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番外編
我が国は一夫一妻制ですわ!
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砂漠の旅を終えて王宮に戻ると、王族らは各々ゆったりと過ごしていた。
この人たち、なにか仕事とかしてないんだろうか。ずっと王宮に引きこもって自堕落に過ごしているんだろうか。
旅の埃を落とした後は、王宮召使さんに国王への面会をお願いする。
持って帰ってきた隕石のことで話があるからだ。
許可を取って、国王が待つ広間まで案内されると、夫人ハーレムを作っている国王がいた。
手に持っている盃にはお酒が入っていそうだが、いちいち突っ込むまい。
ずらっと並んだ王族の数に圧倒されそうだったが、私の隣にはヴィックがいる。彼の臆することのない態度を見習って、私も胸を張った。
『おぉこれは大公殿、鉱山視察はいかがでしたかな?』
『ええ、現地の声を聞けたことでよい収穫がありましたよ』
『それはよかった』
赤ら顔でへらへらしている国王は年若い第14夫人の細い腰をいやらしい手つきで撫でまわしながら、ちらりと私に視線を向けた。
『…して、大公妃殿はわしになんの話があるのだ?』
下の者へ向けるような侮蔑に似た視線に少しむっとしたが、表情には出さないよう努めた。
私は布を巻き付けておいた隕石を、控えていた護衛から受け取りそれをお披露目する。
『移動中に砂漠で発掘したものです。この石には宝石が含まれていると思われます。国で加工して確認したいので持ち帰ってもよろしいでしょうか?』
用件は手短に。簡潔にお話しした。
『災厄……!』
引き攣った声でまた誰かが災厄と呼んだ。
国王周りにいる婦人たちは各々悲鳴をあげて怯えている。
彼らが恐れているのは私が抱きかかえた隕石である。王族も迷信っぽい言い伝えを信じているのか。隕石で痛い目を見てきたから恐れているのか、それとも信心深いだけなのか。
中央にいた国王もほろ酔い気分から素に戻ったらしい。先ほどよりも顔色が悪くなっている。
『……持ち帰りたいならそうすれば良い』
『本当ですか! では代金は』
『要らぬ』
『ですが』
『いいからそれを遠ざけよ。気分が悪い』
なんと無料で持って帰っていいと許可をいただいた。
私は丁重にお礼を伝えた。しかし国王は隕石を目にするのも嫌みたいで私から目をそらしていた。
なんか悪いことしたかな。
布に包み直した宝石を抱きかかえて踵を返していると、外から盗み聞きして様子を伺っていたらしい王女様方が建物の柱に隠れてひそひそ話していた。
『あんなもの持ち込まないでないでほしいわ』
『ホント、一人で災いを受け止めるなら良いけどいい迷惑よ』
『あんな岩石が宝石に見えるなんてどうかしてるわ』
これ見よがしに悪口を言われた。
本当に隕石が怖いから災厄だと思い込んで恐れているんだろうけどさぁ……
これはただの石じゃなくて宝石が眠っているのに。
災いとか迷信だろうに。
隕石から宝石を採石できれば、この国の収入になると思って持って帰ってきたのに。
説明すら聞こうとしてくれなかった。
「この国が発展しないのってそういうところだと思う!」
むかっ腹を立てた私が悪態吐くと、ヴィックに頭を撫でられて宥められた。
「国が違えば文化も違う。理解されないのは仕方がない」
それはわかっている。同じ人間でも分かり合えるなんて困難だもの。
だけど私は可能性に賭けて話を持ち掛けたのに、聞こうともせず、拒絶されたのが悔しかった。
この国をどうするつもりなんだ。
国をよくしようとは思わないのか。
お腹をすかせた国民がいるのに、ここの人たちは何もしない、なにも行動しない。
私はそれが腹立たしくて仕方がなかった。
その日の晩も宴会が行われた。
無事大公一行が帰還できたからそのお祝いだとか言って。
貧しいのにこんな宴会開いて大丈夫なんだろうか。国のメンツを守るためと言われたら仕方ないけど。
うちに外国のお客様が来た時はもちろん歓待するけど、頻繁に宴会を開くことはしないので、この頻度は理解できないな。
正直疲れが取れていないから今日は早めに就寝したい。
食が進まない私は周りに気取られないようにため息を吐き出した。
周りではわいわいと飲み食いするハイドラート王族たち。中央に並ぶは豪華な料理。貧しい国にこんなに食料があったのかと驚く量である。食べきれない分は召使たちに下げ渡されるそうだが、それでも余ったら廃棄処分するみたいだ。
限りある食糧なのだから、自分たちが食べる分だけと調節できないのだろうか。
目の前をふわりと薄手の布が舞った。今日はどこからか踊り子を呼んできたらしい。
美しい踊り子がベリーダンス衣装もどきを身にまとって踊っているのだけど、なんかヴィックをチラチラ見ている気がする。
私の隣に座っているヴィックは踊り子を見て、無言で首を横に振って拒絶した。
両者の間で言葉もなく交わされたそれに私は衝撃を受けた。なにその以心伝心。私を差し置いて……!
