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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

自信を持つことは大事。つまり、エリカちゃんは美少女だってこと!

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 期末テストの答案が全て返却された。
 今回も主席だった幹さんは3年間主席を誰にも譲らずに、主席制覇の栄冠をゲットした。
 HRの時間、担任の先生がそれをべた褒めしていて、幹さんは顔面トマトみたいになっていた。でも幹さんはもっと威張っていいと思うの。廊下ですれ違ったいじめっ子玉井にドヤ顔してやればいいのに、普段どおり。
 幹さんは本当に謙虚な女の子である。

 私の成績はまぁまぁだったよ。2年前の私が見たらきっとびっくりするはず。ちゃんと復習もしたし、3学期に行われる進学試験に向けて勉強は継続している。


 生徒たちの意識はテスト結果や進学試験よりも、クリスマスパーティに向いていた。
 パーティ目前になると、すでにパートナーが決まっている人、パートナーがいなくて焦る人と、もう諦めている人の3タイプに分かれていた。
 相手がいなくて困っている人は血眼になって相手を探しており、手当り次第に声を掛けまくっていた。最悪、相手にパートナーがいても、ダンスを一曲踊ってくれたらいいとお誘いする人もいた。
 
 私のダンスパートナーである慎悟だが、毎年のことながら女子に捕まってはお誘いを受けている。断っても断ってもひっきりなしに慎悟のまわりに女子が群がる群がる。
 今も彼は女子生徒に声をかけられている最中だ。

「加納君、ダンスパーティなのだけど…」
「ごめん。パートナーは決まっているんだ」
「一曲くらいは相手してくれてもいいでしょう?」
「彼女以外のダンス相手はしないことにしているから」

 モテモテな彼には、男子生徒による恨みの視線が集中していた。全く罪な男である。
 女の子からお誘いを受けまくっている慎悟はずっと定型文のようなお断りの返事を繰り返していた。ちょっとだけ彼がげんなりして見えるのは私の目の錯覚ではない。
 なんたって諦めの悪い加納ガールズが毎日リベンジしてくるのだ。それに加えてのお誘いラッシュに慎悟は疲弊していた。

「えぇ…? 彼女って二階堂さんよね? ちょっと心狭すぎない?」

 断られた女子生徒は慎悟の隣にいた私へ非難の目を向けてきた。人の目の前で堂々とお誘いしておいて何だその言い草は。
 大体それは慎悟が決めたことだ。決して私が束縛したんじゃないもん。
 その言い方にはムッとしたぞ。なんで私が我慢してやんなきゃいけないのさ。

「恋人が他の女の子と踊っているのを我慢してみてろって言いたいの? やだよ。そんな事して私に何の得があるの」

 私の反論に彼女は顔を顰めていた。そんな顔されても困る。恋心は抑えられないから、告白なら仕方ないとわかるけど、それ以上となると私だって嫉妬するんだ。
 あなたは自分の彼氏が他の女とくっついて踊るのを許せるの? 私は許せないんだ。悪いけど諦めてくれ。

「彼女を不安にさせたくないんだ。悪いな」

 切り上げるように慎悟が無理やり話を終わらせた。肩を押されて歩くように促されたので、私は周りに見せびらかすように慎悟の腰に腕を回した。
 もうベッタベタですよ! ラブラブですよ!
 加納ガールズに見られたら痴女扱いされるかもけど、これは恋人としての権限、堂々たる牽制だ。
 いいか、英学院にいる全ての肉食系・雑食系・草食系全女子に告ぐ。ここにいるファビュラス&マーベラスな男は私の恋人だ! 手出し無用であるぞ!

