お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

我不懂汉语! 中国語どころか英語も危ういけどね!

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 MRTに乗って、迪化街のある北門駅で降りた私達。少し歩いた先にレトロなビルが立ち並ぶ問屋街はあった。
 ここでは漢方とか乾物も売っているそうだけど、漢方の素材によっては日本に持ち込みできないものもあるので、今回はパス。永樂市場という生地問屋で女性陣へのお土産を購入予定だ。
 ずらりと乱雑に並べられた、和服の柄とはまた違う華やかな生地の数々。カバンだと派手だけど、ちょっとした小物入れなら普段遣いができると思う。

「慎悟はお土産何買うの?」
「この後お茶の問屋に行くから、そこでまとめて買ってしまおうかな」
「えーここでお母さんにおしゃれなお土産買ってあげたら良いのに」

 私は近くにあった青地に大柄の花が描かれた巾着を手に取ると、慎悟に合わせてみる。
 いや、意外に赤のほうが似合うかも…

「…俺に合わせても仕方ないだろ」
「だって慎悟のお母さん、慎悟にそっくりだから合わせやすいんだもん。美人なお母さんだよね」

 慎悟の両親とは正月の時に初対面を果たしたけど、お母さんは品のあるどこか肝が据わった感じの綺麗な女の人だった。あぁ、慎悟のお母さんだなぁと妙に納得したよ。

「全体的にお母さん似だよね」
「よく言われる」

 いやでもあれでバランスが取れているんだと思う。落ち着いたお母さんに、息子溺愛お父さん……面白いな加納家は。いつもあのテンションで家族団らんしているのであろうか。

「慎悟がお父さんに溺愛されているとは思わなかったよ、賑やかなお父さんで面白いね」
「…忙しくてあまり相手できないから、愛情表現だと言って…昔からあぁなんだ」

 慎悟は渋い顔をしていたが、別に嫌がっているわけではないのだろう、多分…思春期特有の……
 私はうんうんと頷いて同意した。

「私も実父の洗濯物と一緒に洗わないでってお母さんに言ったことあるから、その気持ちはわかるよ」
「それとは違う」

 違うの? 同じようなものでしょうよ。反抗期は来ないほうがおかしいから、その反応は正常なんだよ。
 私は慎悟と会話をしながらも、購入する品を選んでいった。時間は有限だからここでグズグズ出来ないのである。

「じゃ買ってくるね。ちょっと待ってて」

 お母さんとママと依里に渡すお土産の小物を手に持ってレジでお会計を済ませると、早々に市場を出た。市場の1階には魚介類や肉が販売されていたけども、持ち帰られないのでそこはスルー。
 問屋街をうろちょろしていたら漢方薬やドライフルーツを数多く見掛けた。条約か何か忘れたけど、動物の素材を使った漢方が国内持ち込みダメなんだよね確か。
 そもそもメタボ解消の漢方を使用するより運動して痩せたほうが実父のためだと思う。そのため漢方ではなくプーアール茶を渡すと決めているのだ。

「あれ、なんだろあそこお寺かな?」
霞海城隍廟シアハイチェンホアンミャオ?」
「わぁ、ペラペラ」
「日常会話程度だけどな。でも地域によっては全く言葉が通じないから、そうなればお手上げだ」

 いや、十分だろ。
 そういえば慎悟ってどのくらい外国語できるんだろう。英語は授業でも流暢に話しているのを聞いたことがあるし…まさか中国語もできるとは…
 家業が輸入関係だもの…3ヶ国語どころじゃなさそう。いろんな勉強しているんだろうな…頭の出来からして違うだろうから、私には真似できんわ。

 それはそうとあのお寺は何なのか。私は日本で購入したガイドブックを開いて、そのスポットが載ってないか確認したのだが、巷で有名スポットだったらしい。

「…縁結びの神様がいるんだってよ」

 …なんて気まずいんだ! 
 仮にも告白されたことのある相手に行きたい? とか聞き辛いわ! スルーしたらしたで失礼な気もするし…

「なら必要ないな。さっさと次の場所に移動しよう」

 だけど慎悟には無用の長物だったらしい。そもそも彼は信心深い質でもない、男子が縁結びにキャッキャすることはあまりないか。

「神頼みより、自力で行くべきだろ?」

 手を掴まれたと思ったら、慎悟は私をじっと見下ろして強気な発言をしてきた。

「……」

 年下のくせに…年下のくせにぃ!
 私は何か言おうと思ったけど、言葉が思いつかずに口をパクパクさせていた。慎悟からすればさぞかし滑稽な姿に映ったことであろう。その証拠に慎悟はおかしそうに笑っていた。
  
「顔が赤いな」
「気のせいだよ! ほらっ行くよ! あまり年上をからかわないの!」
「今は同い年だろ」

 顔を見られるのが恥ずかしくなった私は先陣を切って行く。
 もう! なんなの可愛くないなぁ!

「笑さん、へそ曲げるなって。からかったわけじゃないよ」
「笑ってるじゃん!」

 慎悟は大笑いしているわけではないけど、笑いを喉の奥でこらえているのはわかってんだぞ!  

「ごめんって。笑さんが行きたがっていたお茶の問屋はこの先の大通りを出て、北上したところだよ。歩くのが辛いならタクシーを停めるけど?」

 台湾はタクシーが多い。日本と違って安価のため利用する人も多いそうだ。だが引率の先生から女子生徒1人だけでタクシーに乗るのは危険なので控えるように、乗る前には必ず値段交渉しておくようにとは注意されていた。英語も中国語も出来ない私には無理難題であるが、慎悟が一緒なら大丈夫だろう。
 だが、せっかく海外旅行に来たんだ。車で一瞬で到着なんて無粋な真似をするのはもったいない。

「…いい。歩いてから行く」

 車であっという間に着いちゃうのは勿体無いじゃない。すごく遠いわけじゃないもの。ゆっくり歩いて台湾の町並みを楽しむのもありじゃないか。

「なら行こう」

 それに、普段こうして並んで歩くことはそんなにないんだ。たまには良いじゃない。この間のカレーランチは別として。日本では基本車移動だしさ。

 地図によると、目的地までは大通りに出たら左に曲がってまっすぐ。
 道路の真ん中に大通りの名前が記載されていてわかりやすいが、やっぱりこっちの漢字は難しい。気を抜くと見間違えてしまいそうだ。
 何故か道を歩いていると、合図していないのにタクシーが横に停まってくるよ。なんなの。一瞥すらしてないよ私達。

 途中似たような問屋さんを発見して間違えそうになったけど、自分が事前に調べておいたお茶の問屋さんに無事たどり着いた。
 問屋さんに入ると、お茶の匂いが店中にブワッと充満していた。大きな鍋のようなブリキ容器がズラッと並んでおり、各お茶の名前と等級を表す文字が記載されてあった。
 店の人は私達が買いに来たと判断すると、何も言っていないのに高いお茶をおすすめしてこようとしていた。商売人め…

「そんなハイレベルじゃなくとも、中間くらいのお茶で良いんだけど…えーと、えーと」

 咄嗟の時に単語が出てこないという。私がジェスチャーで会話しようとワタワタしていると、見兼ねた慎悟が代わりに注文してくれた。中国語ペラッペラである。まるで宇宙語を話しているみたい…
 頭がいい人はすごいな……それに比べて私ってやつは…
 
 茶葉を袋詰めでグラム販売しているようだ。私はそれぞれ色んなお茶を購入することにした。荷物を持ち帰るのが大変じゃないように、折りたたみ式のキャリーカートを持参しておいて良かった。

「茉莉花茶と、東方美人と、凍頂烏龍と…あとプーアール茶をおねがいします」

 それぞれ500グラムずつを何袋か詰めてもらった。わぁすごい袋パンパンにお茶が入っているよ。
 慎悟はティーバッグの箱売りをいくつか購入していた。そっちはすぐに飲めるから便利よね。
 支払いを終えて、キャリーカートに固定する。…結構な大荷物になったので、一旦ホテルに戻って荷物をおいてから出直すことに決めた。


■□■


 一旦ホテルのある西門町に戻って、仕切り直した私達はその辺りで食事をしてから淡水に向かおうと話していた。

「あれ? 二階堂様に加納様、もうお戻りですか?」

 たまたま同じお店で昼食をとっていたクラスメイトの菅谷君に私達は声を掛けられた。彼は男友達とその辺りをぶらついているそうだ。

「櫻木さん達が血眼になっておふたりのこと捜していましたよ」
「…そうだった…今日帰ってきたら加納ガールズたちからリンチされちゃうんだろうな私…」

 菅谷君の言葉で私は現実に戻ってしまった。
 私はか弱い質ではないけど、鋼のメンタルを持っているわけではない。できることなら絡まれないことに越したことはないのだ。
 あの人達いつも一方的で言葉のドッジボールしかしてこないから…

「…あいつらには俺から言っておくよ」
「いや、更に加熱しそうだしやめて?」

 頭を抱えた私に気を遣った慎悟がそう声を掛けてきたが、その優しさが私にとどめを刺すことになるやもしれないのでね…彼女たち過激派なんだよ。刺激を与えたら暴徒化しちゃうよ。
 よくわかっていない菅谷君は首を傾げていたが、他のクラスメイト君が「まだその辺をうろついているかもしれないから用心したほうが」と忠告してくれた。
 私は周りを警戒しながら昼食をとった。英学院の制服を着た女子生徒が入店してくるたびにビビっていたので全然味がわかりませんでした。

 なんとかお腹を満たすことは出来たので、私達はMRT最寄り駅に向かうと、乗り換えを経て目的地の淡水に到着した。
 とは言ってもまだ夕暮れ時ではない。それまで淡水の町を歩いて見て回ることにした。ガイドブックにモデルコースが乗っていたので、それに沿って進んでいく。
 商店街のような町にはローカルフードらしきものが屋台で販売されていたり、お土産屋さんがあちこちにあった。その町並みがもう中華圏って感じ。漢字ばかり。ちょいちょい、日本人の私でも理解できる単語があるのが面白い。

「笑さん、はぐれるからうろつかないでくれ」
「大丈夫だよ。慎悟は私を何だと思ってるの。私はあんたより年上なの」
「…中国語も英語も危ういくせに」
「それを言うな!」

 私が屋台のグルメに目を奪われていると、慎悟が手を掴んできた。私は迷子にはならないってば! 連絡先交換しているんだから、はぐれたとしても落ち合うことはできるでしょうが。
 ちょっとムカついたのでブンブンと手を振って見たけど、しっかり手を握られてしまっていたので解けなかった。こら指を絡めてくるんじゃない、くすぐったい。

「そういえばね、阿南さんが港の白い橋に行ってくれって言ってたよ」
「白い橋?」
「漁人碼頭って港にあるんだってさ。夕暮れがキレイに見えるなら、そこまで足を伸ばしてみようよ」

 門限があるので、橋がライトアップされるまでは見られないかもしれないけど、夕暮れくらいは見られるであろう。おすすめされたなら見ていこうよ。
 私の提案に慎悟は目を丸くしていたが、目をそっと逸らして小さく「そうだな」と頷いていた。

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