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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。
大仏様の螺髪はパンチパーマではありません。
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失恋で萎れていたはずの季衣によって途中下車させられた私は遠ざかる電車を見送り、呆然としていた。
なにやら健闘を祈られたけど、何に対してだろう…と考えていると、右手を握られた。
「…仕方ないし行くか」
悠木君の中では再合流するという考えはないようだ。……そして私も異論はなかった。季衣のことは気がかりだけど、最後に見た彼女はいつもの元気を取り戻しているようだったから…恐らく大丈夫であろう。
そのまま悠木君に手を引っ張られてそのまま観光を続行することになったのである。
新たに電車に乗り直して近鉄奈良駅で下車したあとはしばらく歩いた。9月も半ばを過ぎた頃だったので心地よい気温の中の散歩になった。
紅葉と言うには早すぎてまだ木々の葉は青々としているが、時期がもっと先なら綺麗な紅葉を楽しめたんだろうな。だけど、悠木君とこうして学校とは別の離れた場所で肩を並べてのんびり歩くのも悪くない。
しばらく歩くと見えてきた東大寺。あちこちに野生の鹿がうろついている。鹿を避けながら南大門を通ると、左右に巨大な木彫像が出迎えてくれた。教科書でよく見る有名な金剛力士像である。
阿形像と吽形像はそれぞれこの世の始まりと終わりを表しているそう。すごい顔をしていて、魔除けになりそうなのでスマホで写真撮影をしておいた。
参道を通ってから中門を通過すると、大仏殿に入る前に手水所で手洗いを済ませてから大仏殿に入場する。
台座抜きで全長約15メートルの大仏様は、信心深くない私も圧倒された。手の平を前に向けている右手は「恐れることは無い」と励ましているとされており、上に向けている左手は与願印と呼ばれ、人々の願いを受け止めて叶えてくれることを表してしているのだという。
「森宮、知ってるか? あのパンチパーマ、解いたら実はめちゃくちゃロン毛なんだぜ。漫画で読んだ」
悠木君が大仏様豆知識を真顔でお披露目するもんだから、厳かな大仏殿で吹き出してしまった。
笑わせようとして言ったんじゃないかもだけど、真面目な声音で言うもんだから笑ってしまったじゃないか。
更に奥に足を踏み入れると、守護神の四天王像の一部が飾られていた。足元には邪鬼の姿。
邪鬼は人に災いをもたらすとされ、四天王像に踏みつけにされているのは、悪さをしたお仕置きなんだそうだ。踏まれてる邪鬼の顔が反省してなさそうで面白い。
直ぐ側に穴くぐりの柱があったけど、子供向けっぽかったので私は遠慮した。抜けなくなったら大変だし。
時計回りの順路で辿り着いた大仏殿の授与所では、日本製のガーゼタオルを家族分購入した。肌触りが良さそうで、柄も色々あってかわいい。うちの家族はお守りより、普段遣いできるもののほうが喜ぶと思う。
「それ買うの?」
「家族みんなにお土産。この柄ならお父さんも使えそうだし。ハンカチより吸水性高そうじゃない?」
「俺もそれ買おう」
悠木君はガーゼハンカチの柄を4枚適当に選ぶとお会計をしてもらっていた。……私はまだ柄で悩んでいるのに選ぶのが早い。むしろ使えりゃなんでもいい的な感覚なんだろうか。
買い物を終えてそのまま大仏殿を出ると、赤ずきんちゃんみたいな格好した<ruby> 賓頭盧尊者 <rt>びんずるそんじゃ</rt> </ruby>という木彫りの仏様と遭遇した。ここにもあったんだ。入場する際には気づかなかったな。
賓頭盧尊者像は正面から見ると、ミイラみたいで恐ろしい形相に見えたが雨風に晒され続けたせいであろう。私は台座に乗ってる像に背伸びして、その手首に触れようとするが届かない。
この木の仏様に触れると、体の悪い部分が良くなるらしいけど…背伸びしても届かない。
「どこ?」
「手首。少し腱鞘炎気味なんだよねぇ」
必死に手を伸ばしている私を見てどう思ったのかはわからないが、悠木君は信じられない行動に出た。
「ほら」
お腹周りに腕が回されたと思ったらふわりと足が浮いた。急に背が伸びて、賓頭盧尊者と目の高さが合いそうになる。
「はぁ!? ちょっとなに、嫌だ!」
その原因は私の背後に回って抱っこしてきた悠木君であるが。
「下ろして下ろして!!」
誰が抱っこしてくださいと言いましたか!! そこまでせんでよろしい!
私はジタバタ暴れていたが、悠木君の腕は緩まない。
「いいから早く手首触れよ」
簡単に言わないでよ! 周り見てよ! 他の人に見られて恥ずかしいんだってば!
自分の顔に火が着いたように熱い。まるで小さい子供が高いところに手が届かないからと大人に抱っこしてもらっているみたいじゃないか……私は渋々腕を持ち上げて賓頭盧尊者像の手首付近を撫でた。
「良かったね、触れて」
私達の一連の行動を見ていた観光客らしい年配の人にクスクス笑われてしまった。ようやく地上に着地できた私は恥ずかしくて悠木君の腕をベシッと叩いた
「なんだよ、悪いとこ治したかったんだろ?」
「そうだけど!」
こんな恥ずかしい思いをするなら諦めたよ!
「馬鹿! 悠木君のお馬鹿!」とばしばし叩いて怒りを表しているのに悠木君はおかしそうに笑うのみ。
「顔が露天風呂に入った猿みたい」
「女子にそんな事言わない!」
なんで急に小学生みたいな悪口言うの!?
両頬を手で包まれてぶにゅーっとされて遊ばれたので抵抗していたら、観光客のご婦人がこんなことを言った。
「おばちゃんも手が届かないからお父さんに抱っこしてもらおうかな」
「母ちゃん抱っこしたら腰いわすがな」
ご婦人は笑顔で旦那さんの背中をビシッと叩いていた。旦那さんを叩くその手首のスナップ、反応の速度…さては関西人だな。それ見ててなんかちょっと冷静になった気がする。
「もう一回抱っこしてやろうか?」
にやにやと悠木君がまた意地悪なことを言い出したので、私は彼の胸にがばりと抱きついた。
「!? も、森宮?」
悠木君は面食らって紅生姜みたいに顔を赤らめていた。
君は私に恥をかかせた。だからこれは仕返しである…!
「悠木君、お返しに私も抱っこしてあげるよ」
自分の腕に力を籠めると、渾身の力で悠木君を持ち上げようとした。
いける、いけるぞ…!
「ごめんごめんごめん、悪かった! 俺が悪かったから」
やめてくださいとお願いされたので渋々やめて差し上げた。
もうちょっとで持ち上げられそうだったのに、悠木君が体に力入れてしまったので未遂に終わった。残念。アレさえなければ持ち上げられたと思う。
■□■
私がへそを曲げていると思われたのか、悠木君がなにかおごってくれると言うので、移動先のお店でソフトクリームを買ってもらった。
そこの名物のプリンを使ったソフトクリームにはスプーンが付けられていたので、最初の一口をスプーンに乗せると悠木君の口元に運んだ。
「一口あげる」
悠木君はキョトンとほうけた顔をしていた。ぱかんと半開きの口にソフトクリームを突っ込んだ。
「おいしい?」
「うん……」
さっきまでの意地悪モードはどこに行ったのか、悠木君はおとなしくなった。いつもの情緒不安定の病が修学旅行先でも出てきてしまったのかな。
「ねぇ見て、あれ…」
その声の持ち主に私はちらりと視線を向けた。
「カッコいい」
「隣のって…まさか彼女じゃないよね?」
「どこの学校だろ…」
時折他校生とすれ違ったが、どこでも悠木君は注目の的であった。共に行動する私も例外ではない。
相手はボソボソと話しているつもりだろうが、こういう声って聞こえちゃうんだよねぇ。気分は良くないけど、今に始まったことじゃないし。私はあえて気にしないふりをした。
ソフトクリームをスプーンで掬ってぱくりと食べると、プリンの甘みがとろりと舌の上でとろけた。おいしい。さっき暴れたから冷たいものが尚更美味しく感じる。
パクパクとソフトクリーム食べてたら悠木君が私をじっと見てくるから、もう一口差し出したのだが、悠木君はぴしりと固まっていた。
「どうしたの? 食べたいんでしょ?」
固まった彼を見た私は困惑した。もう一口食べたいから見ていたんじゃ…? と思ってハッとした。
「あ、ごめん私、スプーンに口つけてた!」
流石にそれはだめだ。食べ差しが苦手な人もいるのに…と手を引っ込めると、その手をスプーンごと握られて引き寄せられた。
ソフトクリームの乗ったスプーンが形の良い唇に吸い込まれていく。唇についたソフトクリームを舐めた時にちらりと見えた悠木君の赤い舌。それがやけに艶かしく見えた。
「…あまい」
「……そ、ソフトクリームだからね」
……悠木君、そんな風にお色気垂れ流すからジゴロとか現地妻とか噂立てられるんじゃないかな。
