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普通科の彼女と特進科の彼。
気軽に私の頭を撫でないでください。
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「ねぇ森宮さんって妙に悠木君と仲いいよね…実際のところどうなの?」
前にもこんな問いかけされたなぁと思いつつ、私は迷惑そうな面を隠さなかった。なんなのだ、私の貴重なお昼寝時間を奪うつもりか貴様ら。
「えぇ…? 友達だけど…」
私と悠木君の間にあるのは友情だよ? そう説明してみたけど、絡んできた女子たちにはご納得頂けなかったようで、口々に文句を言われた。
「生徒会役選で悠木君のこと庇ってみせたのってもしかして仕込み?」
「仕込みではないよ。なんでそんな事する必要があるのさ」
呆れた。生徒会役選時の事件の原因が私みたいな言い方されるとは思わなかった。私は別に誰が生徒会役員になるかとか興味なかったし、推薦辞退した側ですから。
「…悠木君のこと庇いたいならあの時どうして庇わなかったの。悠木君の友達以外誰一人として声を上げなかったじゃないのよ」
クラスが違ってもあの時の異変に気づいた。表立ってなにか言う人、なにも言わない人、信じていない人、興味がない人と色々いただろうけど、悠木君の友達以外は好奇の目で見ていた。悠木君は追い詰められていたのに、友達以外の人達はなんにもしなかった。
悠木君に気があるならあの時こそ庇って見せればいいのに、何もしなかったんだね。薄っぺらい好意だこと。高校生同士の恋愛なんて軽くて薄っぺらいものなんだろうけど…こういうの、なんだかなぁって思うよね。
「特進科にクラスチェンジしろって先生たちに説得されてるのに断ってるのって目立つためなの?」
「それ、悠木君となにか関係あるかな? むしろ悠木君と同じクラスにならないほうがあなた達としては安心なんじゃない?」
私が否定してもどうせ疑うんでしょ。それなら接点の少ないほうが安心なのにどうしてそんな事言うのさ。
「私が目立ちたいんじゃない、先生たちが大げさなだけ。私はバイトがしたいから普通科に居る。ただそれだけのこと! 以上、おわりっ! かいさーん!!」
私は絡んできた女子たちに強制解散を命じた。パチパチと手を叩いて鳥でも追い払うかのようにあしらうと、相手が怯んだタイミングを見計らってスタスタと立ち去った。
くだらない。実にくだらない。
悠木君に直接言えばいいのに、何故私に絡むのか。悠木君は自分のことで友達が絡まれることを好まない人なのに嫌われる方法を選んで馬鹿だねぇ…。
お昼寝スポットに到着すると、いそいそと棚に収納していた毛布を引っ張り出す。流石に1月は毛布だけじゃ寒いけどなにもないよりはマシである。
私はソファに寝転がってから目を閉じようとした。
「森宮」
しかし思わぬ邪魔が入る。
「……悠木君まで私の眠りを妨げるのか」
私のお昼寝スポットを把握している悠木君が社会科準備室の扉をノックなしに開けて、電気をつけてきたではないか。眩しさに私は目をシパシパさせた。
「絡まれてたろ、大丈夫か?」
「うん平気。悠木君のせいだけど」
そんなこと聞くためにやってきたのか。どこで見ていたんだ。
「ごめんな。助けようとしたけど、お前自分一人で追い払ってたから…」
「まぁ相手の発言があまりにもお粗末だったから…」
悠木君に庇ってもらうほどの相手ではなかったかな? むしろ悠木君が出てきたら余計に相手が燃え上がりそうだし出てこなくてよかったよ。
「なんかあったら言えよ。お前自分一人で片付けようとするところあるし…」
そう言って悠木君は膝を曲げると、ソファに横になった私の頭をいたわるように撫でてきた。その手は優しく、人によっては誤解されそうなシチュエーションである。
「…そういう風に私の頭撫でないほうがいいよ?」
「なんで」
親切心で教えてあげたのに悠木君は眉間にシワを寄せて不機嫌になった。
また地雷を踏んだのか? 頭を撫でるな…これ地雷になりうるの? 悠木君は扱いが面倒くさいな。君の取説は一体どうなっているんだ。いくらイケメンでも面倒くさい男はすぐに飽きられてしまうぞ。
大体こんなことは本命女子にしてあげればいいのだ。
「きりゅ…女子に誤解されるよ」
「別にいーんだよ」
よくないよ、私がまた桐生さんに睨まれちゃうでしょうが…! やめて。と彼の手を剥がそうとしたけど、悠木君は対抗して私の頭から手を離さなかった。強制ナデナデコース突入である。……おかげでお昼寝時間が潰れた。
ねぇやっぱり私のお昼寝時間つぶしに来たの? 私になにか恨みある?
「まさか、私を防波堤にしようとしている…? 女避けの…」
新たな可能性を見出したので問うと、悠木君は私のおでこめがけてチョップしてきた。加減されてるから全然痛くないけど、理不尽さを感じた。何故私はチョップされなくてはならんのか。
□■□
私は眠い眼をこすりながら教室にトボトボ戻っていた。
くそう、眠い。腹いせとして自販機で悠木君にブラックコーヒー奢らせたけど、悠木君は平気な顔してお金を出してくれた。おかしいな、人におごるって結構な金銭的ダメージ…あ、そうだった悠木君お金持ちの子疑惑があったわ。
「寝癖ついてる」
私が眠気と戦っているとは知らない悠木君が私の跳ねた髪の毛を引っ張って戻してくれようとしているが、誰のせいだと思っているんだろうか。無理やり頭ぐりぐり撫でてきたあんたのせいだよ。
「あっ森宮さーん!」
そこににゅっと現れたのは眼鏡である。私の行く手を阻むように通せんぼした眼鏡は私と悠木君の顔を交互に見て何やら楽しそうな笑顔をみせてきた。…なんか良からぬことを企んでいそうな笑顔だ。
眼鏡はポッケに手を突っ込むとそこからスマホを取り出して私に見せてきた。なんだ? 最新機種なんだって自慢しに来たの? クラスメイトでもない私に?
眼鏡を怪訝に見返すと、相手は更ににぱーっと笑顔を深めた。
「連絡先教えてよ森宮さん」
……ん? 何だって?
聞き間違えかもしれないので、人差し指を上に立ててもう一回とお願いする。
「連絡先交換しようよ」
聞き間違いではなかったらしい。
だけど意味がわからん。
「なんで?」
「交換したことなかったなって思って」
「必要なくない? 眼鏡と話すことはなにもないよ」
連絡先交換して何を話すのよ。私はあんたと話したいことは何一つないよ
「名前! 俺の名前酒谷だから! あっ親しみやすく大輔って呼んでくれてもいいよ!」
「呼ばない」
なんか言っているけどスルーだ。
断ってもしつこそうだから適当に登録して、適当に流すとしよう。
「私返事遅いし、くだらないことはスルーするから」
渋々スマホを取り出すと、アプリを起動した。QRコードを表示してお友達登録させてやろうとしたのだが、横から伸びてきた手によって阻害される。
「ちょっと待てよ!」
「あぶなっ、ちょっと悠木君引っ張らないでよ、スマホ落とすでしょ!」
悠木君が腕を引っ張るから危うくスマホを取り落とすところだったじゃないか。私は彼に文句を言ったのだが、なぜか彼も怒っていた。
「普通俺が先だろ!?」
「なんで怒ってんの、連絡先ごときに」
え、悠木君まさか私と連絡先交換したかったの…? 今まで聞いてこなかったくせに…
「ぼやぼやしてる夏生が悪いんだろ」
「ふざけんなよ大輔てめぇ…!」
呆れた顔する眼鏡に対して乱暴な口調で威嚇したりして…急に仲が悪くなったな。眼鏡の方は面白がっている感があるけど。
森宮の友達は俺だもん! って小学生みたいに競っているのかな。ボッチ疑惑あるもんね悠木君てば…
「大丈夫だよ悠木君。悠木君は友達だけど、眼鏡はそれ以下だから」
「森宮さん。そんな悲しいこと俺の目の前で言わないでくれる!?」
うるさいよ眼鏡。あんたはどこまで行ってもサインペン痴漢の眼鏡なんだよ。友達なんて厚かましいこと考えてんじゃないよ。
「はいこれで俺と森宮さんは友達ー!」
眼鏡が手を伸ばして私の持つスマホの画面を読み込むと、ピローンと友達登録が済んだと音が鳴った。そこまでして私の友になりたいのか、眼鏡よ。
「あっ!」
「夏生も交換してもらえばいいじゃん、ほら」
眼鏡はおちょくるように悠木君を囃し立てる。
悠木君は見るからにイライラしているではないか。なんなの急にケンカして。怖いからやめてよ。
「…大輔。そこまでにしたら?」
ほらぁ出てきちゃったじゃぁん…
重苦しい空気を背負ってやってきたのは学校1の美女と名高い桐生礼奈。彼女はまるで般若の仮面をその美しい顔の裏に隠し持っているかのようであった。いつ豹変するのかわからなくて私は恐ろしくなった。
「森宮さんはバイトで忙しいの。連絡先交換なんかしてもどうせお返事できないのよ? 迷惑になるからやめてあげなさいよ」
桐生さんは眼鏡にやんわり注意したのち、こちらを冷たい目で見てきた。私はなにか言われるだろうと判断して身構える。
「──森宮さんも、なんとも思ってない異性と簡単に連絡先交換しないほうがいいと思うよ?」
彼女はいかにも親切心で窘めてあげる風に言ったが、私はその言い方にムッとした。なぜなら桐生礼奈の言葉の裏に潜んだ嫉妬心のようなものを感じ取ったから。
この人は私をなんだと思っているのか。何様のつもりなの? 私が思わせぶりな態度をとっているみたいな言い方されてとても不快だ。友達でもなんでもないのに余計なお世話だと反発したくなった。
「そういう桐生さんはどうなの? 悠木君とも眼鏡とも連絡交換してるんでしょ?」
私が反論してきたのに驚いたのか、彼女のパッチリ二重の瞳が見開かれた。
「それは…」
「ふぅん、今の言い分だと、桐生さんはふたりに対してなにか特別な思いがあるから交換しているんだ? 含むところがあるんだね?」
遠回しにあなたは二股でも掛けているんですか? と聞いてやる。
私にはどうこう言うくせに、あんたは2人と連絡先交換してるんでしょ? 指摘しているふりをしたただの牽制なのはバレバレなんだよ。いつもそうだよね。私はそれがおっかなくて桐生さんと関わるのを避けていたんだけど、ちょっと今回のはピキッと来たぞ。
「違う、夏生は友達だから」
「じゃあ眼鏡も友達になりたいから私に連絡先聞いてきたんじゃない? それとどう違うの? 自分はよくて私は駄目ってこと?」
眼鏡も大した理由なく軽い気持ちで聞いてきたんじゃないの。それを止める権利があんたにはあるっていうの? 彼女ならわかるけど、付き合っているわけでもない友達なら阻止する権利はないだろう。
三角関係の噂は聞いたことあるけど、実際のところ、桐生さんは二股してるの? 2人を手に入れたいからこうして私に突っかかってくるの?
