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第二話

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 女性だ。それも美人の。
 金に輝く長い髪を後ろで流し、ワンピースのようなものを着ている。両手を膝の上に丁寧に乗せ、こちらに向けている顔は凛としていながらもかわいらしく微笑んでいる。
 窓から差し込む朝日を背中に受けた彼女は、事故という不運に見舞われた今の僕にはまるで女神のように見えた。

「あの、」

 どちら様ですか、と聞く前に理解した。おそらく彼女は一番に駆けつけてくれた人だ。トラックに跳ねられて吹っ飛んだ僕の所に駆けつけてくれた、通りすがりの優しい人。救急車で運ばれるときに付き添ってくれたんだろう。お礼を言わなくちゃ。

「まさかこんな形で会うとはな」

 ありが……あ?どういうこと?
 口が開いた状態で止まってしまった。どこかで会ったことがあるのだろうか?
 僕はもう一度よく顔を見た。しかしどれだけ見ても、どれだけ思い出してみても記憶にない。金髪の知り合いはいないし、こんな人間の良いところだけ取ったような美人なら一度見ていたら忘れないだろう。
 少なくとも僕は知らない。僕の親や友人が僕のことを話していたという可能性はあるが。

「声が出ないのか?無理に動く必要はない。こっちに来るときに何かあったのかもしれないな。まあ、だとしても何とかなるだろう」

「……あ、いえ、大丈夫です。ちゃんと声も出まふ」

「……」

「……」

「……水でも飲むか?」

「……お願いします」

 これは恥ずかしい。
 彼女はベッドの横の棚の上に置いてあるコップと水差しを取ると注いでくれた。

「少し落ち着くといい」

「はい。ありがとうご……」

 受け取ろうと手を伸ばした時、ようやく周りがおかしいことに気づいた。
 今僕のいるベッドの角には柱がついていて、その上には天蓋が設置されている。そこからカーテンが垂れていて、それにより違和感に気づいた。
 水を受け取るのを忘れてそのまま周りを見てみると、明らかに病院ではなかった。
 入院したことがないからわからないが、おそらく普通の病室の2倍はありそうだ。もしかしたらそれ以上かもしれない。
 ベッドから横に離れた所には机と椅子が二つあり、ランプが中心に乗っている。他には何もないが、壁や天井には簡素であるのに高級感の漂う装飾が施されている。明らかに、病院ではない。

「え、っと……?」

「……やはり混乱しているようだな」

 肩をすくめてそう言う彼女に、これはどういうことなのかと視線で問うた。

「正直、驚かないからこっちが驚いたぞ。受け入れるのが速いな、なんて思っていたのに、まさか気づいていなかったとは」

 あきれているが、しかし責めるような意味は一切なさそうだった。ただ単純に驚いているといった感じだ。

「ここは、お前のいた世界とは違う世界だ。お前は死んだが、『神のいたずら』によってここへ来たというわけだ」
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みんなの感想(1件)

山猪口 茸
2020.12.11 山猪口 茸

女騎士との恋愛、凄く楽しみです!
転生前の細かい描写がある作品が好きなのでこれからがとても大好きなのでぜひ続きをお描きください!
期待しております!

解除

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