3 / 55
運命の相手と言われても、困ります。
なにかの手違いです。そうとしか思えません。
しおりを挟む周りにいるうら若き乙女達に睨まれ、王子様にも睨まれている私はこの状況が良くないと理解していた。
嘘でしょ、誰か何か言ってよ。
この占いは無効だって……!
私は恐怖でバクバク跳ね上がる心臓を胸の上から押さえて後ずさった。
何故こうなった。冗談じゃない。
伯父に助けを求めようと視線を送ると、彼は不思議そうに私を見下ろしていた。その顔があまりにも不思議に満ちていたので、私は嫌な予感がした。
「何を怖じけづくんだレオーネ。お前の母は由緒正しきブロムステッド男爵家の血を継ぐものだぞ? 我が家は建国時代からずっと王家に仕え、国に貢献してきた」
伯父の発言に嫌な予感が現実になってきた。
「社交界の花と呼ばれたミカエラ叔母上に瓜二つのレオーネ。お前は貴族の血を確かに受け継いでいる。高名な魔女様によって選出されたステファン殿下の花嫁候補なんだ。堂々と胸を張りなさい」
そ、そんなことを言われましても。
ミカエラ大叔母上様はとても綺麗な人で男爵家の出でありながら、その美しさ故に熱望されて公爵家へお嫁に行ったとかは聞いたことあるけど、平民の私と一緒にしては失礼だろう。
そもそも、貴族の血が流れていようと私が平民なのには変わりないでしょう!
「伯父様、伯母様! もう帰ろう!」
もうこんな針のむしろ状態、耐えられない。王子からも視線で人が殺せるくらい見つめられており、一刻も早くこの場から離れてしまいたかった。
私は伯父と伯母の腕を引っ張ってこの場から離れようと促した。
「逃がすな」
しかし、上から飛んできた不穏な命令により、私はどこからともなく出現した騎士様達に囲まれてしまった。
そんなまさかとバルコニーで命令を飛ばしたであろう人物を見上げると、未だに彼は私を強く睨みつけていた。
「花嫁候補様、どうぞ此方へ」
畏まって誘導して来るが、相手は剣を携えた騎士だ。
え、斬首? 斬首されるの? これって不敬罪なの?
「──冗談じゃありませんわ! 平民が殿下の花嫁ですって!?」
それに黙っていられなかったのはお澄まししていた貴族の姫様の一部である。
「殿下! わたくしのミドルネームにも獅子の名が含まれておりますわ! 髪の色も瞳の色も一致しています!」
栗色の髪を縦ロールにしたお姫様が立ち上がると、異議を申し立てた。表立って声を上げたのはその人だけだったが、他にも物言いたげに不満を目で訴える貴族のお姫様達がいた。
「さぁ、こちらへ」
「レオーネ、行きますよ」
貴族の姫様が声を上げたのならあっちが優先されるんじゃないかと期待していたのもつかの間。
私は伯母に背中を押され、半ば強引に王宮の中へと引き込まれて行ったのである。
◆◇◆
通されたのは謁見の間と呼ばれる場所だ。
玉座に座っているこの国の王様と王妃様、そして横に立つ王子様を前にした私はめまいがした。
これは夢ではないかと疑ったが、自分の手の甲を抓ったら痛かったので夢じゃなかった。
「お嬢さん、お名前をお聞きしていいかしら?」
深々と頭を下げていた私に王妃様が優しく声をかけてきた。
私は震える声で自分の名を告げる。
「れ……レオーネ・クアドラと申します……」
「ブロムステッド男爵の姪とのことですから…市井の男性の元へ嫁入りしたプリムラの娘さんで間違いありませんね?」
「はい、間違いありません」
やっぱりお母さんの結婚騒動はこの国では広く知られているのかな。それとも王妃様と歳が近そうだから顔見知りとか。
なんだろう、母の因果が娘の私に襲い掛かって来たのだろうか。思わず遠い目で床の絨毯を見つめてしまう。こーれは高そうな絨毯だ。
いわゆる現実逃避って奴だ。
「面をあげよ」
できればずっと頭を下げていたかったけど、王様に言われたら上げるしかない。
貴族のお姫様ならこういうとき澄まし顔で顔を上げるんだろうが、こちとら市井の庶民。強張った顔になってしまうのはご愛嬌である。
「ほう、これは……近くでみるとますます……」
王様に探るように観察された私はますます萎縮する。街中で男性に注目されるのとは訳が違う。私の一挙一動で斬首されてしまうかもしれないという恐怖で頭がいっぱいだった。
「──陛下、レオーネ嬢が怯えています。あまり凝視なさらぬよう」
「……ステファン、自分こそ舐めるように凝視しておいて」
「私はいいのです。彼女は私の花嫁候補ですから」
なんか王子様がそんなこと言ってるけど、良くないよ?
こっちは睨まれてさっきから震え上がってるのわかんないかな?
「あの、すみません、やっぱりこの占いは何かの間違いなんじゃないでしょうか!」
罰せられるのを覚悟の上で私はもう一度訴えた。すると王子の秀麗な眉がピクリと跳ね上がり、眉間にシワを作った。
美形の怒った顔怖ぁぁ……思わず涙目になってしまった。
「も、もしかしたら占いの結果が間違っているのかもしれませんし」
「魔女殿の占い結果を疑うのか?」
王子に冷たくギロリと睨まれ、私はヒュッと喉を鳴らした。
だが、ここで引いてはならない。私の今後がかかっているのだから!
「だ、だっておかしいじゃないですか。隣国の平民が王子殿下の伴侶候補になるなんて……それにもっとよく探した方がいいですよ、条件に一致する女性が他にもいるかもしれないじゃないですか!」
人違いであると必死に訴えたけども、彼はこっちを鋭く睨みつけて来るだけだ。
王子様は私が運命の相手(仮)なのがご不満だから睨んで来るんですよね? それなのになぜ、この占い結果に異議を申し立てないのか。
「わ、私には荷が重すぎます……」
いくら麗しの王子といえど、結婚となると話は別だ。
恋をしている訳でもないのに、勝手に占いで運命を決められて結婚したいと思う訳がないだろう。
「仕方あるまい」
王様がため息を吐き出したので、諦めてくれるのかと思ったけど、次に飛び出した言葉に私は再び絶望の淵へ叩き付けられることとなる。
「婚約の話は先延ばしにして、このステファンとの交流を深める時間を設けるとしよう」
違う! そうじゃない、そういうことじゃないんだよ!!
数日程度伯父の屋敷で滞在したら帰国するつもりだったのに、私の身柄は城に拘束された。
なぜって?
占い該当者は花嫁候補として滞在して行儀見習いしろと命じられたからさ! つまり花嫁修業だ。
伯父伯母は姪が王子の嫁になると大層喜び、浮かれた様子で「隣国の両親にはこちらから連絡しておくね」と私を置いて領地へ帰ってしまった。
私も連れて帰ってくれと馬車に飛び乗ったが、メイドさんや騎士様に引きずり下ろされて、泣く泣く彼らをお見送りした。
「待ってー! 私を置いていかないでー!!」
大声で叫ぶも、男爵家の馬車は無情にも遠ざかっていく。異国の地に可愛い姪を置き去りにして。
「レオーネ様、なりません。ステファン殿下から敷地の外に出してはならぬと厳命されておりますゆえ」
私を拘束する騎士様の言葉に私は愕然とした。私をここから出すなって? あの王子が命令したっていうの?
酷い、酷過ぎる。
私が一体何をしたと言うのだ。ここに私の味方はいないのか。
一人この場に残された私は、身不相応な場所で生活することが強いられたのである。
33
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる