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第二十五話 悩みというよりは病
しおりを挟む「霧崎君。君、やっぱり何か悩み事でもあるんじゃないのかい?」
先生は自分の椅子に座り、机が右側に来るようにこちらに体を向け、腕と足を組みながら僕に心配そうに問いかけた。現在僕は職員室で担任である西川先生の目の前で立っている。
放課後、花美に部活に少し遅れると告げた後、数Ⅱの原石先生に土曜日の反省文を提出しに職員室に来た。原石には土曜日のことだけでなく今朝のこともこっぴどく叱られた。おでこの血管を浮き上がらせながら叱る原石は某ロボットのアニメに出てくる先生のようだった。叱られている間の僕の思考は四分の二は反省、四分の一はなぜこんなことをしてしまったのかという後悔、そして残りの四分の一は今日は何でこんなに漫画みたいなことが起こるんだろう、だ。
たいていの人はしかりつけるときにこう言うだろう。
「これはお前のためだ」
と。
人によっては本当に自分のことを考えて叱っているんだなと思うが、原石の叱り方は単なる自分のストレス発散のために大声を出しているようにしか思えない。もしくは自分の立場を教えるための儀式か。
原石の説教の後、なぜ花美とセットではなく僕だけがこんなに叱られるのだとこの世の理不尽さを嘆きながら出口に向かっていると、出入り口のすぐ横にあるコピー機で何やら資料を印刷している西川先生に呼び止められた。
その後なんやかんやあって今に至る。叱られたばっかりの僕に仕事を手伝わせるなんてなかなか神経が太いな先生。
「悩み事といったら叱られた生徒を慰めてくれない先生でしょうか」
「おう慰めてほしいのか。それなら頭を撫でてあげるから正座しなさい」
「いや~」
西川先生が身を乗り出して手の形を明らかになでるのではなくたたく形にしたので急いで頭を防御しながらその場に丸まった。さすがに体罰はあかん。自分は他言したりしないけど誰がどこで見ているかはわからないのだから今のご時世。
僕の反応を見ると、半分呆れ、半分面白いという表情をしながら元の位置に戻った。先生の背中と椅子の背もたれがくっつくのを確認すると僕も立ち上がった。
「土曜日は授業中に寝て、今日は遅刻した。夜遅くまでしているのは読書などではなく考え事なんじゃないの?」
「まあ確かに昨日は考え事をしていたからなかなか寝付けなかったんですけど土曜日は普通に読書をしていたんです」
「寝坊するほど深刻な悩みなのかい?」
「いや、これは悩みというよりは病というべきかと」
そこまで聞くと、先生は一、二秒ほど考えた後、僕の言わんとするところを察したようで、小刻みに頭を上下させてからにやっと笑った。さすがは国語の先生。いやこれくらいならだれにでもすぐわかるかもしれない。
「君にもやっぱり気になる子がいるんだ。へぇ~。誰が好きなの?」
先ほどよりもさらに身を乗り出してきたため、僕は距離を保つために体を後ろに引いた。先生ってこういう話好きだよね。
「さすがにそれは言いたくないです」
「ええー、いいじゃん。この際はいちまいなよ~。あっ、もしかして私?私のことが好きなの?私を落とすなら大学を卒業した後に高収入の仕事につかなきゃ」
全然見当違いな方向に話が進んでしまっているな。お願いしてもいないのに先生の攻略法をこんなにすらすらと言うなんて。
「残念ながら僕の好きな人は先生じゃないですよ」
勘違いされて話を勝手に進められるのは雄二で慣れているので、あわてず騒がずに落ち着いて対処した。
「冗談だよ、じょーだん!」
手を上下に振り、笑いながら先生は体を再度元の位置に戻した。先生はしばらくふふっと笑っていたが、やがて普通の笑顔に戻しながら言った。
「まあ君が誰のことが好きでも私は応援するよ。生徒の悩みをできるだけなくすのも担任としての務めだからね」
「……ありがとうございます」
あれ?僕はいったいいつから恋愛相談を受けていたんだ?
そんな疑問が浮かぶと同時に、先生のすごさを改めて感じた。こんな先生は他にもいるのだろうか。
「まあだからといって遅刻するのはアウトだよ」
「……はい」
そこは見逃してもらえなかったか。
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