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生き抜くのに必死なんです。
ニートを養って差し上げる気は毛頭ございませんの。
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私の作った焼き芋は近隣の中流階級にも評判が広まり、おおよその販売時間になるとわざわざスラムの中に入ってきて焼き芋を買いに来るようになった。
生産したさつまいもは数に限りがあるので数量固定で販売していた。中には「スラムの中に入るのは怖いから大通りに売りに来てほしい」と要望してくる中流階級の客もいたが、スラム優先で売っているからと断った。
中流階級も大変なのは重々承知だが、スラムの中ではそれ以上の貧困が広がっているのだ。金出せばいいでしょって問題じゃないのだ。むしろスラム価格で買えてラッキーと思ってほしいくらいである。
「内緒だよ。今日だけ特別だからね」
たまたま売り物にはなりそうにない小さな芋があったので、それをお金のない小さな子供にこっそりあげた。すると彼らはきゃー! と喜んで走っていってしまった。内緒だと言っているのに…
普段はこんな事しないんだけど、お腹すかせた目でこっちをじぃっと見てくるもんだから…ついつい仏心を出してしまった。
「リゼットは優しいね」
「!? ヴィ、ヴィック! 見てたの!?」
その姿をヴィックにしっかり見られていたらしく、私は慌てた。
「これは売り物にならないからだよ! 別にいつもしているわけじゃないから!」
私が弁解する姿が面白いのか、彼は目を細めて小さく笑った。
その笑顔の美麗さよ。眩しくて私はうっと息をつまらせた。まさに掃き溜めに鶴。なんでヴィックみたいな美人がこんなスラムに居るんだろう…訳ありなのはわかってるんだけどさ。
もともとヴィックは美形だったけど、歳を重ねて大人の男に近づいてきたせいか、妙な色気を感じるんだよな……
「ここに来たばかりの俺にも優しかっただろう?…リゼットはあの時と変わらない」
「そうかな…」
…別に優しいってわけじゃないと思うけどな。見て見ぬ振りするときもある。私一人で行き倒れの人やお腹すかせた人全員を救えるわけじゃないし…
でもまぁ、この焼き芋販売によって我が家の生活にゆとりが生まれ始めた。苗をくれた商人様様である。住まいは変わらないけど、比較的生活水準が上がった、栄養状態・住環境・衛生も向上したと思う。
身だしなみはきれいな方がいい。病気も予防できるということで、家隣との間にある小さな空きスペースにお風呂を増設した。雨水をためて作った簡易湯船を沸かして定期的にお風呂に入るようになったし、石鹸を購入する余裕もできた。徐々に洋服もきれいになる。
それでも取るに足る生活を維持していた。あくまで私はスラムの住民。スラムの中ではマシな生活をしているってだけである。
「ヴィックは今日の用事終わったの?」
「あぁ、今日は──…」
「リゼット! 丁度いいところにいた!」
ヴィックと会話している途中に割り込んでくる人間がいた。私達の間にわざとらしく乱入してきたその姿を見たヴィックは目を丸くして固まっている。
乱入者は去年あたりにスラムに入ってきた一家の次男坊だ。私の2歳上くらいだっただろうか。相手は私へ舐めるような視線を送りながら、表向きは友好的な態度を示してきた。
「売り終わったんだろ? 今から俺の家来いよ」
「ごめんなさい、今から片付けとか明日の準備があるから」
私は表情をなくして、相手の誘いをそっけなく断った。首に下げた空のばんじゅうを持ったまま引き返そうとすると、「待てよ」と二の腕を掴む。
「離して」
「なんだよ、いいじゃん」
振り払うことで拒絶を示したが、相手は尚もつきまとう。また腕掴んできたよ…
この人もしつこいな。親を通して断ったはずなのに。
「リゼットは嫌がってる。離してやれよ」
うんざりしている私に気づいたヴィックが私を庇ってくれた。
「なんだよお前…」
「君こそなんだ。迷惑している女性に無理強いするな」
「テメーにはカンケーねーだろ。引っ込んでろ優男」
相手はそれに気を悪くした様子で一言二言ヴィックにきつい言葉を投げかけていたが、ヴィックも負けていなかった。彼は相手を冷たく睨みつけながら、脅しをかけた。
「リゼットになにかするつもりなら俺が容赦しない。痛い目に遭いたくないならここは退け」
「はぁあ!? 俺はリゼットと結婚するんだぜ!? なんでお前なんかの許可をもらわねぇといけねぇの!?」
飛び出してきた言葉に私はバカでかいため息を吐いた。そうなのだ。向こうの家から私宛にと縁談が投げかけられたのである。まぁ断ったんだけど。
「その話は断ったでしょ」
どうせ私が稼ぐお金目当てだろう。スラム内で比較的恵まれた生活を送る我が家を狙って縁談を持ってきた彼は断った今でも事あるごとに絡んでくるのだ。
この人についていったら最後、既成事実を作られそうなので冷たく断っているんだけどなかなか諦めてくれないのだ。
「…結婚? リゼット、どういう…」
縁談があったことを初めて耳にしましたとばかりに、ヴィクトルは愕然としていた。
どうしたんだ、そんな顔して。
彼の顔を見てふと思い出した。そうだ、今ヴィックは近所に住んでいないからこの話を耳にしていないんだ。
「私に縁談が持ちかけられたの。まぁ破談にしたけど」
「俺は諦めてないぜ!」
「知らんがな」
私はあんたと結婚する気はないと言っているだろう。誰が好き好んで働きもしないニートと結婚するのか。あんた私におんぶにだっこするつもりだろうが。人のこと馬鹿にし過ぎだからな? せめて定職についてから求婚したらどうなんだ。
「結婚って、早すぎるだろ!? リゼットは14になったばかりじゃないか!」
ヴィックは目をカッと見開いて怒鳴ってきた。別に怒っているわけじゃなくて驚愕して声を荒げてしまったみたいだが。
「スラムは結婚早めなんだよ」
私は肩をすくめて教えてあげた。別に私の年齢で結婚してても珍しくないんだよって。むしろこの世界は私の常識ではどこでも結婚が早い。お貴族様たちよりも、私達下々のほうが早いんじゃなかろうか。
それこそ金に物を言わせて、ロリコンによる児童婚とかも行われていたり……。私と同じ年で子持ちなのも珍しくない。
「最近私宛に縁談を持ち込まれるけど、全部私の稼ぎを狙ってだからね。そんな色っぽい話ではないよ」
貴族でも義務による結婚があるだろうが、スラムは貧困だから相手の収入に頼って生きてくために結婚しているのが現状である。
一人で生きるより家族と共に暮らしたほうがコスパがいいのだそうだ。ただしそこに子どもが生まれたら一気に貧困の連鎖になっちゃうから、楽になることは決してないんだろうけどね。
「ヴィックも17だし、ここでは結婚しててもおかしい年齢じゃないんだよ」
うろたえる彼を安心させるように声をかけると、ヴィックはなんだかシリアスな表情を浮かべていた。
「……まだ手を出すのは早いと思ってたけど、チンタラしてられないなってのはわかった」
「…へ?」
なに、何の話してるの?
