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庶民になりたい

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今でも夢見ることがある。それは薄暗い世界。
父であるガタルは公爵の地位を持ちながらそれを濫用し、貴族たちを従えていた。そして、自分の領地だけでなく、人の領地までを武力で制圧したそうだ。
そんなこと、私たちは知らなかったのだ。
それを知ったのは10歳のころ。
唐突に宣告された。
父親は逮捕され、父親の地位は剥奪だと。そのときのお母様の顔が。泣きそうな父親の顔が。私にすがる弟の顔が。
全てが薄暗くなり、私の夢へと襲い掛かる。



「はっ!」

私の意識は覚醒し、目を覚ました。ここ、どこだ?

「アリーナ姉さん。やっと起きた。」

そうか。ここは、庶民棟だ。

「セシル...いや。セシール。」
「おはよう。アリーナ姉さん。もう、こんなところで寝ないでよね。そろそろ、4時だよ。また王子に呼ばれるんじゃないの?」
「呼ばれるって。...え!?もうそんな時間!?」

今の私は庶民だ。公爵令嬢はもう昔のはなし。

ピンポンパンポーン。
『貴族棟より告ぐ。アリーナ・グラントは至急、貴族棟の第二生徒会室まで来なさい。』

この私立金森学園は2つに割れている。庶民棟と貴族棟。
庶民棟代表は毎日こうして貴族棟へ報告をしに行く。
なにをって?それはね、今日の行動。貴族に噛みついてないか。庶民らしく生活してたかどうか。そういうの本当に意味わからない。

「じゃあ行ってくるから。」
「アリーナ姉さん気を付けて。」
「うん。」

私は指定された第二生徒会室へと向かう。



貴族棟
ここを庶民が歩く気持ち。呼び出した人はわかってるのだろうか。そう、この学校第二生徒会長のクリス・スティンガーは。

「また庶民ですわ。」
「毎日来なきゃですもの。」
「クリス様の気の毒ですわね。」

はぁ。庶民になって明るい世界になってるのに。庶民だからなんだって私は思うけどね。
もしも、私がそのままの姿で歩いたら。まぁ、態度はガラリと変わるだろう。

コンコンコン。
「クリス様、アリーナ・グラントです。」
「入っていいですよ。」
ガチャ。

そして、今日もまた。勝負が始まる。



「失礼致します。」
「やぁ。よく来ましたね。」

書類から目をあげたのはこの国の第二王子にして、第二生徒会長のクリス・スティンガー。

「クリス様、本日の報告を...」
「まぁ、その前に。眼鏡を外してください。」
「...わかりました。」

なぜ、こうなるんだろうか。クリス様には無言の圧力を持っている。

「はずしました。」
「カラーコンタクトも。」
「はい、わかりました。」
「髪をほどいて。」
「はぁ、わかりました。」
「はい。良いですよ。アリア・ベルトン。それでこそ、僕の婚約者ですね。」

そう、私はこの無言の圧力を誇る爽やか系王子と婚約しているのだ。

庶民と王子が婚約?そう思って当然だろう。だが、この婚約は6歳の頃のもの。つまり、私がアリア・ベルトンとして公爵家の令嬢をやってた頃の話だ。

いや、正しくは今も公爵家の令嬢だ。は?意味わかんないってなるだろう。安心してほしい。私もだから!

父親の公爵の地位が剥奪され、私達は犯罪者の公爵家とも考えられるような状況に陥った。泥の塗られた地位では周りから非難されるようになるかもしれない。

そう思った私は中学入学をきっかけに庶民棟へと移った。そのまま高等部へと入学した。弟のセシルもついてきてくれた。

お母様にはスッゴく怒られたけどこれでよかったのだ。
偽名も作成した。庶民になるために。

アリーナ・グラントとセシール・グラント。
それが今の私たち。な、はずなのに。


「アリア、庶民棟の報告ありがとうございます。...ですが、どこか上の空ですね。なにか悩みでもあるんですか?」
「いえ。あのクリス様。今の私は「僕の婚約者ですよ。」」

はぁ、いつもこうだ。私の言いたいことはこう。

今の私はアリーナと名乗っていることが多いため、ほぼ庶民になっている。そんな私はあなたの婚約者にふさわしくない。と。

「アリアは僕の婚約者ですよ?アリーナはあなたの変装した姿でしかない。まぁ、カラコンを付けてて髪の毛を結んで眼鏡をつけているアリーナも僕にとっては愛しいアリアですけどね。」

そうクリス様は爽やかに笑った。

「あのですねぇ?」
「さ、アリア。こっちにおいで。お茶をしましょう。」

人の話を聞く気のないクリス様...
今日こそ、クリス様を説得してやる!!
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