16 / 25
第十六話 病院
しおりを挟む「……き」
誰かの声が聞こえる気がする。でもこんな暗闇の中に誰かいるわけがない。きっと気のせいだろう。
「……み……き!」
また聞こえた。2回も聞こえるならさすがに気のせいではないだろう。しかしいったいどこから聞こえるんだ?そして誰が言ってるんだ?
「……満月!」
今回ははっきりと聞こえた。同時に体を揺さぶられる感覚が伝わった。僕は目を開けた。しかしまぶしさに耐えられずにすぐに目を細めた。
だんだんと視界がはっきりとしてきた。真上には丸いLEDライトの灯りがあり、僕の目をまだ攻撃してくる。次にぼんやりと見えてきたのは、焦りと心配を混ぜた表情の兄貴だった。僕の目をまっすぐに見ている。
「満月!!」
だんだんと意識がはっきりしてきた。すると背中に何やら柔らかくて滑らかなものを感じた。どうやら僕はベッドに寝かせられているらしい。
ん?なんで兄貴はそんなに心配そうにしているんだ?そして大丈夫って何のこと……
「!?」
思い出した。僕はトイレに行った後、部屋に戻ろうとしているときに夢の中の人に出くわしたのだ。逃げようとしたけどその人のほうが足が速くて……。そこで記憶が途切れている。ということは僕はあの人に何かされたのか?
「満月!大丈夫か?」
「……大丈夫」
僕はとりあえず頷きながら言った。すると兄貴はホッと胸をなでおろした。
「……ここは?」
「病院だよ。お前が家で倒れてたから救急車を呼んだんだ。いやぁよかった。倒れてるの見たときはびっくりしたよ。けがをしてる様子がなかったから脳卒中とかかと思ってたけどそんなことはなかったよ」
兄貴は今度は安堵とうれしさの混ざった笑顔でそう言った。しかしそんな兄貴を見ている僕の心には少し雲がかかった。
「……僕は何で倒れてたの?」
「先生が言うには腹を殴られて気を失っていたらしい」
兄貴は再び心配そうに僕を見た。
「まさか自分で殴ったわけじゃないだろ?誰にやられたか、覚えてないか?そうじゃなくても何か覚えてない?」
まさか仮面をつけた人が家に侵入してその人に殴られたとは言えない。しかしここは正直に言うべきか?
僕は思い出すふりをしてどうするべきかを考えた。
「……いや、何も覚えてない」
「少しも?」
「……うん。全く」
「……そっか。あとで警察が来ると思うから何か思い出したら正直に話してね」
にっこりと笑っている兄貴を見ていると胸が少し痛くなった。正直に話すべきだったのかもしれない。何が起こって、誰がいたのかを。
僕が後悔の念にとらわれていると、自分と大きさがあまり変わらない兄貴の手が頭の上に乗った。そのままゆっくりと前後に手を動かす。子供じゃないんだからやめてよと思う反面、こうされているとなぜか心が落ち着くからずっとしていてと思った。自分はまだまだ子供なのかもしれない。
「大丈夫だ。今日一日安静にしてればそのうち思い出すって。先生に目が覚めたって言ってくるから待っといて」
兄貴は手を放して立ち上がり、そのまま病室を出て行った。
「今日一日安静に、か」
上をボーっと見ながらつぶやいた。三か年皆勤目指してたけど無理そうだな。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる