お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

まさかの仲間はずれ…私達は友達ではないのか!?

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「あった…これかぁ…」

 修学旅行の時期が迫ってきたので旅行準備していた私は、学校から配布された修学旅行の手引に沿って忘れ物チェックをしていた。
 エリカちゃんのパスポートは二階堂家の貴重品保管庫にあった。有効期限も問題ない。パスポートを開いて見てみると証明写真があって、今より少し幼いエリカちゃんが真顔で此方を見てきていた。
 …エリカちゃんは写真の中でも笑っていないな。まぁパスポート写真で笑っちゃダメなんだろうけどさ。

 二階堂家の玄関に家族写真は飾られていたけど、そこでもエリカちゃんはお人形さんのように鎮座しているだけ。小中の卒業アルバムでもそう。友達がいなかったからか、はしゃいだ写真はなく、宝生氏とのツーショット写真は婚約破棄の際に全て処分されたそうだ。
 宝生氏と一緒だったら笑顔だったのだろうか……もう終わったことを、叶わないことを考えても仕方ないのだが、ふとした瞬間に彼女のことを思い出す。
 鏡の前で私が笑っても、それはエリカちゃんの顔を借りて私が笑っているだけだもん。
 転生の輪に入ったエリカちゃんは今頃どうしているんだろう。


■□■


「私、映画のモデルになったスポットに行きたいなぁ」
「2日目の夕方に行くみたいよ? 九份ジィウフェンでしょ?」
「え? ホント?」

 昼休みを教室で過ごしていた私は、友人たちと修学旅行の話題をしていた。修学旅行までもう1週間を切っているのだ。
 ぴかりんに教えられて修学旅行のしおりのページを捲っていると、団体行動のルートに自分が行きたかった観光地が含まれていた。やったね。

「私は台湾のお寺へお参りに行きたいですわ」
「2日目朝に龍山寺ロンシャンスーっていう台湾で一番古いお寺に観光予定みたいですね」

 修学旅行なので、故宮博物院や中正紀念堂などお硬い観光スポットメインで回るが、自分が気になっている観光地にも回れるので嬉しい。台湾にはお茶や漢方もあるし、実家の家族にもなにか買っていこうかな…
 気にかかるのは1日目夜の団体行動予定表で伝統芸能鑑賞と書かれているところだ。京劇か布袋劇って書いているけど…観劇とか私が寝ちゃうやつじゃないですか…
 どっちか選択して鑑賞することができるらしいけど、結局寝るからどっちでもいいや。むしろ私はその時間自由時間でどっかに観光しに行ったらダメかな?

 修学旅行の日が迫るにつれてすごくワクワクしてきた。自由時間も設けられているので、インターネットや本屋で購入したガイドブックを見比べながらどこを回ろうかとワクワクしながら探していた。
 有名なお店の小籠包を食べたいし、お茶体験もしたい。お茶の問屋さんにも行ってみたい…
 台北市内ならMRT(地下鉄)でひとっ飛びできるし、乗り放題券かプリペイドカードを購入して色々見て回るのもいい。

「ねぇねぇ、3日目の自由時間どうする? どこ行く?」

 私はワクワクしながら友人たちに声を掛けた。修学旅行だもん! 皆と青春の思い出を作りたいじゃないの!
 自分が行きたい所はもちろん回りたいけど、友人たちが行きたい場所を優先にして自由時間の計画を立てようと私は思っていた。 
 だが、ぴかりんと阿南さんは何故かお互い目を合わせて何やらアイコンタクトをしていた。幹さんは首を傾げて2人を不思議そうに見ている。
 ニヤリと何かを企んだような笑みを浮かべた2人は、私にいい笑顔を向けてきた。その不自然さに私は身を引く。

「二階堂様はなにかご希望はございますか?」

 阿南さんはいつもの上品でお淑やかな微笑みで私に問いかけてくるも、私にはそれが異様に見えて仕方がない。
 ガタリ、と椅子を引く音を立てて立ち上がったぴかりんは何も言わずにその場から離れていく。
 おい、どこに行くんだと言おうとしたら、それを妨害するかのように阿南さんが「二階堂様?」と声を掛けてきた。阿南さんの優しげな声には妙な圧が掛かっており、私は阿南さんから目を離せなくなった。

「お、お茶体験と…小籠包食べたいです…あとお茶の問屋さんにも…」

 私は柄にもなく震え声で自分が行きたい場所を答えた。
 なんなの、なにが起きるというのよ…私の希望を確認した阿南さんは笑顔で両手をぽんと叩いて、大げさな反応をした。

「あらー! 残念ですわぁ。私達、マッサージ体験とショッピングに行きたいと話していたんです~」

 いつの間にそんな話を…ていうか阿南さんとぴかりんって結構仲いいよね。ちょっとジェラシー…

「え、ならそれでもいいよ。小籠包は日本でも食べられるし、もしかしたらショッピングの最中でお店が見つかるかも」

 お茶は問屋さんに行かなくてもお土産屋に腐るほど売っているだろうし、お茶体験は出来ずとも問題はない。お茶買っちゃえば帰国して飲めるものね。

「いいえ、いけません。二階堂様は自分の行きたい場所へ行くべきです。そうは思いませんか、幹さん?」
「え? …あぁ…はい」

 幹さんは「よくわからないけどとりあえず頷いておけ」といったような反応をしていた。ちょっと幹さんまで!
 そんな! まるで別行動しましょうみたいな言い方じゃないの! ひどい! ひどいぞ、私達は友達じゃないのか! 何故急に仲間はずれみたいな真似をするんだよ!

「大丈夫だよ~エリカ! 加納君がエリカの行きたい場所について行ってくれるってさ~」
「……は?」
「……山本、何の話をしているんだよ」

 ぴかりんに腕を引っ張ってこられた慎悟も状況が把握できていないらしい。私達を見比べて、訝しんでいる。目で問いかけてきたが、私には答えられない。
 ごめん、私もよくわからないんだ。いきなり仲間はずれされたんだもん…

「だって自由時間に一緒に回る約束を誰ともしてないんでしょ? ならエリカと回ればいいじゃん!」
「…俺は別に構わないけど、この人は…」
「いーのいーの、あたし達台北101展望台と台湾の占いに行く予定だから、この子と行きたい場所がぜんぜん違うの~」

 ぴかりんは私の背中をバシバシ叩きながら、そう話していた。台北101なら小籠包屋さんあるし、別にそこでも……
 …あれ? 阿南さんはマッサージとショッピングって…

「ね、ねぇ、さっきマッサージとショッピングって言ってたよね?…展望台って…占いって」
「決まりましたわね。加納様、当日は二階堂様のことをよろしくお願いいたしますね」
「…わかった」

 阿南さんは私の話を遮るかのように無理やりこの話を終わらせた。
 阿南さんの謎の圧力に慎悟も負けたらしく、素直に頷いていた。おいどうした慎悟、あんたは女に弱い性格じゃないだろ。なに圧倒されてんだよ。

 では後はお二人で自由時間についてのお話し合いをなさってください。と私は友人たちの輪から無理やり外された。

「…なにぃ…それぇ……」

 私は悲しかった。高校の修学旅行、最後の修学旅行なのに仲間はずれとはこれ如何に。
 私は別に彼女たちの行きたい場所に合わせてもいいのに、何故こんな扱いを受けなければならないんだ……
 なんか泣けてきそうだよ…
 私がショックを受けていることなんて気にならないのか、友人たちは私の元から消えた。
 幹さんは最後まで此方を気遣わしげに見ていたが、ぴかりんと阿南さんに腕を引っ張られて一緒にどっかに行ってしまった…。

「こんなのひどくない? 皆で回りたかったのに…」
 
 私はそこに残されてしまった。
 がっくりと肩を落とす私の席の傍にあった椅子を引いて、慎悟はそこに座っていた。

「…で? 笑さんはどこに行きたいんだよ」
「…あんたは友達と回ったりしないの?」

 私に気を遣わなくていいのよ…何だったら1人で行きたい場所見て回るし…言葉はわからなくてもハートさえあれば伝わるさ…行き先さえ決めていれば見て回れそうな気がするもん…。
 そんな気遣いせずとも、君は友達との青春の思い出を作ってきてもいいんだよ…

「他の人とそういう約束はしていないから大丈夫。それに異国の地で1人で回るより2人で見て回ったほうが楽しいだろ」

 机の上に放置していた、私が本屋で購入したガイドブックを手に取るとそれをパラパラとめくる慎悟。私はガイドブックで気になったページに付箋と、インターネットでおすすめされていたローカルスポットの詳細を印刷したものを挟んでいた。自分が行きたいところはもう既に絞っている。

「…本当にいいの? 修学旅行だよ? 友達との思い出作りしなくていいの?」
「あんたと観光する方が楽しそうだから別に。願ったり叶ったりだ」
「……」

 本当急に口説くのはやめようよ…!
 私は恥ずかしくなって口を一文字に結ぶと、黙りこくった。
 慎悟は私が印刷してきたお茶の問屋さん情報の紙を眺めて、ガイドブックの付録の地図で店の位置を探していた。

「…まず、朝から問屋街の迪化街に行って買い物を済ませたら、お茶問屋に行って…時間に余裕がありそうだったらこの台湾茶体験に行ったらどうだ?」
「私の希望ばかりじゃ悪いから、慎悟が行きたいところにも行こうよ」

 大雑把に計画を立てた慎悟の話を一旦止めて、彼の希望を確認した。私の希望だけで引きずり回すのはなんか悪いじゃない。

「…行きたいところは団体行動で行き尽くすんだよな……あ、淡水タンシェイに行きたいかな」
「淡水?」

 何だそこは。そんな所あったっけ。

「MRTの終点にある海沿いの観光地なんだけど、夕暮れがすごくきれいだと聞いたんだ」
「…慎悟ってばロマンチストだね」
「…何だよ、悪いか?」

 いや、悪くはないけど、私よりも乙女だなと思って。ついついにやけてしまったけど、決してバカにしたんじゃない。可愛いと思っただけ。これを言ったらきっとへそを曲げるから言わないけどさ。

「いいよ、行こう。…でも時間的に間に合うかな?」
「…朝イチで出発して順番に回れば、きっと門限までには戻れると思う。移動手段は地下鉄だ。遅延もそうないだろう」

 ガイドブックに乗っているMRT路線図を見ていたら、お茶の問屋さんや迪化街の最寄り駅から17駅先だった。そんでもって淡水特集ページを読んでいたら、色々見て回るのに結構時間が必要みたいだった。
 昼ごろまでに私の用事を済ませて、午後になったら慎悟の行きたい場所へ向かうのが一番いい気がする。折角の海外旅行、慌てて観光なんてしたくはないもん。 

「うーん、そしたら私はお茶を買えたらいいから、お茶体験は省こうかな。折角遠くまで足を伸ばすんだからゆっくりしたいじゃない」
「行きたかったんじゃないのか?」
「いいのいいの。お茶さえあれば日本で飲めるし。…楽しみだね修学旅行」

 友達に仲間外れされて寂しかったけど、これはこれで楽しみだ。慎悟がいると心強いし、異国でも全然怖くないかも!


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