それにしたって私は何も狙ってないし、桐生さんと戦うつもりもないんだ。私に構ってくれるな、めんどうくさい。
私と桐生さんが静かに見つめ合い、悠木君と眼鏡が困惑する空間。
微妙になった空気を切り裂くように昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
「…授業始まるから戻れば?」
私は彼らにそう告げるとひとり、普通科1組の教室に足を踏み入れたのである。
前にもこんな問いかけされたなぁと思いつつ、私は迷惑そうな面を隠さなかった。なんなのだ、私の貴重なお昼寝時間を奪うつもりか貴様ら。
「えぇ…? 友達だけど…」
私と悠木君の間にあるのは友情だよ? そう説明してみたけど、絡んできた女子たちにはご納得頂けなかったようで、口々に文句を言われた。
「生徒会役選で悠木君のこと庇ってみせたのってもしかして仕込み?」
「仕込みではないよ。なんでそんな事する必要があるのさ」
呆れた。生徒会役選時の事件の原因が私みたいな言い方されるとは思わなかった。私は別に誰が生徒会役員になるかとか興味なかったし、推薦辞退した側ですから。
「…悠木君のこと庇いたいならあの時どうして庇わなかったの。悠木君の友達以外誰一人として声を上げなかったじゃないのよ」
クラスが違ってもあの時の異変に気づいた。表立ってなにか言う人、なにも言わない人、信じていない人、興味がない人と色々いただろうけど、悠木君の友達以外は好奇の目で見ていた。悠木君は追い詰められていたのに、友達以外の人達はなんにもしなかった。
悠木君に気があるならあの時こそ庇って見せればいいのに、何もしなかったんだね。薄っぺらい好意だこと。高校生同士の恋愛なんて軽くて薄っぺらいものなんだろうけど…こういうの、なんだかなぁって思うよね。
「特進科にクラスチェンジしろって先生たちに説得されてるのに断ってるのって目立つためなの?」
「それ、悠木君となにか関係あるかな? むしろ悠木君と同じクラスにならないほうがあなた達としては安心なんじゃない?」
私が否定してもどうせ疑うんでしょ。それなら接点の少ないほうが安心なのにどうしてそんな事言うのさ。
「私が目立ちたいんじゃない、先生たちが大げさなだけ。私はバイトがしたいから普通科に居る。ただそれだけのこと! 以上、おわりっ! かいさーん!!」
私は絡んできた女子たちに強制解散を命じた。パチパチと手を叩いて鳥でも追い払うかのようにあしらうと、相手が怯んだタイミングを見計らってスタスタと立ち去った。
くだらない。実にくだらない。
悠木君に直接言えばいいのに、何故私に絡むのか。悠木君は自分のことで友達が絡まれることを好まない人なのに嫌われる方法を選んで馬鹿だねぇ…。
お昼寝スポットに到着すると、いそいそと棚に収納していた毛布を引っ張り出す。流石に1月は毛布だけじゃ寒いけどなにもないよりはマシである。
私はソファに寝転がってから目を閉じようとした。
「森宮」
しかし思わぬ邪魔が入る。
「……悠木君まで私の眠りを妨げるのか」
私のお昼寝スポットを把握している悠木君が社会科準備室の扉をノックなしに開けて、電気をつけてきたではないか。眩しさに私は目をシパシパさせた。
「絡まれてたろ、大丈夫か?」
「うん平気。悠木君のせいだけど」
そんなこと聞くためにやってきたのか。どこで見ていたんだ。
「ごめんな。助けようとしたけど、お前自分一人で追い払ってたから…」
「まぁ相手の発言があまりにもお粗末だったから…」
悠木君に庇ってもらうほどの相手ではなかったかな? むしろ悠木君が出てきたら余計に相手が燃え上がりそうだし出てこなくてよかったよ。
「なんかあったら言えよ。お前自分一人で片付けようとするところあるし…」
そう言って悠木君は膝を曲げると、ソファに横になった私の頭をいたわるように撫でてきた。その手は優しく、人によっては誤解されそうなシチュエーションである。
「…そういう風に私の頭撫でないほうがいいよ?」
「なんで」
親切心で教えてあげたのに悠木君は眉間にシワを寄せて不機嫌になった。
また地雷を踏んだのか? 頭を撫でるな…これ地雷になりうるの? 悠木君は扱いが面倒くさいな。君の取説は一体どうなっているんだ。いくらイケメンでも面倒くさい男はすぐに飽きられてしまうぞ。
大体こんなことは本命女子にしてあげればいいのだ。
「きりゅ…女子に誤解されるよ」
「別にいーんだよ」
よくないよ、私がまた桐生さんに睨まれちゃうでしょうが…! やめて。と彼の手を剥がそうとしたけど、悠木君は対抗して私の頭から手を離さなかった。強制ナデナデコース突入である。……おかげでお昼寝時間が潰れた。
ねぇやっぱり私のお昼寝時間つぶしに来たの? 私になにか恨みある?
