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紅蓮のアゲハの娘は恋を知らない
そんな顔するあなたを私は知らない【3】
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嗣臣さんと変な別れ方をしてひと月以上過ぎた。時期はもうクリスマス目前だ。
もしかしたら学園祭にひょっこり現われるかなと思ったけど、結局彼は来なかった。似たような背格好の人を見かけては別人だとがっかりすることを繰り返し……
私は彼にひどいことをされたはずなのだ。会いたくないと思うのが普通の感覚なんだ。…なのだけどいつもそばにいたはずの彼がいないと物足りなくて寂しい。
いつもニコニコ笑って、私の隣にいるはずなのに。
家でたむろう不良共は変わらない。漫画雑誌読んだり、オンラインゲームをして、夕飯をかっ喰らう。
両親も兄もいつもどおり。
彼はいないのに、何も言わない。
嗣臣さんは受験生だ。ここに出入りすること自体おかしいのだ。大学は東京の大学が第一志望。彼は優秀な人だと聞いたからきっと春から会えなくなるだろう。
合格圏内の大学進学予定のうちの兄とは違って、ハードルの高い大学を目指す嗣臣さん。きっと彼は忙しいのだ。
そう自分を納得させようとしても、心がモヤモヤしていつまでも晴れなかった。
■□■
「今年雪花女子学園に入学した方はご存じでない方が多いかと思われますが、我が校ではクリスマスに炊き出しを行っております。食事に困っていらっしゃる方はもちろんのこと、いつもお世話になっている近隣の方を交えて交流を深めながらささやかですが、温かいものを提供します」
シスターの言葉に私は絶望した。
それすなわち調理するって事。火はもちろんのこと、包丁からも逃れられないじゃないの。
私が包丁を握れば最後、食材の惨劇が起きちゃうよ…? 私はひとり青ざめてオロオロしていた。
「つきまして、この活動にご協力してくださる企業、商店、個人様から寄付された食材を使って調理することになりますが……三森さん」
「はいっ!」
「あなたには食材を受け取りに行って頂きます」
だがシスターも鬼ではないらしい。
私の不器用さを考えて調達係に任命された。私が明らかに動揺して挙動不審になっていたのを見かねてくれたのかな。
「お任せください!」
それなら私も力になれるぞ!
食料調達係はそれぞれ行き先が適当に振り分けられ、私は清柳ホテルに行くよう命じられた。清柳ホテルは雪花女子学園の最寄りから2駅先の地域密着型の老舗ホテルだ。だいぶ昔からうちの学校のクリスマス炊き出しに協力してくれているらしい。
ホテル自体は大人が利用するような落ち着いた雰囲気。深呼吸をして自動ドアから入ると、たすたすと柔らかい絨毯の上をおっかなびっくり歩く。私はそのまま真っすぐフロントに向かった。
提供する食材は厨房に用意しているからそちらへお願いしますと言われたので、教えられたとおりに目的地に向かい、ダンボールに入った食材を抱えてホテルを後にしようとしたのだが……
フロントの前には広いロビーがあって、隅っこには座ってお喋りができるように席がいくつか設けられている。何組かの客がそこで話をしている様子がここから窺える。
その、席から少し離れた場所に立つ青年の姿を見た私の足はピタリと動かなくなったのだ。
彼は一組の中年の男女を人形のように無機質な目でじっと見つめていた。その瞳は無関心なようで、感情をすべて押し殺して無理やり捨て去ったようにも見えた。
先月の気まずい事件のことよりも、彼のその表情が気になって私は動けなくなった。
どうにも気になった私は、ササッとその場に近づいた。
「……嗣臣さん」
「! ……あげは、ちゃん…?」
嗣臣さんらしくなく、私の気配に気づかなかったらしい。彼は夢から覚めたように無防備な表情を浮かべていた。
「…受験生が何してるんですか。もう冬休みでしょ?」
うちの学校はクリスマスの炊き出しがあるのでこうして学校に出てきているが、受験生である彼は冬休み真っ最中、普通なら冬期講習とかに通っているはずなのだ。なのに何故こんなところでボウっと突っ立っているのか。
私の問いに彼は、先程じっと見つめていた中年の男女にもう一度視線を向けると自嘲するように笑った。
「…うちの親がね、離婚成立したから最後の話し合いをね。……もう弁護士を通して粗方話し合いは終わってるんだけど……」
「……離婚」
「俺が小さい頃から仲悪かったし、お互い不倫していたからね、ようやくって感じだけど……あんなペラい紙一枚で家族じゃなくなるんだなと思うと」
俺ってなんだったんだろう、ってね。
嗣臣さんがちいさく呟く声が聞こえてしまった。
「…嗣臣さん」
「もうすぐ俺も大学生だし、子供の頃に比べたら慣れたけど……やっぱり複雑だね」
苦笑いする嗣臣さんはどう見ても無理して笑っているように見えた。
うちに集まる不良共は揃って家庭環境が悪い。通い始めた頃は今以上に荒れている人もいて、うちの両親が物理で教育的指導をしたことも片手じゃ足りない。
だから不良共はうちの両親を本当の両親のように慕って通ってくるのだと、私も気づいていた。嗣臣さん家も彼らと同じく複雑なんだろうとは察していたけど……彼のらしくない表情を見ていると私まで複雑な心境に陥ってしまう。
私は掛ける言葉が見つからず、唇を噛み締めた。
なんかモヤモヤする。だけど私には気の利いた慰めの言葉なんて掛けられない。だけどこのまま放っておくのは無理だ。
どうしたら彼は元気になる? どうしたらこんな沈んだ顔からいつもの表情に……
「……持ってください」
「……え?」
「うちの学校で炊き出しするんで、手伝ってください」
私は腕に抱えていたダンボールを嗣臣さんに差し出した。
それには嗣臣さんは目を丸くしてぽかんとしている。
「その…お母さんが言ってましたが、両親の人生は両親の人生だから、子どもには関係ない、全く別物と思って考えないと滅入ってしまうって。…だから、嗣臣さんは嗣臣さんの人生を考えたらいいんですよ」
私は嗣臣さんの両親のことは何も知らないし、西家がどんな家庭環境だったかなんてこれっぽっちも存じ上げない。
私みたいな年下に言われるのはムカつくかもしれないし、複雑かもしれないけど……
あぁだめだ、やっぱり何も思い浮かばない。私が何を言っても薄っぺらい言葉にしかならない。
なにかないか、彼が心痛めぬような気の利いたセリフ…
「いいよ、あげはちゃんの頼みなら何でも聞いちゃう」
私が悩んでいるとは気づいていないのか、嗣臣さんはいつものペースに戻った。
ダンボールの重みが腕から消えたと思ったら、それを抱えた嗣臣さんは「行こっか」とシスターを骨抜きにしたあの笑みを浮かべていた。
離婚したけど、彼らは嗣臣さんの両親には違いない、ここから離れるなら声を掛けなくていいのかと尋ねたが、彼は「ずっと放置されてたからもういいよ」とあっさりしていた。
…嗣臣さんがいいならそれでいいが……
「この間は怖い思いさせてごめんね」
ホテルを出て、駅方面に歩いていると、嗣臣さんが謝罪してきた。
そうだ、私達は変な別れ方をして以来だったんだ……強引にされたキスを思い出して、私の頬に熱が集まった。
「……無理矢理はよくないと思います」
「うん、今度は了承を得てからするね」
「!?」
にっこり爽やかに言われた言葉に私の体は全身カッと熱に襲われた。そんな私を見て嗣臣さんはニッコリしている。…いつもの嗣臣さんだ。
彼の笑みを見ていると、心がじんわりほっこり温かくなり、胸の奥がキュウと苦しくなった。
良かった。仲直りできて。
…だけどおかしいな。安心したはずなのに、胸が落ち着かない。
■□■
「石油ストーブ、ここに置いてもいいの?」
「はいっありがとうございますっ」
雪花女子学園まで嗣臣さんに荷物運びをさせた私は、そのまま炊き出し会の準備を手伝わせた。
女の園である我が女子校であるが、今回はたくさんの外部の人を招くことになるので、嗣臣さんのボランティア参加を認めてもらったのだ。
こんな時男手があると本当に助かるようで、先程から嗣臣さんは力仕事をしては女子生徒にきゃあきゃあ言われている。
そして力仕事していたかと思えば、包丁の呪縛に遭いそうになっていた私の肩代わりで調理作業もやってくれた。口頭でこうしたら皮を剥きやすい、こうすれば手を切らないよと説明してくるが、私先端恐怖症なんだよ。
