お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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番外編・アメリカ留学編

事の次第【三人称視点】

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 笑と慎悟を狙った襲撃事件の犯人探しは難航することなく見つかった。
 主犯はあの晩ふたりが参加したパーティの主催者である夫妻の一人娘だ。慎悟を射止めるためには婚約者の女が邪魔だったから排除しょうとしたのだ。

『ステファニー…お前、なんてことをしてくれたんだ!』

 逮捕された襲撃者の自供でステファニーの元へ警察がやってきたが、彼女は慌てることもなく、ふてぶてしい態度であった。
 
『あなたはどうしてそんなにパパとママを困らせるの!?』

 両親の説教にもどこ吹く風。
 夫人が顔を覆って泣き出しても、ステファニーは全く気にした様子がなかった。

 財閥の一人娘として生まれたステファニーは甘やかされて育った。
 何でも欲しい物を与えられ、わがままを聞いてもらった。可愛がるあまりに全く叱ることをしなかった。両親に溺愛されて何不自由ない生活を送っていた。

 そんな彼女はどこで道を誤ったのか、素行不良な娘に成長した。
 昔から気に入らない人間がいれば、容赦なく排除してきた。それを親は金でもみ消し、周りは萎縮し、ステファニーは助長する。わがままを通り越した、トンデモ令嬢に成長してしまったのだ。

 この時点で彼女には沢山の前科があった。未成年時からの飲酒喫煙はもちろんのこと、ドラッグ乱用、暴行事件。
 不特定多数の男性との淫らな関係、妊娠による堕胎……
 そのどれも親が今まで金で解決してきた。だけど今回ばかりはまずかった。

 まず関わった人間だ。
 加納家、二階堂家の令息令嬢を狙ったことが一番まずかった。特に世界でもそこそこ有名な大企業の二階堂家令嬢のほうだ。彼女は二階堂家当主が目に入れても痛くないほど可愛がっている孫娘だと聞く。
 あちらにこのことが伝わればきっと経済的な制裁を与えられること間違いない。
 加納家もそうだ。輸入関係の会社を持つ相手。これからの取引は絶望的。加納家と深く関わる企業との取引もなくなってしまう恐れもあった。

 更に、助太刀に入った人間が劉家の人間だったのもまずい…
 劉家が抱える会社は香港でメキメキその頭角を現し、ここ最近アメリカに進出した勢いのある企業だが、手掛ける事業は幅広く、その影響は無限大だ。
 間違いなく、今回のことで取引がなくなって大損すること間違いない。

 反省の色もなくむっすりした娘を見下ろし、男性はうなだれた。 
 どんな不良娘にでも夫妻にとって可愛い娘だった。だからなんでも与えてきたし、守ってきた。
 だけどそれが逆効果だったようだ。
 大金叩いて有名大学に裏口入学させたが、それももう無理なようだ。娘の為にはなっていない。自分たちの育て方が悪かったのだと猛省した。

 会社は一度潰れても、またイチからやり直せる。だけど娘の人生はやり直せない。
 ステファニーは色んな人に恨まれていた。金で解決しても、人の心まではどうにも出来ない。このままここにいさせても、彼女は変わらないであろう。


 彼らにとって苦渋の決断だった。
 その上で決断した。娘の更生を願って、更生施設に入れようと。
 更に最悪な犯罪に手を付ける前に、手を打とうと。それが親である自分たちができる最大の事だと。

 密かに退学処分になったステファニー。事の次第を被害者のふたりが知るのは、彼女が完全にいなくなった後のことだった。

 こうして、人知れず彼女は姿を消したのである。
 
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