57 / 328
さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
明けまして二階堂本家の集まりでございます。
しおりを挟む「えっちゃん、ちょっとの我慢だから辛抱してね」
「エリカは口数が少ない子だったから、話さなくても不審がられないから」
新年ということで、私は二階堂パパママと一緒にとある場所に来ていた。そこは二階堂家の本家と呼ばれる場所。都会の喧騒から離れ、田舎とまでは言わないが、緑の多い場所の一角にどーんと建てられた立派な日本家屋。ここで二階堂パパは育ったのね…大きなお家ですね。
年のはじめの今日、その本家に二階堂と縁がある人間たちが大集結するそうだ。
あー苦しい。成人式まで縁がないと思っていたのに、まさか正月だからと振袖着せられるとは。
初夢にエリカちゃんが出てこないかなとか考えながら寝たけど、彼女は夢枕には出てこなかった。
今年も憑依してるままなのか私は。本当にエリカちゃんはどこに行ったの?
二階堂家のお手伝いさんらしき人に先導されて案内されたのは、任侠映画の組長と組員がいそうな雰囲気の広い和室。今どきこんな広い和室ってのも珍しいよね、畳がある家自体が減っているし。
「政文、久しぶりだな」
「兄さん。元気そうで何よりです」
不自然に見えないように目だけで辺りを探っていると、二階堂パパに声をかける男の人がいた。二階堂パパよりも少し年上で、背はさほど高くないけど筋肉隆々なコワモテおじさんだった。
二階堂の人なら…この人もセレブなんだろうが…その辺のショッピングモールにいそうなおじさんだ。パパと似てないな。それぞれ両親に似ているのだろうか。
二階堂パパは4人兄弟の3番めで、姉、兄、パパ、妹の順番らしい。お兄さんとは仲が良いようだ。めっちゃ親しげにバシバシ肩を叩かれている。
エリカちゃんの伯父さんであるその人は、エリカちゃんの姿をした私の存在に気がつくと、眉を八の字にしていた。そんな顔をするとコワモテの顔が和らいだように見える。
「エリカも来たのか…もう大丈夫なのか?」
「…はい…ご心配をおかけいたしました。明けましておめでとうございます」
とりあえずお淑やかっぽく振る舞っておく。イメージは阿南さんとか副会長の寛永さんね。
「明けましておめでとう……あんな事件に巻き込まれた上に、宝生の息子に恥をかかされて…本当に災難だったな。でもお前はべっぴんさんだからもっといい男が居るさ。なんならうちの息子はどうだ? 顔は俺似で男前とは言い難いが、性格は悪くないと思うぞ?」
「……いえ、まだ心の整理がついておりませんので…」
エリカちゃんの知らない所で婚約者作るとか出来ません。
伯父さんも本気ではなかったらしい。ちょっと提案してみただけのようで、そうか。とあっさり引き下がった。
室内には当然ながら知らない人ばかりがいた。ママが小さな声で私に説明してくれる。
上座に一番近い位置にいるのが二階堂家当主であるエリカちゃんのお祖父さんの長子であるお姉さんとその旦那さん。そして息子さん夫妻。息子さんのお嫁さんが慎悟の従姉だったっけ。
その次にさっき話したパパのお兄さんである伯父さんと奥さん、大学生と社会人風の息子さんが3人。伯父さんは建設関係の会社を任されているらしい。道理で筋肉隆々なわけだ。息子さん達もムキムキだった。ラグビーやってそう。
次がパパママとエリカちゃん(私)
最後にパパの妹さんとその旦那さんと小学校低学年ほどの小さな女の子1人。
お姉さんと妹さんは育ちの良さそうなマダムって感じ。二階堂ママと同じくセレブ臭が漂う上品な女性たちだけど、一点だけ二階堂ママと違うのが、二階堂ママは外で働くのが好きな人なので、その辺りの雰囲気が違うかな。
妹さんの小学生の子は育ちの良さそうなふわふわしたお嬢様って感じの女の子だけど、ここに来てからずっとぶすくれている。
対面側にはまたまたズラッと人がいるが、あっちは分家とか縁戚の代表がいるとか。
はぁー…規模が大きい。
松戸の家も正月に祖父母のうちに集まったけど、うちはしがない中流家庭。ただみんなの近況報告がてら飲み食いする集まりなだけ。私はお年玉のために参加していただけだ。
こんなに厳粛な、大規模な集まりではなかった。
暇だし、着物が苦しいし、早く帰りたい。
私は澄まし顔をしながら、この時間が早く終わればいいのにと念じていた。
二階堂家は基本的に男子に経営を任せるそうだ。女性陣はお嫁に行くことが多いし、婿を貰わないといけない状況でもないからだ。なのでお姉さんと妹さんはお嫁に行っていて名字が違うのだが、本家筋というわけで招集されているそうな。
分家筋の優秀な男子に会社を任せたり、縁戚と共同経営したりナンタラ…まぁとにかく色々あるらしい。興味がなさすぎて全部は覚えきれなかった…
なので、対面側の席に慎悟の顔を見つけた時に納得した。
慎悟は縁戚として無関係ではいられないから、エリカちゃんの行動に口出ししてたんだろうって。だからエリカちゃんの性格をよく知っていたのかなって。
下手したら婚約者だった宝生氏よりも理解していたんじゃないかって今なら思う。
…思ったんだけど年の頃も近いし、エリカちゃんと慎悟の婚約話はなかったのだろうか? エリカちゃんの従兄が既に加納の人と結婚していたからパワーバランス的に避けられたとか?
ところで慎悟は1人で参加しているんだろうか? お父さんお母さんらしき姿が見えない。
「ママ、帰りたい」
「美宇…もう少し我慢なさい」
「やーだー!」
二階堂家当主は未だに現れない。
正座し続けるのがシンドイな。しかも何もすることがなくて、俯きがちに…少しウトウトしていると、隣から女の子の不満そうな声が上がった。
私はちらりとそっちに目を向けると、小さな女の子…エリカちゃんの従妹に当たる少女が帰りたいと騒いでいた。
奇遇だね、私も帰りたいよ。
まじまじ見ているつもりはなかったが、私の視線に気がついた美宇ちゃんと目が合うと、キッと睨まれてしまった。
ご機嫌斜めなのね。
そういう事あるよねとスルーしようとしていると、エリカちゃんの叔母さんが「ほら、美宇がうるさいからあそこのお姉ちゃんが怒るわよ?」と言い出した。
……いやいや。躾なら私のせいにするんじゃなくて、母親であるあなたがちゃんと叱ってください。私のせいにするのは本当に止めて。
ついつい顔をしかめてしまいそうになったが、関わりたくないので顔をそらす。
パパの妹さんと私は一回り以上年が離れているし、エリカちゃんの叔母さんだから指摘しにくいわ。
「なんで? あの人、可哀相な人なんでしょ? なんで美宇を怒るの?」
「こ、こらっ駄目でしょ、そんなこと言っては!」
「だってママが言ってたじゃない。可哀想な人、美宇が巻き込まれたんじゃなくてよかったって!」
「……」
なんていうかどう反応すればいいのかわからない。ここで怒るのは憚られるし……放っておこう。
面倒くさいから勝手に憐れんでおけ。私は親しい人間に憐れまれるのが耐えきれないが、どうでもいい人に憐れまれるのはどうとも思わないから。
「紗和…お前はもう少し子供の躾をちゃんとしなさい」
「! お父様!」
何処からか重々しく、威圧感のある声が聞こえてきたかと思えば、叔母さんがぎょっとした顔をしていた。
「…他所でもそんな事言っているんじゃないだろうな…」
私は俯いていた顔を上げて、その声の主に視線を向ける。その先には小柄なご老人がいた。だがその顔はコワモテ。
あっ、伯父さんとそっくり。というのが私の感想である。この人がエリカちゃんの父方のお祖父さんだと一目でわかった。
お祖父さんは叔母さんを叱責するような目を向けて「…一番下だからとアレが甘やかしたのが悪かったか…」となにやらぼやいている。
彼の登場に和室に集められた人達がざわざわとなにやら落ち着かない様子になってきた。これから一体何をするんだろうか。
上座と呼ばれるであろう席にお祖父さんがどっしり腰掛けると、来客たちがザッと一斉に注目した。一糸乱れぬその動きに私は固まっていた。
なんだこれ、私は何をすれば良いんだ。
1
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
自己評価低めの彼女は慣れるとデレるし笑顔が可愛い。
茜琉ぴーたん
恋愛
出会って2ヶ月で想いを通わせ無事カップルになった千早と知佳…仕事と生活、二人のゆるゆるとした日常が始まります。
(全21話)
『自己評価低めの彼女には俺の褒め言葉が効かない。』の続編です。
*キャラクター画像は、自作原画をAI出力し編集したものです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる