10 / 75
三森あげはは淑女になりたい
自由に羽ばたく彼女が好きだから・前編【西嗣臣視点】
しおりを挟む俺の両親は立派な職業で高い地位を持つ人達だ。俺が幼い頃からずっといつも忙しそうにしていた。
教育には金を惜しまない両親によって入学させられた学校、放課後には決まって習い事が待っている。家に帰れば学校の宿題を片付けなければならない。だけどそれは全て自分のため。俺はコツコツ真面目にこなしてきた。
自分の周りには育ちのいいクラスメイト達。金にも不自由なく、欲しいだけ与えられた。
俺は恵まれているんだと思っていた。
そう思いたかった。
……本当はずっと前から気づいていた。
両親が大事なのは世間体だけで、俺のことなんて単なる付属品としか思っていないって。
会話すると言ったら成績のこと、素行のことばかり。学校の友人のことなんか聞かない。俺が体調を崩しても無関心。……俺自身のことなんか興味を示さない。最低限の世話をして、お金を与えておけばいいと思われていたようだ。
一家団欒なんて記憶に薄い。なんたって両親の帰りは遅かったからだ。家族が揃う夜なんて珍しいくらい。
食費を含んだ小遣いを与えられていたので自分で好きなものを購入して、1人で食事をするのが普通だった。親と食卓を囲ったことなど…あっただろうか…?
親曰く、俺は手のかからない子どもらしいから。
親にそう言われるたびに俺は「親に迷惑かけてはいけない、ワガママを言ってはいけない」って自分に呪いをかけてきた。
人の顔色を伺って過ごす、可愛げのない子どもだったと思う。
本当は、周りの子供のように甘えたりわがままをいいたかったけど、そうしたら両親は失望の眼差しで俺を見るとわかっていたから……俺は諦めていたんだ。
親にとっては子どもは愚鈍で察しが悪い生き物だと思われているようだが、実際には子どもは大人が思うほど鈍くはない。親が何を隠していて何をしているかを子どもは察することもできるんだ。
両親はお互いに付き合っている人がいるらしい。俺が小学校4年の時には勘付いていた。
中学に上がった時に母親に愚痴られついでにカミングアウトされたこともある。再婚したい人がいるって。
『あんたがいるから、お父さんと別れられない』と母親から面と向かって言われたんだ。
反抗期に入りかけていた俺は、「何故そんなひどいことを言うのか」と傷ついたと同時に「自分たちが結婚してこさえたくせに何を言ってるんだ」と反抗していた。
結婚してるのに不倫なんかして、それを子供のせいにして馬鹿じゃないのかこの人と、がっかりした覚えがある。
あの人達に反抗したくて、なにか悪いことでもはじめてやろうかと思ったが、中学生の俺はタバコも酒も購入できない。
なのでテストをわざと白紙で出したら、学校側が親を呼び出した。俺は教師の前で顔を真っ赤にさせた父親に殴られた。成人男性の力に中学1年であった俺が耐えられるわけがなく、軽々吹っ飛んで床に叩きつけられた。
ぎょっとした教師が慌てて「テスト中体調が悪かったんだよね!? 西くんいつも成績いいのにおかしいなって先生思ったんだよ!!」と俺をかばう始末。
家に帰った後もグチグチと叱責された。親に恥をかかせるなとか、面倒かけるなとかなんとか言っていたが、結局は自分のことしか考えてないんだ。
自分の思い通りにならないなら暴力も辞さない。親にとっての俺は、邪魔者であり、優秀な人形でなければ存在を許せないものなのだとよく理解した。
実子の俺よりも、他人の不倫相手が大事な俺の両親。
そんな両親のもとで育つ俺の心が荒れるのは自然なことだと思う。
俺があいつと出会ったのは中3のときだ。塾が終わった後、俺は帰宅せずに夜の街をぶらついていた。どうせ俺が帰らなくても親は心配しない。家には誰もいない。
家に帰りたくなかったんだ。息苦しい、あの家には。
『なぁ、なんでお前、空に浮かんだ青鯖みたいな面してんの?』
『……中原中也…?』
