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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。
中高生はひとり1200円です。
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修学旅行2日目は朝から自由時間だ。
予想していたとおり、友人らは気になるメンズとペアになるのだという。そのことを謝罪されたので「悠木君が一緒に回ってくれるから」と告げると、なぜか朝食後に引き止められて顔中に色々塗りたくられた。
髪の毛までつやつやにアイロンしてくれちゃって…私はいいと言ったのに彼女たちは気合十分に私の化粧に力を入れてきた。
そんなことをしていると丁度いい時間になった。待ち合わせ時間だからと友人たちの手から逃れてロビーへ降りる。
悠木君との待ち合わせの時間まで後5分というところだったけど、もうすでに彼は待っていた。
──たくさんの女子に囲まれながら。
「悠木ぃ、あたしたちと一緒に回ろうよぉ」
「無理。人待ってるから」
「誰待ってんの? いいじゃんどうせ酒谷とかでしょ?」
朝っぱらから期待を裏切らないモテっぷりを見せてくれた悠木君は女子に囲まれて少女漫画にいそうなモテ男になっていた。あんな人混み作れるとか悠木君は違う次元の人間じゃなかろうか。
しかし、日和見になってはいけない。もしかしたらあの中に昨晩悠木君を襲った女が紛れ込んでいるかもしれないな。私も普段ならスルーしてたはずだが、昨日の今日なので彼を保護したほうがいい気がする。
口挟んだら女子からなにか言われるだろうなぁと苦い気持ちになりながら、彼を救出しようと一歩足を踏み出す。
しかしそれよりも先にその人混みに割って入っていく女子の姿があった。
「悪いんだけど、夏生は連れて行くわね?」
それは桐生礼奈である。
化粧をしていない風を装った完璧なナチュラルメイク。造形の整った彼女の顔面には派手な装飾は必要ないのだろう。その場にいる女子の中で一番輝いていた。
サラリと手で髪を流しながら微笑む桐生さんは周りの女子とは面構えが違う。女子たちを圧倒すると悠木君の腕に自分の手を回して引っ張り出す。
……お見事だ。鮮やかなお手並みである。
彼女に悠木君を連れて行かれて女子たちは「ぐぬぬ」と言いそうな顔で悔しがっている。だけど決して止めたりしない。
相手が桐生さんだから何も言えないんだな。
昨日悠木君が桐生さんとの関係を否定したことを思い出した。私はてっきり特別な関係だと思ってきたけど……2人は昔からああしてお互いを庇い合ってきたのかもしれない。それを考えると、彼らの間には男女の情のようなものはなくても、誰にも解けない絆のようなものが存在する気がした。
2人が並ぶとやっぱり空気感が違う。それを見ているとなんか面白くない気分になる。じりじりと胸の奥が焦げ付くような感じがした。
桐生さんは悠木君の腕を掴んだままスタスタと歩いてきた。寄り道せずまっすぐ私の元へ。
「おまたせ。夏生連れてきたわよ」
彼からするりと腕を離した彼女からニッコリと微笑まれて私はなんとも言えない気持ちになる。
うぅん、なんだか複雑な気分。
「わり、待たせた?」
「そんなことないよ、待ち合わせ時間ぴったり」
悠木君は普段どおりだ。これがいつものことと言わんばかりに平然としている。……ここまでの美女に腕を抱かれても平気とは…。悠木君は本当に男なのだろうか。
「じゃあ早速行こうか」
背後から回ってきた腕に引き寄せられた私は、誰かの胸に背中を預ける形になった。その瞬間、悠木君と桐生さんの顔色が変わった。
「大輔!」
「はやくぅ。ぼやぼやしてると森宮さんは連れ去っちゃうからねぇ」
眼鏡に肩を抱かれた私はぐるりと方向転換させられてぐいぐい歩かされた。