 はしたないと怒られるかなと思ったけど、私がぴったり密着しても慎悟はそのままにさせてくれた。


 ……慎悟を誘う女子たちに意識が向いていて全く気づかなかったけど、これまでにも私を誘おうとする勇気ある男子が数名存在したらしい。
 後でその事を聞かされてびっくりしたよ。流石エリカちゃんの美貌である。彼氏がいても引き寄せちゃうのね。美しいって罪。全然気づかんかったわ。
 そしたら「相変わらずあんたは鈍感だな」と慎悟にため息吐かれた。失礼な。

「慎悟以外とは踊らないのに。心配性だなぁ」
「……あんたはお人好しだからな。去年みたいなことになるのは俺が嫌だ」

 去年のことをまだ嫉妬しているのか。

「去年のクリパはあれだよ。斎藤君があまりにも悲壮だったから踊っただけ。親しくない人に誘われても踊らなかったよ」
「……どうだろうな? …大体それだけじゃないだろ」
「ちょっと。何その言い方。私の気持ちを疑うっての?」

 鼻で笑った慎悟の言い方が気に障った私は足を止めて慎悟を睨み上げた。
 他にも前科があるような言い方が気に入らないぞ!

「私にはあんただけだって何度言えば信じてくれるの?」
「別に気持ちを疑っているわけじゃない。だけどあんたは肝心なところで抜けているだろ」
「そんなことないよ!」
「そう言って何度危機的状況に陥った?」

 人を間抜けのように言ってくれちゃって! 全くもって遺憾だわ! 危機的状況に陥ったのは私が悪いんじゃない! トラブルが舞い込んでくるのが悪いんだ。
 私が怒って見せても慎悟は撤回しなかった。私と慎悟が想い合うようになるまで色々あっただろう。私も慎悟も葛藤した上で、お互いを選んだ。
 私は生半可な気持ちで慎悟の手をとったんじゃない。そんな尻軽みたいな言い方しなくてもいいじゃないか! もっと信じろよ!

「…あんた達さぁ、手をつないだまま痴話喧嘩してるけど、それわざとなの?」
「まぁ、いい牽制にはなりますわよね」
 
 呆れた声を掛けられて横を見ると、そこにはぴかりんと阿南さんがいた。彼女たちは呆れ半分、生温かい目で私達を観察していた。
 そうだここは廊下で……いつの間にか私達には周りからの視線が集まっていた。生徒たちの視線にさらされた私は急に恥ずかしくなった。

「もう! 慎悟が嫌味言ったから注目されちゃったじゃない!」
「あんたが大声で騒ぐからだろ」
「はいはい、2人が仲良しなのはわかったから痴話喧嘩はやめよう。ダンスパーティ前に喧嘩別れしたらシャレにならないでしょ」

 ぴかりんの制止により、私達は黙り込む。私かてこんな内容で喧嘩別れしたくない。
 ぴかりんと阿南さんは売店にいく途中だったようで、「喧嘩は程々にね」と言葉を残すと、立ち去っていった。
 手をぎゅっと握り返す感覚がしたので顔を上げると、彼が私を見下ろしていた。慎悟はなんだかバツが悪そうな顔をしていた。

「…言い方が悪かった。ごめん」
「…うん」

 慎悟が謝ってきたので、私は相槌を打つ。
 仲直りした私達は静かに歩いて教室に戻っていったのである。


■□■


 私は1人、机で家庭教師に出された課題を片付けていた。
 春高大会に向けて部活が忙しいのもあって、最近時間捻出が厳しいんだ。なので学校の休み時間を活用して勉強しているの。
 現在、友人たちはクリスマスパーティの話で盛り上がっているが、私はそれを辞退して1人でお勉強。回り回って私の糧になるから損ではないけど、リア充の空気に影響されることなく勉強している私って偉すぎる。
 ちなみに慎悟は相変わらずダンスパーティのお誘いを断ることに忙しい。さっき加納ガールズに付きまとわれていたから、どこかに避難しているのかも。

 教科書を開いて、わからなかった所を調べていたら、目の前に人が立った気配がした。私が顔を上げると……
 そこにいたのはサイコ上杉だ。

「ねぇ、クリスマスパーティではどんなドレスを着るの?」

 そんな質問をされて、私が半眼になってしまうのは当然のことであろう。
 別に教えてもいいけどさぁ、あんたとは踊らないからね。

「同じ色のドレススーツでも着てくるつもり? やめておきなよ。コメディアンみたいになるだけだよ」
「そういうわけじゃないけど……二階堂さんなら何でも似合うんだろうなと思って」

