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三森あげはは淑女になりたい

幕間・堕ちる太陽【藤井陽菜視点】

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 ──気に入らない。
 いつだって私が一番だったのに。

 あの女が来た日に全ては変わってしまった。玄関前で好きなだけ騒いで、警察沙汰になった我が家は好奇の目に晒された。ご近所さんの格好の噂になったのだ。
 お母さんは警察に連れて行かれ、家には伯母さんやおじいちゃんおばあちゃんたちがゾロゾロ集まってきた。話し合いは夜中になっても終わらず、どんどん話が大きくなっていった。

 被害者はお姉ちゃん。加害者はお母さんとお父さん。
 今まで私が一番だったのに、そうじゃなくなった。一晩で私達の人生は狂ってしまったのだ。


 お姉ちゃんは家を出て、寮生活を送ることになった。連絡は伯母さんを通してじゃないと許さないとのことだった。
 お姉ちゃんが家に帰ってこない。むしろせいせいすると思っていたが、お父さんもお母さんも毎日不機嫌そう。
 前よりも言うことを聞いてくれなくなった。欲しい物があるとおねだりしても、仕送りしないといけないからとお姉ちゃんの悪口を言いながらあしらわれる。

 面白くない。


 ギクシャクし始めた彼氏。あんなに私を可愛い、好きって言っていたくせに。お姉ちゃんよりも好きだって言っていたじゃないの。なんでそんな他人行儀になるの。
 噂が流れて友達も遠巻きに私を見る。私の味方もせずにだ。ホントありえない。友達ってどんな時も味方するものじゃないの?

 あの、アゲハという女──
 あいつさえいなければ、私の生活は一変しなかった?


「雪花女子学園のアゲハっていう女をボコって欲しい?」
「そう…お願いできないかな?」

 私が上目遣いでおねだりすれば、大抵の男は言うことを聞いてくれる。

「…仕方ねぇなぁ、陽菜の頼みなら」
「ありがとう」

 ほらね、私は可愛いから男は何だって言うことを聞いてくれるの。…辱めを与えて、あの女にも不幸を味わってもらわなきゃ。じゃなきゃ腹の虫がおさまらない。
 私は彼らとつるむようになって、毎日夜遅くまで遊び回るようになった。その事をお母さんが怒る。今までそんな事なかったのに。いつだって怒られるのはお姉ちゃん。私を怒ることなんてなかったはずなのに。

「面倒事は琉奈でたくさん! 陽菜まで面倒をかけないで!」

 心外。
 お母さんたちの育て方が悪かったんじゃん。なに責任転嫁してんの? ばっかみたい。産んだのはそっちなのに。
 ヒステリーに怒鳴るお母さんは赤鬼のように顔を赤くしていた。今まではお姉ちゃんが全て肩代わりしていたからその分が私に降り掛かってきたのだろう。
 あの女のせいでますます面倒なことになった。 
 
 私は家に帰らなくなった。


「…俺、もう陽菜にはついていけないよ」
「なら別れる?」
「……その方がいいかもね」

 役に立たない彼氏は捨ててやった。
 もともとお姉ちゃんのお古だもん、新古品だったけどね。そこまで執着していなかったから別にいいけど。
 お姉ちゃんの彼氏だから欲しくなっただけで、そこまで愛着があるわけじゃないもん。


 ……早くあの女ボコってくれないかな。証拠写真撮ったら送ってくれるって約束してくれたのに……まだ来ない。
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