悠木君と桐生さんの表情がすごいことなっていたけど、眼鏡あんた何したの。数秒前まで美男美女オーラを振りまいていたのに、それが一変してふたりともグワッと鬼の形相になっていたけど……
やめてよとばっちりで八つ当たりされんの勘弁…
私は眼鏡に振り回される形でホテルから連れ攫われると、大阪の街へと飛び出していったのである。
あの後ダッシュで追いかけてきた悠木君によって私は保護された。眼鏡は悠木君にげんこつされた後、桐生さんにちくちくと説教されていたが、あまり反省した様子は見えない。
……ところで、彼らはどこまで一緒に行くのだろうか。もしかして本当に眼鏡は私達の観光についてくるつもりなのだろうか。
「森宮、こっち」
はぐれないように、と言われて悠木君から手を繋がれた。大きな手にすっぽり包まれる形で握られ、一瞬頭の中が真っ白になる。
「悠木君、」
いや、小さな子どもじゃないから手を繋がなくても…と言おうとしたけど、悠木君はその手に少し力を込めていた。私は様子のおかしい悠木君の横顔を見上げて口を閉ざした。頬を赤らめている彼を見るとなんだか恥ずかしくなってしまって何も言えなくなったのだ。
電車に乗り込むと、いい具合に混雑していたので私達はドア付近に立っていた。手は繋いだまま。
「礼奈、見た? あの夏生が積極的行動してる。やべ、感動しちゃう…」
「冷やかさないの」
背後で眼鏡が感動に打ち震えている声が聞こえてきた。そんな眼鏡を桐生さんが軽く小突く。なんなのだ、この組み合わせは一体。
悠木君は私が行きたい観光地までの経路や大まかに調べてくれていた。ほぼ彼に任せっきりだ。電車に乗っている間、なにも話題が思い浮かばず、私は沈黙したまま悠木君の隣にいた。
妙に彼のことを意識してしまっていて、電車の中で流れる車掌さんのアナウンスと、後ろで茶化す眼鏡と桐生さんの会話が耳を素通りしていった。
■□■
あべのハルカスは地上から300mの高さの、日本で一番高い超高層複合ビルで、百貨店や展望台、美術館やホテルが軒を並べる。展望台部分は58、59、60階の三層構造になっていて、天気が良ければより遠くの眺望が楽しめるのだそうだ。
早速60階に足を踏み入れると、足元から天井までガラスが組み込まれた回廊が広がった。頑張ったら淡路島辺りまで見れるだろうか。ガラス張りの壁に近づいて遠くへと目を凝らしてみる。
「1200円払って高所から眺めたがる人はどうかしてる! 得られるものなにもないでしょう!?」
「だから下で待ってたら良かったのに」
私は無理強いしてないでしょ。着いてこなくてもいいよ、って言ったのに着いてきたのは眼鏡じゃないか。後ろから文句をつけてきた眼鏡がやかましいので睨むと、眼鏡は近くにいた悠木君に横から抱きついていた。
「だってそしたら俺一人になっちゃうじゃん!」
「大輔、うるさい。あと暑苦しい」
鬱陶しいという態度を隠さない悠木君に引き剥がされた眼鏡は何かに捕まっていたいのか、桐生さんの肩に手を載せていた。あ、桐生さんには流石に抱きつかないか。セクハラになっちゃうもんね。
私は眼鏡を放置して、透明の床板がはめ込まれた場所に足を踏み入れた。スケスケガラスの床から地上を見下ろす。おぉすごい、空を浮いているような感覚があるぞ。
「森宮さん、夏生、落ちるってばぁ! やめなよ、どうしてそんな命を無駄にすることするの!?」
「大輔、落ち着いて。あっちで座っていましょ」
高所恐怖症を極めた眼鏡を心配した桐生さんが眼鏡を窓際から引き離していた。なんか面倒見させたみたいで悪いな。でも着いてきたのは眼鏡だから私は悪くないよ。
大体ガラス床に立っただけで大げさなんだよ眼鏡は。高所恐怖症なのに入場料1200円払って損してるじゃないの。
私がガラスの向こうの光景をぼんやりと眺めていると、隣に悠木君が立った。
「淡路島見える?」
「…ぽいのは見えるけど…」
地上300mから眺める風景はいつもと違った。キラキラと目の前が輝いて見えた。
それは旅先だから、展望台だからっていう理由もあるんだけど、悠木君が側に居ることが理由のような気がして仕方がない。
予想していたとおり、友人らは気になるメンズとペアになるのだという。そのことを謝罪されたので「悠木君が一緒に回ってくれるから」と告げると、なぜか朝食後に引き止められて顔中に色々塗りたくられた。
髪の毛までつやつやにアイロンしてくれちゃって…私はいいと言ったのに彼女たちは気合十分に私の化粧に力を入れてきた。
そんなことをしていると丁度いい時間になった。待ち合わせ時間だからと友人たちの手から逃れてロビーへ降りる。
悠木君との待ち合わせの時間まで後5分というところだったけど、もうすでに彼は待っていた。
──たくさんの女子に囲まれながら。
「悠木ぃ、あたしたちと一緒に回ろうよぉ」
「無理。人待ってるから」
「誰待ってんの? いいじゃんどうせ酒谷とかでしょ?」
朝っぱらから期待を裏切らないモテっぷりを見せてくれた悠木君は女子に囲まれて少女漫画にいそうなモテ男になっていた。あんな人混み作れるとか悠木君は違う次元の人間じゃなかろうか。
しかし、日和見になってはいけない。もしかしたらあの中に昨晩悠木君を襲った女が紛れ込んでいるかもしれないな。私も普段ならスルーしてたはずだが、昨日の今日なので彼を保護したほうがいい気がする。
口挟んだら女子からなにか言われるだろうなぁと苦い気持ちになりながら、彼を救出しようと一歩足を踏み出す。
しかしそれよりも先にその人混みに割って入っていく女子の姿があった。
「悪いんだけど、夏生は連れて行くわね?」
それは桐生礼奈である。
化粧をしていない風を装った完璧なナチュラルメイク。造形の整った彼女の顔面には派手な装飾は必要ないのだろう。その場にいる女子の中で一番輝いていた。
サラリと手で髪を流しながら微笑む桐生さんは周りの女子とは面構えが違う。女子たちを圧倒すると悠木君の腕に自分の手を回して引っ張り出す。
……お見事だ。鮮やかなお手並みである。
彼女に悠木君を連れて行かれて女子たちは「ぐぬぬ」と言いそうな顔で悔しがっている。だけど決して止めたりしない。
相手が桐生さんだから何も言えないんだな。
昨日悠木君が桐生さんとの関係を否定したことを思い出した。私はてっきり特別な関係だと思ってきたけど……2人は昔からああしてお互いを庇い合ってきたのかもしれない。それを考えると、彼らの間には男女の情のようなものはなくても、誰にも解けない絆のようなものが存在する気がした。
2人が並ぶとやっぱり空気感が違う。それを見ているとなんか面白くない気分になる。じりじりと胸の奥が焦げ付くような感じがした。
桐生さんは悠木君の腕を掴んだままスタスタと歩いてきた。寄り道せずまっすぐ私の元へ。
「おまたせ。夏生連れてきたわよ」
彼からするりと腕を離した彼女からニッコリと微笑まれて私はなんとも言えない気持ちになる。
うぅん、なんだか複雑な気分。
「わり、待たせた?」
「そんなことないよ、待ち合わせ時間ぴったり」
悠木君は普段どおりだ。これがいつものことと言わんばかりに平然としている。……ここまでの美女に腕を抱かれても平気とは…。悠木君は本当に男なのだろうか。
「じゃあ早速行こうか」
背後から回ってきた腕に引き寄せられた私は、誰かの胸に背中を預ける形になった。その瞬間、悠木君と桐生さんの顔色が変わった。
「大輔!」
「はやくぅ。ぼやぼやしてると森宮さんは連れ去っちゃうからねぇ」
眼鏡に肩を抱かれた私はぐるりと方向転換させられてぐいぐい歩かされた。
悠木君と桐生さんの表情がすごいことなっていたけど、眼鏡あんた何したの。数秒前まで美男美女オーラを振りまいていたのに、それが一変してふたりともグワッと鬼の形相になっていたけど……
やめてよとばっちりで八つ当たりされんの勘弁…
私は眼鏡に振り回される形でホテルから連れ攫われると、大阪の街へと飛び出していったのである。
あの後ダッシュで追いかけてきた悠木君によって私は保護された。眼鏡は悠木君にげんこつされた後、桐生さんにちくちくと説教されていたが、あまり反省した様子は見えない。
……ところで、彼らはどこまで一緒に行くのだろうか。もしかして本当に眼鏡は私達の観光についてくるつもりなのだろうか。
「森宮、こっち」
はぐれないように、と言われて悠木君から手を繋がれた。大きな手にすっぽり包まれる形で握られ、一瞬頭の中が真っ白になる。
「悠木君、」
いや、小さな子どもじゃないから手を繋がなくても…と言おうとしたけど、悠木君はその手に少し力を込めていた。私は様子のおかしい悠木君の横顔を見上げて口を閉ざした。頬を赤らめている彼を見るとなんだか恥ずかしくなってしまって何も言えなくなったのだ。
電車に乗り込むと、いい具合に混雑していたので私達はドア付近に立っていた。手は繋いだまま。
「礼奈、見た? あの夏生が積極的行動してる。やべ、感動しちゃう…」
「冷やかさないの」
背後で眼鏡が感動に打ち震えている声が聞こえてきた。そんな眼鏡を桐生さんが軽く小突く。なんなのだ、この組み合わせは一体。
悠木君は私が行きたい観光地までの経路や大まかに調べてくれていた。ほぼ彼に任せっきりだ。電車に乗っている間、なにも話題が思い浮かばず、私は沈黙したまま悠木君の隣にいた。
妙に彼のことを意識してしまっていて、電車の中で流れる車掌さんのアナウンスと、後ろで茶化す眼鏡と桐生さんの会話が耳を素通りしていった。
■□■
あべのハルカスは地上から300mの高さの、日本で一番高い超高層複合ビルで、百貨店や展望台、美術館やホテルが軒を並べる。展望台部分は58、59、60階の三層構造になっていて、天気が良ければより遠くの眺望が楽しめるのだそうだ。
早速60階に足を踏み入れると、足元から天井までガラスが組み込まれた回廊が広がった。頑張ったら淡路島辺りまで見れるだろうか。ガラス張りの壁に近づいて遠くへと目を凝らしてみる。
「1200円払って高所から眺めたがる人はどうかしてる! 得られるものなにもないでしょう!?」
「だから下で待ってたら良かったのに」
私は無理強いしてないでしょ。着いてこなくてもいいよ、って言ったのに着いてきたのは眼鏡じゃないか。後ろから文句をつけてきた眼鏡がやかましいので睨むと、眼鏡は近くにいた悠木君に横から抱きついていた。
「だってそしたら俺一人になっちゃうじゃん!」
「大輔、うるさい。あと暑苦しい」
鬱陶しいという態度を隠さない悠木君に引き剥がされた眼鏡は何かに捕まっていたいのか、桐生さんの肩に手を載せていた。あ、桐生さんには流石に抱きつかないか。セクハラになっちゃうもんね。
私は眼鏡を放置して、透明の床板がはめ込まれた場所に足を踏み入れた。スケスケガラスの床から地上を見下ろす。おぉすごい、空を浮いているような感覚があるぞ。
「森宮さん、夏生、落ちるってばぁ! やめなよ、どうしてそんな命を無駄にすることするの!?」
「大輔、落ち着いて。あっちで座っていましょ」
高所恐怖症を極めた眼鏡を心配した桐生さんが眼鏡を窓際から引き離していた。なんか面倒見させたみたいで悪いな。でも着いてきたのは眼鏡だから私は悪くないよ。
大体ガラス床に立っただけで大げさなんだよ眼鏡は。高所恐怖症なのに入場料1200円払って損してるじゃないの。
私がガラスの向こうの光景をぼんやりと眺めていると、隣に悠木君が立った。
「淡路島見える?」
「…ぽいのは見えるけど…」
地上300mから眺める風景はいつもと違った。キラキラと目の前が輝いて見えた。
それは旅先だから、展望台だからっていう理由もあるんだけど、悠木君が側に居ることが理由のような気がして仕方がない。
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