのプリンはボコボコしていて、お世辞にも美味しそうには見えない。
だけど3回位作り直してようやく形になった渾身のプリンなのだ。
そのプリンを彼は物珍しそうにまじまじ見つめていた。スマホを取り出して撮影しようとしていたので、それは阻止する。
「…ご卒業と本命大学合格おめでとうございます、嗣臣さん」
「ありがとう、あげはちゃん」
あっさり本命の国立大学に合格した嗣臣さんから合格報告を受けたので、私は前もって準備したプリンを出したのだが、そんなふうにまじまじ見られるとすごい恐縮する。
「はい、あーん」
「む」
嗣臣さんがスプーンを手にとったので、プリンを食べるのかなと思ったのだが、何を思ったか私の口に突っ込んできた。
私は仕方なくムグムグと口を動かす。
…舌触り最悪だ。硬いな何だこれ…
「うん、素朴な味がする」
「…褒めてないですよね?」
ひとくち食べた嗣臣さんの感想はごもっともである。自分でも美味しくないなと思っているので、否定はできないが。
そんなに美味しくない、素材の味のプリン(仮)だが、嗣臣さんは残さず全て平らげた。美味なものを食べたかのように表情を和らげていた。
彼がお腹を壊さなければいいのだが……
「…それ、火傷したの? 不器用だねあげはちゃん」
「うるさいですよ」
テーブルの上に載せていた私の手を見た嗣臣さんから少し赤くなっている部分を指摘された。
プリン液の入った容器の入った鍋にお湯を注ぐ時にちょっとじゅっとやっただけだよ。目敏いな全く。
患部を隠すように手を重ねて隠すと、それを止めるかのように嗣臣さんに持ち上げられた。
「俺のためにプリン作ってくれてありがとうね」
「…っ」
サスサスと指の腹で患部を撫で擦る嗣臣さんの指。軽い火傷の痕がピリッとしびれる。
なんか落ち着かない。
以前から嗣臣さんはスキンシップ過多だったけど、なんか落ち着かない……
「火傷用の軟膏とか塗った? 綺麗な手なんだから傷跡残しちゃダメだよ」
「この程度なら塗らなくても大丈夫ですよ」
皮膚がただれているわけじゃないのに大げさな……
私がそういうと、何を思ったのか彼は私の手をくいっと軽く引っ張ってきた。
チュッと音を立てて口づけされた手。
「じゃあこれ消毒ね」
「…やることが気障ですよ、嗣臣さん」
「えぇ? そうかなぁ」
たまにやることが気障ったらしくなるよね嗣臣さん。外見が整っているから絵になるけど……
「ねぇあげはちゃん、俺もっと別のお祝いが欲しいんだけどな」
あぁ、またあの目だ。
この目をした嗣臣さんはいつもと違う雰囲気を醸し出す。
私はそれが怖い。
全部奪われてしまいそうで、自分が変わってしまいそうで怖くなるんだ。
「ダメですよ。セクハラ反対!」
私は彼の手を振りほどくと、空になった器を持って立ち上がった。
「あげはちゃん」
名を呼ばれて振り返ると、頬杖をついた嗣臣さんが目を細めて笑っていた。その目はまるでいたずら小僧のようである。
「好きだよ、あげはちゃん」
「!? なっ何言ってるんですか!? そんな事言ってもダメです! はしたない!!」
急激に全身発熱した私は慌てて部屋の外に飛び出した。
部屋の中で忍び笑いをしている気配がしたが、それをツッコむ余裕もなく。
なんか、最近からかわれている気がするんだけど。
……こんなんじゃ、私が手のひらで転がされているみたいではないか……
10
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる