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普通科の彼女と特進科の彼。

ポイントの有効期限が迫っています!

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 私がコンビニの早朝バイトに精を出していると、このコンビニがテナントとして入っている高級マンションの敷地内で若い女性同士が口論していると、同じバイトの大学生が教えてくれた。

「警察呼びます?」
「殺傷沙汰にはならなそうだから放っておきな」

 こんな朝っぱらから…痴情のもつれだろうかと他人事のように受け取っていると、その直後に来客のチャイムが鳴り響いた。

「いらっしゃいませー」

 お弁当の品出しをする手は止めずにいらっしゃいませの挨拶をしていると、「はよ」とお客様から声をかけられた。やけに親しげなお客だなと思えば、相手は悠木君であった。

「あれおはよう。早いね」
「お前に言われたくないよ」

 休日の早朝なのに早起きだねと褒めてあげたのに。今日は日曜だから学校もないだろうにどうしたの。目が覚めちゃったの? 見る限り今さっきまで寝てました風な出で立ちだし。
 悠木君は寝癖のある髪をワシャワシャかきながら、おにぎりコーナーを物色していた。まだ眠そうな顔している。おにぎりは逃げないから寝ていたらいいのに。品出ししながらそんなことを考えていると、また自動ドアが来客のチャイムを鳴らした。

「いら…」
「ちょっと夏生君、いきなり居なくならないで心配したでしょ!」

 挨拶をしようとしたら遮られてしまった。
 その人物はヒールのある靴をカツカツ鳴らしながら悠木君に近づくとなにやらぷんすこ怒っていた。腰まである黒髪はブリーチとか一切しておらず艶やかで美しい。黒髪は一見するともっさりと重く見えるはずなんだが、彼女の場合自然な美しさとして合っている。背が高くてスレンダーな女性を見た私は呆然とした。……うわ、ものすっごい美人…モデルかなにかだろうか。

「朝飯買おうと思って」
「だからって私を置いて行くことないでしょうが!」

 悠木君と親しそうなその女性は腕を組んで不満を訴えていた。
 ……早朝から女性と一緒……私はちらりと悠木君をみた。所謂お泊りデートというやつか…うわぁ高校生のくせに大胆……
 私が見ているのに気づいた悠木君は私の表情を見て考えていることを読んだみたいだ。

「違うからな? そんな目で俺を見るな」
「さてはエスパーだな君?」

 表情一つで私の心を読むとは。大したものだ。

「これは俺の姉ちゃんだよ。……どっかの知らない女がオートロック突破して玄関前までやってきたんだよ。それで姉ちゃんが追っ払ってくれたってわけ」

 お姉さん…? あぁ、一緒に住んでるお姉さんか。なんだてっきり…勝手に失望していたが、勘違いだったか。ごめんよ。
 早朝にインターホンが鳴って、寝ぼけつつ応対すれば知らない女が玄関カメラに写っていてそこからが修羅場だったとか。日中であれば一階のエントラス前にコンシェルジュがいるけど、夜~早朝は監視カメラがあるだけなので簡単に侵入を許してしまったようだ。
 お引き取り願ったけど「朝ごはんを作ってあげるから開けて」と言われて恐怖で固まっていたところにお姉さんが起きてきて、代わりに追い払ってくれたんだって。大学生バイトが目撃したのはお姉さんとストーカーが口論している姿だったのだな。

「…いや、警察呼びなよ…」

 普通にストーカー案件じゃないか…と言ったけど、以前被害を訴えたときに男だからと不当な扱いを受けたので警察とかそういうのは頼りにならないと返ってきた。
 そう言えば生徒会役選のとき結構冷たくあしらわれていたよね、先生にも警察にも。彼も難儀だな。

「悠木君は定期的に女に絡まれる病気でも患わっているのかね?」
「好きで絡まれてるんじゃねぇし…」

 なんか悠木君って少し女の子に冷たいなぁって思っていたけど、いつもこんな目に遭っているから苦手になりつつあるのかな…お姉さんが一緒に住んでてよかったね…。

「お前は? バイトとかで絡まれねぇの?」

 その質問に私は目を丸くした。私が女子高生ってことで絡もうとするお客がいるから、私は壁を作って接客するようにしているもの。今のところはなんともない。

「特には。仕事中はスイッチ入ってるから、隙がないのかもしれないね。私は悠木君みたいに美形というわけじゃないし、そうでもないよ」

 そもそもなんでそこで私のことになるのか。今は悠木君のほうが深刻な状況だと思うんだ。お姉さんが追い払ってくれたからいいけど、もう二度と来ないって保証はないんだぞ。そういう一方的な恋愛感情が憎悪に変わって行くって話を聞くし、ストーカーするような思い込みの激しいタイプは普通の会話ができないから後で面倒なことになるのでは。

「悠木君、ご両親に話してみたら? マンションだけのセキュリティじゃ危険だから警備会社に契約してもらったりとか」
「大げさにしたくないからいいよそんなん」

 ご両親と不仲ってわけじゃなさそうだから相談してみても良さそうなのに、悠木君はそこまでしなくていいという。彼がそれでいいなら私もそれ以上は言わないが…

「あの気難しい弟と仲良さそうな女の子……変な女にばかり絡まれて女嫌いの気もあった夏生君に!」

 私と悠木君が会話しているのをそばで見ていた悠木君のお姉さんが何やら慄いていた。その様子が異様だったので私が彼女を見上げるとぱっちり視線が合った。お姉さんは私をまじまじと見つめ、なんだか悲しそうな顔をしていた。

「磨けば光るタイプだけど、あまりにも女子力がなさすぎる…」

 人のことまじまじ見た挙げ句に勝手にがっかりされたんですが。失礼な。
 ……もしかして、私達の関係を勘違いしているのかな。確かに悠木君とは仲良いほうだけど、それは友人としてである。それにそんな誤解、悠木君に失礼である。

「おい姉ちゃん、そんなことないだろ、森宮は」
「私達別に付き合ってませんよ」

 悠木君の発言と被ってしまった。悠木君のことだ、多分私を傷つけぬよう誤解を解こうとしていたんだろう。
 お姉さんの認識は間違っている。だからがっかりする必要はないと言おうとしたのだが、お姉さんは先程よりも愕然としていた。

「ありえないでしょう! 私の弟の夏生君よ!? イケメンでしょう! 彼女になりたいとか思わないの!?」

 悲鳴混じりに反論されて私はビクッとした。
 なんなの、化粧っ気のない私にがっかりしていたくせになんなのだ。お姉さんいわく自慢の弟なのだろう。私のような女子力のない女が彼女じゃなかったと安心すればいいのに、どうして責めるような言い方をするのか。

「いやいや、付き合うって話がありえない。私と悠木君は友達ですってば」

 誰が見てもそう思うに違いない。
 私はバイトと学業で手一杯なんだ。恋愛する余裕はないし、悠木君のような最上級な男子を相手にするなんてとてもじゃないけど無理である。私だってその辺わきまえてるぞ。

「ねぇ悠木君、ありえないよね」

 私は横にいる悠木君に同意を求めると、彼の顔色が半紙のように真っ白になっていた。

「えっ!? どうしたの、気分悪いの!?」
「……大丈夫…なんでもねぇ…」

 悠木君はフラフラしながらレジにおにぎり2つを持っていった。

「ポイントたまってるけど使う?」
「うぅん…いい……」

 レジ応対している間も悠木君は心そこにあらずだった。その後ろでオロオロしたお姉さんが「夏生君、心を強く持って!」と声をかけているけど、その声も届いていないようだ。

「ありがとうございましたー」

 マニュアル通りお見送りしたけど、最後まで悠木君は様子がおかしかった。
 ……今になってストーカーの恐怖がぶり返したのだろうか。まさか店の周りにストーカー女が出現したとか? それが店の中を覗き込んでいるのに気づいて怯えていたとか。
 私は店の中から外を観察してみたが怪しそうな女は居なかった。
 大丈夫かな、悠木君。
 心配だったけど、悠木君の連絡先知らないし……月曜にでも声をかけに行こうかな。
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