ジャック・イン・東京

文月獅狼

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第十四話 鍋のカレー

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 今頃兄貴は山村さんと仲良くしているのだろうか。一緒に喫茶店行ったり買い物行ったり。
僕も花美といつかそうしたいな~。そろそろ告るべきだろうか?兄貴にチキンと言ったからには自分が先に彼女を作るべきなのかもしれない。

僕は必死に現実逃避していた。
おばあちゃんからの荷物とともに入っていた手紙にあった美由ちゃん。確か今中学生だっただろうか。あれ?それは他の人だったかな?
いとことはいえ、あまり接点のない彼女としばらく一緒に過ごすことになるなんて。気まずいなぁ。大体何しに来るんだろうか。夏休みが近くなりつつあるから観光だろうか?東京は危険なのになぜ来ようと思うのだろうか。それとも最近の事件のことを知らないのだろうか。
兄貴はなんて言うだろうか。断るために電話でもしてくれるかな。
僕は目を閉じて兄貴に話す時のことを思い描いてみた。


「えっ?美由ちゃんが来るの?美由ちゃんって確か僕らのいとこで中学生の子だよね。
 あれ?小学生だっけ?まあどっちでもいいや。来たらわかるしね。いつ来るんだろう。
来る日は予定空けておかないと。えっ?美由ちゃん来てもいいのかって?全然オッケー。むしろ二人でさみしかったからにぎやかになっていいかも」


兄貴のことだ。こんな風になるだろう。もちろん僕も来るのは別にいいのだが、美由ちゃんのほうがどういうかなんだよね。中学生なら男二人と一緒にいて嫌じゃないのか。小学生なら親としばらく離れることになって不安じゃないのか。

「はあ。どないしよ。もう考えるのも面倒だな」

 思わず独り言が口から出てきた。

「……とりあえず兄貴が帰って来るまで時間をつぶそう」

 そう言うと僕は自室に戻り、ベッドに寝転がってスマホ片手に動画を見始めた。ゲーム実況だよ?健全な奴だよ?一応念を押しとく。



 気づけば六時になっていた。いつの間にか眠っていたらしい。これは僕だけなのかはわからないが、寝落ちが一番いい気がする。寝ようと思って寝るよりも、いつの間にか寝ちゃってたテヘペロみたいな感じのほうが寝覚めがいい気がする。
 スマホを見てみると、ちょうど実況者がお化けが出てきて驚いてギャーギャー騒いでいるところだった。そして僕は実況者の声に驚いて跳び起きた。
 正直人間の実況よりもボカロやゆっくりの実況のほうが僕は好きだな。なのになぜ今僕が見ているのはメガネをかけた人間の男なのだろうか。寝ている間に自動再生機能でここまで来てしまったのか。
 とりあえず僕はスマホの電源を切り、ベッドから降りて部屋を出た。リビングに行ったが誰もいなかった。兄貴はまだ帰ってないのか。
 六時で帰ってきてないのは別にいい。だんだん明るくなってきたから。でも七時とかになったら少し心配だな。そうなると山村さんの家にお泊りなんてこともあり得るから。
 そんなことを考えてるとさっきポケットに突っ込んだスマホがピコーンと鳴った。
 何事?と思いながら見てみると兄貴からラインがきていた。見てみるとこう書いてあった。

「今晩山村さんの家に泊まる。突然で悪いけど許してくれ。明日お前の好きなもの作ってあげるから」

「ふぅ~ん」

 まあなんてお熱いのかしら。50個ほどの0℃の氷が2秒もかからずに一瞬で蒸発して空気中に開放されるほどに熱い。
 フンだ。相手がその気じゃないとか言っておきながら結局そうなんじゃないか。いつか僕も空島さんと一緒にそうなってやる!
 …ところでおなかすいたな。なんか作って食べよう。
 そう思い、僕は台所に向かった。何の意味もなく冷蔵庫を開けてみると、ラップされた一つの鍋があった。その上には一枚の付箋紙。読んでみると

「今日は帰れないかもしれない。これ温めて食べて」

とのこと。
 ……兄貴よ。はじめからそのつもりだったのか。
 僕は兄貴に負けた気がしながらも、鍋の中のカレーを温め始めた。
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