お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

文字の大きさ
上 下
81 / 328
さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

兎追いし、ゴリラ反抗し。

しおりを挟む

 うさぎ…かーわーいーい。
 たれ耳だし、ロップイヤーっていう種類かな? 膝の上に乗せている焦げ茶と白のミックスのうさぎは大人しくて人懐っこい。
 私は現在ふれあいパークでうさぎと戯れていた。…ゴリラとは大違いだ。この子は汚物投げつけたりしないもんね。…食べる習性はあるけど。
 うさぎの他にもモルモットとかフェレット、その他様々な小動物と触れ合うことが出来る。動物園は植物園よりも家族連れが多く、子どもが小動物と触れ合っているのを親が微笑ましく見守っている姿があちこちで見られた。植物園は興味がない子供にとっては退屈だもんね。そうなると自然と動物園に家族連れが集まってしまうか。

 私は植物園でどう気配を消すかに専念していて、その度に慎悟とかくれんぼをしていただけのような気がする。植物園で見た植物はウツボカズラとエリカの花しか覚えていない。折角久々に来たのに勿体無いことをしてしまった。私は何しにここへやって来たのであろうか。

 トクトクトクトク…
 小動物って心臓の鼓動が早いんだなぁ。抱っこしていると心臓の早さが伝わってくる。鼻を頻りにヒクヒクと動かしている仕草も可愛いし、この丸いフォルムも可愛い。
 癒やされるなぁ。うさぎを撫でていたら実家犬のペロに会いたくなってきた。うさぎも可愛いけど、ペロには敵わない。うちのペロの色味がこのうさぎに似てるんだ。だからこの子を捕まえて愛でていた。
 近いうちに実家に帰ろうと考えていると、膝の上でうさぎがピクリと反応した。それと同時に、目の前に人が立った気配がしたので顔を上げると…。

 息を切らせた慎悟が私を見下ろしていた。…どうしてここにいるんだろうか。

「…どうしたのそんなに息を切らせて」
「…捜した」
「……えっ、私、別行動って」
「馬鹿かあんたは。連絡先も交換していないのに別行動とか…あんた何のために俺を誘ったんだよ」

 まぁ確かに誘っておいて別行動って普通に考えたらおかしいけど……ねぇ?

「空気読んでふたりきりにしてあげたんだよ」
「はぁ?」
「慎悟と丸山さんいい雰囲気じゃない。丸山さん性格いいしさ、良いと思うんだけどな」

 慎悟なら丸山さんの好意には気づいているはずだ。エリカちゃんの中にいる私に気づいたくらいなのだから、慎悟は鈍い男ではないだろう。…でも加納ガールズで免疫がついているからか、あまり浮かれてはいないけど。
 私の言葉を受けて、慎悟は苛ついたように顔をしかめていた。あらら眉間にシワが寄っちゃって…でもそんな顔しても慎悟の中性的な美貌は損なわれていない。むしろ凄みが増している…

「…そういうの余計なお世話っていうんだけど?」
「だって丸山さんの応援したかったんだもん」
「あんたがしゃしゃり出るようなことじゃないだろ。…俺の気持ちも考えないでお節介するなよ…迷惑だ」

 迷惑…そうだったのか。
 慎悟はお膳立てされるのは嫌いみたいだ。こんなにイライラしている様子を…最近よく見てるかもしれない。だいたい私が苛つかせている気がするわ。ごめん。本当にごめん。
 2人とも本当にいい子だし、2人が仲良くなるといいなと思ったけど、慎悟にその気がなかったのなら私のしていることは単なる自己満足。…慎悟にとって迷惑な行為だったのかもしれない。
 自分勝手だったかも…うわぁ、なんでそこに考えつかなかったんだろ… 
 ていうか……今思い出したけど、慎悟はエリカちゃんのことが好きなんだったわ。いちばん大事なことを忘れてしまっていた。エリカちゃん(の姿した私)から、他の女の子を充てがわれるって…なんて残酷なことをしたんだ…私のバカ! 
 全身から血の気が引いた気がした。

「…ごめん……」

 彼に謝罪すると、慎悟の手がこちらへと伸びてきた。膝の上に乗っけていたうさぎが慎悟によって抱き上げられると、地上に降ろされた。地面に降り立ったロップイヤーはすぐさま何処かへとピョコピョコ飛び跳ねて行ってしまった。
 あぁ、うさぎ…さよならなのに素っ気ないのねあんた…少しくらい名残惜しげにしてくれてもいいじゃない。

「……丸山さんを待たせているから行くぞ」
「う、うん…」

 慎悟に手を差し伸べられたので、その手を取って立ち上がると、ふれあいパークを後にする。丸山さんは何処で待っているのだろうか。植物園のレストランかな? 彼女にも謝らなきゃ。結局彼女を1人にさせてしまったのだ。本当に申し訳ない…


「慎悟様、二階堂様を見つけられたのですね」
「丸山さん、何故…」
「遅いので私も捜していたのです」

 ふれあいパークからしばらく歩いたところで、私と慎悟は丸山さんと合流した。…丸山さんにも探させてしまっていたのか私は…
 私は自己嫌悪に陥った。なーにしてんだ自分は…情けないったらありゃしない…

「丸山さん…ごめん…」
「……いえ、私も学びましたので」
「え?」

 学んだ? 私は頼りにならないって事を?
 彼女は怒ってはいなかった。いや内心では腹を立てているのかもしれないが、表面上では穏やかな様子で。
 だけど彼女の目は違った。

「…二階堂様、私、諦めませんわ」
「…なにを?」
「それに、人に頼ってばかりではいけませんね。私も反省します。私こそごめんなさい」
「なにが!?」

 丸山さんは1人で納得して1人で反省していた。主語を入れてくれよ。しかもなんだか戦いを挑む様な目を向けられている気がしてならない。まるでバレーの試合で見た依里の好戦的な目と同じのような…いやちょっと違うかな?

「疲れましたので休憩いたしましょう。…二階堂様、もう大丈夫ですから。私、自分から正々堂々といきますので、お気遣いいただかなくても結構です」
「あ…そう?」

 私は2人に包囲される形で、動物園内の喫茶店に向かうと、そこでお茶をした。
 そこにたどり着くまで、もう逃げることは許さない的な感じで2人から腕をしっかり掴まれていた。気分はまるで囚人である。慎悟に至ってはしばらく機嫌が悪いままだった。慎悟は私を捜索するために昼食をとっていなかったようで、サンドイッチセットを頼んでいた。ますます悪いことをしたなと感じた私は、ご機嫌伺いでセットで頼んだ自分のケーキを慎悟にあげようとしたけど…要らないと拒否られてしまった。
 さくらんぼのタルトはお気に召さなかっただろうか。甘酸っぱくて美味しいのに。美味しいのになーと見せびらかしながら食べてみたけど、慎悟は食べたがらなかった。

 そのあと仕切り直しで動物園を3人で見て回ったが、またゴリラに汚物を投げつけられた。投げたゴリラは心なしかスッキリした顔をしている。

「またか貴様!」
「二階堂様、またとは?」
「1人で来たときにあのゴリラに同じことされたの」
「あんたが何かしたんじゃないのか」
「してないよ!」

 なんなのゴリラ。人間なら誰に対しても投げつけてくるわけ? それとも私がいるから投げてくるの? 猿は猿でもニホンザルとかは大人しかったのに…ここのゴリラ反抗的過ぎる。
 時間が合わなかったのでチャレンジできなかったけど、ここでは動物への餌やりを有料ですることが出来たようだ。一度象に餌をあげてみたいんだよね。ついでに背中に乗りたい。でも万が一のことがあるかもしれないから止めといたほうが無難だな。絶対に安全というわけじゃないし。
 私は動物園2週目だけど、慎悟と丸山さんはそうではないので、時間の許す限り見て廻った。キリンを眺めていた2人の写真を抜き打ち撮影したら、慎悟にじろりと睨まれた。
 大丈夫だよ、変な顔してなかった。ちゃんとイケメンだったから。丸山さんのスマホに写真を転送してあげたら喜んでた。
 慎悟もさ、そんな睨んでないで写真くらいは記念で撮らせてよ。

 お土産売り場でも慎悟が目を光らせて私を監視していた。もうかくれんぼしないから大丈夫なのに。
 その視線にさらされた私は、家族や友達のために買った動物クッキーを慎悟に奪われて、全て食べられてしまいそうな恐怖を感じた。なので、先程動物園限定カプセル販売機でGETしてしまったゴリラのモチーフの付いたマグネットをあげた。これで我慢してくれ。
 本当は象が欲しかったのに、宿敵ゴリラが出てきたんだ。慎悟は手渡したそれをじっと見ていたので、気に入ったようだ。ていうか返却不可だよ。

 
 その日の帰り、疲れてしまったらしい丸山さんが電車内ですやすやと居眠りをしていた。これ私が疲れさせてしまったんだよな…と反省して静かに過ごしていた。
 すると前に座っている慎悟から「連絡先がわからないと不便だから交換をしよう」と言われた。
 私は別に不便じゃないけどと返したら、「こっちがどれだけ捜したか分かっているのかあんたは」と凄まれたので、大人しく電話番号とアドレスを教えた。
 もう煩わせることはないと思うんですけどね…

 思ったんだけどこれ、巻き毛達にバレたら…私リンチされちゃうんじゃないの?
 慎悟に加納ガールズに交換したことを口外しないでくれってお願いしたけど、大丈夫かな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...