お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

どんな宝飾品よりも、私のことを考えてくれたプレゼントが何より嬉しい。

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「1年1組、神崎かんざきたまです! 専攻はスパイカー、目標の人は誠心高校の松戸笑選手です!」

 新1年生が入部してきた。
 部員全員集合してお互いに自己紹介をしていたのだが、そのうちの1人がそんな事を言っていた。新3年生とコーチ・顧問から一気に注目が私に集まったのは気のせいではないはず。
 …彼女、よく見たら以前に特待生試験会場を聞いてきた女の子じゃないか。ベリーショートがよく似合う女の子。…そうか受かったのか。
 ……知らないうちに、誰かの目標の人になっていたのか私…
 ここで別人に憑依した私が照れても仕方がない。表情を変えないようにポーカーフェイスを気取ってみたが、阿南さんから「表情がこわばっていますが大丈夫ですか二階堂様」と心配されてしまった。
 新入生全員の挨拶が終わると、在校生側が自己紹介することになり、私も前に出て自己紹介する。

「3年3組の二階堂エリカです。専攻はスパイカーです。よろしくお願いします」

 するとザワッと新1年生たちがどよめき始めた。これ、去年の1年生…現在の2年生の反応もこうだったなぁ…二階堂家の娘だからかなぁと思ったけど、そうじゃない。致命的な身長の低さでスパイカーポジであることが原因だ。
 やっぱり身長がなぁ…プロとしては使えないこの身長でスパイカーなのが異様なのだろう。
 実際に男子日本代表選手で175cmのスパイカーがいる。バレー選手としては低いが、日本人男子の平均よりもやや高い。一方でこの身体は日本人女子の平均よりも若干低い。このバレー部の中でも…下手したらリベロ専攻の子よりも低いかもしれない……。
 凹むわ。今年18歳のこの身体の骨端線は……現実は厳しかったというわけね…。
 でももしかしたらまだ…希望が……

 今の私は156cmのスパイカーではあるが、やる気だけは誰にも負けない。高校最後のインターハイに春高大会のレギュラーの座は渡さないよ! その前にまずは予選突破だ。無理しないように練習しなきゃね!
 習い事に関しては、部活動を優先させてもらっているので、ぼちぼちと言ったところである。程々にがんばります。

 お互いの紹介を終えた後、今年の女子バレー部部長に任命されたぴかりんが1年生を引き連れて指導し始めた。私達在校生は別メニューの練習に移ることに。
 先輩たちが卒業して少し寂しかった女子バレー部に新入部員が入ってきたことで賑やかに変わった。私は高校最後のバレー生活が充実しそうな気がしてならなかった。


■□■


「ほら、今日…誕生日だろ」
「えっ覚えててくれたの?」

 4月10日の朝、いつものように登校すると、教室にて慎悟からプレゼントを貰った。小さな声で「誕生日だろ」と言われた私は目を丸くして慎悟を見上げてしまった。
 そういえば去年自分から誕生日アピールしたんだったな。

「…私は去年地獄にいたから慎悟の誕生日祝ってあげられなかったのに…なんて健気な子なの、あんた…」

 私は感動でうるうるしてしまった。表向き宿主の誕生日は七夕の日なのに、彼は松戸笑の誕生日を祝ってくれるのだ。これを嬉しいという言葉以外でなんて表現する?
 まさか誕生日を覚えていてくれるなんて…嬉しいじゃないの!
 慎悟は私の反応に苦笑いをしていたが、仕方ないなって言った感じの笑い方だったので、不快に感じているわけではないようだ。

「…宝飾品はあんたが喜ばないだろうから…悩んでこれに決めたけど、文句言うなよ」

 何? え、何を用意してくれたの? 文句なんて言うわけないのに…
 私が首を傾げて包装を解くと、中にはオシャレな入浴剤と膝のサポーターが入っていた。普段遣いできるやつじゃないか! 確かにネックレスとかよりも私はこっちのほうが嬉しい。よく私のことをわかっているじゃないか。

「ありがとう! さっそく使わせてもらうね!」
「ちょっと待った。何も今使わなくてもいいだろ」

 私がサポーターを袋から取り出そうとすると、慎悟に止められた。そうか、教室で着けるのははしたないよね。

「じゃあ更衣室で着けてくるよ」
「そうじゃなくて」

 教室を出ようとする私を慎悟が引き止める。何故止める。貰ったものをすぐに使いたいだけなのよ。更衣室で着けてくるからはしたなくないでしょうが。

「運動していない時まで着け続けるのは、体に良くない。部活の時だけにしろよ」
「んー…それもそうだね…」

 長時間の使用は逆に膝を悪くするって意味で止めたみたいだ。言われてみたらそうだな…。慎悟がくれたんものだ。すぐに使用したかったけれど仕方ない。
 私は諦めて、プレゼントの袋の中にサポーターを戻した。袋の中からおしゃれな入浴剤の瓶を取り出して効能について慎悟に質問していると、背後から声を掛けられた。

