お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

品定めの次は視線、のち不審者。最近多くないか?

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「ていうかさ、まだあいつら慎悟に付き纏ってきてるわけ?」

 三浦君の問いに慎悟は訝しげな表情をしていたが、すぐに誰のことを差しているのか察したらしい。

「…櫻木達のことを言っているのか?」
「あいつら以外にいないだろ。二階堂さんも大変だね」

 巻き毛のことか。小学生の頃から同じ学校だったと聞いていたけど、その頃から勢いあのままなのか。

「追い払っても追い払ってもギャンギャン喚いては慎悟に纏わりついて鬱陶しかったなぁ。…あいつらも大学部進むんだよな?」
「お前ら仲悪かったよな」
「あいつらと仲良くなるとか無理だろ。何言ってんの?」
 
 三浦君は嫌なことを思い出したかのように顔をしかめていた。
 …そういえば巻き毛もそんな反応していたな。彼女たちなら慎悟の親友に友好的な対応しそうなのに、そうでもないのか……
 それとも、三浦君が加納ガールズを近づけたくないからって妨害している内に反感買われて仲が悪くなったのかな…

「あいつらをはね退けて交際にいきつけたのはスゴイ。…なぁ慎悟。二階堂さんの何処が好きになったの?」

 私が彼らの関係を推察していると、三浦君が私を見て首を傾げた。
 どこを好きになっただと? 不思議で仕方ないみたいなリアクションしないでくれないか。

「…ここで聞くか?」
「えーなに? 聞かれるの恥ずかしい? …いやぁ…だって俺の中の二階堂さんって大人しい人って印象が強くて、今の二階堂さんを知らないからさ、純粋に疑問に思ったんだよ」

 まぁ…周りに生まれながらのお嬢様がいるのに、よりによって選んだのが私だもんね……
 予想では、慎悟の好みはお淑やかで自立したお嬢様なんだよね。私だって、慎悟は好みのタイプではないので人のことは言えない。その辺は仕方がないと思っている。お互いに好みではないけど惹かれ合ってしまったのだ。
 多分、恋ってそんなものなんだよ。

 三浦君の問いに慎悟は少なからずとも動揺しているようだ。
 彼は私に対して真っすぐに想いをぶつけてくれるけど、周りの人間に惚気けるような性格ではない。普通に気恥ずかしいだろう。私だって慎悟のお母さんに聞かれた時激しく動揺したもん。 

「…笑った顔と一生懸命に生きている所、バレーボールをしている時の生き生きと輝いている姿が好きだ」
「…そうか」
「あと無駄に勇ましくて男らしい所と、時々甘えてくる所が可愛いと思っている。それと」
「あ、いいよ、わかった。お前が二階堂さんのことが好きなのは十分わかったから」
「…聞いてきたくせになんだそれ」

 おいおい、好きな箇所をたくさん上げてきたぞ。慎悟は真顔で答えており、惚気けているはずなのに全然恥ずかしくはなさそうである。
 逆に言われている私が恥ずかしくなって来たんですけど…

「二階堂さん、照れてるの? 顔真っ赤だよ」
「…アヒージョが熱かったの」

 三浦君がニヤニヤとからかってきたので、私はそれをアヒージョのせいにした。慎悟までこっちを見てきたので、私は俯いて赤くなった顔を見られないようにした。 

「逆に二階堂さんは慎悟の何処が好きなの?」
「……えっ」

 その問いに私は顔を上げた。
 えっ、私にも聞いちゃうの三浦君。もしかしてこれは面接みたいなアレですか? …エリカちゃんも色々訳ありな立場なので、親友として、慎悟の彼女を品定めしているのだろうか。
 だけど初対面の人に彼氏の好きなところを語るのはちょっと気が引けるんだよねぇ…
 
「な、慎悟も知りたいよな?」

 三浦君は楽しそうに笑いながら、慎悟に同意を求めていたが、慎悟はそれにうなずかなかった。

「それはこの間母さんに教えてもらったから知ってる」
「えぇっ!? おばさんもしかして慎悟に話しちゃったの!?」

 おばさんとのお茶会で息子の何処が好きなのと聞かれて、正直に語ったは良いけど…それを当の本人にバラしちゃうか、おばさん…!