踊り子がプライドを傷つけられたみたいな顔をして私を睨みつけてきた。
睨みたいのはこっちである。堂々と人の旦那を誘惑しないでほしい。
むむむと踊り子と睨み合いをしていると、ヴィックに食べものを押し付けられた。
「リゼット全然食べてないじゃないか。これおいしいから食べてごらん」
そう言ってスプーンを口にねじ込まれる。
正直食欲はない。しかし「はいあーん」をされたら食べざるを得ない。
この国では椅子ではなく絨毯の上で座る形なので、普段よりも距離が近い。私はヴィックにくっついて、仲の良さをアピールすることにした。
『ところで大公殿、2人目の妻を迎える予定はないのか?』
ヴィックにご飯を食べさせてもらって甘えていた私は、ハイドラート国王の発言に固まった。
『シャリア、ここへ』
『はい、お父様』
国王に指名されて現れたのは、第……何番目かの王女だ。多分私と同年代くらいで、王女たちの中でも美しい女性だった。彼女は私と目が合うと勝ち誇ったような目でふふんと笑っていた。嫌な感じである。
『我が王女を妻として……』
「必要ない。我が国は一夫一妻制なので。妾としても必要ありません」
国王の発言を遮るようにして拒絶したヴィック。聞く耳持たずって感じである。
そうだよ! うちの国だけでなく周辺国も一夫一妻なんだから2番目の妻なんて必要ない。文化が違うんだから!
『その娘は後ろ盾のない下賤の生まれなのだろう。跡継ぎも生まれていないし……』
後ろ盾がないことも、スラム出身なことも否定できないが、跡継ぎに関しては結婚してまだ一年経過してませんが!? もしかしたら今妊娠している可能性もあるかもなのに失礼な!
『それを言うならあなたの娘を妻に迎えたとして、私に何の利点があるとおっしゃる?』
ヴィックは冷めきった視線で国王を睥睨していた。
怒りと軽蔑が含まれたそれは、私を愛してくれている故に現れた感情だろう。
『なっ……!』
重苦しい空気をまとった彼は完全にキレていた。国王は反論しようとしていたが、ヴィックの怒り具合にビビッて言葉を飲み込んでしまったようだ。
そのまま私の手を取って立ち上がるとヴィックは怒りを押し殺した声で辞意を告げた。
『──気分が悪い。私たちはこれで失礼させていただく』
『待つのだ、大公殿!』
後ろで国王が何か言いすがろうとしていたが、ヴィックは耳を貸すことなく完全無視。
私はそのままヴィックの宿泊部屋に連れ込まれた。そのまま一直線で寝室へ向かい、ぼふっと音を立てて寝台へ一緒に倒れこんだ。
両腕で抱きしめられていたし、寝台がふかふかだったので痛くはなかったけど、ヴィックが傷ついているのがわかったので私も悲しくなった。
「リゼット以外の女性と結婚するなんてありえない」
結婚する前から横やりがあり、結婚した後も私たちを離縁させようとする外部の圧力を感じることがある。
ヴィックはいつもそれを突っぱねてノーダメージに見えていたが、実際は傷つけられていたのかもしれない。
その度に私は自分自身が情けなくなる。
私には何もない。ヴィックを守る力がない。
彼の憂いを取り払ってあげたいのになんにもできないのだ。
悔しくてたまらない。
こんな顔をさせたくないのに。
「ん、愛してるよヴィック」
悲しみに瞳を曇らせる彼の唇に軽く口づけをすると、ヴィックも優しく返してくれた。
ぎゅっと抱き込む腕の力が増して少し苦しかったけど、私も彼を強く抱きしめ返した。
決して誰にも引き剥がされない。
私たちは軽い気持ちで一緒になったわけじゃないんだ。私たちの想いはそんな軽いものじゃないんだ。
その晩は何もしないで抱き合って眠った。
私たちは疲れていた。
慣れない国、慣れない文化に身体も心も疲れ切って、何も考えたくなかったのだ。
この人たち、なにか仕事とかしてないんだろうか。ずっと王宮に引きこもって自堕落に過ごしているんだろうか。
旅の埃を落とした後は、王宮召使さんに国王への面会をお願いする。
持って帰ってきた隕石のことで話があるからだ。
許可を取って、国王が待つ広間まで案内されると、夫人ハーレムを作っている国王がいた。
手に持っている盃にはお酒が入っていそうだが、いちいち突っ込むまい。
ずらっと並んだ王族の数に圧倒されそうだったが、私の隣にはヴィックがいる。彼の臆することのない態度を見習って、私も胸を張った。
『おぉこれは大公殿、鉱山視察はいかがでしたかな?』
『ええ、現地の声を聞けたことでよい収穫がありましたよ』
『それはよかった』
赤ら顔でへらへらしている国王は年若い第14夫人の細い腰をいやらしい手つきで撫でまわしながら、ちらりと私に視線を向けた。
『…して、大公妃殿はわしになんの話があるのだ?』
下の者へ向けるような侮蔑に似た視線に少しむっとしたが、表情には出さないよう努めた。
私は布を巻き付けておいた隕石を、控えていた護衛から受け取りそれをお披露目する。
『移動中に砂漠で発掘したものです。この石には宝石が含まれていると思われます。国で加工して確認したいので持ち帰ってもよろしいでしょうか?』
用件は手短に。簡潔にお話しした。
『災厄……!』
引き攣った声でまた誰かが災厄と呼んだ。
国王周りにいる婦人たちは各々悲鳴をあげて怯えている。
彼らが恐れているのは私が抱きかかえた隕石である。王族も迷信っぽい言い伝えを信じているのか。隕石で痛い目を見てきたから恐れているのか、それとも信心深いだけなのか。
中央にいた国王もほろ酔い気分から素に戻ったらしい。先ほどよりも顔色が悪くなっている。
『……持ち帰りたいならそうすれば良い』
『本当ですか! では代金は』
『要らぬ』
『ですが』
『いいからそれを遠ざけよ。気分が悪い』
なんと無料で持って帰っていいと許可をいただいた。
私は丁重にお礼を伝えた。しかし国王は隕石を目にするのも嫌みたいで私から目をそらしていた。
なんか悪いことしたかな。
布に包み直した宝石を抱きかかえて踵を返していると、外から盗み聞きして様子を伺っていたらしい王女様方が建物の柱に隠れてひそひそ話していた。
『あんなもの持ち込まないでないでほしいわ』
『ホント、一人で災いを受け止めるなら良いけどいい迷惑よ』
『あんな岩石が宝石に見えるなんてどうかしてるわ』
これ見よがしに悪口を言われた。
本当に隕石が怖いから災厄だと思い込んで恐れているんだろうけどさぁ……
これはただの石じゃなくて宝石が眠っているのに。
災いとか迷信だろうに。
隕石から宝石を採石できれば、この国の収入になると思って持って帰ってきたのに。
説明すら聞こうとしてくれなかった。
「この国が発展しないのってそういうところだと思う!」
むかっ腹を立てた私が悪態吐くと、ヴィックに頭を撫でられて宥められた。
「国が違えば文化も違う。理解されないのは仕方がない」
それはわかっている。同じ人間でも分かり合えるなんて困難だもの。
だけど私は可能性に賭けて話を持ち掛けたのに、聞こうともせず、拒絶されたのが悔しかった。
この国をどうするつもりなんだ。
国をよくしようとは思わないのか。
お腹をすかせた国民がいるのに、ここの人たちは何もしない、なにも行動しない。
私はそれが腹立たしくて仕方がなかった。
その日の晩も宴会が行われた。
無事大公一行が帰還できたからそのお祝いだとか言って。
貧しいのにこんな宴会開いて大丈夫なんだろうか。国のメンツを守るためと言われたら仕方ないけど。
うちに外国のお客様が来た時はもちろん歓待するけど、頻繁に宴会を開くことはしないので、この頻度は理解できないな。
正直疲れが取れていないから今日は早めに就寝したい。
食が進まない私は周りに気取られないようにため息を吐き出した。
周りではわいわいと飲み食いするハイドラート王族たち。中央に並ぶは豪華な料理。貧しい国にこんなに食料があったのかと驚く量である。食べきれない分は召使たちに下げ渡されるそうだが、それでも余ったら廃棄処分するみたいだ。
限りある食糧なのだから、自分たちが食べる分だけと調節できないのだろうか。
目の前をふわりと薄手の布が舞った。今日はどこからか踊り子を呼んできたらしい。
美しい踊り子がベリーダンス衣装もどきを身にまとって踊っているのだけど、なんかヴィックをチラチラ見ている気がする。
私の隣に座っているヴィックは踊り子を見て、無言で首を横に振って拒絶した。
両者の間で言葉もなく交わされたそれに私は衝撃を受けた。なにその以心伝心。私を差し置いて……!
踊り子がプライドを傷つけられたみたいな顔をして私を睨みつけてきた。
睨みたいのはこっちである。堂々と人の旦那を誘惑しないでほしい。
むむむと踊り子と睨み合いをしていると、ヴィックに食べものを押し付けられた。
「リゼット全然食べてないじゃないか。これおいしいから食べてごらん」
そう言ってスプーンを口にねじ込まれる。
正直食欲はない。しかし「はいあーん」をされたら食べざるを得ない。
この国では椅子ではなく絨毯の上で座る形なので、普段よりも距離が近い。私はヴィックにくっついて、仲の良さをアピールすることにした。
『ところで大公殿、2人目の妻を迎える予定はないのか?』
ヴィックにご飯を食べさせてもらって甘えていた私は、ハイドラート国王の発言に固まった。
『シャリア、ここへ』
『はい、お父様』
国王に指名されて現れたのは、第……何番目かの王女だ。多分私と同年代くらいで、王女たちの中でも美しい女性だった。彼女は私と目が合うと勝ち誇ったような目でふふんと笑っていた。嫌な感じである。
『我が王女を妻として……』
「必要ない。我が国は一夫一妻制なので。妾としても必要ありません」
国王の発言を遮るようにして拒絶したヴィック。聞く耳持たずって感じである。
そうだよ! うちの国だけでなく周辺国も一夫一妻なんだから2番目の妻なんて必要ない。文化が違うんだから!
『その娘は後ろ盾のない下賤の生まれなのだろう。跡継ぎも生まれていないし……』
後ろ盾がないことも、スラム出身なことも否定できないが、跡継ぎに関しては結婚してまだ一年経過してませんが!? もしかしたら今妊娠している可能性もあるかもなのに失礼な!
『それを言うならあなたの娘を妻に迎えたとして、私に何の利点があるとおっしゃる?』
ヴィックは冷めきった視線で国王を睥睨していた。
怒りと軽蔑が含まれたそれは、私を愛してくれている故に現れた感情だろう。
『なっ……!』
重苦しい空気をまとった彼は完全にキレていた。国王は反論しようとしていたが、ヴィックの怒り具合にビビッて言葉を飲み込んでしまったようだ。
そのまま私の手を取って立ち上がるとヴィックは怒りを押し殺した声で辞意を告げた。
『──気分が悪い。私たちはこれで失礼させていただく』
『待つのだ、大公殿!』
後ろで国王が何か言いすがろうとしていたが、ヴィックは耳を貸すことなく完全無視。
私はそのままヴィックの宿泊部屋に連れ込まれた。そのまま一直線で寝室へ向かい、ぼふっと音を立てて寝台へ一緒に倒れこんだ。
両腕で抱きしめられていたし、寝台がふかふかだったので痛くはなかったけど、ヴィックが傷ついているのがわかったので私も悲しくなった。
「リゼット以外の女性と結婚するなんてありえない」
結婚する前から横やりがあり、結婚した後も私たちを離縁させようとする外部の圧力を感じることがある。
ヴィックはいつもそれを突っぱねてノーダメージに見えていたが、実際は傷つけられていたのかもしれない。
その度に私は自分自身が情けなくなる。
私には何もない。ヴィックを守る力がない。
彼の憂いを取り払ってあげたいのになんにもできないのだ。
悔しくてたまらない。
こんな顔をさせたくないのに。
「ん、愛してるよヴィック」
悲しみに瞳を曇らせる彼の唇に軽く口づけをすると、ヴィックも優しく返してくれた。
ぎゅっと抱き込む腕の力が増して少し苦しかったけど、私も彼を強く抱きしめ返した。
決して誰にも引き剥がされない。
私たちは軽い気持ちで一緒になったわけじゃないんだ。私たちの想いはそんな軽いものじゃないんだ。
その晩は何もしないで抱き合って眠った。
私たちは疲れていた。
慣れない国、慣れない文化に身体も心も疲れ切って、何も考えたくなかったのだ。
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