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【 第2章 引き出しの奥に隠していたもの 】

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ヴィクトルとアレクセイが足早に妹のリーリエの部屋を目指すと、中からは侍女たちの歓喜の声が聞こえ、噂を聞きつけた兵士や使用人たちもリーリエの部屋の傍へと集まっていた。


「あ、お兄様!!」

そこにいたのはいつもと変わらない笑みを浮かべたリーリエだった。1か月ほど、原因不明で寝込んでおり、体はすっかり痩せこけてしまっているリーリエ。それでもベッドに起き上がり明るい様子で振舞うリーリエは間違いなく、寝込む前と変わらない本来の彼女の姿だった。


「私、自分がそんな長い間寝たきりだったなんて知らなくて…本当に多くの人に心配を掛けてしまったみたいです。お兄様もアレクセイ様も、こんなにやつれてしまっていますね」

リーリエの冷たい指先で頬を撫でられるヴィクトル。彼女の手は驚くほどに冷たかった。


「あぁ、目覚めて安心した」
「ちょっとだるさはあるけれど、不調な部分はないの。心配かけてしまってごめんなさい」

そう言ったリーリエの目元には涙が溜まっており、ヴィクトルはハンカチを差し出す。


「ありがとう、お兄様。…そうだ、実は目覚めたきっかけをくれたのはエリク神様だったんです」

リーリエはそう告げると、ぎゅっとハンカチを自分の胸元で手を握って話を続けた。


「お兄様、私、夢の中でエリク神様に出会いました。言い伝え通りのオレンジの髪と深紅の瞳が美しい男性でした。そんなエリク神さまは、夢の中で私に『ジャスミンに感謝しろ』と告げてきたんです」

その瞬間、周囲の侍女たちが息を飲むのが分かる。しかし、ヴィクトルは何事もなかったようにリーリエと話を続けた。


「そうか。エリク神様からのお告げで、リーリエの命が救われたことは神殿の方にも伝えておこう。そうすれば人々にも伝わり、誰もがより熱心にエリク神のことを信仰することになるだろう。…エリク神は昔から、そういった人の気を惹く行動をする厄介な神だし、今回だってきっと気まぐれで動いているんだろう」
「もう!そんな風にエリク神様を馬鹿にしないでくださいませ!」

2人のやり取りに侍女たちの緊張も解ける。ヴィクトルはそんなタイミングでアレクセイに声を掛け、王宮付きの医者を呼ぶように声をかけた。


「お兄様。診断が終わった後はジャスミンを部屋に呼んでもいいかしら?彼女が用意したオレンジの匂いがする紅茶も、目が覚めてから凄く恋しく思えて…」
「あぁ、ジャスミンには伝えといてやる。後はお前が食べられそうなものも、いくつか準備させよう」
「えぇ、お兄様大好きよ!」

その後、ヴィクトルは医者の来訪に備えて準備するように侍女たちに指示した後、残りの使用人たちには廊下に出ていくように命じた。
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