ジャック・イン・東京

文月獅狼

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第二十四話 押し寄せる皆の妄想

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「おい満月~。お前いつの間に空島とあんなに仲良くなったんだよ~」

 僕の腕を人差し指でツンツンつつきながら雄二が茶化すように言った。
 今朝、僕と花美は二人仲良く遅刻した。花美の言葉を信じて歩いて登校したら校門は閉まっていたのだ。
 インターホンを鳴らし、事情を説明し、僕の記憶が正しければ人生で初めてお世話になる遅刻したときに会う事務の人に門を開けてもらい、事務所に連れていかれ、作文用紙1枚分の反省文を書かされた。
 反省文を書いている間、事務所の女性、名前は新庄真紀に散々からかわれた。

「朝から二人でいったい何をしていたんでしょうねぇ」

 その言葉を無視すると

「人の恋愛に首を突っ込んだりするのは好きじゃないけど、高校生なんだからまだだめだよ?せめてキスで止めときなさいな」

 僕はできればキスができる関係になりたいが、彼女はそんなことこれっぽっちも思ってないだろうなぁ。ていうかなんで事務の人までこんなことを話しているんだ?ひょっとしてこの学校の人はみんな頭の中まっピンクなのだろうか?
 とまあ、こんな感じでずっと事務員の言葉を無視しつつも反省文を書きあげたのだ。
 そこまではよかったのだ。自分の成績表の遅刻ランの中に1がつくだけだ。この先遅刻しなければの話だが。しかし問題はこの後だったのだ。
反省文を書き、解放された僕たちは教室に向かった。火曜日の2限目、鬼教師の原石の数Ⅱだということをすっかり忘れて。
たいていの学校では教室のドアは二つあるだろう。僕の学校もそうだ。後ろと前に一つずつついている。そして僕の教室は一番端にあり、階段を上がったらすぐそこに僕の教室の前側のドアがあるのだ。
後ろのドアのある方向から教室に行けば授業を行っている原石に気づき、2限目はさぼることができたかもしれない。しかし遅刻したからには速く行かなくてはという考えが頭の中にあったため、時間割のことなどすっかり忘れていた。
ドアの前に立ち、取っ手を思いきり引っ張った。初めに目に入ったのは当然ながら教壇に立つ原石の姿だった。口はへの字になっており、目はゴミでも見るような眼だった。そして次に見たのはこっちを見ている全生徒の顔だった。驚いているものもいれば、笑っているものもいた。

「遅れてすみません」

 僕の後に花美が教室に入り、同じことを言った。それを見て雄二を筆頭に男子の半分がニヤニヤし始めた。彼らにとっても、そして僕にとっても残念ながら僕らの間は何もないんだよ。

「どうして遅刻したんだね?」

「寝坊しました」

 実際は違うけどこれが一番簡潔だからそういうことにしよう。

「君は?」

 原石の視線が僕から花美のほうに移動する。花美は普段通りの眼でしっかりと受け止め、自分と同じことを言おうと……

「霧崎君に会ったからです」

 いっ!?
 途端生徒全員がおおーっと声を上げた。中には口笛を吹くやつもいた。
 どうして誤解を生むような言い方をするんだこの人は!?

「遅刻をするなんて、君たちには責任感がない!廊下に立ってなさい!」

 こんな古典的な罰を与える人なんて他にいる?そんなことを考えながらも、ここで言い訳をしたらさらにめんどくさいことになると思った僕は素直に従った。
 そして今にいたる。
 現在十二時五十分。四限目と五限目の間の昼休みだ。十分休みの間はずっと寝たふりをして会話を避けていたが、さすがに昼休みはご飯を食べなくてはいけないので起きてご飯を食べていると雄二が来たのだ。

「おまえの友人としては二人の仲が縮まるのはうれしいけどよ、非リア充としては八つ裂きにしたくなるぐらいうらやましいなこの野郎」

 そんな性格だから彼女ができないんだよ。まあ僕もなんだけど。

「僕らは別に何もないよ。朝学校に行ってたら彼女と偶然会ったんだ」

「しかし遅刻したんだから会った後そのままどっかに行ってそこで……」

「違うよ。断じて違う。遅刻したのは彼女があの時間帯なら歩いても間に合うって言ったからだよ」

「またまた~」

「信じてくれよ友達だろ?」

「はいはい」

 絶対信じてないな。そう思ったがこれ以上言ったらめんどくさいやつと思われかねないのでこの辺にしておく。
 いまだにニヤニヤした顔のまま雄二は新聞を読み始めた。彼は新聞部に所属しているということもあり、毎日学校においてある新聞を読んで学校新聞のお手本にしているのだそうだ。さすがはじき部長。

「よくもまあ毎日毎日熱心に読むな。将来はやっぱりジャーナリストか?」

「このまま飽きなければね」

「ふ~ん」

「んなことよりも見ろよこの記事。最近の連続殺人の犯人、あれ集団でやってるんじゃないかって話が出てきたらしいぞ」

「えっ?なんで?」

 思わず身を乗り出し、雄二の顔を押しのけるようにして記事を読んだ。小声で「これが女子だったらな」と聞こえたが無視をする。

「確かにそう書いてあるな。今までの事件は監視カメラに何も映ってないってこととナイフを使っているってことは共通してるけど殺し方がそれぞれ違うらしいね」

「らしいな。この街に殺人集団がいるなんて考えただけで寒気がするな」

「でももしかしたら一人の人が気分によって変えてるだけなんじゃないのかな。今まで警察はそう考えて捜査してたのにどうして考えを変えたんだろ?」

「逆にさ、その考えでやってたけど行き詰ったから視点を変えてみようってことになったんじゃないの?なんかのドラマでそんなこと言ってたぞ」

「そんなドラマのことが現実でも起こるものなのかな?」

「わからないぞ?『小説は現実より奇なり』っていうだろ?」

「なるほどね」

 元の位置に戻り、窓の外を見る。目が痛くなるほどの日が出ていて空は一面青色だ。
 連続殺人犯。この話題に触れると、いつも何かもやもやとした気分になる。
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