『あっ知ってる? 今日学校で習ったんだよー』
ガードレールに座る少年に掛けられた言葉に俺は足を止めた。
詩人が文豪に対して放った悪口を使ってみたかったのだろう。俺に対して青鯖みたいな顔と言い放ったあいつ…琥虎の目はキラキラ楽しそうに輝いていた。
琥虎は当時15歳にして、髪をまっ金色に染め、耳にはたくさんのピアスを開けていた。まさに素行の悪い不良そのものであった。
普段であれば素行が悪そうな輩と関わることは絶対にしないのだが、その時は親への反抗心で内心荒れまくっていた俺は琥虎に黙ってついていったのだ。
連れてこられたのは古びた自動車修理工場であった。俺はてっきり不良のたまり場にでも連れて行かれるのかなと思っていたがそうじゃなかった。
『これから山に走りに行くんだってさ。お前も乗ってけよ。スッキリするぞ!』
琥虎の知り合いだという怖い兄さんが自慢の愛車に乗せてくれると言うので内心ビビりながら同乗した俺は、彼らの気の済むまでドライブに付き合わされた。
未成年がうろついていい時刻なんてとっくに過ぎた深夜、峠を超えた先にたくさんの車と二輪車が集っていた。これらがどういう集まりなのかは知らなかったが、俺はなんだかドキドキした。
こんな世界を初めてみたんだ。
『楽しかったろ! 俺も早く免許取って自分の車運転してぇなぁ』
高いところから見下ろす街は、街灯や家から漏れ出す明かりが宝石のように散らばっていた。こんなにとっぷり暗いのに、街全体が明るい。自分の家はどのへんだろうか。
……ここから見る景色はこんなにも小さいのか。自分が小さな存在になった気がした。
でもそうだな、俺の存在なんて地球規模、宇宙規模で見たら本当に小さなものだ。……自分がいる世界がいかに狭い世界だったのかと実感した。家と学校と塾。俺はそれしか知らない。周りにいる大人は親と教師たちだけ。俺には勉強しろしか言わない。子どもを操作することしか考えていない大人しかいなかった。
その日初めて、周りにいないような違った常識を持つ大人と関わりを持ったのだ。
世間一般では、未成年を連れ回す大人の方が悪いと言われるだろうが、俺は彼らからいろんな事を学んだ。少なくともそれに救われた部分もあった。
仲間に混じって品行方正とは言えない活動もした。深夜徘徊や家出は序の口だ。喧嘩もした。警察に追いかけられて、大人をおちょくって……それを楽しんだこともある。
……あまりにも家に帰りたくなくて、年上の女性の家でお世話になったこともある。俺が外見に恵まれているからか、女性側から援助を申し出てくれることが多く、宿泊場所に困ることはなかった。
──長いこと女性達にお世話になっていたが、ある日を境にぱったり止めた。
10
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
悪役令嬢が漢前すぎる件〜サイクリングで始める異世界アウトドア〜
歩く、歩く。
恋愛
自転車競技の最中、事故により死亡した女性ロードレース選手小坂渚は、乙女ゲームの悪役令嬢アンジェリンに転生していた。
アンジェリンはシナリオ上処刑される運命にあり、このままではバッドエンド確実。そこで彼女はある決意をした。
「どうせ死ぬならもう一度自転車に乗りたい!」
気合と根性で異世界にクロスバイクやマウンテンバイク、ロードバイクを作った彼女は、元レーサーとして異世界に自転車の素晴らしさを伝えていく。
……が、その方法が漢前すぎた。
「朝のドリンクは生卵!自転車乗るなら筋肉付けなさい!」
「馬との競争?自転車でちぎってくれるわ!」
「文句があるなら自転車で語れ、壁は壊して突き進む物よ!」
ワイルドすぎる性格で男キャラはもちろん、主役ヒロインまで虜にした悪役令嬢はバッドエンドを腕力で回避し、自転車中心の異世界アウトドア生活を楽しむことにした。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる