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第04話
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「……ロッティ様、大丈夫ですか?」
目を白黒させて立ち尽くしていると、シエラが心配そうな面持ちで覗き込んでくる。
くりくりとした瞳は宝石のように輝き、吸い込まれそうだ。
(シエラ様はセリオット様に似ている気がする。同じ竜族だから?)
暫く見とれていたロッティはやがてお礼の言葉を口にする。
「助けていただき感謝いたします」
シエラは表情を和らげると、再び丁寧に挨拶を始めた。
「改めてご挨拶を。私はスウェルデ国、竜族のシエラ。セリオット陛下の命によりロッティ様を迎えに参りました。本来はお誕生日当日ということでしたが諸事情によって遅くなってしまい、心よりお詫びいたします」
「いいえ。お気になさらないで。私はセリオット様を信じて待っていただけですから」
セリオットは誠実で慈愛に満ちている。それは一緒に過ごしてみて分かったことだ。
彼だからこそ、信じて待ち続けていられたのだ。きっとセリオットでなければ同じ竜族だとしても、ロッティは待つことはできなかっただろう。
(セリオット様を信じて良かった)
ロッティはほっと胸を撫で下ろした。しかし、現状安堵ばかりはしていられない。
「シエラ様、迎えに来て頂いて大変嬉しいのですが、私は領主代行をしておりますのでここを直ぐに離れるわけには……」
ロッティは言いにくそうに事情を説明した。話していくにつれて、徐々に表情には暗い影を落ちていく。
「事情は分かりました。そんな顔しないでください。セリオット様だって誕生日当日に迎えに来られなかったのですから、少々遅れたって文句は言いませんよ」
もっぱらの問題はアレク殿ですねっとシエラは口元に手を当てる。
黙考暫し。彼は何か思いついたのかぽんと手を打った。
「そうです! ロッティ様の弟君が卒業するまで、私が側でお仕えします」
ロッティはぎょっとした。
「そんなことなさらないでください! シエラ様はセリオット様のお付きの方でしょう? 他にもお仕事があるはずですもの。手を煩わせるわけにはいかないですわ」
「私は魔法が使えますし、アレク殿を蹴散らすには何かと便利です。虫除けとでも思ってください。……実のところ、諸事情で暫くはスウェルデ国へ帰れないのでここに置いてくださると助かります」
ロッティはシエラを見つめながら思案する。
アレクがいつあくどい手を使ってくるか、不安要素は大きい。ジャンの卒業が近づけば手段を選ばずにマクライエン子爵位を手に入れようとするだろう。今日が良い例だ。
シエラがいてくれた方がこちらも心強い。
スウェルデ国へ帰れない事情があるならばお願いしてもいいのかもしれない。
「分かりましたわ。使用人もいないので豪華なおもてなしはできませんけれど、ジャンが卒業するまでの間、よろしくお願いします」
「私はロッティ様の安全が確保できるのであればそれだけで十分です」
交渉成立の意味も込めて握手を交わす。こうしてロッティとシエラの二人の共同生活が始まった。
◇
シエラのおかげで、ロッティの領主代行業務は随分と楽になった。セリオットに仕えていることもあり、彼は領地の管理や経営などにも造詣が深い。ロッティの悩みを聞いてくれたり、アドバイスをしてくれたりとなにかと相談役になってくれている。
もちろん、性懲りもなく毎日やってくるアレクを撃退してくれる役まで引き受けてくれるので至れり尽くせりだ。
アレクもアレクでシエラの魔法に対抗しようと魔具をたくさん抱えて攻めてくるが、彼の魔力には到底及ばない。竜の魔力は魔法使いの魔力や魔具の数百倍らしいのでシエラは攻撃を受けても少々不快に感じるだけで痛くもかゆくもないようだ。
先日は欠伸を嚙み殺しながら、アレクが放った氷の矢を片手で受け止めるとその量を百倍にして返していた。
ある意味鬼畜とも思える所業だが懲らしめるには丁度いいのかもしれない、とその様子を執務室から垣間見たロッティは思った。
目を白黒させて立ち尽くしていると、シエラが心配そうな面持ちで覗き込んでくる。
くりくりとした瞳は宝石のように輝き、吸い込まれそうだ。
(シエラ様はセリオット様に似ている気がする。同じ竜族だから?)
暫く見とれていたロッティはやがてお礼の言葉を口にする。
「助けていただき感謝いたします」
シエラは表情を和らげると、再び丁寧に挨拶を始めた。
「改めてご挨拶を。私はスウェルデ国、竜族のシエラ。セリオット陛下の命によりロッティ様を迎えに参りました。本来はお誕生日当日ということでしたが諸事情によって遅くなってしまい、心よりお詫びいたします」
「いいえ。お気になさらないで。私はセリオット様を信じて待っていただけですから」
セリオットは誠実で慈愛に満ちている。それは一緒に過ごしてみて分かったことだ。
彼だからこそ、信じて待ち続けていられたのだ。きっとセリオットでなければ同じ竜族だとしても、ロッティは待つことはできなかっただろう。
(セリオット様を信じて良かった)
ロッティはほっと胸を撫で下ろした。しかし、現状安堵ばかりはしていられない。
「シエラ様、迎えに来て頂いて大変嬉しいのですが、私は領主代行をしておりますのでここを直ぐに離れるわけには……」
ロッティは言いにくそうに事情を説明した。話していくにつれて、徐々に表情には暗い影を落ちていく。
「事情は分かりました。そんな顔しないでください。セリオット様だって誕生日当日に迎えに来られなかったのですから、少々遅れたって文句は言いませんよ」
もっぱらの問題はアレク殿ですねっとシエラは口元に手を当てる。
黙考暫し。彼は何か思いついたのかぽんと手を打った。
「そうです! ロッティ様の弟君が卒業するまで、私が側でお仕えします」
ロッティはぎょっとした。
「そんなことなさらないでください! シエラ様はセリオット様のお付きの方でしょう? 他にもお仕事があるはずですもの。手を煩わせるわけにはいかないですわ」
「私は魔法が使えますし、アレク殿を蹴散らすには何かと便利です。虫除けとでも思ってください。……実のところ、諸事情で暫くはスウェルデ国へ帰れないのでここに置いてくださると助かります」
ロッティはシエラを見つめながら思案する。
アレクがいつあくどい手を使ってくるか、不安要素は大きい。ジャンの卒業が近づけば手段を選ばずにマクライエン子爵位を手に入れようとするだろう。今日が良い例だ。
シエラがいてくれた方がこちらも心強い。
スウェルデ国へ帰れない事情があるならばお願いしてもいいのかもしれない。
「分かりましたわ。使用人もいないので豪華なおもてなしはできませんけれど、ジャンが卒業するまでの間、よろしくお願いします」
「私はロッティ様の安全が確保できるのであればそれだけで十分です」
交渉成立の意味も込めて握手を交わす。こうしてロッティとシエラの二人の共同生活が始まった。
◇
シエラのおかげで、ロッティの領主代行業務は随分と楽になった。セリオットに仕えていることもあり、彼は領地の管理や経営などにも造詣が深い。ロッティの悩みを聞いてくれたり、アドバイスをしてくれたりとなにかと相談役になってくれている。
もちろん、性懲りもなく毎日やってくるアレクを撃退してくれる役まで引き受けてくれるので至れり尽くせりだ。
アレクもアレクでシエラの魔法に対抗しようと魔具をたくさん抱えて攻めてくるが、彼の魔力には到底及ばない。竜の魔力は魔法使いの魔力や魔具の数百倍らしいのでシエラは攻撃を受けても少々不快に感じるだけで痛くもかゆくもないようだ。
先日は欠伸を嚙み殺しながら、アレクが放った氷の矢を片手で受け止めるとその量を百倍にして返していた。
ある意味鬼畜とも思える所業だが懲らしめるには丁度いいのかもしれない、とその様子を執務室から垣間見たロッティは思った。
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