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【 第1章 太陽の神はきまぐれ 】
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しおりを挟む事件が起きたのは1カ月前である。
1か月前、ザハール国の皇帝であるヴィクトルの目の前で、妹のリーリエが突然胸を押さえて苦しみ始め…その後、3日以上も目を覚まさない日が続いた。多くの医者や研究者たちは毒物によるものだろうと考え、すぐに調査や治療を始めたものの、原因は一向に見つからなかった。
そんな中、疑いを向けられたのはリーリエとも親しかったジャスミンである。ジャスミンは薬草園に勤めていることから毒物や薬を自由に調合できる。リーリエとは頻繁に顔を合わせてお茶をしていたり、食事をする機会も多かったことから最も容疑者に近いと疑われた。
ジャスミンが起こしたという決定的な証拠はないものの、平民であり後ろ盾もないジャスミンにはどうしても疑いの目が向いてしまった。仲の良かった兵士たちや侍女たちは「ジャスミンがそんなことをする人ではない」と証言してくれたものの、結局、毒を紛れさせていないという証拠もないことから、一方的にジャスミンは犯人に仕立て上げられたのだった。
「今日は処刑日和だな」
雲一つない綺麗な青空の広がった日のことだった。ジャスミンは、地下牢から処刑会場へと移動する間、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見てくるルスラン侯爵をただ無視し続けていた。
「お前が私に恋慕の情を抱いていて、婚約者であるリーリエが邪魔だったんだろう?だから毒で殺そうとしたのさ。あぁ、恐ろしい女だな」
ジャスミンを囲む兵士たちが、奥歯を噛みしめて我慢しているのが分かる。そもそもルスラン侯爵はリーリエの婚約者である。そんな身分のルスラン侯爵に逆らえば、彼らだけでなく彼らの家族の命も危ない。そうわかっているからこそ、ジャスミンは牢に閉じ込められた時に、兵士たちには誰も逆らわないように告げていた。
好き勝手に言わせておけばいい。ザハール国で信仰されるエリク神はその人が死を迎えるとき、生涯に吐いた嘘の清算をさせる。…だから今日、処刑によってジャスミンが死ぬときも全てが明かされるだろう。
リーリエの罪に関わっていないこと、それが今回の処刑で大勢の人々の前で示されるだけで十分なのだ。
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