バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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番外編

クリスマスなんてただの口実【悠木夏生視点】

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 テレビをつければどのチャンネルもクリスマスソングがBGMとして流れている。『今日はクリスマス、どんな風に過ごしますか?』とインタビュアーが道を行き交う通行人に質問する。それを見た俺は自分が聞かれたわけでもないのに、ムッと顔をしかめてしまった。

 ──余計なお世話だ。

 いつもは何とも思わないクリスマスの空気だが、今の俺はふて腐れていた。

 今日は特別忙しいだろう。バイト先まで会いに行って彼女のバイトの邪魔したくない。特に今日は日曜ということもあり、カップル連れも多いはずだ。
 せめて塾の冬期集中ゼミがあれば気が紛れていいのに、今日に限って休講だし、雪降ってて寒いし。勉強するにもやる気がでない。
 俺は寝間着姿のままベッドに転がり、スマホを触ってぐーたら過ごしていた。

 姉貴は彼氏とデートで、今日は帰らないそうだ。
 実家の親はいつも通り仕事だし、どうせ正月には顔見せに帰るから別に今帰る必要はない。

 こういうとき相手にしてくれそうな大輔は、礼奈から一人じゃ行けない店について来てほしいとまどろっこしい方法でデートに誘われていたので、俺はその邪魔をせぬようふたりの進展をお祈りしている。
 礼奈も変なところ消極的だからなぁ。あいつ変なプライドで自分から告白しようとは思ってないっぽいし、大輔もイマイチよくわからないし…。だけど俺はそこに火を付けようとは思わない。間違いなく面倒なことになるとわかっているからだ。
 あのふたりがくっつくことはまだしばらくないだろうな…

 ──ピンポーン
 スマホをベッドに投げ出してぼんやりと天井を眺めていると、インターホンが鳴った。
 宅配便かな。また姉貴が通販で物を買ったんだろうか。面倒くせぇなと体を起こして、部屋を出るとインターホンカメラ越しに来客者を確認した。

 俺は目を疑った。
 あれ、俺は夢を見てるんだろうかと正気すら疑った。
 画面の中に映っているのは寒さで鼻を赤くしている彼女の姿だったのだ。

「美玖!?」

 応答ボタンを押してすぐに彼女の名を呼ぶと、画面の中の彼女の表情がぱぁっと明るくなった。

『えへへ…来ちゃった』

 …なにこれ、盛大なサプライズだろうか。それともやっぱり俺の願望から来る夢?
 とにかく上がってもらおうとオートロックを解錠すると、俺は慌てて寝間着を脱いで私服に着替えた。さすがにダラダラしていた姿を見られるのは恥ずかしい。ダッシュで支度をしていると、玄関のインターホンが鳴った。寝癖を水で濡らして何となく直したら、俺は直接玄関に出向いた。
 玄関の扉を開くとそこにはマフラーに顔を埋めた美玖の姿。寒そうにしていたので彼女の手を引いて家に上げると、外気によって冷えた手の感触が伝わって来る。
 あ、幻覚じゃない。よかった。

「もしかして寝てた?」

 彼女の指摘に俺は頬を触った。寝転がったときに跡が付いてしまったんだろうかと思ったけど、美玖は俺の頭を指差した。

「寝癖があるから」
「いや、単にごろごろしてただけだよ。それよりお前まさか気にしてバイト休んだのか?」

 俺の寝癖よりも美玖のバイトだ。
 今日は夜までバイトだろうって話じゃなかったか? 俺のこと気にして休んだとか言われたら複雑な気持ちになるんだが…

「違う違う、バイト先の商品全部売れちゃって予定よりも早く閉店して早上がりになったの」

 例年よりも売り切れるのが早かったそうだ。いつもは夫婦二人三脚でお店の商品を作っているが、今年ばかりは店長一人。そしてバイトは美玖ただ一人。追加を作るのも大変だからって今日は早々に店じまいしたんだと彼女は言った。
 バイトが終わって時間ができたので、俺に会いに来た彼女。
 最初は俺が家にいるか連絡して確認しようと思ったけど、驚かせたかったので駄目元で抜き打ち訪問したのだという。やっぱりサプライズじゃねぇの。

 でも嬉しい。
 今日は会えないと思っていたから尚更。クリスマスなんてただの口実で、会えたことが何よりも嬉しいのだ。

「今から外に出かけるか? あ、でもレストランキャンセルしちまったし。そうだ、港の方に行ってイルミネーションとか…」
「ううん、ここでいい。ただ会いたかっただけだから」

 目を伏せて照れ臭そうに彼女は言った。
 ──可愛い…! 
 俺は浮かれる心を抑えながら、美玖を自分の部屋で待っているように告げると、体が冷えているであろう彼女のために姉貴のしょうが紅茶を拝借してあたたかいお茶を用意した。

「…ごめんね、付き合ってるのに彼女らしいことできなくて」

 お茶を出したタイミングで美玖から謝られた俺は目を丸くして固まった。
 彼女らしいこと? あぁ、今日の約束破ったってってこと?
 そりゃあクリスマスに一緒に過ごせなくてがっかりしたけど、これには事情があるし、美玖は最初から目的があって頑張ってるんだ。それを知った上で好きになったんだからなにも言わない。

