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続編・私の王子様は今日も麗しい
女の戦場で戦って来たのです。ご褒美をください。
しおりを挟む「レオーネ様がご使用の美容品とはどちらのものですの? 是非わたくしにも紹介してくださらない?」
私を中心にしたいじめからガラッと惚気話に変わり、空気が変わったのを見計らったのか、そこに他のレディも口を挟んできた。
「先日レオーネ様がダンスのきっかけを作ってくださったお相手からお出かけに誘われていますの。今注目の歌姫が出演するオペラなんですけど、殿方とお出かけするのは初めてで……わたくし、いつもよりも綺麗な姿で彼とお会いしたいの」
恋する乙女な表情で報告してきたのはカトリーナ様である。先日のパーティでダンス相手を見繕った流れから交際に発展したらしい。
喜ばしいことだが、ここで発言しても大丈夫なのだろうか。
カトリーナ様のハーグリーブス家は伯爵、そして私をいじめようとしている令嬢の中心にいるのはモートン侯爵家の娘である。
私に好意的な態度を見せて、あとで圧力とか掛けられないかなとハラハラしていたが、私の心配なんてなんのその、カトリーナ様は交際中のご子息との文通や贈られたプレゼントについて惚気はじめてしまった。
「この扇子は隣国……レオーネ様の母国の職人が作ったもので、一点ものですの。レスリー様がわたくしに似合うからと贈ってくださったのですよ」
そう言ってカトリーナ様が見せびらかした扇子。
……確かに言われてみれば、彼女の持つ扇子には私の国の伝統的な模様が施されている。模様ひとつひとつに意味合いがこめられていて、その扇子の模様は……
「君の愛を乞う、ですね」
「……え?」
「私の母国の模様には言葉が籠められていますの。その扇子にはレスリー様からカトリーナ様への想いが籠められているのですよ」
相手がそこまで考えて贈っているのかまでは存じ上げないけど、私の母国の国民ならそう解釈する。大切な人に贈り物をするときには模様を施して贈り物をするから。
こっちの国ではそういう風習がないんだったね。
そのことを教えてあげると、カトリーナ様はぽかんとしていた。そして一拍遅れて頬を赤く染め上げていた。
照れてるんだな。気位高そうな貴族令嬢も女の子なんだ。気になる人にそういう贈り物をもらったらそんな反応になるだろう。
私はウフフと微笑ましい気持ちで彼女を見守った。
「レスリー様というのはカーティス伯爵家の? 最近輸入事業を拡大したとお聞きしてますわ。隣国との縁が深いのですよね」
「素敵な扇子ね、何というお店の作品ですの?」
「模様に愛の言葉が籠められているなんてなんて素敵なんでしょう」
恋のお話が好きなご令嬢の乙女心を大いにくすぐったらしい。食い付いてくる人が続々出現した。ポリーナさん並びに恋愛話が好きそうなご令嬢は羨ましがったり、我こそは! と自分の惚気話をお披露目したりし始めてしまった。
私をいじめようとした令嬢集団は惚気に圧されて何も言えない様子。ぐぎぎ、と唸ってそうな顔して睨まれたけど、私は岩になった。
ふとパチッとカトリーナ様と目が合った。彼女はイタズラが成功したとばかりに私にウィンクをしてきたのである。
なるほど。
悪い空気を惚気という力で流す。自分の流れに相手を巻き込むのが勝ちなんだな。勉強になったぞ。流石、生粋の貴族令嬢だ。
「──なんだか盛り上がっていらっしゃるのね、どんなお話をしているの?」
そこへ王太子妃殿下がやってきたことで場の空気が変わる。令嬢達は席を立って一斉に礼をした。私もそれにならって同じようにする。
「今日は堅苦しいことは抜きにしましょう。それで? 何のお話で盛り上がっていたのかしら」
しかし今日のこの場では無礼講だと言って挨拶を省略させられた。王太子妃殿下は上座の席に座りながら、ちらりと私を見てニッコリと微笑む。
これは私に問い掛けているのだろうか……
少し迷ったが、私はありのまま話すことにした。
「皆さんの婚約者やお付き合いしている方との恋の進捗度をお伺いしておりました」
「あらあら」
既に既婚者であられる王太子妃殿下はこの中の令嬢達よりも年上だ。年下の令嬢達の可愛らしい会話の内容に微笑ましそうな反応を見せた。そしてそれらに大層興味を抱いたようである。
「レオーネ様のお話はもう終わったの?」
「えぇ…まぁ」
私が話したというより、他の人が話した形だったけど。
「せっかくだから私にも聞かせてくださらないかしら?」
あろうことか、王太子妃殿下か私の口からもう一度話してみなさいと言ってきた。
「恥ずかしいので嫌です」と拒絶できたらいいけど、相手は未来の王妃様。悪意のかけらが全く見当たらない興味津々なお顔で聞かれたら突っぱねることなんかできない。
仕方がないので、先日お忍びデートしたときのお話をした。
「先日のお話ですが……城下の大広場に大道芸人が集まるという話を聞いたので、息抜きとしてステファン殿下と城下へお出かけをしました」
私に視線が集中して顔にぐさぐさと刺さってくる気がした。興味や関心ならまだいい。悪意や憎悪まで一身に背負った気分になってとても息苦しい。
「殿下を庶民が行き交う雑多な街中に連れて行きましたの? これだから平民上がりは……」