ストトトト…と華麗な手さばきで野菜カットしちゃうイケメン。周りの女の子の目がハートになってるぞい。
「三森さんの彼氏よね? 彼氏かっこいいね!」
とクラスメイトが色めきだつ。彼氏じゃないと否定してるが、どこからともなく湧いて「彼氏かっこいい」と褒め称えてくるのだ。
当の嗣臣さんは否定しないし、ニコニコしてるし……にわかには信じられないが、嗣臣さんは私のことを女性として好きらしいので、誤解でも嬉しいのかな。
…自分で言うのは何だが、私のどこがいいのだろう。料理も裁縫もできない、少々腕っぷしの強い、か弱い乙女(矛盾)なだけなのに……今まで大人な女性と遊んできたから、変わり種に興味が湧いたのかな……。
「姐さぁーん!」
「あげはさーん!」
調理班の後ろをチョロチョロして、手伝っているのか邪魔しているのかわからない行動をとっていると、聞き覚えのある声がグラウンドに響いた。
私が料理をしているテントから出ると、正門に大勢のガラの悪い不良共が集結していた。
彼らはこの近所に住むご老人らを引き連れ、あるものはみかん箱、またあるものは特大スーパー袋パンパンに詰まったお菓子やジュース、またあるものは100円ショップで購入したと思われる、紙コップや紙皿を携えていた。
……なぜ、ここに来た。
そしてなにご老人らと仲良くなっているんだお前たちは……
「助太刀に来ましたよぉぉー!!」
勢いよく駆け込んできたのは毒蠍ナンバー2の金髪黒マスクだ。彼は車椅子に乗ったおじいちゃんとともにドリフト走行してきた。
グラウンドに砂埃が立つ。
車椅子に座ったおじいちゃんがブルンブルンと振り回されていた。
私は地面を力いっぱい蹴りつけると、黒マスクの元へ飛んでいき、ヤツの頭をしばいた。
「あほ! バイクじゃねーんだぞ! か弱いおじいさんが乗ってんだ! みてみろおじいさんが呆然としてるだろうが!!」
「すいやせんした!」
謝るのはおじいちゃんに謝りなさい! 車椅子に乗ったご老人は呆然としていらっしゃる。
私が黒マスクを説教している間にも、不良と近隣の人がぞろぞろ合流して、炊き出し会の準備を進めていた。
学生と学校関係者だけだったグラウンドに外部の人が加わって一気ににぎやかになった。
もしかしたら学園祭にひょっこり現われるかなと思ったけど、結局彼は来なかった。似たような背格好の人を見かけては別人だとがっかりすることを繰り返し……
私は彼にひどいことをされたはずなのだ。会いたくないと思うのが普通の感覚なんだ。…なのだけどいつもそばにいたはずの彼がいないと物足りなくて寂しい。
いつもニコニコ笑って、私の隣にいるはずなのに。
家でたむろう不良共は変わらない。漫画雑誌読んだり、オンラインゲームをして、夕飯をかっ喰らう。
両親も兄もいつもどおり。
彼はいないのに、何も言わない。
嗣臣さんは受験生だ。ここに出入りすること自体おかしいのだ。大学は東京の大学が第一志望。彼は優秀な人だと聞いたからきっと春から会えなくなるだろう。
合格圏内の大学進学予定のうちの兄とは違って、ハードルの高い大学を目指す嗣臣さん。きっと彼は忙しいのだ。
そう自分を納得させようとしても、心がモヤモヤしていつまでも晴れなかった。
■□■
「今年雪花女子学園に入学した方はご存じでない方が多いかと思われますが、我が校ではクリスマスに炊き出しを行っております。食事に困っていらっしゃる方はもちろんのこと、いつもお世話になっている近隣の方を交えて交流を深めながらささやかですが、温かいものを提供します」
シスターの言葉に私は絶望した。
それすなわち調理するって事。火はもちろんのこと、包丁からも逃れられないじゃないの。
私が包丁を握れば最後、食材の惨劇が起きちゃうよ…? 私はひとり青ざめてオロオロしていた。
「つきまして、この活動にご協力してくださる企業、商店、個人様から寄付された食材を使って調理することになりますが……三森さん」
「はいっ!」
「あなたには食材を受け取りに行って頂きます」
だがシスターも鬼ではないらしい。
私の不器用さを考えて調達係に任命された。私が明らかに動揺して挙動不審になっていたのを見かねてくれたのかな。
「お任せください!」
それなら私も力になれるぞ!
