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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。
吃飽了沒? ご飯のあとは尚更眠くなっちゃうよね。
しおりを挟む少し早めの夕飯はみんなバラけて好きな所で食事を済ませていた。私と友人たちは何を食べるか迷いに迷っていたが、気づけば集合時間が迫っていたのでその辺りにあった刀削麺でざっと食事を済ませた。
さて、早めの夕御飯の後は観劇だ。私は布袋劇鑑賞を選択している。京劇鑑賞の生徒たちとは分かれて、引率の先生とガイドさんについて行って辿り着いた劇場では、前から順に詰めて座るように指示された。
私は幹さんの隣に座ったのだが、逆隣に誰かが座った気配がしたので顔を上げるとそこには笑顔のあいつがいた。
「……」
「やぁ、二階堂さん」
「…そういう事か」
まさかの上杉だ。だからどっちの劇を観劇するか聞いてきたのか。京劇って嘘ついておけばよかった……もしかして、誰かを脅して交代させて布袋劇を観に来たとか…ないよね…
友人2人は京劇、頼りの慎悟も京劇鑑賞に行っている。ここには幹さん1人だけだ。
私は心持ち幹さん寄りに座って、上杉から距離をとったが、狭い空間なので限界がある。
「ねぇ幹さ」
「台湾の人形劇ってどんなものなんだろうね」
「こちらの言葉での劇ですから内容を理解できるかどうか…」
「幹さん」
「幹さんも機会があれば中国語を学ぶと良いよ。きっと役に立つ」
「……幹さんあの」
「日本でも一時期布袋劇が放映されていたそうだけど知ってる?」
「そうだったんですか?」
秀才同士が私を挟んで会話をしている。私は幹さんに何度か場所交代してと言おうとしたがその度に上杉が遮ってくる。
コイツはなにが何でも私をここから動かさないつもりらしい……
そんなこんなしていたら開演時間を迎えた。台湾の伝統人形劇が始まり……当然のことながら会場は薄暗い。ステージでは人形がひょっこり現れてなにか話してるのに…私はいつもの悪い癖でうつらうつらして……眠りに落ちたのである。
…あ、今日の枕はやーらかい…
「…二階堂様、劇はもう終わりましたよ」
「ん…」
「文化祭の時と同じで、また最初から最後まで寝てたね? 二階堂さん」
目を開いてと首を動かすと幹さんの顔が映った。私は幹さんの膝枕で爆睡していたらしい。ぐっすり眠れて目覚めは良かったはずだが、上杉の声が聞こえてきたせいで気分が最悪になってしまった。
「ごめん幹さん…膝枕させちゃって」
「いいえ、お疲れだったんですね」
いや、ただこういう場所で寝てしまう体質なんです。
「残念だなあ、僕の方に倒れ込んでくれたら良いのに、幹さんの方に倒れ込んじゃったから…」
「あんたの膝枕なんて寝心地悪いからいらねぇわ」
「実際に寝てみないとわからないよ?」
「やだ」
上杉の膝枕とか…絶対に悪夢しか見ないと思う。
私が断固拒否の姿勢を見せると上杉はポツリと「寝てる時くらい素直になればいいのに」とボヤいていたが、私はいつだって自分に正直に生きているよ? 何いってんだコイツ。
鑑賞を終えた私達はぞろぞろと宿泊先のホテルに戻ったのだが、ホテルに到着する直前で京劇鑑賞していた生徒たちと合流した。
先生から翌日の朝からのスケジュールを大雑把に説明された私達は、部屋で自由時間のち就寝をすることになった。生徒たちが割り振られた宿泊部屋に戻るために階段を登っていくのについていく形で、部屋に戻ろうと階段に足を踏み入れた。
だが後ろから腕を掴まれて、私は引き留められてしまった。
「…なに、どうしたの慎悟」
「笑さん、さっきまでずっと上杉と一緒にいたのか?」
慎悟は少々険しいお顔で問い詰めてきた。
不本意だけどね。
観劇終了後に幹さんと一緒に帰っていると、上杉が後ろからついてきてしつこく話しかけてきた。行き先が同じだから仕方ないとはいえ、ストレスであった。
念の為に言っておくが、私は冷たくあしらっていたよ。だけど慎悟にはその様子が一緒に仲良く帰っているように見えたのだろうか。
「いや…劇場からずっとつきまとわれていただけ…」
「…まさか劇場でまた寝落ちしたのか?」
そういえば映画館でも失態を犯して慎悟には迷惑を掛けたな。だけど今回もなるようにしてなったことだよ。こうなる運命だったんだ…
「大丈夫。今日は幹さんの膝枕で寝たから。上杉の膝では寝ていないよ!」
幹さんのお膝柔らかかったよ! と私は自信満々で答えたのだが、慎悟は額を抑えて「頭が痛くなってきた」と唸っていた。
「大丈夫?」
「幹の膝で寝たとかじゃなくて…なんで席移動しないんだよ…」
「だって席交代しようとしたら、あいつが遮って妨害するんだもん」
でも指一本触れさせて…ないと思う。幹さんの手前であいつもセクハラ出来ないでしょ多分。
「俺も布袋劇を見るべきだった」
「何もなかったよ。私のことをもう少し信用しようか」
「寝てたじゃないか」
だって仕方ないじゃん。眠くなっちゃうんだもの。
いつまでもロビーで話しているのが目についたのか、先生に各部屋に戻りなさいと注意されてしまった。
慎悟と解散して部屋に戻った後は、準備をしてさっさと寝ようとしたのだが、ベッドの上に寝っ転がっていたぴかりんが突然恋バナを始めた。
みんな元気ね。それを聞きながらいつの間にか私は寝落ちしていた。劇場でも寝たけど、布団に入ると自動的にスリープモードに移行しちゃうんだ…
寝る子は育つというのに、背が伸びないんだよなぁ…
■□■
2日目は朝からお寺観光をした。
学校行事の為、そうゆっくりお参りできるわけでもない。事務的な感じでお参りが終わってしまったのが残念だ。
台湾のお寺って派手だな。台湾で最も歴史の古い龍山寺にはクラスごとに交代交代に入ってお参りしていたから、お参り後はちょっと待機時間が出来た。私は暇つぶしに列からはみ出て、近辺をうろちょろしていた。
すると裏路地付近でなにかを作っているお店を発見した。看板には胡椒餅って書かれている。ジェスチャーを駆使してそれを購入した私は素知らぬ顔をしてクラスの列に紛れ込んだが、手に食べ物を持っていたので友人たちに「なに買ってきたの?」と列をはみ出して自由行動していたことがバレてしまった。
肉は甘めだけど胡椒が辛い。周りは焼かれた生地で……表現が難しいな。肉まんとは違うし。
「…あんた朝食食べてなかったか?」
「焼いてるの見たら食べたくなったんだ」
「それはそうと1人でうろつくな。台湾は治安がいいほうだけど、日本じゃないんだ」
「ちょっと散策しただけじゃないの」
待ち時間が勿体無いじゃない。有効活用だよ。
それにさっき現地の人に話しかけられたよ! なんて言ってるか全然わかんなかったけど。とてもフレンドリーじゃないの!
「故宮博物院に移動するので、クラスごとにバスに乗るように」
5組の生徒もお寺参りを終えたらしく、次の観光地に向かうべく移動を始めた。午前中は故宮博物院見学で白菜と角煮の石を鑑賞した。他にも見たけど白菜と角煮の印象が強くてあまり記憶にない。
お昼は近くのレストランで食事、午後イチには日本統治時代に建造された歴史的建造物を改造した商業施設に行った。
今日は夕方から自分が行きたかった九份に向かう。絶景を見るには日暮れ前に到着する必要があるため、15時にはバスに乗り込んで九份へと向かったのだが……
高速道路に入ったバスは快調に走っていた。その周りを走る車がまぁ飛ばす飛ばす。
もらい事故に遭いませんようにと願いながら、私はガイドブックを開いた。
大体80分くらいで到着した九份。2月の日の入りが17時半辺り。
19時半にバスに集合ということ、簡単な注意事項を説明されて、生徒たちは解散した。
ということは、ホテルに帰り着くのが遅くなるし、夕飯はここで各々食べろってことだよね。
私は友人たちと九份の町に紛れ込むと、アチコチ散策して回った。道が急な坂になったりして歩きにくい印象。石畳の細い階段路で、気をつけないと転倒してしまいそうだ。
パッと見たら古い商店街みたいだ。飲食店やお土産屋でお店で賑わっている。カフェがちょいちょいあったけど、今はまだいいかな。夕暮れを見たら、ライトアップされた九份で写真撮った後にでも軽く夕飯を食べようと話していたところだし。
日の入りの時刻になると私達は移動して、九份の町が一望できる高台に登った。薄暗い町の中に提灯の明かりが灯り、目の前に幻想的な風景が広がる。昔の日本の遊郭街もこんな感じだったのだろうか。
街の背後を彩る空は日が沈む寸前。オレンジ色の太陽が建物の間に沈み行き、空は日の光と夜の色が入り混じった色をしていた。
「わぁ…」
まるでアニメの世界に潜り込んだようである。私はスマホを構えて写真を数枚撮影する。あとで家族に送ってあげよう。
「エリカ、4人で写真撮ろうよ」
「うん!」
その辺にいたクラスメイトの菅谷君を捕獲して、4人で並んだ写真を撮ってもらう。
ここに映ってるのはエリカちゃんなんだけど、もうエリカちゃんは私になってしまったから、写真に関しては思い出の1つと受け止めるようにしている。
「ねぇねぇ、ご飯屋さんもあったけど、カフェのほうがいい? それとも歩きながら食べる?」
台湾は日本ほど寒くないから、何処かで購入してこのまま外で風景を眺めながら食事するのも悪くないと思う。魯肉飯っていう台湾風そぼろご飯がさっきあったからそれ食べたいな。
スマホをカバンに戻して、友人たちに食事をどうするかと相談したのだが、何故か私はぴかりんから肩を押された。
「えっ?」
前置きもなくドーンと力いっぱい押された私は目を丸くしてそのままバランスを崩す。
「うわぁぁ!」
倒れまいと藻掻いたが、それも虚しく後ろの方に身体は傾いていく。石畳に尻もちつくのかと覚悟していたが、ドサッと音を立てて、誰かの腕が私の身体を支えてくれた。
「…あぶないだろ、なにしてるんだ山本」
カシャカシャカシャッ
「加納君ならキャッチしてくれると思っていたから」
「ツーショット写真いただきましたわ」
誰かに肩を抱かれたまま、私は呆然としていた。眼前ではスマホを構えて連写している阿南さんと、ドヤ顔をしているぴかりん。幹さんは二人について行けないようでポカーンとしている。
「ついでに夜景の前で撮ろうよ。ほらほらそこに並んで2人共!」
「…お前ら、そういうのお節介っていうんだけど」
「まぁまぁ…こちらとしても、焦れったいといいますか…はい、こちらに目線をお願いいたしますね。二階堂様、加納様笑ってくださいまし」
ついていけないのは私もである。ぴかりんは私と慎悟を並べて、阿南さんはスマホを構えるとシャッターを落とす。
何故急に慎悟とツーショットなのだ。私には友人たちの考えていることがよくわからない。ていうかこんな事していたら彼女らが…
「まぁ二階堂さん、ズルいですわ!」
「慎悟様、私とも写真を撮ってくださいな!」
「本当に小賢しいですわね、あなたって人は…」
ほら来た。
巻き毛はそう言って私を気に食わなそうな目で睨んできたけど、私が撮ろうと言ったんじゃないんだよ…?
だけどここで反論しても加納ガールズは聞き入れないだろう。
私はこれ以上絡まれぬよう、隣にいる慎悟に「ガンバレ」と言葉を残すと、加納ガールズにどつかれる前に退散したのである。
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