手を出す? なんだ、ヴィックそんな顔して狙っている女の子が居るのか。意外な肉食系男子発言に私は少し驚いた。
ヴィックも17歳だもんな。お年頃なんだから恋愛の1つや2つくらいするか。私は彼に向けて微笑みを送っていた。なんというか成長したなぁと…スラムに来た時は刃物みたいに人を寄せ付けなかったのに、なんだか感慨深い。
ニートを一瞥し、刺々しい視線を送ったヴィックは首を動かして私の方へ顔を向けた。
「リゼット、今日は連れていきたい場所があって君を迎えに来たんだ」
「…連れていきたい場所?」
なんぞ。
めずらしいな。いつもは私が彼を引っ張る形で移動することが多かったので、ヴィックが主導となって動くのはとても珍しい。
「おい、俺が先に…!」
「リゼット、行こう?」
横からニートがやいやい文句を言おうとしていたが、ヴィックは笑顔で押し留めた。その笑顔には何らかの圧力がかかっている。それ以上口を挟むと痛い目にあうぞ的な……
「…ばんじゅう、家に置いてくるね」
「うん、ここで待ってる」
そこのニートには片付けが忙しいと断ったが、それはただの言い訳なだけで、実際はそこまで忙しいわけじゃない。ニートは全く信用できないから誘いに乗る気は皆無なのである。
ヴィックならば安心だ。私はその誘いに乗った。
「ふざけんなよリゼット!」
後ろでニートがなにか言っているが無視である。
仕事道具を戻したらヴィックとおでかけした。私を連れていきたい場所ってなんだろうな。黙って彼についていくとスラムを抜けて大通りに出てきた。
町を行き交う人々の視線は容姿の整ったヴィックに集中する。そこにいるだけで華があるヴィック。間違いなく彼は一番目立っていた。小綺麗になった彼の背中を見つめて私はぼんやり考えていた。
ここに来る以前のヴィックはそれなりの教育を受けていたからか、職には困らなかったらしい。今は新聞社で働いているとか聞いたことがある。下っ端の仕事だけどやりがいがあると言っていた。収入を得たことで生活水準も上がっていた。
ヴィックの同居人とは何度か顔を合わせたことがあるが、どう見てもお兄さんやお父さんには見えない。ヴィックに付き従う……家臣みたいなそんな雰囲気があった。
それを見ていると私とヴィックは全く違う世界で生きていたんだなぁと疎外感を覚えるが、それが世の中だ。
公平平等な世界なんて存在しない。
本来のヴィックはもともと人当たりのいい人柄だったのだろう。職場から始まり、人脈を地道に広げるようになった。教育を受けている上に地頭もいい。人の使い方も手慣れている。
先日ヴィックがこの領地の市民代表らに取材と称して何やら話し込んでいる場面を幼馴染たちが目撃したと言うし、私自身もこの間マフィアのおっちゃんらやスラム古参住民と話すヴィックの姿を見かけた。その時は深夜まで話し合っていたみたいである。
彼は何かをしようとしている。賛同者を集めて動かそうとしている。私達を巻き込んだ何かを起こそうとしているのは間違いない。
それなのに私には一切声をかけてこない。なんだかあまり頼りにされてない気がして、少しさみしかったりする。
生産したさつまいもは数に限りがあるので数量固定で販売していた。中には「スラムの中に入るのは怖いから大通りに売りに来てほしい」と要望してくる中流階級の客もいたが、スラム優先で売っているからと断った。
中流階級も大変なのは重々承知だが、スラムの中ではそれ以上の貧困が広がっているのだ。金出せばいいでしょって問題じゃないのだ。むしろスラム価格で買えてラッキーと思ってほしいくらいである。
「内緒だよ。今日だけ特別だからね」
たまたま売り物にはなりそうにない小さな芋があったので、それをお金のない小さな子供にこっそりあげた。すると彼らはきゃー! と喜んで走っていってしまった。内緒だと言っているのに…
普段はこんな事しないんだけど、お腹すかせた目でこっちをじぃっと見てくるもんだから…ついつい仏心を出してしまった。
「リゼットは優しいね」
「!? ヴィ、ヴィック! 見てたの!?」
その姿をヴィックにしっかり見られていたらしく、私は慌てた。
「これは売り物にならないからだよ! 別にいつもしているわけじゃないから!」
私が弁解する姿が面白いのか、彼は目を細めて小さく笑った。
その笑顔の美麗さよ。眩しくて私はうっと息をつまらせた。まさに掃き溜めに鶴。なんでヴィックみたいな美人がこんなスラムに居るんだろう…訳ありなのはわかってるんだけどさ。
もともとヴィックは美形だったけど、歳を重ねて大人の男に近づいてきたせいか、妙な色気を感じるんだよな……
「ここに来たばかりの俺にも優しかっただろう?…リゼットはあの時と変わらない」
「そうかな…」
…別に優しいってわけじゃないと思うけどな。見て見ぬ振りするときもある。私一人で行き倒れの人やお腹すかせた人全員を救えるわけじゃないし…
でもまぁ、この焼き芋販売によって我が家の生活にゆとりが生まれ始めた。苗をくれた商人様様である。住まいは変わらないけど、比較的生活水準が上がった、栄養状態・住環境・衛生も向上したと思う。
身だしなみはきれいな方がいい。病気も予防できるということで、家隣との間にある小さな空きスペースにお風呂を増設した。雨水をためて作った簡易湯船を沸かして定期的にお風呂に入るようになったし、石鹸を購入する余裕もできた。徐々に洋服もきれいになる。
それでも取るに足る生活を維持していた。あくまで私はスラムの住民。スラムの中ではマシな生活をしているってだけである。
「ヴィックは今日の用事終わったの?」
「あぁ、今日は──…」
「リゼット! 丁度いいところにいた!」
ヴィックと会話している途中に割り込んでくる人間がいた。私達の間にわざとらしく乱入してきたその姿を見たヴィックは目を丸くして固まっている。
乱入者は去年あたりにスラムに入ってきた一家の次男坊だ。私の2歳上くらいだっただろうか。相手は私へ舐めるような視線を送りながら、表向きは友好的な態度を示してきた。
「売り終わったんだろ? 今から俺の家来いよ」
「ごめんなさい、今から片付けとか明日の準備があるから」
私は表情をなくして、相手の誘いをそっけなく断った。首に下げた空のばんじゅうを持ったまま引き返そうとすると、「待てよ」と二の腕を掴む。
「離して」
「なんだよ、いいじゃん」
振り払うことで拒絶を示したが、相手は尚もつきまとう。また腕掴んできたよ…
この人もしつこいな。親を通して断ったはずなのに。
「リゼットは嫌がってる。離してやれよ」
うんざりしている私に気づいたヴィックが私を庇ってくれた。
「なんだよお前…」
「君こそなんだ。迷惑している女性に無理強いするな」
「テメーにはカンケーねーだろ。引っ込んでろ優男」
相手はそれに気を悪くした様子で一言二言ヴィックにきつい言葉を投げかけていたが、ヴィックも負けていなかった。彼は相手を冷たく睨みつけながら、脅しをかけた。
「リゼットになにかするつもりなら俺が容赦しない。痛い目に遭いたくないならここは退け」
「はぁあ!? 俺はリゼットと結婚するんだぜ!? なんでお前なんかの許可をもらわねぇといけねぇの!?」
飛び出してきた言葉に私はバカでかいため息を吐いた。そうなのだ。向こうの家から私宛にと縁談が投げかけられたのである。まぁ断ったんだけど。
「その話は断ったでしょ」
どうせ私が稼ぐお金目当てだろう。スラム内で比較的恵まれた生活を送る我が家を狙って縁談を持ってきた彼は断った今でも事あるごとに絡んでくるのだ。
この人についていったら最後、既成事実を作られそうなので冷たく断っているんだけどなかなか諦めてくれないのだ。
「…結婚? リゼット、どういう…」
縁談があったことを初めて耳にしましたとばかりに、ヴィクトルは愕然としていた。
どうしたんだ、そんな顔して。
彼の顔を見てふと思い出した。そうだ、今ヴィックは近所に住んでいないからこの話を耳にしていないんだ。
「私に縁談が持ちかけられたの。まぁ破談にしたけど」
「俺は諦めてないぜ!」
「知らんがな」
私はあんたと結婚する気はないと言っているだろう。誰が好き好んで働きもしないニートと結婚するのか。あんた私におんぶにだっこするつもりだろうが。人のこと馬鹿にし過ぎだからな? せめて定職についてから求婚したらどうなんだ。
「結婚って、早すぎるだろ!? リゼットは14になったばかりじゃないか!」
ヴィックは目をカッと見開いて怒鳴ってきた。別に怒っているわけじゃなくて驚愕して声を荒げてしまったみたいだが。
「スラムは結婚早めなんだよ」
私は肩をすくめて教えてあげた。別に私の年齢で結婚してても珍しくないんだよって。むしろこの世界は私の常識ではどこでも結婚が早い。お貴族様たちよりも、私達下々のほうが早いんじゃなかろうか。
それこそ金に物を言わせて、ロリコンによる児童婚とかも行われていたり……。私と同じ年で子持ちなのも珍しくない。
「最近私宛に縁談を持ち込まれるけど、全部私の稼ぎを狙ってだからね。そんな色っぽい話ではないよ」
貴族でも義務による結婚があるだろうが、スラムは貧困だから相手の収入に頼って生きてくために結婚しているのが現状である。
一人で生きるより家族と共に暮らしたほうがコスパがいいのだそうだ。ただしそこに子どもが生まれたら一気に貧困の連鎖になっちゃうから、楽になることは決してないんだろうけどね。
「ヴィックも17だし、ここでは結婚しててもおかしい年齢じゃないんだよ」
うろたえる彼を安心させるように声をかけると、ヴィックはなんだかシリアスな表情を浮かべていた。
「……まだ手を出すのは早いと思ってたけど、チンタラしてられないなってのはわかった」
「…へ?」
なに、何の話してるの?