「そんなことない」

 気にしてしょげている彼女に手を伸ばす。彼女の頬に触れると冷えていたので両手でさすって温めた。

「正直にいえば寂しいけど、目標に向かって頑張るお前が好きだから我慢できる。こうして会いに来てくれたしな」

 何かを言おうと口を開いた彼女の唇を自分のそれで塞いだ。
 上唇を舐めると彼女の唇が震える。遠慮せずに舌を入れると、縮こまっている彼女の舌に絡めた。
 息継ぎなしにキスをしまくる。噛んで吸って、彼女の咥内を飲み込む勢いで貪ると、腕に囲った身体が寄り掛かってきた。

 どうしたんだと思って一旦口を離すと、体の力が抜けたっぽい美玖は顔を真っ赤にさせ、息を切らせてぼんやりしていた。酸欠でも起こしてしまったのだろうか。
 肩を上下させて酸素を求めている彼女の様子を伺っていると、半開きの口から覗く赤い舌がこれまた目を引いたので更にキスしてやった。普段は絶対に見せない、俺にしか見せないその媚態。
 下半身に直撃したのは言うまでもない。彼女はびっくりするくらい可愛かった。

 ちょっとくらい触ってもいいよな? と俺の下心が囁く。
 彼女の服の上からそっと胸を触った。それに美玖が驚いてビクッとしていたが、嫌がる素振りはない。恥ずかしそうにこっちを見上げるその目が潤んでおり、あまりにも可愛いので再度唇を奪った。
 服の上からもにもにと手を動かしていた俺は衝撃を受けた。

 えっなにこれ、やわらか…どこもかしこもふにゃふにゃしてる…服の上でこんなもにゃもにゃしてたら実際はもっとすごいに違いない。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」

 しかし服の中に手を入れたタイミングで彼女からストップがかかった。

 拒否られた……

 いい雰囲気だったのにここで拒絶されるとは…まだ早いとか? 交際3ヶ月目まではキスまでルールだったりする? 俺としては告白の返事待ちというお預け期間が長かったので、これ以上のお預けは辛いのですが。
 俺から体を離した美玖はおもむろに持っていたかばんへ手を突っ込み、黄色い箱を取り出した。そして俺の目の前に突き出す。

「お願いします!」

 顔を真っ赤にさせた彼女にお願いされた。俺は渡された箱を受け取ってまじまじ観察する。
 パンケーキを食べるファンシー熊のイラストのせいで何かわからなかったが、なるほどこれは避妊具である。

「…用意はしてるのに」

 彼女の勢いを思い出すと、おかしくて笑ってしまう。
 こういうのって男側が準備する物だと考えていたけど、まさか彼女からお願いしますと箱ごと渡されるとは思わなかった。

「だ、だってお姉ちゃんが高校生の妊娠はまずいって」
「そうだな。…そういうのは社会人になってからだよな」

 俺は美玖を絶対に傷つけない。万が一の時は責任を取る覚悟もある。言っておくけど口だけじゃないからな。
 頬を赤らめている彼女に軽いキスをすると、美玖は俺の首に抱き着いてきた。

 着ていたニットワンピースを脱がせてやると、彼女が寒さに震える。暖房は入っているけどそれでも寒いかな。風邪を引かせるわけにはいかないので、そのままベッドに誘導して押し倒すと掛け布団を被る。

 俺のベッドにほぼ裸な美玖が寝転がっている。これだけで鼻血物である。
 可愛らしい下着に隠れた柔らかそうな2つの膨らみが目に飛び込んできた。俺はそれを下着の上から両手で揉みしだき、魅惑の谷間に顔を埋めてその柔らかさを堪能しようとした。

「夏生くぅぅん聞いてぇぇ! あいつったら私よりも仕事が大事なんだってぇぇ!!!」

 ドカーンとドアの蝶番が壊れてしまいそうな勢いで部屋の扉がぶち開けられたのはそのタイミングであった。

「……」
「あ、あら? もしかしてお楽しみ中だった?」

 侵入者である姉は化粧がどろどろになるくらい泣いていたらしく、目の回りが真っ黒になっていた。
 普段であれば泣いている姉を気遣うくらいはするけど、今はそんな気分になれない。

「…ふざけんなよ」
「やだぁごめん! 夏生君ごめんねぇ!」

 いいところを邪魔してくれた姉貴に俺が地の底を這うような声で威嚇すると、姉貴は血相を変えて謝り倒してきた。
 謝って済むなら警察は要らねぇんだよ…!!

「あっはっはっは!!」

 そんな俺達の様子を見ていた美玖が大笑いしたことで、そういう雰囲気はすべて吹き飛んでしまった。
 姉貴を追い出してもう一度やり直しってのもあれなので、今度に先延ばしになった。今度いつこういう雰囲気になるのかは不明だけどな。

 そのあとは姉貴が衝動買いしてきたケーキとパーティセットを囲んで3人でクリスマスを過ごした。
 姉貴が彼氏の愚痴と惚気を交互に吐き出す会みたいになっていたけど、こうなった姉は聞いてあげなきゃ面倒なので適当に聞いている振りをした。そのうち泥酔して寝るだろ。それまでの辛抱である。

「あいつなんか仕事と結婚しちゃえばいいのようー!」

 くだを巻く姉にうんざりしていると、ぎゅっとテーブルの下で手を握られた感触がして隣を見ると、美玖がしたり顔で笑っていた。俺は握られた手を握り返して彼女と笑いあった。

 …なんか締まらないけど、美玖と一緒に過ごすという目的は達成したからまぁいいか。
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