「まさか、私を防波堤にしようとしている…? 女避けの…」
新たな可能性を見出したので問うと、悠木君は私のおでこめがけてチョップしてきた。加減されてるから全然痛くないけど、理不尽さを感じた。何故私はチョップされなくてはならんのか。
□■□
私は眠い眼をこすりながら教室にトボトボ戻っていた。
くそう、眠い。腹いせとして自販機で悠木君にブラックコーヒー奢らせたけど、悠木君は平気な顔してお金を出してくれた。おかしいな、人におごるって結構な金銭的ダメージ…あ、そうだった悠木君お金持ちの子疑惑があったわ。
「寝癖ついてる」
私が眠気と戦っているとは知らない悠木君が私の跳ねた髪の毛を引っ張って戻してくれようとしているが、誰のせいだと思っているんだろうか。無理やり頭ぐりぐり撫でてきたあんたのせいだよ。
「あっ森宮さーん!」
そこににゅっと現れたのは眼鏡である。私の行く手を阻むように通せんぼした眼鏡は私と悠木君の顔を交互に見て何やら楽しそうな笑顔をみせてきた。…なんか良からぬことを企んでいそうな笑顔だ。
眼鏡はポッケに手を突っ込むとそこからスマホを取り出して私に見せてきた。なんだ? 最新機種なんだって自慢しに来たの? クラスメイトでもない私に?
眼鏡を怪訝に見返すと、相手は更ににぱーっと笑顔を深めた。
「連絡先教えてよ森宮さん」
……ん? 何だって?
聞き間違えかもしれないので、人差し指を上に立ててもう一回とお願いする。
「連絡先交換しようよ」
聞き間違いではなかったらしい。
だけど意味がわからん。
「なんで?」
「交換したことなかったなって思って」
「必要なくない? 眼鏡と話すことはなにもないよ」
連絡先交換して何を話すのよ。私はあんたと話したいことは何一つないよ
「名前! 俺の名前酒谷だから! あっ親しみやすく大輔って呼んでくれてもいいよ!」
「呼ばない」
なんか言っているけどスルーだ。
断ってもしつこそうだから適当に登録して、適当に流すとしよう。
「私返事遅いし、くだらないことはスルーするから」
渋々スマホを取り出すと、アプリを起動した。QRコードを表示してお友達登録させてやろうとしたのだが、横から伸びてきた手によって阻害される。
「ちょっと待てよ!」
「あぶなっ、ちょっと悠木君引っ張らないでよ、スマホ落とすでしょ!」
悠木君が腕を引っ張るから危うくスマホを取り落とすところだったじゃないか。私は彼に文句を言ったのだが、なぜか彼も怒っていた。
「普通俺が先だろ!?」
「なんで怒ってんの、連絡先ごときに」
え、悠木君まさか私と連絡先交換したかったの…? 今まで聞いてこなかったくせに…
「ぼやぼやしてる夏生が悪いんだろ」
「ふざけんなよ大輔てめぇ…!」
呆れた顔する眼鏡に対して乱暴な口調で威嚇したりして…急に仲が悪くなったな。眼鏡の方は面白がっている感があるけど。
森宮の友達は俺だもん! って小学生みたいに競っているのかな。ボッチ疑惑あるもんね悠木君てば…
「大丈夫だよ悠木君。悠木君は友達だけど、眼鏡はそれ以下だから」
「森宮さん。そんな悲しいこと俺の目の前で言わないでくれる!?」
うるさいよ眼鏡。あんたはどこまで行ってもサインペン痴漢の眼鏡なんだよ。友達なんて厚かましいこと考えてんじゃないよ。
「はいこれで俺と森宮さんは友達ー!」
眼鏡が手を伸ばして私の持つスマホの画面を読み込むと、ピローンと友達登録が済んだと音が鳴った。そこまでして私の友になりたいのか、眼鏡よ。
「あっ!」
「夏生も交換してもらえばいいじゃん、ほら」
眼鏡はおちょくるように悠木君を囃し立てる。
悠木君は見るからにイライラしているではないか。なんなの急にケンカして。怖いからやめてよ。
「…大輔。そこまでにしたら?」
ほらぁ出てきちゃったじゃぁん…
重苦しい空気を背負ってやってきたのは学校1の美女と名高い桐生礼奈。彼女はまるで般若の仮面をその美しい顔の裏に隠し持っているかのようであった。いつ豹変するのかわからなくて私は恐ろしくなった。
「森宮さんはバイトで忙しいの。連絡先交換なんかしてもどうせお返事できないのよ? 迷惑になるからやめてあげなさいよ」
桐生さんは眼鏡にやんわり注意したのち、こちらを冷たい目で見てきた。私はなにか言われるだろうと判断して身構える。
「──森宮さんも、なんとも思ってない異性と簡単に連絡先交換しないほうがいいと思うよ?」
彼女はいかにも親切心で窘めてあげる風に言ったが、私はその言い方にムッとした。なぜなら桐生礼奈の言葉の裏に潜んだ嫉妬心のようなものを感じ取ったから。
この人は私をなんだと思っているのか。何様のつもりなの? 私が思わせぶりな態度をとっているみたいな言い方されてとても不快だ。友達でもなんでもないのに余計なお世話だと反発したくなった。
「そういう桐生さんはどうなの? 悠木君とも眼鏡とも連絡交換してるんでしょ?」
私が反論してきたのに驚いたのか、彼女のパッチリ二重の瞳が見開かれた。
「それは…」
「ふぅん、今の言い分だと、桐生さんはふたりに対してなにか特別な思いがあるから交換しているんだ? 含むところがあるんだね?」
遠回しにあなたは二股でも掛けているんですか? と聞いてやる。
私にはどうこう言うくせに、あんたは2人と連絡先交換してるんでしょ? 指摘しているふりをしたただの牽制なのはバレバレなんだよ。いつもそうだよね。私はそれがおっかなくて桐生さんと関わるのを避けていたんだけど、ちょっと今回のはピキッと来たぞ。
「違う、夏生は友達だから」
「じゃあ眼鏡も友達になりたいから私に連絡先聞いてきたんじゃない? それとどう違うの? 自分はよくて私は駄目ってこと?」
眼鏡も大した理由なく軽い気持ちで聞いてきたんじゃないの。それを止める権利があんたにはあるっていうの? 彼女ならわかるけど、付き合っているわけでもない友達なら阻止する権利はないだろう。
三角関係の噂は聞いたことあるけど、実際のところ、桐生さんは二股してるの? 2人を手に入れたいからこうして私に突っかかってくるの?
それにしたって私は何も狙ってないし、桐生さんと戦うつもりもないんだ。私に構ってくれるな、めんどうくさい。
私と桐生さんが静かに見つめ合い、悠木君と眼鏡が困惑する空間。
微妙になった空気を切り裂くように昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
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