305 / 328
番外編・大学生活編
君だけには最後まで信じて欲しいのに
しおりを挟む
「慎悟…」
すれ違いざま、しっかり目が合ったと思ったのに慎悟は黙って通り過ぎていった。
あれから土日挟んで3日経過した。大学内で会っても、私が存在しない者のように接するし、連絡にはもちろん応答してくれない。
「慎悟様、ようやく悪夢から覚められたのですね」
「私はあなた様の味方ですわ」
「だから私は申しました、あの女はやめておけと」
ここぞとばかりに加納ガールズが彼の周りを固めて、こちらを嘲笑してくる。事情も知らないのにこっちが悪いみたいな言い方をして貶してくるんだ…
相手が話す気がないならこちらとしても手も足も出ない。慎悟は怒ると、こういう風にだんまりになるところがある。私と慎悟が付き合う前にも何度か同じことがあったけど……今回ばかりは原因が原因なので私も弱ってしまった。
大好きな部活の時間も私は覇気なく活動していた。バレーに集中したいけど頭によぎるは慎悟のことなのだ……
「エリカ…大丈夫だよ、加納君はきっと頭を冷やしてるんだと思う」
「そうです、きっとほとぼりが冷めた頃になれば話をしてくれるようになりますよ。その時しっかり弁解したらきっと理解してくださるはずです」
私と慎悟の間の異変に気づいたぴかりんと阿南さんには事情を話している。喧嘩の原因を話したら2人は災難だったね、と優しい言葉を掛けてくれた。
友人たちは私を信じてくれるのに……どうして慎悟は信じてくれないのだろうか…。私は浮気なんかしてない。する気もない。
他の男に抱きしめられるのは気持ち悪くて怖かったんだ。……怒るんじゃなくて、「怖かったな」って言って優しく抱きしめてほしかったのにな……
「二階堂さん」
その声に私の肩はピクッと揺れた。
しかめた顔そのままに振り返ると、そこには例の先輩がいた。
「婚約者とあの後喧嘩になったんでしょ? ごめんね、悪気はなかったんだけど」
「……彼女にされて嫌だったことを、よくも出来ましたね。嫌がっている女相手に悪気はなかったってよくも言えますねっ!」
彼女のことを罵倒していた口がよく言えるわ…! 言い方からして気に入らない。私の中で敵認定である。
怒りに任せて、持っていたバレーボールをぶん投げてやる。
「エリカ!」
ボコッと相手のお腹にぶつかったバレーボールがてーん、と体育館の床に跳ねた。
ぴかりんが慌てて私を止めるが、私は相手を睨みつけて怒鳴ってやった。
「ふざけんな! あんたのせいで慎悟はひどい誤解をして、私と話をしてくれなくなったんだぞ!」
──なにが悪気がなかっただ。
そんな言い訳で納得するわけがないだろうが!
「エリカ、落ち着いて!」
私の世界の中心は今や慎悟なのだ。彼にしっかり依存してしまっている自覚がある。…彼がいなきゃ私は崩れ落ちてしまいそうになるのだ。
どうしてくれるんだ。…私が何をしたというんだ。
感情が高ぶった私が吠えると、暴走を恐れたぴかりんが拘束するように抱きしめてきた。今の私よりも背の高いぴかりんがハグをすると、彼女の首に顔を埋める形になる。背が高くバレーで鍛えているとは言ってもぴかりんは女性だ。…慎悟とは違う。慎悟はこんなに柔らかくない。
なのに慎悟の腕を思い出してしまう私はよほど重症みたいだ。
「落ち着いて、大丈夫だって。どうどうどう」
ポンポンと背中を叩かれながら落ち着けと言われるが、この男の顔を見るとイライラが湧き出すんじゃ! ふんすふんすと鼻息荒く怒っている私を抑え込むぴかりんはさしずめ調教師か。馬じゃないんだからどうどうどう言うな。
「…謝れば済むと思えば大違いですわ。目障りです、さっさと消えてくださいな」
阿南さんがピシャリと先輩に冷たく吐き捨てていた。
それに先輩がごちゃごちゃ言っていたみたいだけど、他の人がその人をどこかに連れて行ってくれたみたいだ。
「自分がされて嫌だったことを平然とする人間なんて底が浅い証拠ですわ」
