お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

苦い苦い恋の味。

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──ドサドサドサッ
 私の目の前に、包装されたお菓子が沢山置かれた。

「はい、エリカちゃんにお裾分け」
「えっいいんですか!? これ二宮さんがもらった分じゃ」
「いいのいいの。俺こんなに食べ切れないし」
「やったぁ! ありがとうございます!」

 午前の授業の後に食堂で昼食をとっていたら、二宮さんが戦利品を分けてくれた。友達と分けて食べていいと言われたので、一緒に昼食をとっていた友人達に配る。
 二宮さんもモテるなぁ。彼は一般生だけどセレブ生からもチョコを貰っているようで、高そうな箱が戦利品に混じっている。一粒500円くらいするメーカーのものがあるけれど、これ本当に貰っても良いのだろうか。

 友達といえば、現在ぴかりんは意中の小池さんと一緒に昼食をとっている。手作りチョコもしっかり用意して、今日告白してくると意気込んでいたが……戻ってこない辺り、多分うまくいったんだろうな。良かったね。
 いつ2人はくっつくかなって阿南さんと陰で話していたけど、やっとくっついたね。

「エリカちゃんは誰かにあげないの?」
「私は貰う専門なので。ホワイトデーで良ければお返ししますよ」
「元婚約者とかには?」
「片腹痛い」

 どいつもこいつも宝生氏にあげないのかと聞いてきやがって。何で私が宝生氏にあげないといけないんだよ。
 私が吐き捨てるように返事をすると、二宮さんが「だよねー」と笑っていた。わかっているなら何故聞いた。
 二宮さんは「毎年お返しが大変なんだよ~」と俺モテるんだアピールをすると、じゃあねと去っていった。気持ちはわかるよ。私も生前、ホワイトデーの月はお小遣いが消えてなくなっていたから。

 私は二宮さんから貰ったおすそ分けの品々を見比べた。これでしばらくは甘いものに困らない気がする。日持ちの短いものから消費せねば。ぴかりんの分も取り分けておこう。
 私が小包装の商品を友人たちに振り分ける作業をしていると、また別の人物が私に声を掛けてきた。

「二階堂さぁーん」
「やだ」
「まだ何も言ってないじゃないの!」

 お昼一緒に食べようと言われるかと思って先に断ったんだけど、違うん?
 振り返った私は瑞沢嬢を見てギョッとした。彼女の指は何故か絆創膏だらけ。その手で少々みすぼらしいラッピングの箱を私に差し出してきた。

「はい、友チョコ! わたし初めて作ったの!」 
「……」

 友チョコって。友達になることは断ったはずですが。えぇ。
 瑞沢嬢は私を見てニコニコ笑っている。
 私はちょっと迷ったけど、それを受け取った。彼女めっちゃ怪我してるし、一生懸命作ったんだろうなと言うのがわかったから…断りにくかったんだ。

「うふふ、二階堂さんだけで食べてね!」
「…ありがと」
「じゃあね!」

 スキップでもしそうな足取りで瑞沢嬢は去っていった。あの子未だによくわからんわ…
 貰った箱のラッピングを解くと、そこには黒くて、いびつななにかが入っていた。
 なにこれ……何が入っているんだろうか。食べるのが少し怖い。私は目の前の席に座っている阿南さんに「私にもしものことがあったら犯人は瑞沢姫乃だから」と遺言を残し、デコボコしたチョコ? 謎の物体を摘み、そして食べた。

 形は悪いけど意外と美味しかったです。中身はココアクッキーが入ったチョコレートのようだった。


「二階堂様、これを解いたらうま○棒ですよ! 二階堂様の好きな味を用意してあります!」
「う○い棒!!」

 幹さんは私の扱いを心得ていらっしゃる。うま○棒で釣られる私も私だが、今日甘いものばかり食べていたから、チープで塩っ気のあるものが食べたいのよ!
 待ってろよ、う○い棒! 

「余ったからあげる。ちゃんと勉強すんのよ」
「ありがと~」

 ぴかりんは本命にあげる為に作ったチョコが余ったからと私に友チョコをくれた。彼女は告白が見事成功して、今日はめでたく彼氏になった小池さんと一緒に帰るそうだ。
 …私は勉強会でまだ帰れない。

 教室で彼女を送り出すと、私は目先の○まい棒のために幹さんお手製の問題プリントを解き始めた。
 宿主はセレブ生であるエリカちゃんだが、単位が足りなかったら留年とかになるんだろうか…それともマネーの力を使って…
 いや、腹くくって勉強しよう…はぁぁ…

 きりの良い所でその日の勉強会は終わった。勉強を教えてくれた幹さんにお礼と挨拶をし終えると、私は帰宅するべくフラフラと教室を出た。頭がパンクしそう。
 廊下を歩きながら幹さんに貰ったう○い棒を早速食べていると「…歩き食いははしたないからやめろよ」と後ろから声を掛けられた。

「ん。…慎悟も今帰り?」

 既に頬張った後なので、咀嚼して飲み込んだ後に彼に問いかけた。自習室で勉強でもしていたのだろうか?
 私の問いに慎悟は頷くことで返事をして、私をジト目で見てきた。

「そんなに見てもあげないよ」
「いらん」

 良いじゃないの、周りに人がいないんだから大目に見てよ。私は構わずサクサクとう○い棒を消費していった。
 美味しかった。
 未だにこっちを見てくる慎悟に目を向けると、彼の手には学校用の鞄の他に大量のギフトの入った紙袋を提げているのに気づいた。

「…ていうか沢山もらったね。それお返しが大変そう」
「…毎年のことだから慣れた」
「だよね。気持ちはわかるよ」
「……は?」

 でもねそれ、モテない男子の前で言っちゃ駄目だよ。嫉妬買うよ。私もお返し大変だったからわかるわー。って相手に同調したら、慎悟が訝しんでいた。

「私もバレンタインは貰う側だったからわかるの。でも良かったね。慎悟はチョコレートが好きじゃん」
「いや、すごく好きなわけじゃ…」

 何故否定する。好きなものは好きだって正直に答えなよ。ここでの話は食べ物の嗜好だし恥ずかしくないでしょ。

「隠さなくても、あんたが甘いものが好きなのはバレてるよ。加納ガールズ達からも気合の入ったチョコレート貰ったんでしょ? 今度味の感想教えてよ」

 別にからかっているわけじゃないんだから、素直に甘いものが好きっていえばいいじゃない。ほら、ビターな性格の慎悟がスイーツ好きというギャップ萌え狙えるしさ。

「…別に狙っていない。狙うつもりもない」

 プラスの意味で話したんだけど、慎悟にはいい意味で捉えることが出来なかったようだ。彼は顔をしかめてしまった。

「ほらほらそんな顔しかめないの。折角の綺麗な顔が台無しだよ?」
「余計なお世話だ」

 うーん、難しいお年頃なのかな。からかっているつもりはないけど、私の発言で慎悟は不機嫌になってしまった。
 肩を並べてあーだこーだと話しながら歩いていたらいつの間にか下駄箱に到着していた。
 ふと思い出したが今日私は幹さんから宿題を出されたので、家に帰ったらそれを片付けなければならないのだ…早く家に帰らなくては。
 …勉強しすぎて頭痛いな…
 テンションが急激に下がった私は重い足取りで靴箱に近づくと、その中には朝見たような気がする紙袋が収まっていた。

「うわ…」

 上杉の野郎…何が何でもエリカちゃんに渡すつもりか。見た感じ市販だけど……チョコレートじゃないよね。それにしては重いし。
 家に帰ってから確認するのも怖いから、その場で箱を開けて中身を見てみると、それは外国語のラベルが貼られたボトルだった。

「……何これ…?」

 箱を確認すると、日本語ラベルが貼ってあって、そこには【ヘアオイル】と記載されていた。薔薇の香りだってさ。

「……」

 何かに付けてエリカちゃんの髪に触りたがる上杉のことを思い出した。
 ゾワッ
 …全身の毛穴が全て開いたような気がした。こわい。


「慎悟様!」
「…丸山さん」
「やだわ、乙葉おとはとお呼びくださいな」

 正門の入門ゲートの向こうに、寒さで鼻を赤くさせた丸山嬢がいた。彼女は慎悟を見つけると、それはそれは可愛らしく微笑んでいらっしゃった。その手には何かが入った紙袋が提げられていたので、それを見た私はピンときた。
 わざわざ学校まで届けに来たのか…健気な子だなぁ。あまずっぱーい。
 察した私の顔はニヤけた。

「それじゃ慎悟、頑張って」
「は? ちょ、笑さん?」
「ばいばーい」

 2人の邪魔をしてはならない。おじゃま虫は退散するよ。
 いいねぇいいねぇ。多分丸山嬢はいいとこのお嬢さんなんでしょ? 慎悟と年の頃もちょうどいいし、性格も良さげだし…いいんじゃなーい?
 彼らは立場的にも、家同士の結婚をしないといけないんだろうけど、想い合っていれば尚良いじゃないの。
 今度進展具合を慎悟に確認しよーっと、とウキウキしながら、二階堂家のお迎えの車に乗ると、いつもお迎えに来てくれる運転手さんに車を出してもらうように頼んだ。
 車のバックミラーに丸山嬢が慎悟に紙袋を差し出している姿が小さく映っていて、私はまたニヤけた。

「今日の学校はいかがでしたか? お嬢様」
「いっぱいチョコレートを貰いました。ホワイトデーにお返ししなきゃ」
「それはようございましたね」

 エリカちゃんに憑依して以来、学校の送り迎え中に私が声をかけるようになって、運転手さんも話を振ってくれるようになった。今では運転手さんの家族の話にも詳しくなったぞ。なかなか親しくなった気がする。

「それで幹さんがー…」
「…? お嬢様?」
 
 その日も同じ様に学校での話をしていたのだけど、車の窓の外で流れる風景の一部に、見知った人が小柄な女の子と一緒に歩いているのを見つけた私は沈黙してしまった。
 運転手さんの呼びかけに応える事なく、私は窓の外を凝視していた。

『笑ちゃんは女の子なんだから』 

 私を女の子扱いしてくれた男の人は3個上の従兄であるユキ兄ちゃんだけだった。
 ユキ兄ちゃんは彼女と手を繋いで歩いていた。そして彼女に笑顔をみせていた。
 そう…私が見たことのない、甘い表情で彼女に笑いかけていたのだ。ユキ兄ちゃんは、好きな人にあんな風に笑うのか。…私には絶対にあんな表情を向けてはくれないのだろう。
 ジリジリと私の胸を焦がすのは、嫉妬だろうか。それとも…羨望?

 諦めると決めたはずの叶わぬ想いが、まだ私の心の中でくすぶっていることに今気がついた。

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