「今日はなんのお祝いなの?」
「…そうだ、同じクラスなんだった…」

 油断していた。そうだ、今年は奴と同じクラスだからエンカウント率が高いんだった…
 私は咳払いをすると、上杉に向けて嘘をついた。

「…お付き合い始めてもうすぐ1ヶ月だから、慎悟から記念品をもらったの」

 他の人の耳がある前で誕生日とは言えない。このクラスには私の友人もいて、エリカちゃんの誕生日を把握している人もいるから。なのであえて記念日扱いにしておく。慎悟もそれをわかっているのか何も言わない。

「へぇ…君たちってそういう記念日とか全く頓着しなさそうなのにね?」
「私達付き合いたてホヤホヤだもん。いいじゃない、はしゃいで記念日祝っても」

 ねーっと慎悟に同意を求めてみたら、慎悟は私に合わせて頷いていた。確かに私達ってそういう記念日にキャッキャするタイプじゃないよね。1周年記念とか絶対にしないと思うよ。
 上杉はあまり面白くはなさそう。…そんな顔されても私だって困る。

「それより私と慎悟の語らいを邪魔しないでくれる?」
「冷たいなぁ。せっかくクラスメイトになれたのに」

 クラスメイトの体をして何をしてくるつもりだ。怖いんだよあんたは。卒業まで私は上杉のストーカーから逃れられないのか…

「…上杉、お前」
「慎悟様っおはようございますっ!」
「…おはよう」

 慎悟がなにか口にしようとしたその時、加納ガールズの巻き毛が元気よく慎悟に挨拶をしてきた。その流れで残りのロリ巨乳と能面に囲まれ、見事ハーレムを形成していた。見事な包囲網である。

「本日もご機嫌麗しゅうございます」
「二階堂さんとより私達とおしゃべりしましょう?」

 加納ガールズはいつも通りに慎悟のことをちやほやしていた。私を前にしてすごい度胸だ。…前ならそれを生暖かく見守れたのだけど、彼女となった今となっては無理である。

「はいはい、お手を触れないでくださいね」

 私は加納ガールズと慎悟の間に割って入ると牽制をかけた。私は慎悟の彼女だぞ? お触りを許すとでも思っているのか?

「なによ! 正妻ぶって!」
「私はまだ認めてはいないのよ!」
「独り占めは許さないわ!」

 キャンキャンと喚く彼女らは朝から元気だな…正妻って…まだ婚約すらしてませんが。
 あんまり偉そうにしたくないけれど、ここはビシッと言っておいたほうが良さそうだな。

「なにを言っているの? 慎悟が私を独占できるように、私には慎悟を独占する権利があるんだよ?」

 恋人同士ってそういうことでしょ? 他の女が彼氏にベタベタしてたらやめろって声を上げてもいいはず。私が彼の恋人だって堂々としててもいいはずだ。

「…んまぁぁぁー!」
「なんて…慎みのない…」

 すると巻き毛が嫉妬に満ちた悲鳴を上げ、ロリ巨乳が何故か私を軽蔑するような目で見てきた。
 えぇ…私はしたないことを言ったかなぁ? 不安になって慎悟の顔をちらりと見上げたら、慎悟の頬は赤く染まっていた。

「…私、まずいこと言った?」
「…いや、別に」

 でも顔が赤いよ? 悪いことは教えてくれなきゃわからないよ。
 気をつけているつもりでも、気づかないうちに私は失態を犯してしまっているようだ。私はオロオロと狼狽えていたが、慎悟は口元を手で覆い隠し、私から目をそらしてしまった。

「エリカが独占欲をさらけ出したから、嬉しいんだよきっと」
「…え?」
「加納様、良かったですわね」
「…うるさいな…」

 そこに口を挟んできたぴかりんと阿南さんの言葉に私は目が点になった。独占欲…確かにそう聞こえるな。事実だし。
 ヘェ~…照れてるんだー?

「もっと言ってあげようか?」
「…からかうなって」
「やだなぁ、可愛いなぁ」

 つんつんと慎悟の頬をつついていると、慎悟に手を掴まれて止められた。やっぱり慎悟ってそういう所が可愛いよねぇ。たまに急にカッコよくなるけど、このギャップがたまらない。

「慎悟様のほっぺツンツンですって!?」
「私もツンツンしたい!」
「だけどそんなはしたない真似はできませんわ…! おのれ二階堂エリカ…!」

 外野が何やら騒ぎ出していたが、もう無視だ無視。これ以上の会話は暖簾に腕押し状態だろう。
 私は加納ガールズから目をそらすと、慎悟に笑顔を向けた。そして改めてお礼を伝える。

「プレゼントありがとう。あんたの誕生日、私もなにか贈るね。…楽しみだね」

 慎悟は照れくさそうに、だけど素直な笑顔をみせてくれた。
 それはとってもきれいな笑顔で、私は思わず見惚れてしまった。

『キャァァァーッ! 慎悟様が笑ったぁー!』

 慎悟のそれを直視した加納ガールズが後ろで奇声を上げていたのがとても耳障りだった。耳が痛いわ。

「二階堂さんおはよぉ、何だか楽しそうね♪」

 遅れて登校してきた瑞沢嬢にはこれが楽しそうに見えるらしい。呑気に挨拶をされた私は脱力してしまった。


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