「どうせエリカを世間知らずの気弱なお嬢様だと思って軽い気持ちで近づいてきたんでしょ。あの人大学からの外部生だし、加納君とエリカが仲良いのを全然知らなかったのよ」
阿南さんとぴかりんの会話を聞いているうちに少しだけ冷静になったけど、依然として私の気持ちは落ち込んだままだった。
私は慎悟に嫌われてしまったんだ。軽蔑されちゃったんだ。あんなにも私を大事にしてくれる彼を失いそうになっているんだ。
……信じてほしかったんだ。
他の誰も信じてくれなくとも、慎悟にだけは信じてほしかったのに。
■□■
「加納君と喧嘩したんだって?」
「……わかってるくせになんで聞いてくるの」
同じ学部の奴とは講義時間がかぶる。
ここ数日、私と慎悟は離れた席で別々に講義を受けているのだが、その隙を狙ってサイコパスが隣の席に座ってくるのだ。
席移動したいけど、講義始まっちゃったので我慢する。
「だから苦労するよって言ったのに。加納君って心狭い所あるから」
「あんたと一緒になったほうが苦労すると思うけどね」
毎日がサイコスリラーは御免こうむる。
それに慎悟は心が狭いのではなく、私が大好きすぎて嫉妬しちゃうだけなのだ……今回のは完全なる誤解だけど……。
講義なのに私は全く集中できなかった。隣の上杉がヒソヒソ声かけてくるのが鬱陶しいってのもあったけど、上杉が隣にいるのに心配する素振りもない慎悟にもやもやしていたのだ。
振り向くくらいしたらどうなのよ……。
講義を終えた私は帰宅準備をした。女子バレー部の部長に今日の部活は休みなさいと言われたからである。腑抜けな私のままでは士気にも関わるってことであろう……情けない限りである。
「珍しいね、部活休みなの?」
「うるさい上杉、ついてくるな」
「お茶に行こうよ、帰りも送ってあげるから」
嫌だよ、あんたの家の車に乗ったら二度と家に帰れなさそうじゃない。
速歩きで歩いているのに横並びしてくる上杉。コンパスの差が憎い。横目で睨みつけると、底が見えなさそうな笑顔を向けられて悪寒が走った。
「笑ちゃん!」
その声に私はピタリと足を止める。
数歩先にスーツ姿の長身の男性が立っていたからだ。温和で親しみやすいフツメン顔の彼は……
「ユキ兄ちゃん!」
すっかり大人になった彼は今や社会人。優しい笑顔で微笑みかける。
「良かった、まだ大学にいて。メッセージ送ったけど返事がないからもしかしたら帰ってるかもと思ったけど…」
「えっ…さっきまで講義だったから見てなかった。ごめん」
ううん、いいんだ、と笑うユキ兄ちゃんは相変わらず元気そうで安心した。…しかし、ユキ兄ちゃんはなぜここにいるのか…就職先は隣市の端っこのはず……
彼は持っていた紙袋から一通の封筒を取り出したのだが、はた、となにかに気づいた様子で目を瞬かせた。
「あ…ごめん、友達と一緒だった?」
「友達違う、これストーカー」
ユキ兄ちゃん、その誤解はだめだ。危険過ぎる。
こんな奴友達じゃない。話したことあるでしょ、エリカちゃんマニア凶悪ストーカーの存在。
「ひどいなぁ、そんなひどい紹介の仕方なくない?」
「うるさい変態。帰れ」
シッシッとあしらうと上杉は肩をすくめていたが、ユキ兄ちゃんから「ごめんね、個人的な話があるから外して欲しい」とお願いされると、ため息を吐いて大人しく帰っていった。
知らない大人相手には静かに引くのか。いつもこうやって簡単に引いてくれたら私も楽なんだけどな。
上杉が離れたのを確認すると、ユキ兄ちゃんは持っていた白い封筒を私に差し出してきた。ユキ兄ちゃんが手渡してきたのは結婚式の招待状だった。
「営業周りで近く通ったから来たんだ。元気かなって思って。…それと、今度彼女と結婚することになったんだ」
その言葉に私は目を丸くした。
彼女、ユキ兄ちゃんの彼女。…あの運命の日、初恋に気づき、失恋したあの日、彼らの口づけのシーンが脳裏に蘇った。
──そうか、結婚するのか。
おめでたいことなんだが、大好きなお兄ちゃんが別の人のものになってしまい、家族じゃなくなってしまうような気分になって寂しくなった。
「これを笑ちゃんに直接渡したかったんだ。友人枠での招待になるけど…。慎悟君と一緒に来てほしいな」
ユキ兄ちゃんはきっと彼女さんとの結婚を待ち望んでいたのだろう。ワクワクしているのが見てるだけでわかる。
「笑ちゃんにお祝いしてほしいんだ」
憑依して別人の身体にいる私のことを今でも妹のように可愛がってくれるユキ兄ちゃん。
私はそのお願いに快く頷く。
「うん、もちろん喜んでお祝いに行かせてもらうよ。……だけど慎悟はいけないかも」
行こうと誘ったところで来るどころか無視されて終わると思う……
私ががくりとうなだれると、ユキ兄ちゃんは眉を八の字にさせて困った顔をしていた。
「やっぱり忙しいかな?」
「そうじゃないの…」
慎悟を怒らせてしまって、口を利いてもらえない状況なのだ。と説明すると、ユキ兄ちゃんは首を傾げていた。
その説明だけでは、へそ曲げた慎悟が子どもみたいにいじけているように聞こえる。なので仕方なくこの間起きた事件と誤解について説明していると、あら不思議。
泣く気はないのに涙が溢れてきてしまったじゃないか。
私の泣く場所は慎悟の腕の中と決まっていたのにな。
ユキ兄ちゃんの優しい、全てを受け入れてくれそうな雰囲気に心許して私はべそべそ泣き始めてしまったのである。
すれ違いざま、しっかり目が合ったと思ったのに慎悟は黙って通り過ぎていった。
あれから土日挟んで3日経過した。大学内で会っても、私が存在しない者のように接するし、連絡にはもちろん応答してくれない。
「慎悟様、ようやく悪夢から覚められたのですね」
「私はあなた様の味方ですわ」
「だから私は申しました、あの女はやめておけと」
ここぞとばかりに加納ガールズが彼の周りを固めて、こちらを嘲笑してくる。事情も知らないのにこっちが悪いみたいな言い方をして貶してくるんだ…
相手が話す気がないならこちらとしても手も足も出ない。慎悟は怒ると、こういう風にだんまりになるところがある。私と慎悟が付き合う前にも何度か同じことがあったけど……今回ばかりは原因が原因なので私も弱ってしまった。
大好きな部活の時間も私は覇気なく活動していた。バレーに集中したいけど頭によぎるは慎悟のことなのだ……
「エリカ…大丈夫だよ、加納君はきっと頭を冷やしてるんだと思う」
「そうです、きっとほとぼりが冷めた頃になれば話をしてくれるようになりますよ。その時しっかり弁解したらきっと理解してくださるはずです」
私と慎悟の間の異変に気づいたぴかりんと阿南さんには事情を話している。喧嘩の原因を話したら2人は災難だったね、と優しい言葉を掛けてくれた。
友人たちは私を信じてくれるのに……どうして慎悟は信じてくれないのだろうか…。私は浮気なんかしてない。する気もない。
他の男に抱きしめられるのは気持ち悪くて怖かったんだ。……怒るんじゃなくて、「怖かったな」って言って優しく抱きしめてほしかったのにな……
「二階堂さん」
その声に私の肩はピクッと揺れた。
しかめた顔そのままに振り返ると、そこには例の先輩がいた。
「婚約者とあの後喧嘩になったんでしょ? ごめんね、悪気はなかったんだけど」
「……彼女にされて嫌だったことを、よくも出来ましたね。嫌がっている女相手に悪気はなかったってよくも言えますねっ!」
彼女のことを罵倒していた口がよく言えるわ…! 言い方からして気に入らない。私の中で敵認定である。
怒りに任せて、持っていたバレーボールをぶん投げてやる。
「エリカ!」
ボコッと相手のお腹にぶつかったバレーボールがてーん、と体育館の床に跳ねた。
ぴかりんが慌てて私を止めるが、私は相手を睨みつけて怒鳴ってやった。
「ふざけんな! あんたのせいで慎悟はひどい誤解をして、私と話をしてくれなくなったんだぞ!」
──なにが悪気がなかっただ。
そんな言い訳で納得するわけがないだろうが!
「エリカ、落ち着いて!」
私の世界の中心は今や慎悟なのだ。彼にしっかり依存してしまっている自覚がある。…彼がいなきゃ私は崩れ落ちてしまいそうになるのだ。
どうしてくれるんだ。…私が何をしたというんだ。
感情が高ぶった私が吠えると、暴走を恐れたぴかりんが拘束するように抱きしめてきた。今の私よりも背の高いぴかりんがハグをすると、彼女の首に顔を埋める形になる。背が高くバレーで鍛えているとは言ってもぴかりんは女性だ。…慎悟とは違う。慎悟はこんなに柔らかくない。
なのに慎悟の腕を思い出してしまう私はよほど重症みたいだ。
「落ち着いて、大丈夫だって。どうどうどう」
ポンポンと背中を叩かれながら落ち着けと言われるが、この男の顔を見るとイライラが湧き出すんじゃ! ふんすふんすと鼻息荒く怒っている私を抑え込むぴかりんはさしずめ調教師か。馬じゃないんだからどうどうどう言うな。
「…謝れば済むと思えば大違いですわ。目障りです、さっさと消えてくださいな」
阿南さんがピシャリと先輩に冷たく吐き捨てていた。
それに先輩がごちゃごちゃ言っていたみたいだけど、他の人がその人をどこかに連れて行ってくれたみたいだ。
「自分がされて嫌だったことを平然とする人間なんて底が浅い証拠ですわ」
「どうせエリカを世間知らずの気弱なお嬢様だと思って軽い気持ちで近づいてきたんでしょ。あの人大学からの外部生だし、加納君とエリカが仲良いのを全然知らなかったのよ」
阿南さんとぴかりんの会話を聞いているうちに少しだけ冷静になったけど、依然として私の気持ちは落ち込んだままだった。
私は慎悟に嫌われてしまったんだ。軽蔑されちゃったんだ。あんなにも私を大事にしてくれる彼を失いそうになっているんだ。
……信じてほしかったんだ。
他の誰も信じてくれなくとも、慎悟にだけは信じてほしかったのに。
■□■
「加納君と喧嘩したんだって?」
「……わかってるくせになんで聞いてくるの」
同じ学部の奴とは講義時間がかぶる。
ここ数日、私と慎悟は離れた席で別々に講義を受けているのだが、その隙を狙ってサイコパスが隣の席に座ってくるのだ。
席移動したいけど、講義始まっちゃったので我慢する。
「だから苦労するよって言ったのに。加納君って心狭い所あるから」
「あんたと一緒になったほうが苦労すると思うけどね」
毎日がサイコスリラーは御免こうむる。
それに慎悟は心が狭いのではなく、私が大好きすぎて嫉妬しちゃうだけなのだ……今回のは完全なる誤解だけど……。
講義なのに私は全く集中できなかった。隣の上杉がヒソヒソ声かけてくるのが鬱陶しいってのもあったけど、上杉が隣にいるのに心配する素振りもない慎悟にもやもやしていたのだ。
振り向くくらいしたらどうなのよ……。
講義を終えた私は帰宅準備をした。女子バレー部の部長に今日の部活は休みなさいと言われたからである。腑抜けな私のままでは士気にも関わるってことであろう……情けない限りである。
「珍しいね、部活休みなの?」
「うるさい上杉、ついてくるな」
「お茶に行こうよ、帰りも送ってあげるから」
嫌だよ、あんたの家の車に乗ったら二度と家に帰れなさそうじゃない。
速歩きで歩いているのに横並びしてくる上杉。コンパスの差が憎い。横目で睨みつけると、底が見えなさそうな笑顔を向けられて悪寒が走った。
「笑ちゃん!」
その声に私はピタリと足を止める。
数歩先にスーツ姿の長身の男性が立っていたからだ。温和で親しみやすいフツメン顔の彼は……
「ユキ兄ちゃん!」
すっかり大人になった彼は今や社会人。優しい笑顔で微笑みかける。
「良かった、まだ大学にいて。メッセージ送ったけど返事がないからもしかしたら帰ってるかもと思ったけど…」
「えっ…さっきまで講義だったから見てなかった。ごめん」
ううん、いいんだ、と笑うユキ兄ちゃんは相変わらず元気そうで安心した。…しかし、ユキ兄ちゃんはなぜここにいるのか…就職先は隣市の端っこのはず……
彼は持っていた紙袋から一通の封筒を取り出したのだが、はた、となにかに気づいた様子で目を瞬かせた。
「あ…ごめん、友達と一緒だった?」
「友達違う、これストーカー」
ユキ兄ちゃん、その誤解はだめだ。危険過ぎる。
こんな奴友達じゃない。話したことあるでしょ、エリカちゃんマニア凶悪ストーカーの存在。
「ひどいなぁ、そんなひどい紹介の仕方なくない?」
「うるさい変態。帰れ」
シッシッとあしらうと上杉は肩をすくめていたが、ユキ兄ちゃんから「ごめんね、個人的な話があるから外して欲しい」とお願いされると、ため息を吐いて大人しく帰っていった。
知らない大人相手には静かに引くのか。いつもこうやって簡単に引いてくれたら私も楽なんだけどな。
上杉が離れたのを確認すると、ユキ兄ちゃんは持っていた白い封筒を私に差し出してきた。ユキ兄ちゃんが手渡してきたのは結婚式の招待状だった。
「営業周りで近く通ったから来たんだ。元気かなって思って。…それと、今度彼女と結婚することになったんだ」
その言葉に私は目を丸くした。
彼女、ユキ兄ちゃんの彼女。…あの運命の日、初恋に気づき、失恋したあの日、彼らの口づけのシーンが脳裏に蘇った。
──そうか、結婚するのか。
おめでたいことなんだが、大好きなお兄ちゃんが別の人のものになってしまい、家族じゃなくなってしまうような気分になって寂しくなった。
「これを笑ちゃんに直接渡したかったんだ。友人枠での招待になるけど…。慎悟君と一緒に来てほしいな」
ユキ兄ちゃんはきっと彼女さんとの結婚を待ち望んでいたのだろう。ワクワクしているのが見てるだけでわかる。
「笑ちゃんにお祝いしてほしいんだ」
憑依して別人の身体にいる私のことを今でも妹のように可愛がってくれるユキ兄ちゃん。
私はそのお願いに快く頷く。
「うん、もちろん喜んでお祝いに行かせてもらうよ。……だけど慎悟はいけないかも」
行こうと誘ったところで来るどころか無視されて終わると思う……
私ががくりとうなだれると、ユキ兄ちゃんは眉を八の字にさせて困った顔をしていた。
「やっぱり忙しいかな?」
「そうじゃないの…」
慎悟を怒らせてしまって、口を利いてもらえない状況なのだ。と説明すると、ユキ兄ちゃんは首を傾げていた。
その説明だけでは、へそ曲げた慎悟が子どもみたいにいじけているように聞こえる。なので仕方なくこの間起きた事件と誤解について説明していると、あら不思議。
泣く気はないのに涙が溢れてきてしまったじゃないか。
私の泣く場所は慎悟の腕の中と決まっていたのにな。
ユキ兄ちゃんの優しい、全てを受け入れてくれそうな雰囲気に心許して私はべそべそ泣き始めてしまったのである。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
身代わりの少女騎士は、王子の愛に気付かない。
有沢真尋
恋愛
大国の第三王子であるエグバードは、小国の末姫に「一目ぼれ」。
結婚を申し込み、話はすんなり進んだものの、結婚直前に姫は騎士団長との愛を貫き、失踪。
残された少女騎士アシュレイに、エグバードは「周りを欺き、姫の代わりとなって自分と結婚すること」を命じた――
・表紙はかんたん表紙メーカーさま
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる