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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。
地獄というところ。
しおりを挟むグワッシャーン!!
「ゴジ○が来たぞー!!」
「きゃー!」
「逃げろー!」
私が大声で○ジラ警報を発令すると、幼い子ども達が楽しそうに逃げていた。
石の塔に金棒をぶつけられ、あちこちの石の塔が鬼によって崩されていく。せっかく苦労して積み上げた供養塔が崩されたことに子ども達の表情は…。
満面の笑みであった。
「おい! 邪魔すんのやめろ! これは俺の仕事なんだよ!」
賽の河原担当の鬼に捕まって怒られちゃったが、怒られたのはこれが初めてではない。地獄にて転生待ちである私は暇を持て余していた。なので賽の河原で子ども達の盛り上げ役を買って出ていたというわけだ。
「だって作っても作っても崩されるからモチベーション下がるんだもん」
「お前は石の塔を作る必要はないだろうが! 転生待ちの亡者が!」
呵責を受ける必要がないとはいえ、亡者の私には行動の制限がある。あちこち自由にブラつけるわけでもなく、狭い行動範囲内で動き回っていた。このチャンスに色々地獄観光したかったけど、間違って鬼から呵責されても知らないよとか怖いこと言われたら行きたくなくなるよね。
今日はちびっこ達の親の供養塔を作る手伝いin賽の河原をしていたんだが、完成間近に決まって崩しに来る鬼に私はイラッとした。なので、子どもたちのモチベを上げるためにゴ○ラごっこを始めたのである。
だいたいさぁ、こんな小さい子達だって死にたくて死んだんじゃないんだよ? 幼い子の死因といえば病気とか事故とかが大多数なんだ。中には私と同じような子もいるけど……何故好きで死んだわけじゃない幼い子達がこんな実にもならないことを延々としないといけないのよ。
たまに地蔵菩薩がやってきて、転生の輪に入れる子どもを選出して連れて行くけど、それは全員ではない。残された子はまた親を供養するために石の塔を作らないといけないのだ。
幼い子達が暗い顔で石の塔を積んでいる姿を見たら居ても立っても居られなかったんだよ!
それに見てみろ。ゴジ○を知っている子どもたちは喜んでいるぞ。これでまた石の塔を作るのが楽しくなってくるだろう。どうせなら楽しく石の塔を作りたいじゃないか!
「邪魔だからどっかいけ!」
「I'll be back」
「戻ってくんな!」
鬼に追い払われた私は、リベンジを宣言して賽の河原を後にした。
暇つぶしがてら三途の川を渡る亡者を、川の畔で座って眺めることにした。三途の川を渡るルートは3種類ある。善人が渡る橋と、罪が軽い罪人の渡る川の浅い部分、最も罪の重い罪人が渡る水深が深い部分。渡る場所は罪の重さで決まるらしい。
三途の川の渡り口では見張りである奪衣婆と懸衣翁が待ち構えている。彼らが亡者の服をむしり取ると木の枝にかけて罪の重さを測る。それで死後の処遇が決まるのだ。その際に川を渡るルートが決められるんだそうだ。私がここに来たときは、このふたりが盆休みだったので遭遇しなかったんだよね…
あの人(鬼?)達官吏なんだって。エリートなんだね。
昔の言い伝えで6文銭(約300円)あれば免除されて、善人が渡る橋を通れるらしいけど…カトリックの免罪符みたいなものかな。マネーで解決って所が嫌ね。
今と貨幣価値が違うし、死後の世界にまでお金持って来れるのかな?
地獄なんて空想の世界だと思っていた。まさか私がここに降り立つとは。…思ったんだけど、日本人でキリスト教やムスリムに改宗した人は…ここに来るのだろうか。
それと転生のことについても……閻魔大王の秘書っぽい鬼に言われたんだけど、私の次の生でも人間界に転生するように取り計らってくれたんだって。しかも私にまたバレーに恵まれた環境を与えてくれるって。めっちゃあの人優しいな。
別に特別なチートを授けられたわけじゃない。夢を掴むためには、自分の努力が必要である。だけど環境や健康な体、恵まれた体格と努力才能が合わさって実になる。それはとても大切なことなのだ。
親が反対したら道が閉ざされたと同然だからね、子供の場合。…できれば、またお父さんお母さんの子どもに生まれたいけど…流石にもう無理だな。もう二人共いい年だし。
でも…他所の子どもに生まれたとしてもみんなの傍に生まれたら嬉しいなぁ。渉の所の子供に生まれるのも悪くない。
とはいえ、転生したら私の記憶はなくなっちゃうけどね。
うーん…今、転生の輪に入ったとして、あの時間から何年後に生まれるのかな? 人間女性の妊娠期間…十月十日? はたまた何十年も先の話? …何処かでみんなとすれ違ったりすることもあり得るのだろうか?
…みんな、急に私がいなくなって驚いているだろうな。…エリカちゃん、大丈夫かなぁ…
現世のことを思い出したら、ちょっと寂しくなってしまったけど、きっと時が解決してくれるはずだ。今は急な別れが悲しくても…みんなきっと前を見て歩いていけるはず。
私は川の向こうで奪衣婆に服を剥ぎ取られてキャーッと叫ぶ亡者の男性を遠目に眺めながら、ため息を吐いた。
…しかし、暇だ。
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