お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

文字の大きさ
上 下
75 / 328
さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

私の知っている体育祭とどこか違う。

しおりを挟む

 英の体育祭は文化祭同様、外部の業者がアレコレしてくれるので、生徒の負担があまりない。…うーん。なんかそれに慣れてしまった自分がいるぞ。よくない、よくない傾向だな。
 部活とか勉学に集中は出来るだろうけど……なんか、なんかなぁ。

 まぁとりあえず最後の体育祭になるかもしれないし、楽しむだけ楽しもう。


■□■


 準備することが少なすぎて「あれ、もう体育祭なの?」って気分だけど、体育祭の日になった。
 なんだろ、この学校が体育会系じゃないからか、あんまり練習に力を入れていない気がする。これで大丈夫なのかなとかちょっと不安なんだけど……まぁなんとかなるよね。

 私が出場する移動式玉入れはお昼前最後のブログラムなので、それまで暇だ。外は日差しが照って暑いのでテントの下で応援して過ごすことにする。

 午前中は二人三脚、障害物競走などが行われた。私は自分の出番が来るまで、所属の青ブロックを応援した。
 ひと学年のクラス割が5組、3学年合わせて15組いる。それを組み合わせて1ブロック5組毎の赤・青・黄3ブロックでの争い。同じ学年で同じブロックになる可能性があるが、例の加納ガールズたちは私と慎悟の3組とは別のブロックだった。

 ポコッ
「いてっ」
「あらごめんなさい。カゴかと思ったわ~」

 その逆恨みで、対戦相手となった巻き毛が私に向けて玉を投げてくる。まさか出場競技が被るとは…
 相手にしてたら駄目だ。カゴに多く玉を入れよう。巻き毛のブロックには負けたくない。

「えぇい! ちょこまかとぉぉ!」

 移動式玉入れを甘く見ていた。何このカゴ係の人、動きが俊敏過ぎる。なかなか玉が入らないんだけど。
 カゴを背負うのは対戦相手のリーダー。素早く逃げていくので、追いかけて相手が背負っているカゴに玉を入れなくてはいけないのだけど…よく見たらこの人サッカー部の人じゃん! そりゃ動きが俊敏だよ。フェイントかけてんじゃないよ! サッカーみたいな動きしやがって!
 私は玉を両手いっぱいに拾っては、カゴを追いかけて何とかカゴに放りこもうとしたが、どうしてもサッカー部の人の後頭部に当たる。イライラしすぎて手元が狂っているのだろうか。
 巻き毛が飽きもせずに私に向かって玉をぶつけてくるし…なんなんだこのカオスな競技!
 おい審判! 何故巻き毛を注意しない! これ妨害OKな競技とか初耳なんだけど!?

 その後、カゴに入った玉のカウントがされた。結果的に巻き毛の赤ブロックに勝てたから良かったけど……
 不完全燃焼な気持ちでいっぱいです。


 1時間の休憩を終えた後、応援合戦が行われた。…セレブ英学院の応援合戦がどんなものか想像つかなかったんだけど、めっちゃ普通だった。誠心高校はガチだよ。応援合戦に力入っていたから、やっぱりそれと比較しちゃうよね。
 応援合戦の直後は仮装リレーとやらだったんだけど、それには慎悟が出場していた。
 リレーのスタート地点にお題が落ちているので、それを拾った順に、カーテンで四方を仕切られたブースで着替えたら、その格好でトラックを一周して、バトンを渡すんだって。第4走者がアンカーね。
 これって衣装によるよね。面倒な衣装に当たったらそれだけ不利ってわけだし…笑いものにされる可能性もある。
 どんな衣装が出てくるのやら。

 慎悟はその中でも第3走。暫定2位でバトンを受け取るとスタート地点のお題を拾い上げて、着替えに行った。
 そして数分後、出てきた慎悟の姿に赤ブロックと黄ブロックから奇声に聞こえる黄色い声が聞こえてきた。姿を確認しなくてもわかる。声の主は加納ガールズだろ。慎悟様慎悟様ぎゃぁー! って叫んでるもん。
 うーん、慎悟のあれは何だ? 近世か中世かわからないけど、ヨーロッパのお偉いさんみたいな…あぁ、ルイ16世だ。あんな感じの格好している…
 ウケる。あのくるくるのプラチナヘアなカツラ似合わない。だいぶ前に絶滅したローラーで髪巻いてるおばちゃんみたいじゃん。
 しかも白タイツだし。

「…慎悟様素敵ですね…」
「! …丸山さん」
「うふふ、二階堂様がいいポジションで観賞していらしたからお邪魔しちゃいました」

 いつの間にか丸山さんが私の隣に座っていて驚いた。私は確かにブロック席の最前列に座っていたけど、ここ2年の席だよ? ぴかりんが次のリレー出場の為に席外しているから今はいいけど。ちなみに丸山さんも私達と同じ青ブロックである。
 …そうか、丸山さんや加納ガールズにはあれが素敵に見えるのか。
 私としては日本人が無理して外国人のコスプレをしているようにしか見えないんだけど。まぁ慎悟は美形だから近くで見たら……いやでもあのカツラはないでしょ…
 カツラを被った白タイツの王子様ならぬ王様でもかっこよく見えるのね。恋は盲目とはよく言ったものだ。

 しかしどこで衣装を調達してんだろうな。英学院どうでも良い所で金遣いすぎじゃない?

 マントを翻しながらバトンを渡した慎悟はトラック内に戻るとすぐに着替えに行っていた。惜しい。あの姿で戻ってきたらスマホで写真を撮ってあげたかったのに。走っている時撮影したけど小さすぎて…つまらない。その後慎悟は退場門付近で加納ガールズに囲まれていた。ファビュラスと賛美されているのであろうか。
 ブロック席に戻ってきた慎悟に、仮装リレーの感想を聞いてみると「ハズレくじを引いた」と返ってきた。慎悟もあの仮装は似合わないと思っていたのかな。

 ぴかりんは私が興味持っていた下駄競争に出場していて、履き慣れない下駄に悪戦苦闘しながら走っていた。下駄って走った時に足の裏にどのくらいの衝撃が来るんだろうか。ぴかりんは残念ながら1位にはなれなかった。
 その次は幹さんがクイズリレーに出場したが、幹さんは運動がそこまで得意じゃないらしく、クイズ出題地点には最下位で到着した。しかし難問を出されたにも関わらず、あっさり正解して1位でゴールした。
 ペンは剣よりも強しって言葉あるよね。ちょっと意味は違うけど、知識量で勝利する幹さんすごい。

 その次は借り物競争だった。私の友人達は参加しない。席に座って友人とおしゃべりしながら見ていた。

「二階堂さん、ちょっと来てくれる?」
「……へ?」

 すっかりマッタリ気分でおやつのいりこを食べていた私に声を掛けてきたのは、黄色ブロックである上杉だった。
 行くって…あぁ、借り物競争に出場していたのね。……お題は一体何なのよ…。

「…いやだ」
「そんな事言わないでよ。二階堂さんじゃないと意味がないんだ」
「こーとーわーるぅー」

 私の勘違いじゃないと思う。お題は多分ベタな「好きな人」系だろう。手でシッシッと虫を払う仕草をして拒否したのだけど、上杉という男は諦めが悪かった。
 知ってたけど、まさか行動に移すなんて思わないよね。上杉の腕が伸びて来たと思ったら、体がふわっと宙に浮いた。 
 私はいりこの入った大袋を持ったまま、ぽかんとしていた。…どうやら上杉にお姫様抱っこされたようである。

「…っなにする!」
「おっと、危ないよ。怪我しているんだから、落ちたら更に悪化するかもよ?」
「なら降ろせよ!」

 上杉はなんとしてでもエリカちゃんを連れていきたいらしい。
 私はジタバタ暴れた。だけど上杉は動じることなく、そのままゴール地点に足を向けた。

「おい上杉!」

 いくら何でも強引だろうと思ったのか、慎悟が止めようとしてくれたが、上杉はいつものあの人の良さそうな笑顔を浮かべていた。

「後でちゃんとお守り役には返してあげるよ」
「待てって!」
「慎悟! 慎悟助けて!!」

 私は慎悟に手を伸ばして、慎悟の体操服の袖を掴んだ。だけど上杉が走り出すと、指から袖が抜けて、縋るものが何も無くなってしまった。

「ぎゃー!」

 私はいりこの大袋を抱えたまま絶叫した。上杉に姫抱っこされてゴールしたのだった…。
 その後ブロック席に戻った時、半泣きでぴかりんの腕にしがみついた。いろいろな危険を感じたわ…。

「ほらエリカ、阿南さんが頑張ってるから応援してやりなよ」
「…阿南さーん頑張ってー」

 トリの花形スウェーデンリレーの前の競技である大玉ころがしに阿南さんは出場していた。そこには丸山さんもいて、時折コースアウトしていたが、ふたりとも一生懸命に転がしていたよ。

 最後の競技を終えて、青ブロックは準優勝という結果だったけど、特に悔しいという気持ちは湧かなかった。多分、周りがあまり燃えていないからだと思うんだけど。
 …今まで勝つことしか考えていなかった体育祭だけど…たまにはこんな感じのゆるい感じの体育祭も悪くないのかもしれない…
 いやでも、あの借り物競争は恐怖だったな。案の定お題が好きな人だったし……
 中の人が別人なのに公衆の面前で告白みたいな感じで晒し者になって、私はとても複雑な気分になった。
 きっぱりお断りしておいたけど、あいつがこれで諦めるような人間じゃないのは知っているから無駄だろうね。

 やっぱり上杉は危険人物だ…あいつ怖いねん。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...