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普通科の彼女と特進科の彼。
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高校の正門前に他校の女子生徒が群がり、騒然となった一連の出来事。
私は多くの生徒の前で悠木君の疑いはまだ確定していないと訴えてはみたが、完全なる名誉回復とはいかなかった。
仕方ない。私の訴えは証拠も何もなく、もっと強い証拠を出してから追及しようと話し合いを引き伸ばししただけだもんな。
あぁでも言わないと、状況が更に悪化すると思ったんだよ…
学校SNSではまだまだ嫌な噂が流れ、学校内では監視する生徒たちの視線が悠木君に突き刺さっていた。遠くから見ている限りでは、彼は噂や周りの視線を気にしないようにしているようだった。悠木君の友人たちはずっと側にいて、彼を一人にはしないようにしていた。
学校放送での応援演説でも、昇降口前で立候補者推薦者が並んで演説するときも、堂々とした様子でいた。
時間が経過するにつれて、生徒たちも噂を半信半疑って感じではあったけど、当初の棘のような視線は和らいだと思う。
…ただ、依然として他校女子が悠木君を待ち伏せしたり、家まで押しかけたりということは多いみたいだ。
私がコンビニでバイトする早朝5時から待ち伏せしている人もいた。ゴミ箱掃除で外に出たときもまだいて、その執念深さに私は警察を呼ぶべきか悩んだくらいである。
「5時前から待ち伏せしてる子がいたよ。さっきゴミ捨てで店の裏に行った時にもいた」
「…マジかよ…」
登校前にコンビニへ買い物に来た悠木君にそれを教えてあげると、辟易した悠木君は別ルートから出入りするようになった。
どうやらマンションの地下駐車場が近くの地下鉄の連絡通路とつながっているそうで、そこから出て学校に行ってるとか。ちなみにそこは住人しか出入りできないようになってる。コンビニにもマンション住民専用の出入り口があるので、それと似たようなものであろうか。
──遠くから彼らを眺めていて、美人は得だと思っていたが、こういう現実を間近で見てしまうと同情すらしてしまう。……こんなんで女子の桐生さんの方は大丈夫だろうか。
面倒だから積極的には関わらない、と決めていたけど、私が前に出てこの生徒会役選の裏にある陰謀を解き明かしたほうがいいのだろうか。
ちょっとおせっかいかもしれないけど、流石に悠木君たちが可哀想に思えてきたのだもの。
◆◇◆
「ふわぁ」
ちょうどいい気温にお昼後ということで私は大きなあくびをした。
「おっきなあくび。美玖ってばまた遅くまで働いてその後勉強してたの?」
「んー…まぁ、他にも作業があったから…」
昨日遅くまでパソコンで作業していたから、睡眠不足なんだ。眠気覚ましにコーヒー飲んだけど全然だめ。カフェイン入りのエナジードリンクでも飲めばよかったのかな。
「誰に投票する?」
「誰に入れても変わんない気もするよねぇ」
「美玖は誰に入れるか決めた?」
「うーん、そうだねぇ…」
目元をぐしぐしこすりながら、友人たちがぺちゃくちゃ喋っているのをぼうっと聞いていると、ごとん、とマイクを通した物音が響き渡った。その音でみんなのおしゃべりが一瞬静まり返る。
ここは体育館。全校生徒が集まり、これから始まる生徒会役選最後の演説を今か今かと待ち構えている。
『──これより、次期生徒会役員選挙最終演説を開始いたします』
演説なんてものはみんな代わり映えのないものばかり。候補者はみんな、夢や希望を熱く語るけど、実際に行うのは地味で、代わり映えのないことばかりだ。政治家でもないのでものすごい悪政を執り行うわけでもない。無難な人に投票しよ、ってのが生徒たちの本音であろう。
『2年B組、須和愛です』
作り笑顔で爽やかに自己紹介をし始めた女子生徒の姿に私は胡散臭いものを感じた。人は皆仮面をかぶって取り繕っているものだが、この人はこの選挙の裏で嫌がらせに走っているからなぁ……この人には絶対に票入れない。
『今回、生徒会長より推薦をいただき、会計として出馬いたしました、1年A組の桐生礼奈です』