その後間接キスしたスプーンをどうするか迷ったけど、意識して使用中止したら悠木君に変な風に思われるかなと思ってそのまま使用した。
──なんだけど悠木君の視線が横から刺さってきてこれは失敗だったかな。
なにやら健闘を祈られたけど、何に対してだろう…と考えていると、右手を握られた。
「…仕方ないし行くか」
悠木君の中では再合流するという考えはないようだ。……そして私も異論はなかった。季衣のことは気がかりだけど、最後に見た彼女はいつもの元気を取り戻しているようだったから…恐らく大丈夫であろう。
そのまま悠木君に手を引っ張られてそのまま観光を続行することになったのである。
新たに電車に乗り直して近鉄奈良駅で下車したあとはしばらく歩いた。9月も半ばを過ぎた頃だったので心地よい気温の中の散歩になった。
紅葉と言うには早すぎてまだ木々の葉は青々としているが、時期がもっと先なら綺麗な紅葉を楽しめたんだろうな。だけど、悠木君とこうして学校とは別の離れた場所で肩を並べてのんびり歩くのも悪くない。
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阿形像と吽形像はそれぞれこの世の始まりと終わりを表しているそう。すごい顔をしていて、魔除けになりそうなのでスマホで写真撮影をしておいた。
参道を通ってから中門を通過すると、大仏殿に入る前に手水所で手洗いを済ませてから大仏殿に入場する。
台座抜きで全長約15メートルの大仏様は、信心深くない私も圧倒された。手の平を前に向けている右手は「恐れることは無い」と励ましているとされており、上に向けている左手は与願印と呼ばれ、人々の願いを受け止めて叶えてくれることを表してしているのだという。
「森宮、知ってるか? あのパンチパーマ、解いたら実はめちゃくちゃロン毛なんだぜ。漫画で読んだ」
悠木君が大仏様豆知識を真顔でお披露目するもんだから、厳かな大仏殿で吹き出してしまった。
笑わせようとして言ったんじゃないかもだけど、真面目な声音で言うもんだから笑ってしまったじゃないか。
更に奥に足を踏み入れると、守護神の四天王像の一部が飾られていた。足元には邪鬼の姿。
邪鬼は人に災いをもたらすとされ、四天王像に踏みつけにされているのは、悪さをしたお仕置きなんだそうだ。踏まれてる邪鬼の顔が反省してなさそうで面白い。
直ぐ側に穴くぐりの柱があったけど、子供向けっぽかったので私は遠慮した。抜けなくなったら大変だし。
時計回りの順路で辿り着いた大仏殿の授与所では、日本製のガーゼタオルを家族分購入した。肌触りが良さそうで、柄も色々あってかわいい。うちの家族はお守りより、普段遣いできるもののほうが喜ぶと思う。
「それ買うの?」
「家族みんなにお土産。この柄ならお父さんも使えそうだし。ハンカチより吸水性高そうじゃない?」
「俺もそれ買おう」
悠木君はガーゼハンカチの柄を4枚適当に選ぶとお会計をしてもらっていた。……私はまだ柄で悩んでいるのに選ぶのが早い。むしろ使えりゃなんでもいい的な感覚なんだろうか。
買い物を終えてそのまま大仏殿を出ると、赤ずきんちゃんみたいな格好した<ruby> 賓頭盧尊者 <rt>びんずるそんじゃ</rt> </ruby>という木彫りの仏様と遭遇した。ここにもあったんだ。入場する際には気づかなかったな。
賓頭盧尊者像は正面から見ると、ミイラみたいで恐ろしい形相に見えたが雨風に晒され続けたせいであろう。私は台座に乗ってる像に背伸びして、その手首に触れようとするが届かない。
この木の仏様に触れると、体の悪い部分が良くなるらしいけど…背伸びしても届かない。
「どこ?」
「手首。少し腱鞘炎気味なんだよねぇ」
必死に手を伸ばしている私を見てどう思ったのかはわからないが、悠木君は信じられない行動に出た。
「ほら」
お腹周りに腕が回されたと思ったらふわりと足が浮いた。急に背が伸びて、賓頭盧尊者と目の高さが合いそうになる。
「はぁ!? ちょっとなに、嫌だ!」
その原因は私の背後に回って抱っこしてきた悠木君であるが。
「下ろして下ろして!!」
誰が抱っこしてくださいと言いましたか!! そこまでせんでよろしい!
私はジタバタ暴れていたが、悠木君の腕は緩まない。
「いいから早く手首触れよ」
簡単に言わないでよ! 周り見てよ! 他の人に見られて恥ずかしいんだってば!
自分の顔に火が着いたように熱い。まるで小さい子供が高いところに手が届かないからと大人に抱っこしてもらっているみたいじゃないか……私は渋々腕を持ち上げて賓頭盧尊者像の手首付近を撫でた。
「良かったね、触れて」
私達の一連の行動を見ていた観光客らしい年配の人にクスクス笑われてしまった。ようやく地上に着地できた私は恥ずかしくて悠木君の腕をベシッと叩いた
「なんだよ、悪いとこ治したかったんだろ?」
「そうだけど!」
こんな恥ずかしい思いをするなら諦めたよ!
「馬鹿! 悠木君のお馬鹿!」とばしばし叩いて怒りを表しているのに悠木君はおかしそうに笑うのみ。
「顔が露天風呂に入った猿みたい」
「女子にそんな事言わない!」
なんで急に小学生みたいな悪口言うの!?
両頬を手で包まれてぶにゅーっとされて遊ばれたので抵抗していたら、観光客のご婦人がこんなことを言った。
「おばちゃんも手が届かないからお父さんに抱っこしてもらおうかな」
「母ちゃん抱っこしたら腰いわすがな」
ご婦人は笑顔で旦那さんの背中をビシッと叩いていた。旦那さんを叩くその手首のスナップ、反応の速度…さては関西人だな。それ見ててなんかちょっと冷静になった気がする。
「もう一回抱っこしてやろうか?」
にやにやと悠木君がまた意地悪なことを言い出したので、私は彼の胸にがばりと抱きついた。
「!? も、森宮?」
悠木君は面食らって紅生姜みたいに顔を赤らめていた。
君は私に恥をかかせた。だからこれは仕返しである…!
「悠木君、お返しに私も抱っこしてあげるよ」
自分の腕に力を籠めると、渾身の力で悠木君を持ち上げようとした。
いける、いけるぞ…!
「ごめんごめんごめん、悪かった! 俺が悪かったから」
やめてくださいとお願いされたので渋々やめて差し上げた。
もうちょっとで持ち上げられそうだったのに、悠木君が体に力入れてしまったので未遂に終わった。残念。アレさえなければ持ち上げられたと思う。
■□■
私がへそを曲げていると思われたのか、悠木君がなにかおごってくれると言うので、移動先のお店でソフトクリームを買ってもらった。
そこの名物のプリンを使ったソフトクリームにはスプーンが付けられていたので、最初の一口をスプーンに乗せると悠木君の口元に運んだ。
「一口あげる」
悠木君はキョトンとほうけた顔をしていた。ぱかんと半開きの口にソフトクリームを突っ込んだ。
「おいしい?」
「うん……」
さっきまでの意地悪モードはどこに行ったのか、悠木君はおとなしくなった。いつもの情緒不安定の病が修学旅行先でも出てきてしまったのかな。
「ねぇ見て、あれ…」
その声の持ち主に私はちらりと視線を向けた。
「カッコいい」
「隣のって…まさか彼女じゃないよね?」
「どこの学校だろ…」
時折他校生とすれ違ったが、どこでも悠木君は注目の的であった。共に行動する私も例外ではない。
相手はボソボソと話しているつもりだろうが、こういう声って聞こえちゃうんだよねぇ。気分は良くないけど、今に始まったことじゃないし。私はあえて気にしないふりをした。
ソフトクリームをスプーンで掬ってぱくりと食べると、プリンの甘みがとろりと舌の上でとろけた。おいしい。さっき暴れたから冷たいものが尚更美味しく感じる。
パクパクとソフトクリーム食べてたら悠木君が私をじっと見てくるから、もう一口差し出したのだが、悠木君はぴしりと固まっていた。
「どうしたの? 食べたいんでしょ?」
固まった彼を見た私は困惑した。もう一口食べたいから見ていたんじゃ…? と思ってハッとした。
「あ、ごめん私、スプーンに口つけてた!」
流石にそれはだめだ。食べ差しが苦手な人もいるのに…と手を引っ込めると、その手をスプーンごと握られて引き寄せられた。
ソフトクリームの乗ったスプーンが形の良い唇に吸い込まれていく。唇についたソフトクリームを舐めた時にちらりと見えた悠木君の赤い舌。それがやけに艶かしく見えた。
「…あまい」
「……そ、ソフトクリームだからね」
……悠木君、そんな風にお色気垂れ流すからジゴロとか現地妻とか噂立てられるんじゃないかな。
その後間接キスしたスプーンをどうするか迷ったけど、意識して使用中止したら悠木君に変な風に思われるかなと思ってそのまま使用した。
──なんだけど悠木君の視線が横から刺さってきてこれは失敗だったかな。
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