手を出す? なんだ、ヴィックそんな顔して狙っている女の子が居るのか。意外な肉食系男子発言に私は少し驚いた。
ヴィックも17歳だもんな。お年頃なんだから恋愛の1つや2つくらいするか。私は彼に向けて微笑みを送っていた。なんというか成長したなぁと…スラムに来た時は刃物みたいに人を寄せ付けなかったのに、なんだか感慨深い。
ニートを一瞥し、刺々しい視線を送ったヴィックは首を動かして私の方へ顔を向けた。
「リゼット、今日は連れていきたい場所があって君を迎えに来たんだ」
「…連れていきたい場所?」
なんぞ。
めずらしいな。いつもは私が彼を引っ張る形で移動することが多かったので、ヴィックが主導となって動くのはとても珍しい。
「おい、俺が先に…!」
「リゼット、行こう?」
横からニートがやいやい文句を言おうとしていたが、ヴィックは笑顔で押し留めた。その笑顔には何らかの圧力がかかっている。それ以上口を挟むと痛い目にあうぞ的な……
「…ばんじゅう、家に置いてくるね」
「うん、ここで待ってる」
そこのニートには片付けが忙しいと断ったが、それはただの言い訳なだけで、実際はそこまで忙しいわけじゃない。ニートは全く信用できないから誘いに乗る気は皆無なのである。
ヴィックならば安心だ。私はその誘いに乗った。
「ふざけんなよリゼット!」
後ろでニートがなにか言っているが無視である。
仕事道具を戻したらヴィックとおでかけした。私を連れていきたい場所ってなんだろうな。黙って彼についていくとスラムを抜けて大通りに出てきた。
町を行き交う人々の視線は容姿の整ったヴィックに集中する。そこにいるだけで華があるヴィック。間違いなく彼は一番目立っていた。小綺麗になった彼の背中を見つめて私はぼんやり考えていた。
ここに来る以前のヴィックはそれなりの教育を受けていたからか、職には困らなかったらしい。今は新聞社で働いているとか聞いたことがある。下っ端の仕事だけどやりがいがあると言っていた。収入を得たことで生活水準も上がっていた。
ヴィックの同居人とは何度か顔を合わせたことがあるが、どう見てもお兄さんやお父さんには見えない。ヴィックに付き従う……家臣みたいなそんな雰囲気があった。
それを見ていると私とヴィックは全く違う世界で生きていたんだなぁと疎外感を覚えるが、それが世の中だ。
公平平等な世界なんて存在しない。
本来のヴィックはもともと人当たりのいい人柄だったのだろう。職場から始まり、人脈を地道に広げるようになった。教育を受けている上に地頭もいい。人の使い方も手慣れている。
先日ヴィックがこの領地の市民代表らに取材と称して何やら話し込んでいる場面を幼馴染たちが目撃したと言うし、私自身もこの間マフィアのおっちゃんらやスラム古参住民と話すヴィックの姿を見かけた。その時は深夜まで話し合っていたみたいである。
彼は何かをしようとしている。賛同者を集めて動かそうとしている。私達を巻き込んだ何かを起こそうとしているのは間違いない。
それなのに私には一切声をかけてこない。なんだかあまり頼りにされてない気がして、少しさみしかったりする。
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