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三森あげはは淑女になりたい
曲がったことは大嫌い! 私の名は三森あげはだ!【5】
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「何故? ムカつくからに決まってんじゃん! 当然のことをしてやっただけでしょ! あの女とお姉ちゃんのせいで陽菜の生活はメチャクチャなんだから!」
「いやいや、世間や行政がお前らのほうがおかしいと判断した結果なの。わかる? 悪いのはお前の親だから」
逆恨みか……
藤井一家…特に母親は姉の琉奈ちゃんを疎んじていた。それならば、親子三人暮らしになった今、望み通り生活できているような気もするんだけど……
兄が半笑いで否定したが、陽菜ちゃんは納得できない様子で眉間にシワを寄せ、その愛らしい顔を険しくさせていた。
「お姉ちゃんに学費や生活費を送るからってパパもママも陽菜の欲しい物を買ってくれなくなったのよ! 今までずっと陽菜の欲しい物何でも買ってくれたのに! しかもお姉ちゃんがいなくなった途端にお母さんは口やかましくなって! それもこれもそこの女が介入してきたせいじゃない!」
だから男友達に頼んでボコボコにしてもらうつもりだった。痛めつけた後写真撮っておけば、後々役に立つと思ったのだそうだ。
私の戦闘力は予想外だったらしいけど。
「そうだ! 俺たちは陽菜に頼まれたんだよ! 痛めつけてこいって!」
「なのに反則のように強いし! なんだよその女、ゴリラか!?」
「痛かったんだぞ! 謝れ!」
「うるさい! あんたらが弱いだけだわ! あと襲撃してきたのはそっちだろうが!」
襲撃者による弁解、ついでに文句と謝罪を求められた。
何を言っているんだ。自分から動いたくせに。痛いのが嫌なら最初から喧嘩を売るなという話である。
「俺達は悪くない。悪いのは陽菜だ!」
「ちょっと! 何裏切ろうとしてるのよ!」
「こんな風になるとわかってたらあの女を襲おうとは思わなかった! お前のせいだ!」
なにやら仲間割れが始まったらしい。どういう繋がりの友達かはわからないが、簡単に解けてしまう程度の絆らしい。
彼らを我が兄と不良共は黙って観察していた。それが少し不気味だったが、自供させることが彼らの狙いだったからかもしれない。
「──何をしているの陽菜っ!!」
その叱責の声に陽菜ちゃんは口論を止めて、険しい顔のまま首を動かした。彼女は現れた実姉・琉奈ちゃんを見て、余計に苛立ちに襲われている様子である。
「あげはちゃんに向けて攻撃を仕向けていたって…どうしてそんなことをするの! 陽菜もお父さんもお母さんも私のことが嫌いなんでしょう、家からいなくなってせいせいしているはずなのに、どうして」
琉奈ちゃんにとってようやく訪れた平穏な日々。家族と決別しなくてはならなくなったが、家族から離れてようやく琉奈ちゃんは安心して息ができるようになったのだ。
そのはずなのにその過去がやってきた。嵐を抱えて。琉奈ちゃんは真っ青になっていた。
そんな姉を見て溜飲が下がったのか、妹の陽菜ちゃんは鼻で笑っているではないか。
「家が今なんて言われてるか知ってる? 鬼母の棲む家だって! そのせいでお母さんはいつもピリピリして、八つ当たりのように口うるさく叱ってくるの! これもそれも全部お姉ちゃんとこの女のせいなんだから!」
そんなん知らんがな。と言いたくなるが、琉奈ちゃんの家族のことなので黙っておく。
でもとりあえずこの姉妹を引き剥がしておいたほうがいいな。私と同じことを考えていたらしいシスターが先に動いて琉奈ちゃんを別のところへ移動させていた。
シスターに任せておけば安心だな。
それを見た妹が「逃げるな金食い虫」と暴言を吐き捨てている。性格悪い妹だなとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。藤井家の問題は根深い問題だな……琉奈ちゃんを家族から離しただけじゃ上辺だけの解決にしかならないのであろうか…
「それと、タレコミ電話の相手はこいつですよ。あげはちゃんの同級生の元交際相手」
空気を読まずに発言したのは嗣臣さんだ。姉妹のいざこざは置いておいて、自分の用事を先に終わらせてしまいたかったのであろうか。
「あっテメ! あのときのガリ勉じゃねーか! お前どういうつもりだよ!!」
お前だったのか。
クラスメイトの綿貫さんとSNSで知り合い……綿貫さんが別れたがっているのに脅して呼び出そうとしていた奴。イキっていたので頭突きして地面に放り投げたのだが、そのことを恨まれていたのか…
奴の目には嗣臣さんがヒョロヒョロのガリ勉に見えるらしい。調子に乗って威嚇しているが、嗣臣さんの表情は白けていた。
「男に付きまとわれていて困っているというクラスメイトに頼まれてあげはちゃんが代わりに話をつけに行った際に暴行されそうになったので、頭突きして足払いを掛けた相手です」
「……三森さん」
「はいっ!」
嗣臣さんの説明を静かに聞いていたシスターがおでこに手をやってはぁーと深々とため息を吐いていた。
「なぜそのような危険な場所に出向いたのです……それこそ大人を頼る場面でしょう…」
「も、申し訳ございません…」
それ茉莉花にも言われた。
だって綿貫さんがエプロンを代わりに縫ってくれるって言ったから……結局自分で作ったけどさ。
「お待ち下さいシスター。確かに彼女は危険なことに首を突っ込み、喧嘩をいたしました。ですが結果はどうであれ、あげはちゃんは理由なく人を殴る人じゃありません!」
その声に私はぱっと振り返った。
助け舟を出してきたのは茉莉花だ。彼女は息苦しそうに呼吸している。ここまで走ってやってきたようだが……
あれ、今授業中じゃ?
「あのっ三森さんは私を庇ってくれたんですっ。その人、すっごくしつこくて! 雪花女子学園の女子生徒ってことで私脅されていたんです!」
それに綿貫さん。彼女は茉莉花の後ろに隠れながら必死に訴えていた。
…いいのか、ここで自白したらお母さんにバレて怒られてしまうぞ?
「私は電車の中で三森さんに痴漢から助けてもらいました!」
体操服姿のこの人は……体育中の上級生だな。
助けたっけな? 色々身に覚えがありすぎて覚えていない……
「私も」「私もです」と次から次に現れるのは、私に助けられたという女子生徒たちだ。そのほぼ大半は私もすっかり忘れてしまっていたが、私に救われたという生徒たちは決まって私をフォローしてくれた。
頭を抱えるシスターの斜め後ろで静観していた学園長がゆっくり前に出てきた。
「1年ゆり組の藤井さんのお宅の事情は伯母様と児童相談所からお話を聞いております……他にも色々と確認しなくてはいけないことがあるようですが……」
彼女はぐるりと回りを見渡した。
学校のグラウンドには不良共と犯人たち、私とシスターだけでなく、いつの間にか生徒たちが校舎から集まってきていた。
「…授業中なのですがねぇ……」
学園長はふぅ、とため息を1つ吐き出すと私を見上げた。学園長の眼鏡越しの瞳には力があり、私は自分の心を見透かされたような気がした。
「…三森あげはさん」
「はいっ」
「あなたには今日の夕方まで地域奉仕を申し付けます。…なにやら、お友達が率先して地域ボランティアを行っているようですからね。あなたも奉仕の心を持って従事するように。…それと、明日からの登校を許可いたします」
学園長の言葉を聞いていた私だが、反応が遅れてしまった。
今、なんて言った?
「ですが、忘れてはなりませんよ。暴力は褒められたことではないのですからね」
暴力は駄目なのだと学園長から念を押された。そうね、暴力は何も産まないね。でもちょっと待って下さい。その前になんと仰ったのか、もう一度お願いします。
「良かったね、あげはちゃん」
ぽんと肩を叩いてきた嗣臣さんは笑顔だった。
ねぇそれって停学終わりってこと?
「ほらほら皆さん、授業中ですよ。校舎に戻って」
シスターが手を叩きながら女子生徒たちに授業へ戻るように支持する。生徒たちは慌てて小走りで所定の場所へと移動し始めた
「あげはちゃん! 待ってるからね!」
「また明日ね!」
茉莉花とクラスメイト達が最後に私へと声を掛けてくれた。
私は鼻の奥がジンとしびれて泣きそうになったが、それを堪えると手を振ってしっかり返事をした。
ずっとボッチだった私にも、待っていてくれる友達が出来たんだと思うと感無量である。
「三森さんはこれから奉仕活動を行い、そのレポートを来週までに提出するように。それと彼らはこちらで然るべき機関に引き渡すのでもう行ってもらって結構」
感動中の私を現実に引き戻したのは学園長であった。……私は恵まれている。奉仕活動で温情をいただけるのであれば喜んで奉仕するぞ。
「はいっ! それでは失礼いたします!」
私はお辞儀をすると、その足で正門を駆け抜けた。先程まで曇り空のように感じた世界がキラキラと輝いて見えた。
この近辺は不良たちがボランティアしていたみたいだからどこにいこうか。…そうだな、川の掃除をしていると言っていた。そこに混ざろう。
「停学解けて良かったな、あげは」
横を並んできたのは我が兄である。
なんというか癪だが、私を陥れようとした人間を探し出してくれたのは兄たちなので、素直にお礼を言うことにした。
「…色々と、ありがとう」
「この件で一番尽力したのが嗣臣なんだぞ、礼ならアイツに言ってやれ」
嗣臣さんが…?
そうだったのか。友達の妹のためにそこまで。なんたるお人好しなんだ。隠れ不良のくせに。
「ありがとうございました嗣臣さん」
よく分からんがとりあえずお礼だ。私についてきてる嗣臣さんにお礼を言うと、彼はニッコリキラキラッ☆と輝く笑顔を向けてきたではないか。
「好きな子が傷つく姿は見たくないからね、こんなときくらい守りたいよ」
「あげはさーんワニガメ見つけましたよー!」
嗣臣さんがなにか言っていたが、最後の部分しか聞こえなかった。守りたいとかなんとか。
……それよりもいま不穏な単語が聞こえてきたぞ?
毒蠍ナンバー2の金髪黒マスクが泥だらけの格好で駆けてくる。そして其奴の手には泥だらけの……ワニガメ!!
「ばかやろう! 持ってくんな!」
なに笑顔でワニガメ連れてきてんだよ。そのカメ、人の指食い千切るんだからな! 素手で持つなよ!
私は金髪黒マスクを川に戻そうと走る速度を上げた。
「おいおい、兄貴の前で口説くなや」
「……今の聞こえてないよね絶対」
兄と嗣臣さんのそんな会話が聞こえてきたが、今の私にはワニガメのほうが優先である。
あれって保健所に連絡したらいいの? 誰だよワニガメ捨てたの! 生物を飼うときは最後まで責任持って面倒見ろよ!
3日の停学と奉仕活動とそのレポートを提出することで、登校許可を貰えた私。
私の周りにはあいも変わらず不良たちが集まってくるけど、私がそれに染まるかは私の心次第。
淑女の道は五十歩百歩。今度から暴力に訴えない生活を心掛けてみせる!
私は淑女になって、素敵な青春を送るのだ!!
「いやいや、世間や行政がお前らのほうがおかしいと判断した結果なの。わかる? 悪いのはお前の親だから」
逆恨みか……
藤井一家…特に母親は姉の琉奈ちゃんを疎んじていた。それならば、親子三人暮らしになった今、望み通り生活できているような気もするんだけど……
兄が半笑いで否定したが、陽菜ちゃんは納得できない様子で眉間にシワを寄せ、その愛らしい顔を険しくさせていた。
「お姉ちゃんに学費や生活費を送るからってパパもママも陽菜の欲しい物を買ってくれなくなったのよ! 今までずっと陽菜の欲しい物何でも買ってくれたのに! しかもお姉ちゃんがいなくなった途端にお母さんは口やかましくなって! それもこれもそこの女が介入してきたせいじゃない!」
だから男友達に頼んでボコボコにしてもらうつもりだった。痛めつけた後写真撮っておけば、後々役に立つと思ったのだそうだ。
私の戦闘力は予想外だったらしいけど。
「そうだ! 俺たちは陽菜に頼まれたんだよ! 痛めつけてこいって!」
「なのに反則のように強いし! なんだよその女、ゴリラか!?」
「痛かったんだぞ! 謝れ!」
「うるさい! あんたらが弱いだけだわ! あと襲撃してきたのはそっちだろうが!」
襲撃者による弁解、ついでに文句と謝罪を求められた。
何を言っているんだ。自分から動いたくせに。痛いのが嫌なら最初から喧嘩を売るなという話である。
「俺達は悪くない。悪いのは陽菜だ!」
「ちょっと! 何裏切ろうとしてるのよ!」
「こんな風になるとわかってたらあの女を襲おうとは思わなかった! お前のせいだ!」
なにやら仲間割れが始まったらしい。どういう繋がりの友達かはわからないが、簡単に解けてしまう程度の絆らしい。
彼らを我が兄と不良共は黙って観察していた。それが少し不気味だったが、自供させることが彼らの狙いだったからかもしれない。
「──何をしているの陽菜っ!!」
その叱責の声に陽菜ちゃんは口論を止めて、険しい顔のまま首を動かした。彼女は現れた実姉・琉奈ちゃんを見て、余計に苛立ちに襲われている様子である。