 言葉に含みをもたせるような言い方してるが、何を今更わかりきった事をいうのだろうかこのサイコパス。 

「当たり前じゃない。こんな美少女なんだから何を着ても似合いすぎてドレスが霞むに決まっているでしょう」
「…君、影でナルシストと呼ばれてるけどそれでいいの?」
「本当のことを言ってるの。何か問題でも?」

 私ブスだからー、なんてわざとらしい謙遜とかしませんよ。だってエリカちゃんは美少女だもん。こんな美少女なら、多少ナルシストでも許されるはずである。
 それに上杉あんただって「勉強得意なんだ」って言い切っていたじゃない。私だってバレーが得意だって胸を張って言えるもん。
 自信を持つのはいいことだと思うよ。自分を卑下しても何も生まれないんだから。

「加納君、すごい人気だけど放って置いていいの?」
「今に始まったことじゃないでしょ。いいの、私は慎悟を信じているから」
「……加納君も君もお互いが初めての彼氏彼女じゃない。…そういうカップルって浮気することが多いんだってよ」

 上杉の要らん一言に私は半笑いをした。まーた揺さぶり掛けようとしてるなこいつー。
 どこ情報だ。どこの統計だ。全く信憑性がないぞ。いい加減に上杉は、自分の信用がないということを自覚したほうがいい。
 あんたの言葉は薄っぺらいんだよ。信用に値しないんだ。

「大丈夫。もしも私に浮気心が湧いても、あんたとは絶対に浮気しないから」 

 売り言葉に買い言葉。
 上杉に対する煽り文句のつもりであった。

「…は?」

 だけど目の前の上杉ではない他の人物の声が聞こえてきた。その聞き覚えのありすぎる声に私がギギギと首を回すと…… 
 ツンドラ仕様の視線で私を睨みつける慎悟の姿があった。

「ちがっ、今のはものの例えで! 浮気する前提の話ではないよ!」
「加納君、二階堂さんたら浮気する気満々みたいだよ」
「ちゃうわ! 今のはあんたに対する嫌味です!」

 浮気なんかせんよ! この身体はエリカちゃんにもらった大事な身体。慎悟にしか許すつもりはないのだ。
 今のは失言だった。決して実行したわけでも、心が揺れたわけでもない。目の前のサイコパスに対抗するために放った言葉なんだ!!

「私は慎悟のために操を守ると決めているの! 私は慎悟だけのものだよ、他の男に心揺れることはないと地獄の閻魔様に誓ってもいい!」

 こんな事で破局するなんてたまったもんじゃない。上杉の策略に乗って転がされてたまるか。
 私は脳をフル回転させて必死に弁解した。
 慎悟、頼む信じてくれ。

 先程までツンドラだった慎悟の顔が呆けた顔に代わり、それがじわじわと赤面するに至るまで、そう時間はかからなかった。
 
「二階堂エリカァァァ──…! おのれっこの痴女! 女狐! 悪女ー!!」
「ヒェッ!? 痛い痛い巻き毛、痛い!」 

 直後に加納ガールズの一部である巻き毛にタコ殴りされたので、その後の慎悟の表情を見てなかったけど、阿南さんいわく『赤面して顔下半分を手で隠していたが、明らかにニヤけていた』そうだ。
 なにそれ見たかった!! ニヤける慎悟とか珍しすぎでしょ!!

 今回のはあんたが悪いと言ってぴかりんたちは助けてくれなかった。ひどい。私達は友達ではないのか!
 私は巻き毛にボカスカ殴られ、5時間目を髪の毛ボサボサの状態で受ける羽目になったのであった。
 巻き毛今までになく鬼の形相で、ちょっとチビりそうになったよ…すごく怖かった。

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