食料調達係はそれぞれ行き先が適当に振り分けられ、私は清柳ホテルに行くよう命じられた。清柳ホテルは雪花女子学園の最寄りから2駅先の地域密着型の老舗ホテルだ。だいぶ昔からうちの学校のクリスマス炊き出しに協力してくれているらしい。
ホテル自体は大人が利用するような落ち着いた雰囲気。深呼吸をして自動ドアから入ると、たすたすと柔らかい絨毯の上をおっかなびっくり歩く。私はそのまま真っすぐフロントに向かった。
提供する食材は厨房に用意しているからそちらへお願いしますと言われたので、教えられたとおりに目的地に向かい、ダンボールに入った食材を抱えてホテルを後にしようとしたのだが……
フロントの前には広いロビーがあって、隅っこには座ってお喋りができるように席がいくつか設けられている。何組かの客がそこで話をしている様子がここから窺える。
その、席から少し離れた場所に立つ青年の姿を見た私の足はピタリと動かなくなったのだ。
彼は一組の中年の男女を人形のように無機質な目でじっと見つめていた。その瞳は無関心なようで、感情をすべて押し殺して無理やり捨て去ったようにも見えた。
先月の気まずい事件のことよりも、彼のその表情が気になって私は動けなくなった。
どうにも気になった私は、ササッとその場に近づいた。
「……嗣臣さん」
「! ……あげは、ちゃん…?」
嗣臣さんらしくなく、私の気配に気づかなかったらしい。彼は夢から覚めたように無防備な表情を浮かべていた。
「…受験生が何してるんですか。もう冬休みでしょ?」
うちの学校はクリスマスの炊き出しがあるのでこうして学校に出てきているが、受験生である彼は冬休み真っ最中、普通なら冬期講習とかに通っているはずなのだ。なのに何故こんなところでボウっと突っ立っているのか。
私の問いに彼は、先程じっと見つめていた中年の男女にもう一度視線を向けると自嘲するように笑った。
「…うちの親がね、離婚成立したから最後の話し合いをね。……もう弁護士を通して粗方話し合いは終わってるんだけど……」
「……離婚」
「俺が小さい頃から仲悪かったし、お互い不倫していたからね、ようやくって感じだけど……あんなペラい紙一枚で家族じゃなくなるんだなと思うと」
俺ってなんだったんだろう、ってね。
嗣臣さんがちいさく呟く声が聞こえてしまった。
「…嗣臣さん」
「もうすぐ俺も大学生だし、子供の頃に比べたら慣れたけど……やっぱり複雑だね」
苦笑いする嗣臣さんはどう見ても無理して笑っているように見えた。
うちに集まる不良共は揃って家庭環境が悪い。通い始めた頃は今以上に荒れている人もいて、うちの両親が物理で教育的指導をしたことも片手じゃ足りない。
だから不良共はうちの両親を本当の両親のように慕って通ってくるのだと、私も気づいていた。嗣臣さん家も彼らと同じく複雑なんだろうとは察していたけど……彼のらしくない表情を見ていると私まで複雑な心境に陥ってしまう。
私は掛ける言葉が見つからず、唇を噛み締めた。
なんかモヤモヤする。だけど私には気の利いた慰めの言葉なんて掛けられない。だけどこのまま放っておくのは無理だ。
どうしたら彼は元気になる? どうしたらこんな沈んだ顔からいつもの表情に……
「……持ってください」
「……え?」
「うちの学校で炊き出しするんで、手伝ってください」
私は腕に抱えていたダンボールを嗣臣さんに差し出した。
それには嗣臣さんは目を丸くしてぽかんとしている。
「その…お母さんが言ってましたが、両親の人生は両親の人生だから、子どもには関係ない、全く別物と思って考えないと滅入ってしまうって。…だから、嗣臣さんは嗣臣さんの人生を考えたらいいんですよ」
私は嗣臣さんの両親のことは何も知らないし、西家がどんな家庭環境だったかなんてこれっぽっちも存じ上げない。
私みたいな年下に言われるのはムカつくかもしれないし、複雑かもしれないけど……
あぁだめだ、やっぱり何も思い浮かばない。私が何を言っても薄っぺらい言葉にしかならない。
なにかないか、彼が心痛めぬような気の利いたセリフ…
「いいよ、あげはちゃんの頼みなら何でも聞いちゃう」
私が悩んでいるとは気づいていないのか、嗣臣さんはいつものペースに戻った。
ダンボールの重みが腕から消えたと思ったら、それを抱えた嗣臣さんは「行こっか」とシスターを骨抜きにしたあの笑みを浮かべていた。
離婚したけど、彼らは嗣臣さんの両親には違いない、ここから離れるなら声を掛けなくていいのかと尋ねたが、彼は「ずっと放置されてたからもういいよ」とあっさりしていた。
…嗣臣さんがいいならそれでいいが……
「この間は怖い思いさせてごめんね」
ホテルを出て、駅方面に歩いていると、嗣臣さんが謝罪してきた。
そうだ、私達は変な別れ方をして以来だったんだ……強引にされたキスを思い出して、私の頬に熱が集まった。
「……無理矢理はよくないと思います」
「うん、今度は了承を得てからするね」
「!?」
にっこり爽やかに言われた言葉に私の体は全身カッと熱に襲われた。そんな私を見て嗣臣さんはニッコリしている。…いつもの嗣臣さんだ。
彼の笑みを見ていると、心がじんわりほっこり温かくなり、胸の奥がキュウと苦しくなった。
良かった。仲直りできて。
…だけどおかしいな。安心したはずなのに、胸が落ち着かない。
■□■
「石油ストーブ、ここに置いてもいいの?」
「はいっありがとうございますっ」
雪花女子学園まで嗣臣さんに荷物運びをさせた私は、そのまま炊き出し会の準備を手伝わせた。
女の園である我が女子校であるが、今回はたくさんの外部の人を招くことになるので、嗣臣さんのボランティア参加を認めてもらったのだ。
こんな時男手があると本当に助かるようで、先程から嗣臣さんは力仕事をしては女子生徒にきゃあきゃあ言われている。
そして力仕事していたかと思えば、包丁の呪縛に遭いそうになっていた私の肩代わりで調理作業もやってくれた。口頭でこうしたら皮を剥きやすい、こうすれば手を切らないよと説明してくるが、私先端恐怖症なんだよ。
ストトトト…と華麗な手さばきで野菜カットしちゃうイケメン。周りの女の子の目がハートになってるぞい。
「三森さんの彼氏よね? 彼氏かっこいいね!」
とクラスメイトが色めきだつ。彼氏じゃないと否定してるが、どこからともなく湧いて「彼氏かっこいい」と褒め称えてくるのだ。
当の嗣臣さんは否定しないし、ニコニコしてるし……にわかには信じられないが、嗣臣さんは私のことを女性として好きらしいので、誤解でも嬉しいのかな。
…自分で言うのは何だが、私のどこがいいのだろう。料理も裁縫もできない、少々腕っぷしの強い、か弱い乙女(矛盾)なだけなのに……今まで大人な女性と遊んできたから、変わり種に興味が湧いたのかな……。
「姐さぁーん!」
「あげはさーん!」
調理班の後ろをチョロチョロして、手伝っているのか邪魔しているのかわからない行動をとっていると、聞き覚えのある声がグラウンドに響いた。
私が料理をしているテントから出ると、正門に大勢のガラの悪い不良共が集結していた。
彼らはこの近所に住むご老人らを引き連れ、あるものはみかん箱、またあるものは特大スーパー袋パンパンに詰まったお菓子やジュース、またあるものは100円ショップで購入したと思われる、紙コップや紙皿を携えていた。
……なぜ、ここに来た。
そしてなにご老人らと仲良くなっているんだお前たちは……
「助太刀に来ましたよぉぉー!!」
勢いよく駆け込んできたのは毒蠍ナンバー2の金髪黒マスクだ。彼は車椅子に乗ったおじいちゃんとともにドリフト走行してきた。
グラウンドに砂埃が立つ。
車椅子に座ったおじいちゃんがブルンブルンと振り回されていた。
私は地面を力いっぱい蹴りつけると、黒マスクの元へ飛んでいき、ヤツの頭をしばいた。
「あほ! バイクじゃねーんだぞ! か弱いおじいさんが乗ってんだ! みてみろおじいさんが呆然としてるだろうが!!」
「すいやせんした!」
謝るのはおじいちゃんに謝りなさい! 車椅子に乗ったご老人は呆然としていらっしゃる。
私が黒マスクを説教している間にも、不良と近隣の人がぞろぞろ合流して、炊き出し会の準備を進めていた。
学生と学校関係者だけだったグラウンドに外部の人が加わって一気ににぎやかになった。
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