「あげはちゃんに向けて攻撃を仕向けていたって…どうしてそんなことをするの! 陽菜もお父さんもお母さんも私のことが嫌いなんでしょう、家からいなくなってせいせいしているはずなのに、どうして」
琉奈ちゃんにとってようやく訪れた平穏な日々。家族と決別しなくてはならなくなったが、家族から離れてようやく琉奈ちゃんは安心して息ができるようになったのだ。
そのはずなのにその過去がやってきた。嵐を抱えて。琉奈ちゃんは真っ青になっていた。
そんな姉を見て溜飲が下がったのか、妹の陽菜ちゃんは鼻で笑っているではないか。
「家が今なんて言われてるか知ってる? 鬼母の棲む家だって! そのせいでお母さんはいつもピリピリして、八つ当たりのように口うるさく叱ってくるの! これもそれも全部お姉ちゃんとこの女のせいなんだから!」
そんなん知らんがな。と言いたくなるが、琉奈ちゃんの家族のことなので黙っておく。
でもとりあえずこの姉妹を引き剥がしておいたほうがいいな。私と同じことを考えていたらしいシスターが先に動いて琉奈ちゃんを別のところへ移動させていた。
シスターに任せておけば安心だな。
それを見た妹が「逃げるな金食い虫」と暴言を吐き捨てている。性格悪い妹だなとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。藤井家の問題は根深い問題だな……琉奈ちゃんを家族から離しただけじゃ上辺だけの解決にしかならないのであろうか…
「それと、タレコミ電話の相手はこいつですよ。あげはちゃんの同級生の元交際相手」
空気を読まずに発言したのは嗣臣さんだ。姉妹のいざこざは置いておいて、自分の用事を先に終わらせてしまいたかったのであろうか。
「あっテメ! あのときのガリ勉じゃねーか! お前どういうつもりだよ!!」
お前だったのか。
クラスメイトの綿貫さんとSNSで知り合い……綿貫さんが別れたがっているのに脅して呼び出そうとしていた奴。イキっていたので頭突きして地面に放り投げたのだが、そのことを恨まれていたのか…
奴の目には嗣臣さんがヒョロヒョロのガリ勉に見えるらしい。調子に乗って威嚇しているが、嗣臣さんの表情は白けていた。
「男に付きまとわれていて困っているというクラスメイトに頼まれてあげはちゃんが代わりに話をつけに行った際に暴行されそうになったので、頭突きして足払いを掛けた相手です」
「……三森さん」
「はいっ!」
嗣臣さんの説明を静かに聞いていたシスターがおでこに手をやってはぁーと深々とため息を吐いていた。
「なぜそのような危険な場所に出向いたのです……それこそ大人を頼る場面でしょう…」
「も、申し訳ございません…」
それ茉莉花にも言われた。
だって綿貫さんがエプロンを代わりに縫ってくれるって言ったから……結局自分で作ったけどさ。
「お待ち下さいシスター。確かに彼女は危険なことに首を突っ込み、喧嘩をいたしました。ですが結果はどうであれ、あげはちゃんは理由なく人を殴る人じゃありません!」
その声に私はぱっと振り返った。
助け舟を出してきたのは茉莉花だ。彼女は息苦しそうに呼吸している。ここまで走ってやってきたようだが……
あれ、今授業中じゃ?
「あのっ三森さんは私を庇ってくれたんですっ。その人、すっごくしつこくて! 雪花女子学園の女子生徒ってことで私脅されていたんです!」
それに綿貫さん。彼女は茉莉花の後ろに隠れながら必死に訴えていた。
…いいのか、ここで自白したらお母さんにバレて怒られてしまうぞ?