「へー、おばさんはなんて?」
「……教えない」
「えーっなんだよー! 俺と慎悟の仲だろー!」
「それはそれ、これはこれだろ。俺が知っていれば良いことだから教えない」

 私が両手で顔を隠して項垂れていると、2人はそんなやり取りをしていた。おばさんに話した内容が本人の耳に入っていたなんて……恥ずかしい。勘弁してくれ…

「…お前変わったな。一丁前に独占欲かよ。昔はもっと、打算でものを考えて行動していたのにな」

 先程までのからかう声音から一変して、三浦君が素の声に戻っていた。その言葉に反応した私は顔を上げた。
 そういえばそうだな。出会った当初の慎悟は冷静に、損しないように動き回っていた気がする。シビアな思考をしており、エリカちゃんの姿をした私に辛口な発言をすることも多かった。
 …確かに意外なんだよな。私を選ぶ選択をしたことが。文化祭の時に慎悟に好意を告げられた時、嘘やろって思ったもの。

「…その考え方のせいで後悔した事があるんだ。だからやめた」

 慎悟は苦笑いすると、ちらりと私の顔を見てきた。
 後悔…というのはアレか。…何度も言うけど、去年のインターハイご臨終事件は私のせいじゃないんだって。…そんな事、第三者のいるこの場では口に出せないけどさ。

 不安げな笑みを浮かべる彼を安心させるために、膝の上に置かれている慎悟の左手をテーブルの下で握ってあげる。お店の冷房のせいでちょっと手の先が冷えて冷たくなっているからか、余計に慎悟の手が熱く感じた。

「…手が冷えてる。冷房弱めてもらうか?」
「大丈夫だよ…ありがとう」

 気遣う言葉をかけながら慎悟は上に羽織っていたシャツを脱ぐと、私の肩に掛けてきた。やる事が紳士だな。ちょっとキュンとときめいたではないか。
 図書館はそんなに冷房きつくなかったけど、今いるお店はガンガン冷房きかせてるもんね。自分の上着を持ってくるべきだった。借りたシャツが肩からずり落ちないように袖を通していると、ふと視線を感じたので私が顔をそちらに向けると、三浦君がこっちを無表情で見ていた。
 私と目が合ったと気づくと、彼はまた陽気な笑顔を浮かべていたが……その違和感は多分気のせいではない。
 間違いなく、三浦君は私を品定めしているんだと確信した。

 彼は慎悟との思い出話に花を咲かせていた。まるで自分と慎悟がどれほど仲良しかをアピールされているようであった。仲良きことは美しきことだと思うよ。
 食事を終えた後も彼は行動を共にし、慎悟から「今の状況を読めよ。デート中だってわからないのか?」と指摘を受けても「久々なんだから良いじゃん、冷たいこと言うなよー」と言って、私達の間に居座り続けたのである。
 

 彼が私を品定めをしているのはこれでよくわかった。大事な友達を想う気持ちがそうさせるのだろうと、自分に言い聞かせて我慢した。

 監視と牽制をされているみたいで気持ちが悪く、折角の慎悟とのデートが全然楽しくなかった。
 その日迎えに来た車に乗って帰宅すると、ようやく解放された気分になり、肩の荷が下りて安心した。


■□■


 彼氏の親友がくっついたままの図書館デートのあった日から翌週、私は毎年恒例バレー部の合宿に参加していた。
 合宿場に到着後、昼練習が行われたので隣接されている体育館でストレッチをしながら、私はぴかりんに気になることを話した。

「…最近視線を感じるんだよね」

 私の言葉にぴかりんはストレッチを止めて、私をまじまじと見つめてきた。

「…あんた目立つもんね。今更じゃないの」
「いや、そういうのじゃなくてね…」

 エリカちゃんが美少女故に受ける視線とは違う。……探るような、粗捜しするような、嫌な感じの視線なんだ。上杉の蛇みたいな気持ち悪い視線とも違うし、今までとちょっとタイプが違うんだよね。
 山の麓の合宿場にバスで向かう最中はそれが一時的に無くなったけど……ここに到着してからは、どこかでまた監視されているような気持ち悪さが拭いきれないんだ。

「二階堂先輩は気づいていないかもしれませんけど、男子の視線集めているんですよ。それじゃないんですか?」

 最近態度が軟化した元反乱児の1年、佐々木さんが胡乱げな表情で声を掛けてきた。私達の会話が聞こえていたようである。
 二階堂家の娘というわけでも注目されることは多いけど、なんたってこの美貌である。私が男なら注目すること間違いない。だけどそういうのじゃなくて…

「そりゃあエリ…私は可愛いけど…そうじゃなくて、もっとさぁ」
「二階堂先輩のそのナルシスト、突っ切ってて嫌味に感じませんよね。むしろ清々しさを感じます」
「私はナルシストじゃないのよ、佐々木さん」

 私はエリカちゃんになってしまったが、自分の美貌という意識は持てないので、どうしてもエリカちゃんを賛美する意味で発言してしまう癖がある。だが自分自身を賛美しているわけじゃないからナルシストじゃないと思うんだ。
 ここで謙遜するのも微妙じゃない。美少女なのは真実なんだから。
 中の人が違うの。だけどそんな事彼女たちは知らないので、私はナルシストキャラに認定されつつある。そんなキャラ付け要らないんだけどな。
 
「あいつらこっち見てますよ」

 珠ちゃんがそう声を掛けてきた。彼女の視線を追うと男子バレー部の1年の集団が目に入った。言われてみればこっちを見ながらなにか話をしているようだが、会話の内容は聞こえない。
 強化合宿だっていうのに何もしないでおしゃべりか。いい度胸だな。1年だからって油断しているんだろうか。
 不真面目な奴らには興味ない。私は視線を反らしてストレッチを再開した。珠ちゃん達は男子の視線に不快感を示していたようだが、無視を決め込むことに決めたようだ。
 

「おーい、女子注目!」

 手慣らしでトス練習をしている私達に、コーチが声を掛けてきた。練習開始直後からしばらく姿が見えないなと思っていたが、電話をしていたらしい。コーチの手にはスマホが握られていた。

「この合宿場の外に怪しい車を見掛けたので、女子はなるべく単独で外に出ないように。警察には通報しているけど、頻繁にパトロールというわけには行かない。もしもの事を想定して各自自衛するように」

 インターハイ前の大事な時期に飛び込んできた不審者情報。女子部員達は不安げに表情を曇らせている。
 基本的に部員たちは合宿場から外には出ない。マネージャーたちの買い出しには顧問の工藤先生が車を出すので問題はない。
 …だけど、明日の肝試しと最終日のバーベキューと花火はどうするのだろうか。私はそれが心配になってコーチに質問した。

「じゃあ明日と明後日の夜のイベントは中止ですか?」
「状況によるが…肝試しは男女ペアで動く。3日めの打ち上げも基本団体行動だ。女子1人にならなければ大丈夫だと思う」

 街から離れた山の麓の合宿場に不審者。ここから車で20分くらい走れば、民家や大型スーパーのある街にたどり着く。そこには交番もある。
 人がたくさんいる街ではなくて、この合宿場にわざわざ出没する不審者。若い女の子たちの練習姿を覗きに来たのか、盗撮に来たのか……この間も学校周辺に不審者現れて大変だったのに、合宿先でもって…勘弁して欲しい。

 この時期はバレーにだけ集中したいのに、監視されているようで、気味が悪くて仕方がない。

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