嫌みったらしく赤毛の令嬢がボソッとつぶやいたのが聞こえた。私が話すのをやめようとしたら、王太子妃殿下が「ステファン殿下は市井のことを学ぶためにたまにお忍びされますものね」と助け舟を出してきた。
この場で一番権力のある王太子妃殿下にあれこれ言える令嬢はいないらしい。マージョリー嬢は気に入らなそうに顔を歪めて私を睨んできたけど、王太子妃殿下の視線が向けられるとお澄まし顔をしていた。
「それで? どんなデートになったのかしら?」
それで王太子妃殿下から更に話をねだられ、飴細工の話をすると……
「バラの飴細工! 食べられるお花をプレゼントされたのですね、素敵!」
「生花もいいですけど、飴のお花もいいですね」
恋話大好き組は大盛り上がりを見せた。
いや、この国のお金を持っていないくせに私がふらふら手を出してしまったからステフがお支払いしてくれただけなんだけどね、とは言うまい。
「そのあとは大道芸人の芸を見て回りましたが……ステファン殿下の瞳は少年のように輝いていました。命懸けで仕事をする彼らに深い感銘を抱いたようです」
王宮では絶対に見られないであろう一面を見たと言えば、女性陣が黄色い声をあげて羨ましがっていた。
なんだか物凄く恥ずかしいような胸がくすぐったいような感情に襲われて、私はバッと王太子妃殿下の方へ視線を向けた。
「妃殿下のお話を是非伺いたいですわ!」
私から惚気をねだられるとは思っていなかったらしい彼女は目を丸くしていたけど、扇子で口元を隠してなんだかもじもじしていた。
「実は……」
彼女の口から飛び込んできたのは懐妊報告。今日遅れたのも急遽侍医に見てもらうことになったからだった。
その場は王太子妃殿下のおめでた話で大盛り上がりをみせ、淑女の花園と言うにはやや賑やかなお茶会となったのである。
数時間のお茶会は幕を下ろした。
頬っぺたを赤くして満足げに帰っていく令嬢達をお見送りしていると、私の前に一人の令嬢が立った。
「本日はありがとうございました」
「こちらこそ」
その人は子爵家のご令嬢だ。直接お話はしていないけど、今日のお茶会に参加していた人である。
「ずっとあなたとお話してみたかったのですが、その機会が見つからなくて……これ、よろしければお近づきの印に」
微笑みながら手渡されたのは小さな小瓶だ。お店のラベルが張られているそれは香水だろうか。
「私のお気に入りなのです。ぜひ使ってみてください」
「ありがとうございます」
予想していなかった贈り物をされた私はすこし戸惑ったけど、好意的な令嬢は他にもいるんだなと安心した。
まだまだ大勢からは受け入れられてはいないだろうけど、これも地道に乗り越えるしかない。いろいろとやりきった気分で、自分の居室に宛てられている部屋に戻った。
部屋ではステフがお出迎えしてくれた。待っている間、ソファに座って書類作業をしていた彼は私が戻ってきたと知ると、書類をテーブルに置いて立ち上がった。
「お帰りレオーネ。……楽しかった?」
どうやらお茶会に初参戦の私を心配して待っていてくれたようだ。
楽しかったかと言われたら……緊張してそれどころじゃなかったかな。嫌なことも言われたし。
「……上流社会の洗礼を受けました。育ちが滲み出ていると言われちゃいました」
私は苦笑いしながら人差し指で頬を軽く掻いた。
あれこれ言われるのは仕方ないとはわかっているんだ。平民だったのは間違いないし。本来であれば私はここにはいないのだから。目障りだと思われるのは当然のこと。
「でもポリーナさん達が見兼ねて庇ってくれたので。途中からは別の話題で大盛り上がりしたので大丈夫でした」
あんまり暗いことを話したらステフが心配するだろうと思って、明るい報告に切り替えるけど、ステフは私の言葉を疑っているようだった。もしかして虚勢を張っているように見えているのだろうか。
「本当ですって。好意的な人に香水もらったんです」
これが証拠だと見せびらかすと、ステフはそれを手に取り、側にいたヨランダさんに手渡していた。
「え……」
「念のために試験をします。異物混入が疑われますので」
そう言ってヨランダさんは頭を下げると、すたすたと退出してしまった。
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焦らしに負けた私は彼の首に腕を回して顔を引き寄せると、自分から彼の咥内へ舌を差し込み、彼の舌を求めた。
ステフは私のしたいようにさせてくれるようで、私の背中に腕を回して支えてくれた。
私はそれが物足りなかった。ステフからも求めてほしいのに、今日の彼は受け身なのだもの。
悔しいので腕に力を込めて後ろのソファにステフを押し倒そうとしたら、私の意図を察知したステフが勝手にソファに逆戻りしてくれた。
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「ステフ……もっと」
掠れた声で求めると、ステフの腕が私の腰を強く抱きしめてきた。苦しいコルセットの上から力強く抱きしめられたらますます苦しいはずなのに、興奮していた私はそれが気持ち良かった。
まだ足りなくて彼に縋り付いて彼の唇を貪った。どんなにキスを繰り返しても足りない。もっと欲しい。はしたないと怒られるかもしれないけど、私だって欲しい時がある。
戦ってきた後だからだろうか。気分が高ぶって仕方ないのだ。
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