次々に候補者による演説が行われる。2年生から、クラス順、あいうえお順で並べられた選挙。悠木君は一番最後になるみたいだ。
今は桐生礼奈が壇上で話している。
「あのひと、二股してるって噂の…」
「美人だし、男も放っておかないんだろう…」
ひそひそ話をする生徒の声がこちらまで聞こえてきた。
悠木君と桐生さんと眼鏡。あの3人は特別仲がいいという評判だ。彼らの関係性は私も詳しくは存じ上げないが、女1人に男2人だもん、変な目で見られることもあるよね。
桐生さんに関してはどういう被害状況かは知らない。悠木君ほど精神的に追い詰められている雰囲気はなさそうだが、多少なりとも攻撃を受けているはずだ。
しかし、その心配は杞憂だったようだ。
桐生さんは放送部で培ってきたスピーチ能力で、みんなが聞き取りやすく、理解しやすい言葉選びで決意表明をしていた。
彼女の笑顔は爽やかで朝のニュース番組のお姉さんのように華があった。
さすがアナウンサー志望。堅苦しいはずのスピーチがすらすら頭に入ってくるぞ。
噂をしていた人も彼女のスピーチに聞き入り、みんな黙り込んでしまった。私は桐生さんのことは表向きのことしか知らないけど、そのスピーチ能力は伊達じゃない。すごいなぁ。こうして真摯に向き合えば、周りの人も噂は所詮噂だと思い直してくれるのかもしれない。
ならば悠木君、勝負どころだ。頑張るんだよ…!
眼鏡の地味で無難な決意表明が終わり、とうとう最後の候補者の順番になった。
『──推薦で出馬しました、1年A組の悠木夏生です』
ただ一言、彼は自己紹介をしただけだった。
「彼女堕胎させておいて、面の皮厚いんじゃないのー?」
どこからか飛んできた女のヤジにみんなの視線が集まる。
その人は例の首謀犯の片割れであった。
「みなさーん。この人はたくさんの女の子を弄んでるんですよー。そんな人が生徒会に入ったらこの学校がどうなるかわかってますかー?」
『……』
悠木君は自分に突き刺さる棘のような視線に萎縮して黙り込んでしまった。壇上に立つ彼の顔色がどんどん悪くなっている。
「……あの噂本当だったんだ…」
「ショックー…」
「学校の評判が落ちたら受験に響くじゃねーか…」
導火線に火がついて、みんながざわめき始めた。これはよくない。良くない状況だぞ。
『静かにしてください、静粛に』
選挙管理委員会がマイクで注意しているが、生徒たちのどよめきは収まらない。
壇上にいる悠木君はもう駄目みたいだ。多分否定したくても、恐怖で声が出ないのだろう。辞退を申し出そうな気配すらする。
私は腕を組んで考えた。
…うーんどうしようかなぁ。この最終演説が終わってから、生徒会に乗り込んで例のアレをお見せしようと思ったんだけど、こうしてみんなの前で晒し者にされたんじゃ、同じことをお返ししてあげなきゃいけないよねぇ。
だって、なんの咎もない人が足を引っ張られてるの見てるの、こっちまで心苦しいじゃん?
「なんとか言ったらどうなの!? それでも、生徒会に入るって言うわけ!?」
一方的な糾弾はまるで魔女裁判である。悠木君に不利な状況で、晒し者のように大衆の中で裁くなんて、この人は検事にでもなったつもりなのだろうか。
『…俺は』
「──異議ありっ!!」
悠木君のマイク越しの声をかき消すくらいの大声で私は話を遮る。
「1年1組出席番号38番、森宮美玖! そこの2年生・育田さんの言い分に異議を唱えます!」
私が手をあげて立ち上がったことで、生徒たちの注目が私に集中する。
よしよし、このまま流れを私のペースに巻き込むぞ。
「私は決定的な物的証拠を持っています。今から準備しますので10分ほどお時間をいただけますでしょうか! それとプロジェクター上映の許可をいただきたいのですが!」
『あの、ちょっと…』
私が提案すると、選挙管理委員会の人がモニョモニョとマイク越しに困った声を出していたが、横からマイクを奪った生徒会長が『構わん、納得できる証拠を期待している』とゴーサインを出した。
私はニッと笑ってみせると、座っている人たちの隙間を通って駆け出した。目指すは自分の教室。そこに証拠となる品を保管しているのだ…!
待っておれ、卑怯な女ども。目にものを言わせてやるぞ…!
私は多くの生徒の前で悠木君の疑いはまだ確定していないと訴えてはみたが、完全なる名誉回復とはいかなかった。
仕方ない。私の訴えは証拠も何もなく、もっと強い証拠を出してから追及しようと話し合いを引き伸ばししただけだもんな。
あぁでも言わないと、状況が更に悪化すると思ったんだよ…
学校SNSではまだまだ嫌な噂が流れ、学校内では監視する生徒たちの視線が悠木君に突き刺さっていた。遠くから見ている限りでは、彼は噂や周りの視線を気にしないようにしているようだった。悠木君の友人たちはずっと側にいて、彼を一人にはしないようにしていた。
学校放送での応援演説でも、昇降口前で立候補者推薦者が並んで演説するときも、堂々とした様子でいた。
時間が経過するにつれて、生徒たちも噂を半信半疑って感じではあったけど、当初の棘のような視線は和らいだと思う。
…ただ、依然として他校女子が悠木君を待ち伏せしたり、家まで押しかけたりということは多いみたいだ。
私がコンビニでバイトする早朝5時から待ち伏せしている人もいた。ゴミ箱掃除で外に出たときもまだいて、その執念深さに私は警察を呼ぶべきか悩んだくらいである。
「5時前から待ち伏せしてる子がいたよ。さっきゴミ捨てで店の裏に行った時にもいた」
「…マジかよ…」
登校前にコンビニへ買い物に来た悠木君にそれを教えてあげると、辟易した悠木君は別ルートから出入りするようになった。
どうやらマンションの地下駐車場が近くの地下鉄の連絡通路とつながっているそうで、そこから出て学校に行ってるとか。ちなみにそこは住人しか出入りできないようになってる。コンビニにもマンション住民専用の出入り口があるので、それと似たようなものであろうか。
──遠くから彼らを眺めていて、美人は得だと思っていたが、こういう現実を間近で見てしまうと同情すらしてしまう。……こんなんで女子の桐生さんの方は大丈夫だろうか。
面倒だから積極的には関わらない、と決めていたけど、私が前に出てこの生徒会役選の裏にある陰謀を解き明かしたほうがいいのだろうか。
ちょっとおせっかいかもしれないけど、流石に悠木君たちが可哀想に思えてきたのだもの。
◆◇◆
「ふわぁ」
ちょうどいい気温にお昼後ということで私は大きなあくびをした。
「おっきなあくび。美玖ってばまた遅くまで働いてその後勉強してたの?」
「んー…まぁ、他にも作業があったから…」
昨日遅くまでパソコンで作業していたから、睡眠不足なんだ。眠気覚ましにコーヒー飲んだけど全然だめ。カフェイン入りのエナジードリンクでも飲めばよかったのかな。
「誰に投票する?」
「誰に入れても変わんない気もするよねぇ」
「美玖は誰に入れるか決めた?」
「うーん、そうだねぇ…」
目元をぐしぐしこすりながら、友人たちがぺちゃくちゃ喋っているのをぼうっと聞いていると、ごとん、とマイクを通した物音が響き渡った。その音でみんなのおしゃべりが一瞬静まり返る。
ここは体育館。全校生徒が集まり、これから始まる生徒会役選最後の演説を今か今かと待ち構えている。
『──これより、次期生徒会役員選挙最終演説を開始いたします』
演説なんてものはみんな代わり映えのないものばかり。候補者はみんな、夢や希望を熱く語るけど、実際に行うのは地味で、代わり映えのないことばかりだ。政治家でもないのでものすごい悪政を執り行うわけでもない。無難な人に投票しよ、ってのが生徒たちの本音であろう。
『2年B組、須和愛です』
作り笑顔で爽やかに自己紹介をし始めた女子生徒の姿に私は胡散臭いものを感じた。人は皆仮面をかぶって取り繕っているものだが、この人はこの選挙の裏で嫌がらせに走っているからなぁ……この人には絶対に票入れない。
『今回、生徒会長より推薦をいただき、会計として出馬いたしました、1年A組の桐生礼奈です』
次々に候補者による演説が行われる。2年生から、クラス順、あいうえお順で並べられた選挙。悠木君は一番最後になるみたいだ。
今は桐生礼奈が壇上で話している。
「あのひと、二股してるって噂の…」
「美人だし、男も放っておかないんだろう…」
ひそひそ話をする生徒の声がこちらまで聞こえてきた。
悠木君と桐生さんと眼鏡。あの3人は特別仲がいいという評判だ。彼らの関係性は私も詳しくは存じ上げないが、女1人に男2人だもん、変な目で見られることもあるよね。
桐生さんに関してはどういう被害状況かは知らない。悠木君ほど精神的に追い詰められている雰囲気はなさそうだが、多少なりとも攻撃を受けているはずだ。
しかし、その心配は杞憂だったようだ。
桐生さんは放送部で培ってきたスピーチ能力で、みんなが聞き取りやすく、理解しやすい言葉選びで決意表明をしていた。
彼女の笑顔は爽やかで朝のニュース番組のお姉さんのように華があった。
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噂をしていた人も彼女のスピーチに聞き入り、みんな黙り込んでしまった。私は桐生さんのことは表向きのことしか知らないけど、そのスピーチ能力は伊達じゃない。すごいなぁ。こうして真摯に向き合えば、周りの人も噂は所詮噂だと思い直してくれるのかもしれない。
ならば悠木君、勝負どころだ。頑張るんだよ…!
眼鏡の地味で無難な決意表明が終わり、とうとう最後の候補者の順番になった。
『──推薦で出馬しました、1年A組の悠木夏生です』
ただ一言、彼は自己紹介をしただけだった。
「彼女堕胎させておいて、面の皮厚いんじゃないのー?」
どこからか飛んできた女のヤジにみんなの視線が集まる。
その人は例の首謀犯の片割れであった。
「みなさーん。この人はたくさんの女の子を弄んでるんですよー。そんな人が生徒会に入ったらこの学校がどうなるかわかってますかー?」
『……』
悠木君は自分に突き刺さる棘のような視線に萎縮して黙り込んでしまった。壇上に立つ彼の顔色がどんどん悪くなっている。
「……あの噂本当だったんだ…」
「ショックー…」
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導火線に火がついて、みんながざわめき始めた。これはよくない。良くない状況だぞ。
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選挙管理委員会がマイクで注意しているが、生徒たちのどよめきは収まらない。
壇上にいる悠木君はもう駄目みたいだ。多分否定したくても、恐怖で声が出ないのだろう。辞退を申し出そうな気配すらする。
私は腕を組んで考えた。
…うーんどうしようかなぁ。この最終演説が終わってから、生徒会に乗り込んで例のアレをお見せしようと思ったんだけど、こうしてみんなの前で晒し者にされたんじゃ、同じことをお返ししてあげなきゃいけないよねぇ。
だって、なんの咎もない人が足を引っ張られてるの見てるの、こっちまで心苦しいじゃん?
「なんとか言ったらどうなの!? それでも、生徒会に入るって言うわけ!?」
一方的な糾弾はまるで魔女裁判である。悠木君に不利な状況で、晒し者のように大衆の中で裁くなんて、この人は検事にでもなったつもりなのだろうか。
『…俺は』
「──異議ありっ!!」
悠木君のマイク越しの声をかき消すくらいの大声で私は話を遮る。
「1年1組出席番号38番、森宮美玖! そこの2年生・育田さんの言い分に異議を唱えます!」
私が手をあげて立ち上がったことで、生徒たちの注目が私に集中する。
よしよし、このまま流れを私のペースに巻き込むぞ。
「私は決定的な物的証拠を持っています。今から準備しますので10分ほどお時間をいただけますでしょうか! それとプロジェクター上映の許可をいただきたいのですが!」
『あの、ちょっと…』
私が提案すると、選挙管理委員会の人がモニョモニョとマイク越しに困った声を出していたが、横からマイクを奪った生徒会長が『構わん、納得できる証拠を期待している』とゴーサインを出した。
私はニッと笑ってみせると、座っている人たちの隙間を通って駆け出した。目指すは自分の教室。そこに証拠となる品を保管しているのだ…!
待っておれ、卑怯な女ども。目にものを言わせてやるぞ…!
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