「私は電車の中で三森さんに痴漢から助けてもらいました!」
体操服姿のこの人は……体育中の上級生だな。
助けたっけな? 色々身に覚えがありすぎて覚えていない……
「私も」「私もです」と次から次に現れるのは、私に助けられたという女子生徒たちだ。そのほぼ大半は私もすっかり忘れてしまっていたが、私に救われたという生徒たちは決まって私をフォローしてくれた。
頭を抱えるシスターの斜め後ろで静観していた学園長がゆっくり前に出てきた。
「1年ゆり組の藤井さんのお宅の事情は伯母様と児童相談所からお話を聞いております……他にも色々と確認しなくてはいけないことがあるようですが……」
彼女はぐるりと回りを見渡した。
学校のグラウンドには不良共と犯人たち、私とシスターだけでなく、いつの間にか生徒たちが校舎から集まってきていた。
「…授業中なのですがねぇ……」
学園長はふぅ、とため息を1つ吐き出すと私を見上げた。学園長の眼鏡越しの瞳には力があり、私は自分の心を見透かされたような気がした。
「…三森あげはさん」
「はいっ」
「あなたには今日の夕方まで地域奉仕を申し付けます。…なにやら、お友達が率先して地域ボランティアを行っているようですからね。あなたも奉仕の心を持って従事するように。…それと、明日からの登校を許可いたします」
学園長の言葉を聞いていた私だが、反応が遅れてしまった。
今、なんて言った?
「ですが、忘れてはなりませんよ。暴力は褒められたことではないのですからね」
暴力は駄目なのだと学園長から念を押された。そうね、暴力は何も産まないね。でもちょっと待って下さい。その前になんと仰ったのか、もう一度お願いします。
「良かったね、あげはちゃん」
ぽんと肩を叩いてきた嗣臣さんは笑顔だった。
ねぇそれって停学終わりってこと?
「ほらほら皆さん、授業中ですよ。校舎に戻って」
シスターが手を叩きながら女子生徒たちに授業へ戻るように支持する。生徒たちは慌てて小走りで所定の場所へと移動し始めた
「あげはちゃん! 待ってるからね!」
「また明日ね!」
茉莉花とクラスメイト達が最後に私へと声を掛けてくれた。
私は鼻の奥がジンとしびれて泣きそうになったが、それを堪えると手を振ってしっかり返事をした。
ずっとボッチだった私にも、待っていてくれる友達が出来たんだと思うと感無量である。
「三森さんはこれから奉仕活動を行い、そのレポートを来週までに提出するように。それと彼らはこちらで然るべき機関に引き渡すのでもう行ってもらって結構」
感動中の私を現実に引き戻したのは学園長であった。……私は恵まれている。奉仕活動で温情をいただけるのであれば喜んで奉仕するぞ。
「はいっ! それでは失礼いたします!」
私はお辞儀をすると、その足で正門を駆け抜けた。先程まで曇り空のように感じた世界がキラキラと輝いて見えた。
この近辺は不良たちがボランティアしていたみたいだからどこにいこうか。…そうだな、川の掃除をしていると言っていた。そこに混ざろう。
「停学解けて良かったな、あげは」
横を並んできたのは我が兄である。
なんというか癪だが、私を陥れようとした人間を探し出してくれたのは兄たちなので、素直にお礼を言うことにした。
「…色々と、ありがとう」
「この件で一番尽力したのが嗣臣なんだぞ、礼ならアイツに言ってやれ」
嗣臣さんが…?
そうだったのか。友達の妹のためにそこまで。なんたるお人好しなんだ。隠れ不良のくせに。
「ありがとうございました嗣臣さん」
よく分からんがとりあえずお礼だ。私についてきてる嗣臣さんにお礼を言うと、彼はニッコリキラキラッ☆と輝く笑顔を向けてきたではないか。
「好きな子が傷つく姿は見たくないからね、こんなときくらい守りたいよ」
「あげはさーんワニガメ見つけましたよー!」
嗣臣さんがなにか言っていたが、最後の部分しか聞こえなかった。守りたいとかなんとか。
……それよりもいま不穏な単語が聞こえてきたぞ?
毒蠍ナンバー2の金髪黒マスクが泥だらけの格好で駆けてくる。そして其奴の手には泥だらけの……ワニガメ!!
「ばかやろう! 持ってくんな!」
なに笑顔でワニガメ連れてきてんだよ。そのカメ、人の指食い千切るんだからな! 素手で持つなよ!
私は金髪黒マスクを川に戻そうと走る速度を上げた。
「おいおい、兄貴の前で口説くなや」
「……今の聞こえてないよね絶対」
兄と嗣臣さんのそんな会話が聞こえてきたが、今の私にはワニガメのほうが優先である。
あれって保健所に連絡したらいいの? 誰だよワニガメ捨てたの! 生物を飼うときは最後まで責任持って面倒見ろよ!
3日の停学と奉仕活動とそのレポートを提出することで、登校許可を貰えた私。
私の周りにはあいも変わらず不良たちが集まってくるけど、私がそれに染まるかは私の心次第。
淑女の道は五十歩百歩。今度から暴力に訴えない生活を心掛けてみせる!
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