1 / 10
第1話 お嬢様なんて…冗談だろ
しおりを挟む「…足開いて座るなよ」
俺のとっておきの隠れ場所である、屋上前階段踊り場で昼飯を食べていたら、そんな一言を投げかけられた。
「はぁぁん? ジャージはいてるからいいだろうが別に!」
美形・女子にモテモテ・成績優秀のスーパーお坊ちゃんに眉をしかめられた俺はガァッと噛み付いた。コンビニで大量に購入した惣菜パンをやけ食いのように貪ると、牛乳を一気飲みする。
お前俺の事情知ってるくせにそんな事言うなよ! こっちは好きで女の子に憑依したんじゃねぇっつの!
事の始まりはカクカクシカジカ(略)である。殺されそうになった美少女助けたら身体を差し上げますと言われて、無理やりあの世からクーリングオフされたという……脳筋男子高校生がセレブ校に通う美少女お嬢様に憑依しちゃった☆ってラノベみたいな話である。
いや、ばっかじゃねーの!? そんなん女の子になりたい願望のある男だけにしてくんない!? 俺にとっては屈辱! 屈辱の一言だよ!
深くは説明しないけど女の子の事情とか知りたくもないし、体感もしたくなかった…! もう警察に自首してしまいたい。『俺は変態ですごめんなさい』って首くくりたい心境だよわかるか!? こんなの自分の両親や、二階堂夫妻には話せないし、もういっそ俺がもう一回死ねばエリカちゃん戻ってくるんじゃね? ってロープを用意したこともあるさ。二階堂夫妻に娘の身体を傷つけないでと泣いて止められたけどさ!
俺の身長返して。筋肉とかその他諸々返して…カエシテ……コロ…コロッケ食べたい…
「はぁーぁ、もう、生きてるのがつらい……死にたくないけど、女になりたかったわけじゃない……」
「制服の下にジャージは些か不格好だぞ」
「じゃあお前もスカートはいてみるか!? 同じ男なら理解できるだろ! お前に女装趣味がなければの話だけどよ!」
「やめろ、脱ぐな」
女子制服用のズボンを作ってくれるなら喜んでそれを着用するさ!
なんなん? スカートじゃないといけないの!? 女子だってズボンはいてもいいじゃんか!!
俺がその場で制服のスカートを脱ごうとすると、慎悟の野郎が止めてきた。俺らの他に誰もいねぇから大丈夫だって! お前もはいてみろ、新しい世界が開けるかもしれねぇぞ!!
俺はバレーボール強豪校に通う、17歳の男子高生だった。オリンピック選手目指して朝から晩までバレーのことを考えるただの脳筋学生だったが、犯罪に巻き込まれて命を落とした。
そして何故か助けた相手から身体を押し付けられ、今に至る。
現在俺と会話していたのは加納慎悟という、この体の持ち主・二階堂エリカの知り合いだ。縁戚とか言っていたかな。
奴には出会い頭にケンカを売られ、感情的になり爆発させた俺が自分の正体をゲロったことによって、俺がエリカちゃんに憑依した別人だと知られた。
俺はてっきり変態扱いされるか、エリカちゃんに身体返せと罵倒されるかと思ったが、この慎悟はめちゃくちゃ冷静な奴で、今はよき理解者となっている。
もしかしたらブチギレた俺が号泣しながら事情説明していたので、怒り以前に哀れんでいるのかもしれない。それはそれで複雑だが。
「俺達、友達だろぉぉ!? 友達なら痛みを分かち合おうぜ!!」
「傷のなめ合いなら断る」
「お前っ、そんな薄情なこと言うなよ、年頃の多感な男子高生が女になる衝撃わかる!? 俺中身男なのに、知らん男から変な目を向けられるんよ!? 思わず尻を庇っちゃうよね!」
慎悟の腕を掴んで、ヒステリーを起こしていると、慎悟が「わかったわかった」と全然わかってない風な返事を返してくる。冷たい奴だ!! 知ってたけど!!
若い女の子にプラスして美少女だぞ? オオカミたちに狙われること間違いなしだ。…特にあいつがこわい。蛇みたいな目をしたあの…上杉って男。
俺がエリカちゃんに憑依したことによって甚大なイメージ崩壊を招いているけど、それでも寄ってくるあいつはサイコパスだと思う。
「大丈夫だ、お前の行動一つ一つで失望していく男ばかりだ。エリカのやつもボッチを極めていたから何の問題もないだろう」
「俺は別にボッチになりたいわけじゃないよ!」
男子バレー部に入りたくても女子だからと女子バレー部にまわされ、女の子との接し方がわからず、今では変人扱い。最低限のやり取りしかしていない……女友達なんていないよ……
俺には男兄弟しかいないの。彼女いない歴年齢なの。わかるわけ無いでしょうが。女の子のノリも嗜好も全部わからないよ。下手したら俺変態なんだから……これ以上変態になりたくない……
男子部の二宮さんがよく相手してくれるけど、俺のこと女だと思ってるからそれが複雑さに拍車欠けるっていうか……俺が男子のノリでどつくと、「女の子なんだから」と注意され……もう、息が詰まる……! もう何なんだよ! 俺は一体何なの!?
「うがぁぁぁー!! あいつ、あいつ法廷で会ったらぶん殴ってやるぅぅぅ!」
「逮捕されるぞ」
殺された恐怖や憎しみにプラスして女の子に憑依しちゃった諸々の不満を殺人犯にぶつけてなにが悪い!!
淡々としやがってこのすかしたリアルハーレム野郎め!!
「俺はお嬢様になりたいんじゃない! 男としてオリンピック選手を目指していたんだー! エリカちゃーん、俺を成仏させてくれー!!」
頼む、気が狂いそうなんだ! 正しい流れに戻してくれー!!
10
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
私の守護者
安東門々
青春
大小併せると二十を超える企業を運営する三春グループ。
そこの高校生で一人娘の 五色 愛(ごしき めぐ)は常に災難に見舞われている。
ついに命を狙う犯行予告まで届いてしまった。
困り果てた両親は、青年 蒲生 盛矢(がもう もりや) に娘の命を護るように命じた。
二人が織りなすドタバタ・ハッピーで同居な日常。
「私がいつも安心して暮らせているのは、あなたがいるからです」
今日も彼女たちに災難が降りかかる!
※表紙絵 もみじこ様
※本編完結しております。エタりません!
※ドリーム大賞応募作品!
ゆめまち日記
三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。
一般的にそれを――秘密という――
ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。
二つの名前に縛られる者。
過去に後悔した者
とある噂の真相を待ち続ける者。
秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。
『日記』シリーズ第一作!
女の子なんてなりたくない?
我破破
恋愛
これは、「男」を取り戻す為の戦いだ―――
突如として「金の玉」を奪われ、女体化させられた桜田憧太は、「金の玉」を取り戻す為の戦いに巻き込まれてしまう。
魔法少女となった桜田憧太は大好きなあの娘に思いを告げる為、「男」を取り戻そうと奮闘するが……?
ついにコミカライズ版も出ました。待望の新作を見届けよ‼
https://www.alphapolis.co.jp/manga/216382439/225307113
天才少女はいつも眠たげ~モテ期到来・脱遅刻~
卯月ミント
青春
クラスのイケメンが、弟子入りしてきた。
なにか個性が欲しいんだってさ。
高校二年生の大東美咲(だいとうみさき)は学年トップクラスの天才少女ながら、朝起きれない遅刻常習犯。内申点が危ないということで、一発逆転を狙って生徒会長に立候補したものの、ボロ負けして意気消沈。
そんな美咲の前に現れたのはクラスのイケメンにして生徒会副会長の式根航(しきねわたる)だった。
とにかく人がいい彼は自分が平凡だと思い込んでいて、個性が欲しいといって美咲に弟子入り志願してくる。航にとって、美咲は個性の塊なんだって。
遅刻をなんとかしたい美咲は、自分の生活サイクルの面倒を見てくれることを条件に航の弟子入りを許可。
とはいえ弟子ってなにするの?
モーニングコール、一緒に登校、寝る前の毎日おやすみコール――この辺は弟子入り条件の通り。さらには一緒にお弁当、一緒に下校、休みの日にはお出かけしたり、勉強会を開いたり。
背中を見て技(個性)を盗む、という作戦らしい。
「それって付き合ってるんじゃないの?」と友人に言われるがピンとこない美咲と航が織りなす高校生活は、再発した美咲への虐めも乗り越えて、やがて恋へと変わっていく……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる